絶望を超えし蒼穹と勇気ある花たち   作:黑羽焔

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時期系列は『結城友奈は勇者部所属』の第1話のころの日常回です。




幕間1 『来訪者たちの日常です』(一騎編)

――― 5月某日 土曜日

 

一騎の朝は意外と早い。これはこちらの世界にやって来てからも変わりはないようだ。

 

元々の世界では真壁家の食事を一手に担っていたことや仕事柄もあり、その慣れた手つきで今は朝食の準備をしているようだ。

 

「一騎、来たぞ」

 

「…開いてるから入ってもいいぞ」

 

味噌汁を温めながらお玉でかき回していると聞き慣れた声が聞こえ一騎は誘う。すると、見慣れた2人がやって来た。

 

「おはよう、一騎」

「おはよう……」

 

「おはよう。……総士、なんだか眠そうだな」

 

微笑みながら一騎は挨拶を返す。総士は目をこすりながら入室してきた。

 

「昨日も徹夜したんだって」

 

「ここのところやることが多すぎてな…」

 

「またか……、ともかく今もっていくから座ってくれ」

 

一騎に促され食卓へとつく総士と乙姫。ここ最近の真壁家ではもはや見慣れた光景である。両家とも仕事が忙しい影響か両親がいないことが多くこうして集まって食事をとることが多い。一応、総士も料理とかはできるそうだが、

 

『そこまで測って料理するなんて、総士っておもしろ~い!』

 

総士の調理風景を見た乙姫がそんな感想を笑いながら言っていた。それ以降、総士が乙姫とともに一騎のもとで食事をとることが多くなったのである。特に余談だが兄の威厳を保ちたいのかわからないが一騎のもとで修業中ということらしい。

 

「そういや、一騎。そちらの母親の姿が見えないようだが」

 

「母さんは……『あの人が大変そうだからしばらく手伝ってくるわね』って言って昨日父さんところに行ったんだ」

 

「お仕事…かな?」

 

「そうみたいだ。さあ、召し上がれ」

 

そう他愛のない話をすると食卓にメニューが揃う。本日のメニューはご飯、味噌汁、焼き鮭といった簡素な和食のようだ。

 

「「いただきます!」」

 

『わああぁぁぁぁ! 遅刻! 遅刻ー! いってきます~!』

 

丁寧に手を合わせ、いざ食べようとした矢先、3人にとって聞きなれたような声が聞こえる。

 

「……あの声、結城か?」

 

「みたい…だな」

 

「いつもだったら美森ちゃんがいるおかげでこうはならないのにね~。でもまだ早いのにどうしたんだろう?」

 

「東郷は今日休みだってさ」

 

今週、友奈はクラスで係の仕事があったがいつも起こしに来る東郷は今日に限って一身上の都合で欠席のようだ。それにより朝起きられずの遅刻というパターンである。

 

「そっか~」

 

疑問が解けたのか乙姫は朝食に再び手を付ける。総士は気にせずマイペースで朝食を食べているのをみた一騎も食べ始めるのであった。

 

 

 

「「ごちそうさまでした」」

 

「はい、お粗末様でした」

 

食べ終わった総士は手早く食器を重ね、一騎は手際よく洗い始める。まだ登校まで時間もあることから乙姫はテレビを点け、適当なチャンネルをいじり始めた。

 

「一騎」

 

「ん、どうした?」

 

食器をふきながら総士が話を切り出した。

 

「今日僕は半日授業には出るが、部には用事があって出れない」

 

「なんかあるのか?」

 

「率直に言えば、大赦の方だな」

 

なるほどと一騎はうなずく。同時に食器を洗い終え水を止める。

 

「急なことで出向かないといけなくなった。それでだが一騎、勇者部の方に休みの(くだり)を伝えてほしいのと風先輩にこれを渡してほしい」

 

「わかった。いつも通りに勇者部の方に顔を出すつもりだったからな」

 

片づけ終わると総士は学生鞄からクリアファイルを取り出すと一騎に手渡す。一騎は頷くとすぐに自分の学生鞄に入れると今度は弁当をこしらえ始める。

 

「乙姫、お昼はどうするんだ?」

 

「今日は行くとこあるから作ってくれないかな~」

 

半日授業で給食がない乙姫の分を含め3人分の弁当をこしらえる一騎。あらかじめ用意したおかずを手慣れたように弁当箱に詰めていく。

 

弁当を作り終えた一騎は少量のご飯と焼き鮭が一尾余っているのに気が付いた。

 

(もったいないし使ってしまおう。それに友奈の慌てようじゃあ…な)

 

 

 

――― デーレーデーレーデッデデデッ

『撃て撃て! 合体させなければ奴は大したことはない!』

 

「面白いのか?」

 

「ほかのチャンネルはニュースばっかりで…これしかなかったの」

 

総士が乙姫の隣に座ると視ていた番組に対してふと質問を投げかける。視ていたのは昔の名作を放送する番組で今日のは忍者を模したロボが敵に対して大立ち回りを演じている場面であった。お目当ての番組がなかったため仕方なく視ていた乙姫はそう呟いた。

 

「出来たぞ。そろそろ出ようか」

 

一騎に促され、乙姫はテレビの電源を落とそうとした。

 

――― ドドン! デーデーデーデーデッデッデー

 

「「「(!?)」」」

 

テレビから流れてきたあるBGMの出だしを聞いて3人の足が止まった。そして、出てきた番組のロゴを見た。

 

『ゴオオオォォォォバイン!!!』

『あの名作が原作者監修による再構成とHDリマスター化により再見参! 新番組『機動侍ゴウバインR』 今夏放送予定』

 

「わぁ~この世界にもあったんだ~♪」

 

(というかなぜこの世界にある…僕らの世界と交わった影響か)

(……衛や堂馬、水鏡がこれ見たらどうなってたんだろう……)

 

 

 

――――――――――

 

 

 

-讃州中学 家庭科準備室兼勇者部部室-

 

時間はあっという間に過ぎていき午前授業が終わり学内では家路につくものや部活動へと励む者が出る中、一騎は勇者部へと足を運んだ。

 

「どうも」

 

「(!?)一騎先輩、お疲れ様です~!」

「おぃ~す。…って総士はどうしたの?」

 

「大赦の方に急に出向かないと行けなくなったそうで」

 

「うーん、参ったわね…ただでさえ今日は欠員がいるってのに」

 

「それなんですが、総士からこれを」

 

スケジュール管理に頭を悩ませる風に一騎は総士から預かったクリアファイルを手渡す。

 

「これは総士と東郷が抜けた分の今日のスケジュールと…うそぉん、あいつここまでやってくれたの!?」

 

風がクリアファイルの内容を見ると総士が極めて効率的に仕上げた本日のスケジュールと翌日以降の依頼で使う資料だった。

 

「助かるわ~。…っとスケジュールは少し手直しすれば…うし、半ドンで依頼どうこなすか悩んだけどこれでまわせそうね」

 

風がやっと本日の勇者部依頼消化のスケジュールをまとめ終えその場で伸びをする。

 

「そういえば友奈の姿が見えないな」

 

「まだ来てないのよ。どこで油売ってるのかね」

 

「お姉ちゃん、依頼の方は友奈さんが来てから?」

 

樹が風に買ってきた炭酸水を渡しながら本日の依頼に関して聞いてくる。

 

「いや、真壁には早々に『あの依頼』に行ってもらうわ」

 

「……またですか」

「あはは……なんというかこりませんねえ」

 

風が『あの依頼』を口にすると一騎が呆れたかのように樹は乾いた笑みを浮かべる。

 

「サッカー部からがっつり一騎も借りたいとの依頼も入ってるし、あいつら…放っておいたり断ったらまたなんか言ってきそうだしね。と、いうわけで時間もギリギリになりそうだしいつも通りに容赦なしにやっちゃいなさい。アタシ等は友奈が来たらすぐに出るわ」

 

「わかりました。それじゃあ先に行ってきます」

 

一騎が部室から出ると例の依頼先に向かった。

 

 

 

数分後、入れ違うかのように友奈が慌てた様子で勇者部室へと駆け込んだ。

 

「はっはっ…、遅くなりましたーっ。結城友奈ただ今参上!」

 

「友奈、おっそ―い!」

「お疲れさまです! 友奈さん」

 

友奈が部室内見渡しながら呟く。

 

「あれ~一騎君と総士君は?」

 

「総士先輩は大赦に呼ばれて急に休みになりまして~」

「真壁は先に依頼に向かわせたわよ。…友奈、何かあったの?」

 

「はいっ! 犬吠埼部長殿! お腹が減って動けませんっ……」

 

ぐううぅぅ……という豪快な音が部室内に響いた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

-讃州中学 体育館-

 

『待っていたぞ、真壁ぇー!!!』

 

「はぁ……」

 

依頼主が待ち合わせ場所に指定した体育館へと赴いた一騎であったが入ってすぐにため息を吐いた。なぜかそこには柔道着を着込んだ男子が5人とその他大勢が待ち構えており床のフローリングには授業で使う専用の畳が敷かれていた。

 

「勝負はいつも通り、今日は俺たち5人が相手だ」

 

風たちが『あの依頼』と言ったのはこの挑戦者たちの果し合いを受けることである。

 

この挑戦ができたのは一部の男子が讃州中学でも美少女を言われる子が集まっている勇者部の女子と付き合おうと依頼に見せかけたデートの誘いが多く来たことに始まる。それに所属する黒一点である一騎がずるいと言い初めたいわゆる嫉妬である。

 

それを知った風がその男子を集め「アンタたち…あまり関係のない依頼ばっかりまわすんじゃないわよ!?」とさすがに強めに言って切り捨てた。

 

それがある意味で火が付いたのか一騎よりもいいとこ見せようと今度は挑戦状を叩き付けた。もともと運動能力が高すぎる一騎を助っ人として向かい入れるために部活間で決める際の手段だったのを利用したとのことだ。

 

(まるで昔の剣司みたいだな)

 

と思いながら一騎はその挑戦者たちを寄せ付けず圧勝した。それ以来、時期の節目あたりに一気にそういった依頼が来ることとなった。

 

風は初めのころは断りまくっていたが、あとを絶えなかったため挑戦を受け一騎があっさりと勝利したところぴたりとやんだ。依頼が滞るということで思いっきりやらせる事にしたのはそのことである。

 

現代社会にてこういうのは問題になる……はずなのだが、男子内でルールが決められ、迷惑にならないよう最大限に配慮しているせいか、一種の娯楽のようなものとなっていた。

 

『いざ! 勝負!!!』

 

(5人くらいならすぐ終わるか)

 

 

 

――― 数分後

 

『――― (チーン)』

 

畳の上には挑戦者である5人の男子が床に転がっていた。ある男子は一騎に掴み掛ろうとするも躱されその勢いで投げられ、やっと掴んだと思ったら逆に投げ返されたり、関節技を決めようとしたらいつの間にか掛けられていたと結果はやはり一騎の圧勝であった。

 

「お疲れさん、一騎。後処理はこっちでやっとくわ~」

「ほかにも依頼があるんだろ? こっちは気にしなくてもいいぞ」

 

「あぁ。すまないな」

 

事を終えた一騎は汗一つかいていないため見学していたほかの男子たちに促されその場を後にした。

 

『これで勝ったと思うなよ……』

 

負け犬たちの遠吠えが続いているが…相手が相手である。まあ、そのうち剣司並にかっこいいイベントがあって報われる……

 

【ええと…あんまりそういうのは~…】

【お断りさせて頂きます(ジト目】

【こういうのもなんなんだけどさ…やっぱり馬鹿じゃないの?】

【ええと、無理です】

 

はずは無かった。どうやら勝手に商品にされているせいもあって勇者部の子たちの評価はプラスどころかマイナスを振り切っているようだ。

 

『それでも…それでも…俺たちは』

 

【はぁ! バッカじゃないの!】

【う~んと……ごめんね~】

【一生懸命なんだけどさ…ごめん、付き合えないや!】

 

うん、ごめん。君たちにはどうやら無理っぽい。……なんか多かったような。

 

『ちくしょうめ~!』

 

名もなき男子たちの慟哭が体育館に響き渡った。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

――― 閑話休題(それからさらに時間が経って)

 

「やっと終わったな」

 

あれから一騎はサッカー部での紅白戦・そのあとの練習相手など久しぶりにがっつりとした依頼をこなし部室へと戻ろうとしていた。

 

「先輩抜けてどうなるかと思っていたけど…あれなら心配はなさそうだ。今年はかなりいいとこまで行けそうだな」

 

「一騎君、みぃ~つけた!」

 

そう呟いていると聞きなれた声で一騎は振り向いた。

 

「ちょうど真壁も戻るとこだったのね」

 

「はい。本日のはすべて終わらせました」

 

友奈・風・樹も本日の依頼を片づけ部室へと戻るとこだったらしい。一騎のもとへと駆け寄り和気藹々な模様となったが、

 

――― ぐううぅぅ……

 

と友奈の腹が鳴ってしまう。

 

「うぅ~お腹空いた……」

 

「? 昼食べていないのか?」

 

「そうみたいです」

 

聞けば遅刻しそうになって朝食を抜いただけでなく昼食も食べていないらしい。樹や依頼先の人たちからの差し入れをもらっていたそうだが、友奈が力加減も考えずに依頼にエネルギーを使うせいか常に腹ペコになっているそうな。

 

「…あれ? 部室の前に何かありますよ?」

「ほえ?」

「弁当の箱と…魚の骨?」

 

一同は部室の前に置かれた弁当箱となぜか添えられた魚の骨を見つける。

 

「あっ!? すみません、それ私のですっ!」

 

「「「はあっ!?」」」

 

友奈がその件に関して皆に説明をする。いざ昼食を食べようとした友奈だったが気が立っていた2匹の猫を見つけ喧嘩を止めようといつもの思い付きとお人よしなところが出てしまったのかなんと弁当を2匹の猫に与えてしまったそうな。

 

「なんか友奈さんらしいです」

 

樹が感慨の声をあげたが、一騎がそんな能天気な友奈を心配した様子で

 

「友奈、いくら助けるのはいいんだけどさ、自分のこともっと気を付けろよな」

 

「えへへ~ごめんね~」

 

友奈がそう言うと腹の音がまた鳴り、「お腹空いた」としょんぼりとした様子となる。

 

「かめやにつくまでもつのか?」

 

「う~ん、ちょっときついかも……」

 

それに見かねた一騎は弁当箱が入っているバックから何かを取り出し友奈に手渡した。

 

「一騎君、これ」

 

「余りものだけどこれでもたせとけよ。本当は朝に渡したかったけど都合が合わなかったしさ」

 

一騎が取り出したのはラップにくるまれたおにぎりであった。友奈はきょとんとした表情でおにぎりと一騎を交互に見る。すると、人に優しくされるのが弱い友奈は感動のあまり号泣しながらおにぎりにパクつく。

 

「うう…うまい、うますぎるよぉ~! 樹ちゃんが天使なら、一騎君は神様だよぉ~!」

 

部室にいるときに樹からうどんクッキーをもらい、その時の喜びの反応になぞらえて一騎に精一杯の感謝をあらわした。

 

「よ…喜んでもらえてなによりかな」

 

(さっき部室で女房役がいるじゃないって言ったけど、真壁の奴、女房役も似合ってるじゃない)

(一騎先輩の場合、むしろ旦那も女房役もどちらも兼ね備えてますね)

 

そんな光景を犬吠埼姉妹が微笑ましく見つつも内心で茶化す。この後、4人は風のおごりでうどんを食べるためにかめやへと足を運ぶのであった。




『』で囲んでいるタイトルはゆゆゆ世界の日常模様で描くことにしているので試行錯誤の部分が大きいです。そのためファフナーキャラもゆゆゆ世界のはっちゃけた日常のためキャラがぶれているかもしれません。

それと日常回は『結城友奈は勇者部所属』・『結城友奈は勇者である 樹海の記憶』などからの抜粋となります。

次回は総士と乙姫の視点となります。

●機動侍ゴウバイン
竜宮島で刊行されている漫画雑誌に連載されている漫画作品のひとつ。著者は大粒あんこ(原作キャラである小楯衛の父、保が著者)。EXODUSでは新シリーズ「真・機動侍ゴウバイン」や原作キャラの堂馬広登の主演で実写特撮映像化も実現したらしい。

シュ○ちゃんが無双する洋画などの文化が残っているらしいゆゆゆ世界の四国ということで竜宮島文化も参入したらこうなったんだろうなあという作者の妄想である(西暦換算だとファフナーの150年ほど未来がゆゆゆ)。



茶番:たまには出番がほしいんです(せっかく精霊と同じ扱いになったので入れてみる)
「おはよう、一騎」
「おはよう……」

「おはよう。……総士、なんだか眠そうだな」

微笑みながら一騎は挨拶を返す。総士は目をこすりながら入室してきた。

「昨日も徹夜したんだって」

「ここのところやることが多すぎてな…」

「またか……、ともかく今もっていくから座ってくれ」

一騎に促され食卓へとつく総士と乙姫。総士は眠い目を少しこすったが、

「ん?」

何かを発見した。気のせいかを思いもう一度目をこするとそこには、

【……(ふよふよ】

「……は?」

食器を器用に運ぶ友奈たち勇者に仕える精霊サイズとなったザインの姿があった。総士は目の前の異様な光景に眠気が盛大に吹っ飛びツッコミを入れた。

「一騎!」

「どうした?」

「なぜ、ザインがこんなことをしている?」

「なぜって…いやぁ、前々からこういうのに興味を持っていたようにしていたから試しにやらせてみたら思いのほか器用で、今じゃあ親がいない時限定だけど家事にすごく助かっているんだ」

「へ~面白~い♪」

乙姫が感慨の声をあげる。

【……(ヤッテミヨウカナ)】

ニヒトが虎視眈々とその様子を見ていた。なぜかザインのやっていることにどうやら興味を持ったようである。

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