スターダストテイル   作:米俵一俵

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16.砂海の傷跡

 相変わらずの退屈な砂漠を、ジープは緩やかに上下しながら進んでいく。

「それにしても…。九栄神か…」

 腕組みをして考え込んでいたアヴドゥルが呟き、千時はシートの方へ身を乗り出した。

「エジプトの九栄神て、どういう神様?」

「いや、九柱神なら知っているんだがな」

「それとは違うの?」

「九栄神とは言わん。九柱は、カイロ近郊に存在した古代都市ヘリオポリスの創世神話に関わる神々だ。諸説あって、実際は十四、五人の神の名が挙がる。その内のどれかという事は、千時には分からないんだろう?」

「うん。いや、そもそもそれに含まれてるかどうかの時点で怪しいね」

「トト、オシリス、アヌビスなんかは有名なはずだが」

「ふんふん。聞いたことあるお名前」

 アヴドゥルは指折り数えながら、神の名をあげていった。

「アトゥム。シュー。ホルス。大ホルス。ネフティス。テフヌト。セト。イシス。ゲブ。アメン・ラー。ラー。ヌト…だったかな。覚えは無いか?」

 千時は改めて記憶を辿ったが、どうにも出てはこなかった。

「正直全然。ザーッとしか読んでないから。一覧表を一回か二回、ざっくり見ただけなんだよなあ…」

「その一覧表とやらがあればな」

 花京院が苦笑しながら茶化したが、いやもう、本当にその通り。

「とりあえず覚えてた能力は…」

 千時は例によってメモ帳をめくり、日本で書き出した項目を読み上げた。

「どれも詳細不明だけど、磁石。水。…刀剣! ポルナレフ!」

「うッ! また俺か!!」

 泡を食って電柱が振り返った。

「今度は何!?」

「これ以降、ディオ倒すまで剣持っちゃダメ」

「はいィ?」

「何が何でも剣ぽい物は触っちゃダメ。絶対。なんか、刀で大変な事になるらしいから。あんまよく分かんないけど」

「今の説明じゃ俺のほうが分かんねーよ!?」

「うーん…とにかく、刃物っぽい物、包丁とか刀とかなんでも全部、手に持たない! これで一個やり過ごせるかもしれない可能性があるので」

「お、おう…。分かんねーけど、分かった。おぼえとくぜ」

「あと何だったかなー…あ、ゲームだ。ポルナレフの顔面コイン」

「ハア!? また俺!?」

「なんか承太郎が敵と賭け事をする事になるみたい。そんなネタを見た覚えが」

「ネタ?」

「あ、うーん…」

 ピクシブで見た二次創作のギャグマンガとか言って通じるわけない。

「まあとにかくそれくらい…。ごめん、ほんと情報少なくて」

 おびき寄せに成功して膝の上で丸くなったイギーを撫で、千時は、メモを見ながら他に何かないかと考え込んだ。

 その途端だった。

 砂を走るジープは、音もなくいきなり急ブレーキをかけて、膝の上のイギーを荷台へと振り落とした。イギーのギャン! と、千時のウワッ! が重なり、シートの方でも驚愕の声があがっていた。

「何だあ!?」

「見ろ! アレを!!」

 ジョセフが叫び、フロントグラスを突き破らんと指を突き立てた。

「ヘリコプターが!!」

「なっ…! 飛び去ったヘリが砂に埋まっているぞ!!」

 ほとんど同時に花京院がドアを開け、外へ飛び出た。千時はイギーに怪我がないかだけ確かめて、ごめんねとガムをひとかけら与えてから、その場に立った。荷台はルーフが降りていないため、立てば屋根越しで充分見える。

 皆、車の周りに立ち尽くしていた。

 四、五十メートルも先だろうか。砂に横たわるヘリは、尾翼やプロペラが折れ、全てのグラスが砕け散って、くしゃくしゃに潰れていた。まだ黒煙が上がっている。

 もう少し先まで近づいて、ジョセフは車を止めた。

「兵器による攻撃の跡は無い…」

 アヴドゥルがようやく呟き、花京院が頷いた。

「なんか、そのままドスンと落ちた感じだ…」

「気をつけろ。敵スタンドの攻撃の可能性が大きい」

 承太郎が帽子の鍔を押さえ、低く呻いた。

「見ろ。パイロットだ…。死んでいるぜ…」

 窓から飛び出た上半身がある。

 思わず、喉から悲鳴が漏れた。

「…通訳さん…」

 千時は一度だけ目を固く閉じ、胸の前で手を組んで冥福を祈って、それ以降は目を逸らさなかった。遺体を前にしてしまっては、今更どうしようもない。悼むのは後だ。

 何かから逃れようとしたような苦悶の表情。手は機体を引っ掻いたようで、指先に向かって線が付いている。

「千時はイギーとそこに居なさい」

 ジョセフに言われて、千時は荷台に残った。

 彼らは警戒しながらヘリに近付き、遺体を確かめた。頭を触っていた承太郎が、なにがあったのか、のけぞって自分の口元を押さえている。

 そこへ、おいこっちだとポルナレフの声が掛かり、全員、砂の丘の陰へ入ってしまった。小さく聞こえる声を拾うに、どうやら、もう一人の職員がそこに倒れていたのを見つけたようだった。

「イギーちゃん」

 千時が足下に呼びかけると、ボストンテリアはこの上なく胡乱げな視線を投げて寄越した。

「なんかあると怖いし、シートに移ろっか」

 千時は思い切って、犬を抱きあげた。さっき膝まで誘導していたからか、彼にしては大人しい。シートの背もたれを跨いで車内に入ってから、隣へおろしてガムの切れ端をまた一つ差し出す。

 イギーは機嫌を直して、モゴモゴとやりだした。

 と、丘の向こうが俄に騒がしくなり、唐突に三人が駆けてきた。承太郎がタイヤに足をかけ、慌てた様子でダッシュボードの双眼鏡を手に取る。少し遅れて、ジョセフとアヴドゥルが車の横へ、砂の起伏に隠れるように伏せた。

 花京院とポルナレフは戻ってきていない。

「財団の人間は無関係なのに襲いおって!! アヴドゥル、どんなスタンドか見たか!?」

「見えたのは手でした…しかしまだ水筒の中に居ます。出ていったところは見ていません」

 慌ただしいやりとりで、千時も状況を察した。敵が姿を見せたのだろう。

「テメエが水と言っていたやつか…?」

 双眼鏡を覗く承太郎に問われ、千時は運転席へ身を乗り出した。

「ごめん分かんない、不用意にそうかもつって違ったら困る」

「そうだな…」

 訊いた割に生返事。敵を探すのに必死らしい。

「何者なんだ…九人の内の一人が攻撃してきたのか…?」

「承太郎! 敵の本体を探せ!」

「今探しているさ。だが……、視界の中には、敵本体は見えないな…。サンの時のように間抜けな鏡にも注意して探したが、どうやら敵は、かなり遠くから操作しているようだ」

 千時も、黙って車の後方を見てみたりしたが、砂以外には何一つ無い。

「花京院がやられた!!」

 ポルナレフの絶叫が響いてきたのはその時だった。

「うわああぁッ! 花京院が目をォッッ!」

「ポルナレフ! パニックになるんじゃあない! チャリオッツを出して身を守れ!!」

 ジョセフが怒鳴り返す。

「水だ!! もう既に水筒からは外へ出ていたんだ! 血と一緒に!」

「スタンドが水筒の中に潜んでいたのではなくて、水がスタンドなのだ!!」

 アヴドゥルと言い合って、二人は身を起こした。

「やばい! ポルナレフもやられる!!」

 承太郎が双眼鏡から目をはずして叫んだ次の瞬間、ヘリの近くからピピピピピピピピ、と妙な音が響いた。重ねてザアァァーッと滑らかに何かが動く音がして、アラームが掻き消える。

「一体何だ…? パイロットの死体を攻撃したぞ…?」

 ジョセフが疑念に眉根を寄せ、承太郎は首を横に振った。

「いや違う。死体ではない。時計だ。時計のアラームを攻撃したんだ」

「音だ! 音で探知して攻撃しているんだ!」

 アヴドゥルのその声に、

「音!?」

 ポルナレフが聞き返す。

 何が見えたのか知らないが、ジョセフが慌てた。

「まずい! ポルナレフ、今度こそ襲ってくるぞ!!」

 立ち上がったポルナレフが花京院を横抱きにしているのは、千時からも見えた。電柱のお姫さま抱っこ再び。ちょっと間抜けな光景だが、それどころではない、ポルナレフは必死の形相でこちらへと駆け出した。抱えられた花京院は、足場が悪く揺れているのに、ぐったりとしたまま起きる様子が無い。

「アヴドゥル、車に乗るんじゃ!」

「はい!」

 承太郎はタイヤからそのまま屋根へ、ジョセフが荷台、アヴドゥルがボンネットへ飛び乗った。

「千時! 中で静かにしていろ、音をたてるな!」

 アヴドゥルに怒鳴られ、千時はうんうん頷いたが、冷静に考えるとアヴさんこそそんな大声出したらまずいんじゃってな話で、しかしこれも言ってる場合じゃない。

「車まで走れえぇぇッ!」

 思いあまってジョセフは呼ぶが、いくらポルナレフが頑強といっても速度は最初から限界だ。

「はっ早い!」

 彼の背後に、砂が蛇のような跡を描いて追ってくる。いや違う、砂の中の何か。それはポルナレフの足下に追いつくと、ザッと乾いた音を立てて地表に姿を現した。澄んだ水が陽光を反射して、場違いにも美しく、きらきらと光をこぼす。

 量としては5リッター有る無し程度に見えるスタンドは、けれど必死に走るポルナレフの足を的確に切り裂いた。

「ハーミットパープル!!」

 バランスを崩した二人を紫の蔦が捕らえ、車へと引っ張りあげる。宙を飛んだ二人は、片方が屋根にくるりと着地し、片方はアヴドゥルがキャッチしてボンネットへと寝かせた。

「地面にしみこんだぞ…」

 誰ともなく車体の下を見るが、もう敵は姿を消している。

 千時は、音を立てないよう注意しながらシートの間を抜け、助手席へと移った。フロントグラスでぴくりともしない花京院が気がかりでならなかったのだ。

 横の窓から上半身を出し、ボンネットに横たわる男を見て、ヒ、と息が詰まった。

 やだやだやだウソこんなに早いなんて!! 

 両手で押さえた口から悲鳴が漏れた。花京院の顔面はひどく血塗れで、縦に二本、両目の瞼を通る大傷がとくとくと赤を吐いている。きっちり閉じた制服の胸元にまで、黒っぽい染みが飛んでいた。

 覚悟はしていたはずだった。こうなる事自体は知っていた。だが、何となく、ただただ何となく、それが起こらないような気になっていた。アヴドゥルを助けることができた時から、ここまで、順調に事が運びすぎたのだ。

「ノリさん…!」

 思わず呼んだ時、答えたのは、彼ではなかった。

 両肩に現れた半透明の手に驚いて頭上を見ると、ネコミミマネキンが花京院を見つめていた。

 薄ピンクの両手が千時の肩をふわりと離れ、花京院の顔に覆い被さる。

 花京院の体を支えていたアヴドゥルが泡を食った。

「なっ…! 何をしているんだ!? 千時ッ!!」

「分かんない分かんない!」

 千時はネコミミマネキンと怪我人を交互に見るしかできず、アヴドゥルは花京院の頭を自分の方へ引き寄せたが、T・Tはぬるりと動きにあわせて手を離さない。

 謎のスタンドは、ただしばらく、手を置いていた。

「お、おいおい…、何をやって…」

 とうとうポルナレフが小声で発した頃、ネコミミマネキンはようやくその手を、花京院の顔から離した。

「何ッ!?」

「なっ…」

 驚愕がそれぞれの口を突いて出た。

 花京院の口をすら、だ。

「い、今のは一体…!?」

「ノリさん!!」

「花京院!!」

 全員が顔を見合わせた。

 体を起こした男の顔面には、傷も、血の跡すらも、無くなっていたのである。

 

 どの時点で傷が消えたのかは、皆目、分からなかった。

 千時がもう一度見上げるより早く、T・Tは姿を消した。まるで、自分の仕事は終わったと言わんばかりの素早さだった。

「何という事だ…! T・Tの能力は治癒じゃったのか…」

 ジョセフが、これ以上無いほど目を丸くした。

「な、何にせよ良かった!」

 崩れるような声を絞り出したのはポルナレフで、承太郎もやれやれと帽子の鍔を引き下げる。

 承太郎の方は、T・Tが千時を殺そうとしたのだと思っていたはずだから、それでなくとも傷ついた花京院に手を伸ばしたのは落ち着かなかったろう。その結果がこれとはまた、とんだオチになったものだ。

 当の花京院は、不思議そうに、何度も自分の顔を撫でている。

 その背を支えるアヴドゥルだけが、何とも微妙な表情をしていた。彼は彼で、T・Tの能力がスタンドの制御に影響を及ぼすものでは、と考えていたはずで、治癒と言われても納得のいくわけがない。

 何故か冷静にそこまでを思考してから、千時は、パニックに陥った。

「そんな…!!」

 花京院が無事に目を見開いている、それが原因だった。

「そんな、どうしよ、いやだ、なんで…!!」

「池上さん? どうしたんだ」

 傷があったはずの場所を撫でていた指が伸ばされたが、千時はのけぞってそれを避け、車内へ後退った。それから助手席のシートに背を押しつけて、這いあがる震えを押さえようと両手で自分を掻き抱いた。

「あぁッ…どうしよう、わアアあァ! 分かんなくなっちゃった…!!」

「落ち着け。何が分からなくなったって?」

「ここから数えるはずだったんだよ!! 入院して復帰したその直後にこッ…」

 そこまで言ってしまってから、千時はハッと青褪め、震える両手で再び口を覆った。エンヤに打ち据えられた時より余程、体中が痛い。全身の血がどこかへ消えたかというほど、四肢が一気に冷えていく。

「話は後じゃ!」

 硬直した空気を壊したのは、ジョセフだった。

「奴を撃退せんことには動けんぞ! 敵は地面の振動で音を探知できる。その上、土の中を自由に移動できる。姿を見せることなく行動し、我々が気付く前に、背後からでも足の裏からでも攻撃が可能」

 ベラベラしゃべりつつ、荷台から体を突っ込み、震える千時の頭を叩いて振り向かせる。

「しかも本体は遠くにいることができる…。動けば即座に攻撃してくるぞ。迂闊に動くわけにもいかん」

 この切り替えの早さ。ジョースター家一、機転の利く男。

 彼は、千時の口を押さえる手の片方を引き剥がして、思い切り強く掴んだ。それはほんの数秒だったが、効果絶大だった。

 ジョセフはすぐに荷台へ戻り、周囲を見回している。

 ただそれだけの事で、千時は震えが止まったことに驚いた。大丈夫、今はおいておきなさい。そう言われた気がした。

 …うん。一人、呟いて頷く。

 前に目を戻すと、花京院が難しい顔で千時を見ていた。

 千時はフロントグラスに身を乗り出し、告げた。

「ノリさん。ぜんぶ、後にしよう」

 花京院は一瞬だけ不服そうに眉を寄せたが、こくりと頷いて、周囲の砂へ目をやった。

 

 急に背後で物音がして、千時は振り返った。

 後部座席に異常は無い。

「…あれ?」

 シートの下にでも潜り込んでしまったのだろうか。ボストンテリアが居なかった。

「あ! こらイギー!」

 声をあげたのは荷台のジョセフで、その視線を辿った砂の先には、イギーが、くあ、とあくびしていた。

「うわごめん見てなかった!」

 慌ててドアに手を掛けると、車を出るなと怒鳴られる。

「でも」

 その事について会話が成立したのは、そこまで。

 車がガクンと傾き、途端、千時の体はフロントグラスの方へ落ちた。

「ちょっ、た!!」

 意味のない声を発しながら、角度のおかしくなったシートの背もたれに抱きつく。ダッシュボードにおいてあった地図や何やらが、コツンコツンとフロントグラスまで移動していく。

「タイヤが水の中に…! ダメだ! 引きずりこまれるッ!」

「滑り落ちるぞ!」

「もっと後ろの方へ移動しろ!!」

 承太郎達が互いに叫び、移動しているらしく、屋根がガタガタ騒がしく鳴った。上を見れば、最早、宙に浮いてしまった後輪にぶらさがるポルナレフ。

 下を見ると、フロントグラスの向こう、ボンネットの先が砂に…いや、そこに染み出した水に、滑り込み始めている。

 わーああああ! とうとうダッシュボードに足を掛けなければならないほど、車が縦に立ってしまった。

「助っ人! おいこら! てめー助っ人しろッ!! おいいッッ!! カアァーッ! どこまでのんきなんだあのバカ犬ッ!!」

 ポルナレフが喚いても、イギーはかなり離れたところまで避難してしまったらしく、身動きできなくなってきた千時からは見えなかった。

 直角近くで、傾斜が止まる。

 と、視界の端で何かがキラキラッと白く光り、次いで、ガンッと鈍く金属が壊れる音がした。横手の窓の向こう、ホイールごと弾き飛ばされたタイヤが、変なスローモーションでふわっと落ちるのが見える。そこへ透明な紐がシュッと走って、パン! 爆発音と共に、タイヤのゴムが変形した…ように千時には見えた。

「なんて切れ味じゃ! 前輪を切断しやがった!!」

 車体がまたガクッと揺れた。

「こういうことかッ! 今度は後ろへ下がるぞ、みんな掴まれーッッ!」

 水に引き込まれていたタイヤが無くなったせいだ。車体は自重そのまま思い切り元の場所へと倒れ込み、バーンとこの上なくバウンドした。

 千時はシートに顔をぶつけて、何が起きたか見なかったが、車体の揺れが収まってから慌てて外を見ると、全員が振り落とされて砂の上に息を潜めていた。

 千時に気付いたアヴドゥルは、シー、と、口に指を当てるジェスチャーをしてみせた。

 何を考えたのか、彼は、腕に幾重も填めらていたリングをそっと外し、トン、と一つ、投げた。自分の正面、50センチほどだろうか。さらに一つ、最初のリングから同じほどの間隔を空けて、その先へ。

 繰り返すこと五回。

 アヴドゥルは動作を止め、両手を構えた。

 …沈黙。

 最後のリングの下から水が染み出してくるのと、炎が襲いかかるのは同時。それを敵が寸手で掻い潜り、一閃、ひょうと弧を描けば、アヴドゥルの大きな背が揺れて、倒れた。

 首から脈動に合わせて血が吹き出す。

 千時は、窓ガラスに押しつけた手から、まるで彼に合わせたかのように血の気が引くのを感じた。大丈夫、大丈夫なはず、だってこれはどう見てもグルグルガオンてやつじゃない。口の中で呪文のように自分へ言い聞かせる。

 …本当にそうだろうか? 

 疑問が頭をよぎった。途中、ポルナレフを襲うはずだった人形に、千時は襲われた。花京院に化けてくるはずだった敵が、ポルナレフの姿を模して来ている。離脱するはずのアヴドゥルがずっと一緒。ラバーズに殺されるはずだったエンヤは発狂して死んだ。千時にはスタンドが現れている。そして今、目を負傷したはずの花京院に、傷が無い。

 他には? 何かが起きないと、何故言える? 花京院の代わりに、ここで彼が離脱しない保証は? 

 水がまた手を形作り、アヴドゥルへ止めを刺そうとした瞬間、だしぬけに承太郎が走り出した。

「承太郎ッ!?」

「バカな事を!!」

 アヴドゥルに向かうはずだった水は、微かな躊躇を置いて砂を蹴散らし、地中へと飛び込んだ。

「ああっ潜った! 水が承太郎を追いかけ始めた!!」

「そういう事か…。アヴドゥルはこれ以上攻撃されずに済んだが…」

 すかさず花京院が手を振り上げた。ハイエロファントグリーンが身を乗り出し、糸のように細くした触脚の先で、承太郎の肩に触れる。

「まずいぞ! 追いつかれるッ!!」

 ポルナレフの声通り、地表に現れた水が承太郎に向かっていった。承太郎は振り向くこと無く全速力で、寝そべるイギー…の隣を通るのかと思いきや犬を引っ掴み、さらに走っていく。そして、何をする気かというこちらの視線を一身に、丘の上でいきなり止まった。

「立ち止まるな承太郎ッ!!」

 だが彼の取った次の行動は、イギーを地面に叩きつけ、砂に押しつける事だった。ドーム状に砂が巻き上がり、あっという間にザ・フールが空中に翼を描く。承太郎はスタープラチナを使って飛びかかり、ザ・フールの腕を掴んで、そのまま、空を滑空し始めた。

「こいつぁいい!」

 ジョセフが目を丸くした。

「承太郎のやつ、あのまま空中を進んで、イギーに敵本体を見つけさす気だ。本体さえ見つかれば、あの恐るべきスタンドも、倒す可能性、大だ!」

 そうは言うものの、となればこちらではできる事は無い。あの水が今どの地点にいるのか知る術も無ければ、それが戻ってこない保証も無いのだ。

 じっと目を凝らすポルナレフが、舌打ちした。

「段々高度が落ちてきてるぜ…。あのザ・フール、あまり長距離は飛行できないらしい」

「ああ、羽ばたいていないからな。紙飛行機のように舞っているだけだ」

 花京院が太陽に目を眇め、眉を顰めた。

 ザ・フールはゆっくりと落ちて行き、とうとう、承太郎の畳んだ足が砂を擦りそうなほどになった。どうしようもなくなったらしい。足にスタープラチナを重ね、一度だけ、勢い良く砂を蹴って高度を稼ぐ。

「奴のスタンドが承太郎を追い始めた! 今の一歩で気付いたんだ!!」

 ポルナレフが泡を食ったが、何もかもがどうしようもない。

 ここでやっと、ジョセフがアヴドゥルに駆け寄った。

「最早この戦い、任せるしかない。承太郎に…」

 ジョセフの動作を許容と判断した千時は、車のドアを破らんばかりに飛び出した。駆け込むのは同じく、倒れたアヴドゥルのところ。砂に染みた黒い血溜まりが生々しく、パイロットの遺体が思い返されて恐ろしい。

「T・Tッ!!」

 絶叫で呼ばれたT・Tは、ふわりと千時の頭上に現れた。だが、両手はいつものように肩へと置く。

「違う! 治して! 早くッ!!」

 千時はT・Tの手を振り払うようにパーカーを脱ぎ、アヴドゥルの首に押し当てて止血しながら頭上を見上げた。だが、ネコミミマネキンは手をおろおろと遊ばせるばかりで、何をしようともしない。

「なんでよッ! どうしてッッ!!」

 パーカーが鮮血で染まっていく。

「ふざけんな!! 何なんだよお前ッ!! 治してよ! 治せッッ!!」

 片手を振り上げ、半透明の手を掴もうとして宙を切る。こちらからは触れられないのだ。

 T・Tは怯えたように目の奥をキラリとさせて、消えてしまった。

「この馬鹿スタンドおぉぉぉッッ!!」

 振り上げた手に付いた血が、バカバカしいほど美しい色をしている。

 向かいから義手が、手首を掴んだ。

「落ち着け! 無理なら構わん!!」

 ジョセフに大声で怒鳴られ、千時はびくりと肩を竦めた。老人は一呼吸おいてから、淡々と続けた。

「わしが後で治療するから、今はこの窮地を脱する事だけ考えろ」

「だって!!」

「冷静になれ。深い傷だが、まだいきなり死んだりはせんよ。ただ、今は敵と承太郎がどうなっとるか分からん。アヴドゥルが戦えない中、わしまで消耗するのは得策じゃあない。だからまず、車をどうにかして追いつこう。どうだ。もう落ち着けるか?」

 千時がどうにか頷くと、手を離す。

「深呼吸しろ」

 言われるまま、大きく吸って、吐く。もう一度。

「…T・Tの事はカウントしない」

 呟くように言えば、ジョセフは頷いた。

「よし。千時はこのまま傷を押さえていてくれ」

「傷口は心臓より上にした方が良いんだよね、荷台に毛布あるから背中に入れよう」

「ポルナレフ! 毛布を持ってこい!!」

「おっ、おう!」

 ポルナレフが慌てて荷台をひっくり返し、毛布を抱えて飛んできた。

「圧迫止血は心臓側を押さえるんだぜ、できてるか!?」

 ジョセフがアヴドゥルを抱え、空いた場所にポルナレフが毛布を突っ込む。

「できてるはず…」

 千時は潜水艦でジョセフにしていたように、アヴドゥルの背中へ回った。毛布を膝で押し込み、腹に頭を抱える。若干…いや正直言ってかなり、髪の毛が邪魔。シブのギャグ漫画みたいにスポーンと抜きたい。すごく邪魔。

「オッケー、うん、傷ごと心臓側押さえられてると思う」

「お前ってば偉いなア」

「もう落ち着いた。いらんお世辞は結構ですよ」

「違うって。女の子が良くやってるって言ってんの。アヴドゥルを頼むぜ」

 ポルナレフはウインクし、立ち上がった。

「さてと、花京院はそのまま承太郎を追っててくれよ。迎えに行かにゃあならんからな」

「言われなくてもやっているだろう。見れば分かる事をいちいち言うな」

「チェッ。俺にだけ冷たいんだ」

「…が、これはダメだな」

「何?」

「射程を超えてしまった」

 花京院も立ち上がった。どうやら追うのを諦め、スタンドは消したようだ。

「僕もそっちを手伝おう」

「あちゃー。こりゃ急がねえと、一人と一匹が遭難しちまうぞ」

 すでにジョセフがジープに向かい、何やらごそごそやっている。

「参ったな。片方は直せるが…」

 体を起こしたジョセフの腕から、ドサッと重い音をたてて、スペアタイヤが砂へ降ろされた。

 ジープはサンドバギーと呼ばれるタイプで、後輪にトラックのようなバカでかいタイヤが填まっている。スペアタイヤは前輪の物だから、パンクさせられたのが後輪だったら直す術が無かっただろう。

 が、そうでなくても、スペアタイヤは一本しか無い。

 ポルナレフも寄っていって荷台に頭を突っ込み、ジャッキと工具箱を出した。

「一本無いくらい、適当なモンで高さを間に合わせときゃあいい」

「しかし平坦なアスファルトじゃあないからな」

「車ってのは割に頑丈なもんさ。走るだけならどうにかなるだろうぜ」

 一人旅の長い男は、特に心配していないご様子。あっさり言いながらタイヤの横へ荷物を置き、また荷台をごそごそやっている。

「むしろ、ジャッキの下に敷けるような鉄板か何かがあるかどうか…」

「この際ドアを剥がせばいいんじゃないか。背に腹は代えられない」

 花京院、この人、意外とアグレッシブな事を言う。

 結局、手当たり次第ひっくり返した荷物の中から、なぜか鉄のフライパンが出てきたため、それを使う事にしたらしい。サイズ合ってないと思うがどうなんだ。千時のご時世は最早、業界で車離れが嘆かれる情勢である。しかもぶっちゃけ都内在住、電車で大概間に合っちゃうペーパードライバー女子。なので車なんて興味が無い。タイヤの交換…装着? そんな光景も初めて目の当たりにしているので、フライパンでどうにかするなんて男子すごいなーレベルである。

 ポルナレフと花京院がやいのやいの言い合いながらスペアタイヤを付けていく間、さて、砂の上にちらかった荷物をジョセフがさらにあれこれ広げて、髭を撫でていた。

「さーて…、砂を走る、と…。どうしたもんか…」

「それこそドア使えない?」

 言うだけ言ってみるの精神で、千時は提案してみた。ポルナレフの発言を聞いて、ユーチューブの動画を思い出したのだ。ホイールごとタイヤの外れた軽自動車が、丸太を引き擦りながら走っている動画を見たことがあった。ここは砂漠だから、丸太では砂に埋もれて引っかかってしまうだろうけれども。

「ドアを、何て言うか、まあるく曲げて…無理かな。スキーとかソリみたいに、砂を滑れればいいんでしょ? とか言っちゃったりしてただの思いつきだけど」

「いやいや。発想は良いんじゃないのォー?」

 ジョセフは、ジープをしげしげと眺めた。

 

 日が暮れ始めた頃、承太郎とイギーは見つかった。彼らの少々疲れた、けれど安堵の様子からして、敵を撃破したのは明らかだった。

 ちなみに、承太郎の第一声は、

「…だいぶ改造したな」

 で、荷台に立っていたジョセフがカラカラと笑った。

「千時の案だ」

「えっ私のせい!?」

 運転席と助手席のドアは、ジョセフがマジックで引いた線の通りにレイピアで切り落とされ、エメラルドスプラッシュでベコベコにひん曲げられ、何をどう組んだのか、うまいことタイヤのあった場所を埋めている。ちなみにその中は、衣類やらシュラフやらを詰めた革の鞄をザイルでギッチギチに巻いた物を詰めてあるという、凄まじい無茶仕様。ぶっちゃけどこまで走るかわかんねーですよ状態で、基本、無事な後輪で引きずっていくバック走行。

 しかしそれでもとりあえず走るんだからスゴい。

「承太郎、怪我は無かったか」

 駆け寄った花京院に、承太郎は首を振った。

「お前はどうなんだ」

「わけの分からないことに、恐ろしいほど何ともない」

「ならアヴドゥルも」

「いや、それが…」

「ごめん。T・Tが言うこときかなかった」

 ふくれっ面の千時が話を引き取ると、承太郎は後部座席を覗き込んだ。

「アヴドゥル」

「承太郎。無事で何より」

 アヴドゥルが喋ると、振動が伝わってくる。隣に座って傷を押さえ続けている千時は、少々それが怖い。何しろ、止まりかけの血が音に合わせてまだ出てくるのだ。正直ほんと、黙っててほしいカッコ物理。

 だが、アヴドゥルはお構いなしで、口の端を吊り上げた。

「助けられたな。礼を言う」

「いや。具合は」

「貧血じゃあ死なんさ」

「だといいが」

 千時のジト目に気付いた承太郎が、体を起こして話を切り上げた。

 アヴドゥルは褐色の肌をしているせいで、血色が分かり辛い。本人に平気な振りをされると、どうも誤魔化されてしまうきらいがある。以前負った銃創もそうで、具合を訊いてもウヤムヤにされている内に治ってしまっていた。当人曰く、スタンドの性質上、体温調節が良く傷の治りが早いそうだが、そんなの周りは知ったこっちゃないので心配くらいさせてもらいたい。

 ジョセフが荷台を降りて、千時の横のドアを開けた。

「さ、代わろう」

 これを見越して、運転席はポルナレフだ。千時は、傷を押さえているタオルを動かさないよう注意しながら、その場をジョセフに明け渡した。

「次はイギーを頼む」

「あ、はい」

「なっ! だ、大丈夫か!?」

「は?」

「お前がハイなんて殊勝な返事を!!」

「今ポルナレフと同列くらいの事言われた気がしたけど!?」

「俺はお前にものすごい失礼な事言われた気がするけど!?」

 運転席から抗議の声。

 笑われながらウェットティッシュで手の血を拭く。

 頼まれたボストンテリアは、頼まなくても足下に寄ってきた。短い尻尾を振っているのは、ガムを強請っているのだろう。

「おかえり、イギーちゃん」

「アギッ」

「お、良いお返事ではないですか。お座り?」

 言えば、まさかのちょこんとお座り! これはちょっと、異常なまでの覚えの良さだ。

 年齢はともかく、イギーは英語圏に居たはずで、今、千時は日本語を使っている。イギーの意志は伝わってこないが、もしかすると向こうは、スタンドを通じてこちらを読みとっているのかもしれない。

 若干の薄気味悪さとないまぜに感動しながら、ガムのかけらを出してやると、イギーは満足そうに持って行った。そのまま荷台へ飛び乗って、荷物の散らかる中から柔らかそうな場所…空いた鞄の上に落ち着いている。

「ほわーァ! ほんと賢いなあ!」

 千時はイギーを追いかけて荷台へ上がり、隣に座った。イギーは少々面倒くさそうな顔をしたが、それだけだ。大人しいものである。これのどこらへんが問題児になるのか…電柱大好き以外に! …、今のところ千時には分からなかった。

 花京院がまた承太郎に少し話しかけ、頷きあって、それぞれ乗車した。承太郎は助手席へ。花京院は荷台へ。

「死ぬのは僕だったのか?」

 乗り込むなり、花京院は特に何の感情も込めず、そう訊ねた。

 車が、バックで走り出した。

 

 千時はしばらく、手持ち無沙汰にイギーを撫でながら黙っていた。

 花京院はだいぶ答えを待ってくれたが、さすがに空が星を瞬かせ始めると、口を開いた。

「構わないから教えてほしい」

 腹に大穴開けられて死ぬって? 

 いや、言い方を考えているわけではない。千時はそもそも、言葉を用意してこなかった。こんな事は…花京院の傷が消えてなくなるなんて事態は、T・Tの存在以上に想定外だったと言ってもいい。酷い表現になるが、ある意味で最初から、花京院の負傷を待っていたのだ。それを説明する予定は全く無かった。

「死にたくないんだ」

 花京院は千時の、イギーを撫でる手を掴んだ。

「きみだって、二つも約束をしてくれたじゃないか。果たしてくれ」

 絵と、全員での写真。体躯の割に細い指が、ぐっと強く手を握る。今朝、カフェでジープを待ちながら繋いだ手そのまま、死ぬ気なんてさらさら無い事を、それが全力で訴えかけていた。

「…傷が癒えて戻ってきた数時間後、殺されるはずだった」

 話し始めれば、さすがに花京院は目を見開いた。

「腹に大穴開けられて、最後に手掛かりだけ残して…。敵のスタンドの能力を…、それを示す手掛かりを残して、死んでく。そういう話だった」

 どこまでを話し、伏せればいいか。

 助手席の男のスタンドと、仕切を挟んだ後部座席が問題だ。ディオに殺される、という点を、ジョースターの血族には聞かせられない。小声で話せば助手席の承太郎には届かないだろうが、スタープラチナで聞き取られるかもしれない。目の前のシートに居るジョセフに直接聞こえてしまうのもまずい。万が一、ディオに余計なことを読みとられたら、事態がこじれないとも限らないのだ。最後の一手へ辿り着く前に投了させられる事だけは、避けなければならなかった。

「ファンがまとめた文章で簡単に読んだだけだから、私には、いつどこでどうして、が分からない。ただ、タイミングだけは、目がサングラスで間に合う程度に回復して戻ってきた後、たった数時間で、って書いてあったから、それを待って計る以外に無いと…、思ってて」

 千時の声はどうしても小さくなり、花京院は身を乗り出して、一言一句を食い入るように聞いていた。

 ディオに殺される点と併せて考えれば、彼の死が最終決戦間近だろうという予想はつく。ただ、千時は正確な事実を本当に知らず、アヴドゥルとイギー、花京院の、どちらが先かすら分からない。

 それでもアヴドゥルとイギーの死はポルナレフに関連していたため、そこそこ読んである。館に突入してからの事ならどうにかできると踏んで、棚上げにできた。

 となると、最大の問題が、花京院の死だったのだ。

「どうしよう、ごめんね、どうしたらいいんだろう…!」

 もう冷静なつもりだったが、千時の目には涙の膜が張ってしまった。出発前からの算段が崩れたのは痛い。頭で考えるより心に刺さる。こんなのどーしようもない! 詳細は精々アニメで見るつもりだったんだから!! 

 花京院は、しばらく思案げに目を泳がせていたが、やがて、掴んだ千時の手を引き寄せた。

「ちょっとこっちへ移ろうか」

 荷台の、一番後ろの方へと促す。千時が這っていって片隅に収まると、彼は、子供が内緒話をするように手を口元へ当てて、千時の耳元に顔を寄せた。

「その手掛かりというのは?」

「え?」

 花京院の平坦すぎる問いかけに、千時はやっと顔を上げた。

「僕が残すはずの手掛かりだよ。それが何なのか、きみは知っているのか?」

「あ、と…」

 小声すぎて聞き取り辛いが、千時は頷き、同じく小声で返した。

「知って…というか、手掛かりが何なのかは知らないけど、その敵の能力が何なのかは知ってる」

「なら僕は、その手掛かりを残す必要が無いわけだな」

「へ?」

「つまり、死ななくていいんじゃないか」

 あっけらかんと花京院は言った。

 千時はぽかんとしてから、え、え、と眉根を寄せた。

「そ、そうだけど、でも、私、この後の展開を全然知らないんだよ。どうしてその敵と遭遇しちゃったのかも…」

「きみは以前、僕を、チームのブレーンだと言ったね」

「言ったけど何?」

「きみの言葉が全てでは無いことを、恐らく僕は理解できていると思う」

 千時は驚いてのけぞり、目をまっすぐ見交わして、驚愕した。

 話した言葉ではない。伏せた言葉の意味を、彼は読み取ってしまったのだ。千時が敵を知っていて、かつ、今ここで明かせない相手であるという事を。つまりそれは。

 絶句する千時の肩を叩いて、彼はまた耳元に顔を寄せた。

「構わない。きみにはきみの計画があるだろうから、余計な事は聞かないよ。…だがな」

 ようやく花京院は体を離した。

 そうして、強い口調で千時を睨んだ。

「来てもいない未来のために泣くな。心配程度でメソメソするような真似は許さないぞ。こんな旅に、弱気を出すような奴は連れていけない。それこそ砂漠に捨てていく!」

「唐突な死亡フラグッ!!」

 とっくにセルフエコノミーは解除されていたが、千時はわざと大仰に、両手で目元を拭ってみせた。

 ほっとして、気抜けた笑みを浮かべると、花京院も満足そうに笑った。

 


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