絶望を超えし蒼穹と勇気ある花たち   作:黑羽焔

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時期系列は『結城友奈は勇者部所属』の第1話のころの日常回の総士視点。

『結城友奈は勇者部所属』第1話にて欠席していた東郷の独自視点あり。


幕間2 『来訪者たちの日常です』(総士編)

-讃州地方 皆城家 総士の自室-

 

夜も更けている時間、部屋内にキーボードをたたく音が響く。

 

「……」

 

総士は竜宮島でも日常の傍らこうして島を守る防衛機構組織であるアルヴィスでの業務をこなすという二重生活を送っていた。そして、すべき事が始まったことである意味その生活リズムに戻っていた。

 

複数の事象を並列的に処理できるというを持っている天才症候群を持っているため日常生活と事務仕事をこなすのは彼にとってたやすいことである。

 

「……ふぅ。ようやく終わったか」

 

ここで一息をつく総士。とり進めていた作業が完了したようだ。

 

「もう朝か。だが、3時間は寝れるな」

 

欠点を挙げるなら没頭しすぎて夜も明けることが多々である。既に水平線から太陽が昇りかけていた。こうして睡眠時間が疎かになって眠りかけているのを乙姫には呆れられ、一騎からは注意されるのがいつもの朝の光景なのである。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

-讃州地方 病院 研究室-

 

半日授業を終えた総士は病院へと足を運んでいた。総士たちを協力している大赦『霊的医療班』の静流に呼ばれたからである。

 

「総士君、待たせたかしら?」

 

「いえ、それほどは」

 

謙遜しながら答える総士。静流は笑みを浮かべると向かい側の席に座る。

 

「ふふっ…。こうしてあなただけで話すのも久しぶりかしら。いつもは兄妹一緒なのにね。それで乙姫ちゃんは?」

 

「乙姫は…今日は『あの子』に会いに行きました」

 

「そう…今日あなたを呼んだのは。あなたに伝えることが多々と…メインはあなたの検査ね。私ととしても『ジークフリードシステム』…あなたの世界で使われていたものの悪影響が心配なのよ。こうしてあなた達が元いた世界の事を聞いた身としてはね」

 

カルテを取り出す静流。神妙な顔つきで言葉をつづける。

 

「心配してくれるんですね」

 

「そうよ。だって、あなたは私の『()()()』ですもの」

 

静流は2年前までは大赦に所属する身である学校の教師をしており、その縁もあって転生直後の総士を受け持ったことがある。

 

しかし、その話をした静流の表情が暗くなった。

 

「……だからこそ、あの子たちと同じようなのは…もう見たくはないのよ」

 

「やはりあの時のことを…まだ」

 

「情けないわね。…いまだに後悔して割り切れないもの」

 

「無理もありません」

 

2年前、彼女にとってある忘れられない()()()が起きてしまい3月に教師を辞め大赦での医療並びにある研究をするために『霊的医療班』へと移った。総士・乙姫から正体を打ち明けられ、ある種の決意を持っていたこともあったが……。

 

「だからこそ、先生はこちら側で動くと決めたのでしょう?」

 

総士に諭された事もあって静流は話を切り上げ本題に入ることにした。

 

「そうね…それじゃあ、本題に入るわね。まずは…『ジークフリードシステム』の影響ね。医療的な観点とカウンセリングを行ったうえで言わせてもらうけど……」

 

『ジークフリードシステム』はその負荷と副作用をシステム搭乗者が全て負うことになり、搭乗者は後で各パイロットが戦闘で受けたダメージがフラッシュバックの発作で襲われる。

 

それは総士が使っているシステムでもそれがほぼ再現されてしまっている。

 

「意外なことに最初の発作以来、全然起こってない……そういう認識でいいのかしらね」

 

「そうなります」

 

「……カウンセリングなどの医療的に見ればひとまず大丈夫よ。でも、もし何かあったらすぐに言うのよ。乙姫ちゃんもいるんだからね」

 

「ありがとうございます……そのことに関しては肝に銘じておきます」

 

「診断はこれで終わりね。次はこれを」

 

静流は机の引き出しからカード上のものを取り出すと総士の目の前に置いた。総士は自前の端末にカードを差し込むと映し出された内容に目を通し始める。

 

「これは…あの時の新種のフェストゥム資料ですか」

 

「そうよ。不十分だけどわかったことだけまとめたの」

 

「いえ、これだけでも助かります。新種相手では手探りのようなものですから。勇者たちにも情報を共有しておきます」

 

総士は情報の確認が終わると端末の電源を落とし鞄にしまった。

 

「それとこれも伝えておきたいの。…大赦の方で近々『勇者』が派遣されるとの情報も掴んだわ」

 

「(!?)大赦からですか?」

 

「そう、あの出来事のあとに大赦が手中に収めた候補者から神樹様に選ばれた子がいたのよ。だけど、その候補者の育成には()()()()()()が絡んでいるの」

 

「そうなると。十中八九、こちらの監視の意味での派遣になると言う事ですね」

 

「そのとおりよ」

 

そのとき、部屋に誰かが訪ねて来たのかノックの音が部屋に響く。

 

『静流局長、お時間です』

 

「ここまでね」

 

時間ということで総士は席を立った。

 

「今日は大赦で重大な会議があると父から聞いています。御健闘を」

 

「ありがとう…大赦の方はあなたの父君と私たちでなんとかするから。勇者たちやもう一人の来訪者である一騎君の事……それに派遣されてくる新たな勇者の事を任せたわ」

 

静流が頭を下げる。総士も会釈で返すと部屋を後にした。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

(やはり一筋縄ではいかなくなったか)

 

総士はこの世界にきて3年間大赦という組織に関わった。そのため、その大赦内部の現状を垣間見て、そして知ってしまったのだ。人類をフェストゥムから守り文化を伝えるためアーカディアン・プロジェクトを遂行するための組織第1アルヴィス『竜宮島』とこの世界での防衛機構である『大赦』との大きな違いを。

 

それが如実となってあらわれたのが2年前の事件の後処理である。これまでは密かに動いていたのだが独自にかつ能動的に動くようになったのもそこからである。

 

(父さんたちも動いているが今のままでは芳しくもないな。綻びが多すぎる。とはいえ、その前に一騎にはいずれ話さなければならないか)

「総士君?」

 

総士は思考にふけりながら歩いていると不意に声が聞こえ振り向いた。

 

「(!?)東郷か」

 

本日学校を欠席したはずの東郷であった。

 

 

 

side:東郷美森

 

一身上の都合で休んだ東郷だったが病院を訪れた理由は過去に遭った事故の影響で不自由となった両足と記憶の一部消失に対する定期診断のためである。

 

「大丈夫よ。そのうち良くなるから…ね」

「うん…」

 

結果は芳しくもなく落ち込み気味の東郷を母親が慰める。母親と共に診察室を後にした東郷だったが治るかもわからないという不安にその表情は少し曇っていた。

 

「手続きに行ってくるから少し待っててね」

「うん」

 

東郷が頷くと東郷の母が総合受付へと向かっていく。

 

「あら?」

 

その場に残された東郷は目の前にいた見慣れた人影に気づき声を掛けた。

 

「総士君?」

 

side out

 

 

 

「どうしてここに?」

 

「大赦からの要件でここに来たのだが…あぁ、そうか。東郷は休んでたから知る由はないか」

 

偶然会ったことで生じた東郷の疑問に淡々と答える総士。

 

「あらあら。総士君、こんにちは」

 

ばったり出くわした総士と東郷の2人の姿に微笑ながら駆け寄る東郷の母。纏う雰囲気と面影は一人娘である美森にそっくりだ。

 

「こんにちは」

 

一騎と友奈の繋がりもあって既に顔馴染みの関係である。総士は挨拶で返した。

 

「お母さん、終わったの?」

 

「手続きは終わったのだけど、今日は先生と話で長くなりそうなの。それで美森には先に帰ってもらおうと思ったのだけど」

 

東郷の母は総士のほうを見つめると、

 

「総士君はこれから帰るのかしら?」

 

「はい。もう用がないですのでまっすぐ帰ろうかと」

 

「それなら…美森を総士君に送ってもらおうかしら」

 

「? 僕がですか」

 

「そう。同じ勇者部の子だしね。この子も不自由だしその方が安心すると思うわ。それに……こんなイケメンさんなら悪い子が寄り付かなそうだしね♪」

 

「は、はぁ…」

「お、お母さん!!」

 

東郷の母のマイペースさに思わず素っ頓狂な声をあげる総士。からかいに頬を紅くし東郷らしからぬ強い口調で返した。

 

 

 

 

 

東郷の母のやり取りを終え、ともに家路へとつくこととなった総士と東郷だったが、

 

「―――!!!」

「その…なんだ。君の母さんはいつもああなのか?」

 

ノンステップバスに乗車中、東郷はこうして顔を紅くし俯いていた。母親から突拍子もないことである事、そして東郷にそういう耐性がなかったためか頭から湯気が出るほど恥ずかしがっていた。

 

「(もう、お母さんったら。なんでああいう事を)あ…うん。たまにああいう風になってしまうことがあってね」

 

総士からの問いかけに頷きつつも徐々に回復していく東郷。

 

そして、目的の駅に着くと2人は降りる。東郷は自ら車椅子を動かす。総士が補助をすると言ったが、東郷が今日は自分で動かしたいと断った。総士は東郷に合わせ隣を歩き出す。

 

しばらくは話題もなかったことがあり2人の間に静かな時が流れていった。2人の周りでは普通の日常の一幕が所々に点在していた。

 

「ねえ、総士君? 少し聞いてもいいかしら?」

 

ここで東郷が先に話題を振った。

 

「病院で何をしていたのかしら?」

 

たしかに総士は本格的に始まった御役目の対応もしなければならなくなったため忙しくなったのは勇者部の彼女たちから見ても明らかである。

 

偶然にも出会った東郷は総士の活動が気になり興味本位で聞いてみた

 

「僕は大赦内では『霊的医療班』に所属している扱いだからな。時々、こうやって呼ばれて出向くことがある」

 

「そう。最近は総士君、本当に忙しそうだから。これも私たち『勇者』に関することなの?」

 

「そうだ。大変だがやりがいはそれなりにある」

 

こんな感じで話題を紡いでいく2人。総士も気になった質問で返す。

 

「東郷はどうして今日病院に?」

 

「私はね…この足の定期検査かな。そういえば総士君には詳しく話してなかったわね」

 

東郷は総士に1年前に引っ越す前に遭った事故の事を話す。その影響で両足が付随となり車椅子での生活を余儀なくされ、さらに記憶の一部、ある2()()()の出来事がすっぽりと抜けてしまった事も総士に語った。

 

「…それで今もこうして定期健診で病院に行くことがあるの」

 

「不安ではないのか?」

 

「ううん、大丈夫よ。最初は不安だったけど友奈ちゃんや一騎君。勇者部のみんなのおかげでこうして暮らしていけるから」

 

静かに微笑む東郷の姿を見て総士は話題を切り上げることにした。雰囲気がどんよりとしてしまったため話題を変えようと総士は考え込んだ。

 

「あっ!!!」

 

そのとき、曲がり角から自転車が飛び出してきた。反射的に東郷は飛び出してきた自転車を避け車椅子を動かすのをやめ止まろうとした。

 

――― ガシャン!!!

 

「え!? きゃぁ!!!」

 

その時である。運が悪く前輪部分がグレーチング状の排水溝に落ちてしまった。勢いよく落ちてしまったためバランスを崩し勢いよく前に投げ出されてしまった。地面に投げ出され叩き付けられると思った東郷は食いしばりつつも目をつぶった。

 

「・・・?」

「怪我はないか?」

 

東郷は目を見開く。どうやら総士が投げ出された自分をとっさに捕まえてくれたようだ。

 

「え、えぇ。おかげさまで…あら?」

 

東郷が総士の顔を見ると紅くなっているのに気づく。どうしてだろうと思ったが今の態勢を見て彼女は気づいた。今総士は、東郷の腰回りに手を回し抱きかかえるようにして捕まえたようだ。そして、自らの胸の双丘が総士の腕に乗っているような状態となっている。

 

余談だが、普段東郷は制服姿で目立たないが、その胸は豊満である。

 

「す、すまない。こうするしか手はなかったんだ!」

「だだ、だ。大丈夫よ総士君。これは不可抗力だから!…ッ!」

 

そんなやり取りをしつつも車椅子に身を預けると総士は溝に落ちてしまった前輪を溝から外した。

 

「東郷、あんなこともあったし、やはり僕が押そう」

「あ…う、うん。お願いしようかしら」

 

東郷はお言葉に甘え、総士に車椅子を押してもらうことにした。

 

「――― 総士君」

 

東郷がそう呟くと、体を総士の方に向けまた一言。

 

「…ありがとう」

 

「大したことはしていないさ」

 

そう答えた総士に押され2人はまた歩き出した。

 

 

 

 

 

「あ~~!」

「あ、友奈ちゃん!」

 

聞きなれた能天気な声で親友が近くにいることにすぐに気づいた東郷。声の主である友奈もすぐに駆け寄り、後に続いて一騎・風・樹もやって来た。

 

「む~。総士君、東郷さんの車椅子押してる~そこは私の特等席なのに~」

「何々? 休んで今日は…うぬぬこれってデー…」

 

「違「う」います!!!」

 

風にもからかわれながら合流した総士と東郷は、勇者部のみんなと共に風のおごりでかめやへと向かうのであった。




前半総士の暗躍、後半は東郷との日常でお送りしました。フラグの設立回でもあったりする。

すみません、幕間をあと1話投稿してから第2章に入ります。

次話は近作品での大赦の内情、一騎たちが関わったことで変わってしまったあるキャラの顔出しを行います。

●東郷の母
東郷をさらに天然&濃ゆい一面を前面に出した風に書いてみました。

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