インフィニット・ストラトス ~ぼっちが転校してきました~   作:セオンです

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2話目です。

では、どうぞ。




第2話 彼は負けられない

寮に着くと、八幡のルームメイトであるシャルル・デュノアがいた。

 

ヤバイ。

デュノアの顔見るだけで癒されるわ。

マジ天使。

養ってください、いやマジで。

 

そんな事を思いながら奥のベッドへと腰を掛ける八幡。

そんな八幡にシャルルは声をかけてきた。

 

「織斑先生に何で呼び出されたの?」

「いや、転校初日にもらった小論文の感想だったよ。」

「どんなこと書いたの?」

「何でもねぇよ。普通の書いただけでなんかつまらんとか言われた。」

 

もちろん嘘である。

 

「そうなんだ。」

「おう。」

 

会話が終了した。

 

いかん、なんか話さなければ。

くそっ。

こういう時だけ自分が嫌いになるぜ。

何か話題はないのか‼

ないですね。

ありがとうございました。

 

とそんなときだった。

不意にノックの音が聞こえた。

 

「誰だろう?はぁい。」

 

パタパタと扉まで走っていくシャルル。

扉を開けると予想外の人物がやってきた。

 

まぁ、予想何てしてないけどね?

ほんとだよ?

ハチマンウソツカナイ。

 

「比企谷八幡さんはいらっしゃいますか?デュノアさん。」

「うん。いるよ?何か用?」

「えぇ。ちょっとお話がありますの。」

「わかったよ。じゃあ入って。」

「お邪魔しますわ。」

 

そう言って金髪の美少女、イギリスの代表候補生であるセシリア・オルコットが部屋のなかに入ってきた。

八幡は何のようかと言わんばかりにセシリアに目を向けた。

 

「あなた、わたくしと一週間後に模擬戦を申し込みましたわね?」

「あぁ、それがどうかしたか?」

「いいえ、わたくしもあなたには興味がありましたのでそんなことはどうでもいいんです。ですがなぜわたくしと模擬戦を?」

「織斑先生にオルコットか織斑のどっちかと模擬戦をしろって言って来たから。」

 

嘘は言ってない。

それまでの経緯は話さなかったが。

 

「そんなことは織斑先生に聞きましたわ。わたくしが聞きたいのはどうしてわたくしと模擬戦したいと思ったのか、それが聞きたいのです。」

「理由か…。特にないな。ただあるとすれば、イギリスの代表候補生の実力が知りたいから、それじゃ不満か?」

「わかりましたわ。それではわたくしとブルー・ティアーズの奏でるワルツで踊らせてあげますわ。」

「頼むから全力では来るなよ?」

「いえ。全力で行かせてもらいますわ。」

 

それを聞いて八幡は小さくため息をはいた。

 

めんどくさいな…。

バックレようかな。

でもそんなことしたら織斑先生に殺されそう。

やるしかないのかー。

やりたくないなぁ。

 

「わかったよ。じゃあな。」

 

八幡は会話を終わらせようとしたのだが、セシリアはそうではなかったようだ。

 

「もう1つよろしいですか?」

「……別に構わん。」

「あなたは何者ですか?」

「比企谷八幡、だが?」

 

八幡はその質問を聞いたとき、一瞬ドキリとしたが冷静さを保ち、そう答えた。

だがセシリアはその回答では満足いかなかったらしい。

 

「そう言うことを聞きたいのではありません。本当の事をお聞かせください。」

 

しつこいな。

とりあえずこの状況を打破するためには、さっさと会話を終わらせればいい。

なら、俺はこう答えるべきだ。

 

「何度も言ってるだろ。俺は比企谷八幡だと。」

 

セシリアはしばらく八幡の事を観察していたが、その腐った目からは何も読み取れなかった。

だからこそセシリアはこう提案した。

 

「では、わたくしが勝ったら、全て話してもらいますわ。」

 

そう来たか。

まぁ、当たり前か。

 

「じゃあ俺が勝ったら、これ以上余計な詮索はするな。」

「わかりましたわ。では、わたくしはこれで。また明日、教室でお会いいたしましょう。」

 

そう言ってセシリアは自室へ戻っていった。

 

なんか、負けられなくなったんだが。

あの事は出来れば話したくないしな…。

あの女、余計なことまで約束させやがって。

絶対に許さないノートにセシリア・オルコットって絶対かいてやる。

 

そう心に強く誓った八幡はこっちを見ているシャルルに気づくとどうした?と聞いてみた。

 

「八幡ってさ、何か謎が多いよね。そう考えると僕も八幡のこと知りたいな。」

 

やめて‼

その上目使いやめて‼

めっちゃ可愛いから。

教えたくなっちゃうから。

落ち着け、koolになれ。

なれてませんね。

大体koolじゃなくてcoolだし。

 

「まぁ、俺は謎だな。なぜならぼっちで誰も友達いないから。」

 

言ってて悲しくなってきた。

 

「え?僕たち友達じゃないの?」

 

え?あれ?

俺とデュノアって友達だったの?

誰か教えて‼

 

「そ、そうなのか?」

「うん。僕はそう思ってたけど…。八幡は違うの?」

 

うっ…。

そんな目で見るな。

俺の目が浄化しちまう。

あれ?いいのか。

 

「そ、そうだな。」

 

そう答えた瞬間、シャルルの顔に満面の笑みが溢れた。

 

守りたい、この笑顔。

もう男でもいいね。

いや、デュノアは男でも女でもない。

デュノアはデュノアだな。

うん。

 

そんな事を思いながら、始めて同じ部屋になって、緊張したことを思いだし少し頬が緩んだ。

あのときからシャルルは八幡と呼ぶようになった。

その時の嬉しさは人生のなかでなかなかなかったのかもしれない。

そう思うほどだった。

 

まぁ、そんなことはどうでもいいが。

どうでもいいのかよ。

俺としては大事なことだけどな。

もう俺の将来は決まったな。

デュノアルート一択だな。

誰にも異論は認めん。

 

そんなことを考えているとシャルルは八幡の方へ目を向ける。

 

「そう言えば、八幡って凰さんとの試合、手慣れてたね。」

「そうか?」

「うん。何かしてたの?」

「まぁ、してたことはしてたな。一週間ぐらいだけどな。」

「それであれだけ強いの?スゴいなぁ。」

「何もスゴくなんかないさ。ただ、必要に迫られたからな。」

「どうして?」

 

小首を傾げるシャルル。

 

可愛い。

ヤバイ、マジ天使。

中学の時の俺なら即行告白して振られちゃうところだったよ。

えー、振られちゃうのかよ。

当たり前だけどさ。

 

どうでもいいことを頭から振り払い、シャルルの質問に答えることにした。

 

「や、そりゃ俺が男だからに決まってんだろ。」

「何で男なら強くならなくちゃいけないの?」

「いつ、どこかの国がスパイを送り込んできて危害を加えてくるかもしれないからな。用心に越したことはないさ。」

 

スパイと言う単語のとき、一瞬シャルルがビクリと身体を震わせた。

八幡は何かあるのか少し気になった。

 

「どうした?なに驚いてるんだ?」

「え?なななな何でもないよ!?」

 

デュノアよ、つくならもう少しましな嘘をつけ。

なにか裏があるのか?

ぼっちの108の特技、人間観察の結果、あると判断した。

マイスウィートエンジェル、シャルル・デュノアを疑いたくはないが、自分の身を守るためだ。

しょうがない。

 

八幡はシャルルに何かあるのか、調べることにした。

とある人物をつてにして。

 

********************************************

 

その日の夜、とある場所に一人の女の人がいた。

アリスチックな洋服、頭の上にはウサギの耳。

全体的に華奢そうに見えて均整のとれた体つき。

そんな彼女のもとに一通のメールが来ていた。

 

「誰かな~?」

 

メールの差出人を見て彼女は笑みを浮かべる。

 

「始めてだね~はちくんから連絡来るなんてさ~。でも、この内容はなにさ~。この天災発明家、束さんに雑用を押し付けるなんてさ!ま、はちくんの頼みなら仕方ないね。」

 

そう言うととある人物の経歴を調べ始めた。

それを見ながら彼女、篠ノ之束は笑みをこぼした。

それは背筋が凍るような笑みだった。

 

*************************************

 

翌日。

八幡はシャルルに起こされ、着替えてから食堂へと向かい、朝ごはんを食べていた。

その時、少しはなれた場所から一夏がこちらにやってきた。

 

「シャルルおはよう。八幡もおはよう。」

「織斑くんおはよう。」

「うっす。」

 

八幡は短くそう言った。

 

何でこっちに来ちゃったの?

そのお陰でみんなこっち見てるじゃん。

ぼっちは人の視線になれてないのです。

ほら見ろ口調がおかしくなっちまったじゃねぇか。

 

八幡はその視線に耐えられなくなったのか、急いで朝ごはんを食べ、席を立った。

 

「八幡、速いよ~。」

 

シャルルがそう言いながらパンをかじっていく。

 

「そろそろ時間だから急いだ方がいいぞ。」

 

照れたように頬をポリポリと掻きながらシャルルにそういった。

すると、一夏が返事を返してきた。

 

「ほんとだ。サンキューな八幡。」

 

何そんなにナチュラルに会話に入ってくるの?

友達じゃないかって勘違いしそうになっちゃうだろうが。

それがわかったら以降は距離をとってくださいね。

 

そんな心の叫びをよそに、シャルルと一夏は急いでご飯を口に運び、八幡の元へと急いで歩いていく。

 

「八幡、お待たせ。」

「ん、おう。」

 

短くシャルルにそう答えると教室へ歩いていく。

教室までの道のりは苦痛だった。

 

何でそんなに見てくるの?

俺の目が腐ってるから?

それともデュノアを見てるのか?

それなら納得だな。

だってデュノアだもん。

どうでもいいけど俺がだもんとか使うとキモいな。

言ってて泣けてくるぜ。

 

割とどうでもいいことを思っていたせいか、周りの目を気にせず教室にはいることが出来た。

八幡は自分の席に座る。

席順としては織斑の右にデュノア。

さらにその右に八幡といった並びだ。

しばらくすると、副担任の真耶と千冬が教室に入ってきた。

教卓へと真耶が進んでいくと、おもむろに口を開いた。

 

「えっと、今日は転校生を紹介します。」

 

そう言うとクラスの中が騒然となる。

 

「うるさいぞ。よし。入ってこい。」

 

千冬が鶴の一声でクラスのみんなを黙らせると、扉の向こうにいるであろう転校生にそう指示を出した。

綺麗な銀髪、そして低めの身長。

そして何より、左目にしている眼帯が神秘性を醸し出している。

だが、纏う空気は切っ先鋭いナイフのようだ。

美少女ではあるのだが、どこか普通ではない感じに思える。

その少女は教卓の横で立つ。

だが、何もしゃべろうとしなかった。

 

「ボーデヴィッヒ、自己紹介を。」

「了解しました。教官。」

「教官はやめろ。私はもうお前の教官ではない。それにここではお前の教師だ。だから織斑先生と呼べ。」

「わかりました。」

 

千冬との会話が終わり、正面を向く。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。」

「それだけ、ですか?」

「以上だ。」

 

ずいぶん短い自己紹介だった。

 

そんな邪険にするなよ。

山田先生泣いちゃうぞ。

っていうか、もしかしてこいつ友達いないのか?

まぁ、そうだろうな。

どう見たって話しかけにくいし。

おっとこれはブーメランでした。

俺も目が腐ってるからな。

言ってて悲しくなってきた…。

 

八幡はそんなことを考えながらぼーっとしていると、千冬が口を開いた。

 

「ボーデヴィッヒはドイツの代表候補生だ。専用機を持たない者は模範にするように。持っているものは負けないようにしろ。」

 

そう言うとラウラは何を思ったのか八幡の前まで歩み寄ってきた。

 

「貴様が織斑一夏か?」

「は?ちが…。」

 

全部言えなかった。

なぜなら、ラウラにはたかれたからだ。

 

え?

目が腐ってるだけで叩かれちゃったの?

っていうか、違うって言おうとしたよね。

沸点低すぎない?

まぁ、いいや。

そっちがその気なら、俺もやってやるさ。

最低なやり方でな。

 

決心つけた瞬間、千冬がため息をつきながらラウラにこう言った。

 

「ボーデヴィッヒ、そいつは別のやつだ。一夏はあっち…。」

「おい、ドイツの代表候補生。軍出身なのかどうかは知らんがいきなりビンタで別人に挨拶するなんて相当沸点が低いようだな。」

「なんだと?」

 

千冬の発言の途中で八幡は口を開く。

それに驚いたのか、クラスはおろか先生二人でさえも呆然としていた。

 

「そんなんでよく代表候補生なんかになれたな。」

 

嘲笑しながら八幡はそう言う。

そしてーー

 

「出来損ないが。」

 

止めの一言を言った。

その瞬間、クラスの空気が一気に凍りついた。

そしてそれと共にラウラの目に殺気が籠る。

 

「なんだと?私が出来損ないだと?」

「あぁ。織斑とお前の間に何があったのか知りたくもないし、知ったこっちゃねぇ。だが、物事を客観的にとらえられず、感情的で冷静になれていない。これのどこが出来損ないじゃないって?」

「貴様、言わせておけば…‼」

 

どこから出したか知らないが、ナイフを持ち、八幡に突っ込んでくる。

クラス中に悲鳴がこだまする。

八幡は冷静に今の状況を考え、一つの結論に至る。

 

できるかどうかはわからないが、やるしかないだろ。

 

左腕を掲げ、小さく呟く。

 

「来い、星影。」

 

その瞬間、ラウラのナイフが八幡の腕に突き刺さった。

そう見えた。

千冬と真耶が慌てて八幡のところへ駆け寄る。

その光景を見て、二人は息を飲む。

ISに乗り始めて間もない彼が、部分展開を使い、ラウラのナイフを受け止めていた。

 

「くっ…。」

「どうした?」

 

ラウラはすぐさま距離を取り、ナイフを構え直す。

そして再びラウラが八幡の元へと接近しようとしたが、できなかった。

 

「比企谷、とりあえずそれをしまえ。それからボーデヴィッヒ、頭に血が上りすぎだバカ者。」

「しかし‼」

 

八幡はすぐに星影をしまったが、ラウラは納得がいかないのか千冬に抗議する。

だが。

 

「ボーデヴィッヒ、やめろと言っている。」

 

千冬はラウラを睨む。

その目を見てラウラは一歩下がる。

 

こっわ‼

何あれ、般若がいる。

怒らせないようにしないとな…。

 

八幡は千冬を怒らせないように注意しようと心に固く誓った。

その決意とほぼ同時に千冬が口を開いた。

 

「ボーデヴィッヒ、そんなに気に入らないなら、比企谷と模擬戦をしろ。」

「は?」

 

つい先程、怒らせないようにしようとした八幡はいきなりそんなこと言われたため、千冬に敬語を忘れて怒気を含んだ疑問をぶつけてしまった。

 

「なんだ比企谷。文句でもあるのか?」

「先生、そんな解決方法はよくないと思いますが。」

「話し合いをするより手っ取り早いだろ?それに…。」

 

八幡はその後の言葉がわかってしまった。

 

「ボーデヴィッヒは論戦するにはおつむが弱いからな。」

 

そう言われてはなにも言えない。

だが、一応反論はしておく。

 

「それならこのクラスで多数決をすればいいだけでは?」

「お前は何を言っている?ボーデヴィッヒがまともな票を貰えるわけがないだろ。お前の方が人気なのだからな。それとも、負けるのが怖いのか?」

「それは認めます。ですが負けるのが怖いのではありません。働きたくないだけです。」

 

それを言った瞬間、クラスの全員がため息をついた。

唯一、デュノアだけが苦笑いをしていた。

 

何でみんなため息ついてるの?

そんなにみんな働きたいの?

やだ、みんな社畜魂高過ぎっ‼

 

八幡はクラス全員のこれからを考えて、いかに働くのが負けな事なのか、論じようとしたが、千冬に先を越されてしまった。

 

「全くお前は…。だったらこうしよう。比企谷、お前が参加しない、もしくは負けた場合、生徒会に入ってもらおう。それも、雑務として。」

 

何だってー!?

働きたくないでござる‼

働きたくないでござるー‼

崩壊の能力使っちゃうぞ。

普通に考えて無理でした。

はい。

 

「先生、それ俺にしかデメリットないじゃないですか。」

「安心しろ。ボーデヴィッヒにも同じような条件を出す。」

 

そう言うと、ラウラの方へ顔を向けると、こう言い放った。

 

「ボーデヴィッヒ、お前が参加しない、もしくは負けた場合、比企谷に謝罪をしろ。きちんと誠意あるやり方でな。それから、お前が一夏のどこを気に入らんのか知らんが、その事も忘れろ。いいな。」

「了解しました。」

「よし。で、比企谷はどうするんだ?」

「はぁ…。生徒会に入って働きたくないのでやりますよ。」

「では、今日の放課後、第2アリーナで模擬戦を行う。二人ともいいな?」

「はい。」

「わかりました。」

 

八幡は盛大にため息をはくと、机に伏せて現実逃避をしようとしたが、千冬の持っていた出席簿が飛んできてそれどころではなくなってしまった。

 

あぁー。

帰りたい。

帰って小町に癒してほしいな。

ダメ?

ダメですねわかります。

だったらせめて放課後が来なければいいのに。

 

そんなことを思っていると、いつの間にか昼休みになっていた。

 

え?早くない?

早いよね?

おかしいよこんなの…。

 

そう悶えていると、シャルルが声をかけてきた。

 

「八幡、大変なことになったね。」

「あぁ。全く織斑先生の脳筋ぶりには驚いたぜ。」

「八幡、そんなこと言っていいの?」

「え?」

 

シャルルの怯えた顔を見て察した。

後ろに大魔神がいるということを。

 

死んだな。

 

八幡は死を覚悟して後ろを振り返る。

そこには青筋をこめかみの辺りに浮かばせている世界最強の女、千冬が笑顔と共に立っていた。

 

「比企谷、私の頭が何だって?」

「何でもありましぇんよ?」

 

恐怖のあまり噛んでしまった八幡。

 

「そうか。私の勘違いか。」

「そ、そうでしゅね。」

 

笑ってごまかす八幡。

だが、それがいけなかった。

 

「そんなわけあるか‼笑ってごまかすな‼」

 

千冬は手に持っていた出席簿を八幡の頭に降り下ろした。

物凄い音を立てて頭に当たり、八幡は崩れ落ちる。

 

「ふん。」

 

それで満足したのか、千冬はその後を去った。

 

**********************************************

 

八幡は千冬による制裁を受け、痛みでうずくまっていたが、昼ごはんを食べれなくなるのは嫌だったため、痛みをこらえながら食堂へと向かう。

痛みで忘れていたが、隣にはシャルルがいた。

 

「八幡、大丈夫?」

「まぁ、なんとかな。」

「ごめんね。僕が話題をふったから…。」

「デュノアのせいじゃねぇよ。気にするな。むしろあれだな、元から頭痛い子だったから変わらないまである。」

「何それ。」

 

シャルルがくすりと笑う。

 

えー、何この気持ち。

男にこんな気持ち持つなんて。

いや、良いのかもしれない。

むしろデュノア以外にないまである。

 

八幡はそう決定付けると、いつの間にか食堂にいた。

 

「今日は何食べるの?」

「ん?たまには飯が食いたいから唐揚げ定食にするわ。」

「そうなんだ。」

「デュノアはどうすんだ?たまには米も食ってみろよ。」

「え!?えっと僕は…。」

「もしかして箸が使えないとか?」

「うっ…うん。」

 

恥ずかしそうに顔を赤くしてもじもじしながら八幡の方を向く。

 

やめて‼

可愛いから‼

告白して振られちゃうから。

振られちゃうのかよ。

当たり前だけど。

 

八幡は頬をポリポリと掻きながら、短くこう答えた。

 

「なら、いつか練習しような。」

「う、うん‼」

 

満面の笑みを浮かべ、シャルルはそう答えた。

それを見ていた八幡もその腐った目にそぐわない優しい顔をしていた。

それは今まで妹である小町にしか向けたことのない顔だった。

周りにいた女子生徒たちは、その顔を見て顔を赤らめていったが、八幡は気付くことなく、食堂にいるおばちゃんに注文をして、トレーを受け取り、一番奥の席へと移動していった。

その後、いつ撮られたのかは知らないが、女子たちの間で八幡の優しい顔をした写真が校内中に広がったのは別のお話。

 

八幡とシャルルは向かい合うようにして座ると、小さく頂きますと言って食べ始めた。

 

「デュノア、ボーデヴィッヒの専用機の性能ってわかるか?」

「どうして?」

「少しでも情報がほしい。」

「わかった。ちょっと待ってて。」

 

デュノアは携帯端末をポケットから取りだし、操作を始めた。

そしてそれを八幡に見せてきた。

 

「はい。」

「おう。悪いな。」

「いいよ。僕にできることなら何でも言って。」

「あぁ。」

 

八幡はそれを受け取り、内容を見る。

ラウラの使用する専用機、シュヴァルツェア・レーゲン。

ドイツで開発された第3世代型IS。

主な武装は肩の大型レールカノン、両腕に付いているプラズマ手刀、そして6機装備されているワイヤーブレード。

 

これだけならよかったんだがな…。

 

八幡は一番厄介な物になりうる、アクティブ・イナーシャル・キャンセラー、通称AIC。

これに注目した。

AICはもともとISに搭載されている、PICの応用で、慣性停止結界と呼ばれる。

対象を任意で停止させることができる厄介なものだ。

 

これの攻略法はないのか?

 

そう思いながら次々と資料を読んでいく。

と、そのなかに興味深い内容が書いてあった。

 

"1対1では反則的な効果を発揮するが、使用には多量の集中力が必要であり、複数相手やエネルギー兵器には効果が薄い。"

 

これを見て、八幡は勝利への道を作ることが出来た。

 

「サンキューな。お陰で勝てそうだ。」

「本当?でも、忘れないでね。ボーデヴィッヒさんも代表候補生だってこと。」

「あぁ、わかってる。」

「なら僕は八幡を信じるよ。」

「信じなくてもいいさ。見てくれるだけでな。」

「なら、僕は勝手に信じるよ。」

「そうか。」

「そうだよ。」

 

八幡は口許に笑みを浮かべ、シャルルの顔を見た。

 

裏切られるかもしれないけど、それでもデュノアが信じてくれるのを信じてみるのも悪くないかもな…。

 

八幡はそう思うと、ご飯を口に運んだ。

その日の昼ごはんはいつもより美味しく感じられた。

 

*****************************************

 

放課後がやってきた。

八幡はシャルルと共にすでにピットまでやって来ていた。

 

「八幡、信じてるよ。」

「そうか。ただ、勝つ保証はないぞ。」

「負けるって言わないんだね。」

 

少し可笑しそうにシャルルはクスクスと笑った。

八幡はその笑顔を見て、少し居心地が良くなった。

今まで、クスクスと笑われたことは、影で何度もあった。

だが、今シャルルが笑っているのとは違う。

八幡はそれに少し戸惑った。

だが、自分の親しい人が笑顔でいる、それがたまらなく嬉しかった。

小町が笑顔でいるときと同じように。

だからこそ八幡はシャルルにこう言った。

 

「あぁ。信じてくれるやつがいるからな。」

 

そう言うと、八幡はISを展開する。

漆黒の鎧を身に纏う。

すると、無線が入る。

 

「比企谷くん、準備はいいですか?」

「はい。」

「では、いつでもいいので、出てください。」

「わかりました。」

 

八幡はカタパルトに乗り、そして前傾姿勢になりながら前を見る。

 

やって来るか。

 

「比企谷八幡、行きます。」

 

八幡が射出され、アリーナへと出る。

そこにはすでに黒い重装甲なIS、シュヴァルツェア・レーゲンを纏うラウラがいた。

八幡はチャネルをオープンにする。

 

「ボーデヴィッヒ、悪いが勝たせてもらうぞ。」

「ふん。できるものならな。」

「では、比企谷八幡とラウラ・ボーデヴィッヒの模擬戦を始める。始め‼」

 

その声と同時に八幡は背中についている流星を展開し、ラウラへと飛ばす。

流星は各々行動し、ラウラを取り囲み、ビームを放つ。

 

「ふん。第3世代型のBT兵器か。こんなもの‼」

 

プラズマ手刀で手近に来ていた流星を破壊しようとした。

だが、ラウラの視界の隅でライフルを構える八幡の姿が写った。

 

「っ!?」

 

まさか、そんなはずはない。

ハッタリに決まっている。

だがなんだ、このうすら寒い気は。

 

ラウラの一瞬の動揺が回避行動を遅らせた。

ラウラに流星と彗星のビームが直撃した。

 

「悪いな。ボーデヴィッヒ。この兵器はBT兵器を発展させたものでマルチロックオンシステムで狙った敵を常に追いかけ、敵を攻撃する。だから俺自身も攻撃できるんだよ。」

「くっ…。」

 

ラウラは下唇を噛む。

 

強い。

兵装もそうだが、何より操縦者の扱いがうまい。

このままでは負けるかもしれない。

負けたくない。

この私に負けは許されない‼

もっと、もっと力を‼

 

そう思った瞬間、ラウラの耳許で何かが呟いた。

 

「何だ?」

「汝、力を欲するか?」

「あぁ。」

「ならば力を与えてやろう。」

 

ラウラのISが液体のように溶け始める。

周りの人は何が起きたのかわからない。

だが、なにか危険な事になる。

そう直感が告げていた。

その頃、管制室では千冬が真耶にこう言っていた。

 

「山田先生、警戒レベルを3に移行。そして模擬戦を中止に。」

「わかりました。しかし、ボーデヴィッヒさんに何が…。」

「わからん。とりあえず、警備部隊を向かわせてくれ。」

「わかりました。比企谷くんはどうしますか?」

「ピットまで下げさせろ。」

「はい。」

 

真耶は八幡へプライベートチャネルを繋ぎ、千冬から言われたことを伝えようとした瞬間だった。

ラウラのISと思われる物が姿を変え、打鉄のような姿をし、その立ち姿はまるで今一緒にいる千冬のようであった。

そしてそれが、いきなり八幡を襲った。

 

「っ!?どうしますか?織斑先生。」

 

真耶に焦りの色が混じる。

千冬はあくまで冷静を心がけ、こう命じた。

 

「私に任せろ。」

 

そう言うと、インカムを手に取り、八幡と通信を始めた。

 

「比企谷、聞こえるか?」

「先生、これは?」

「わからん。今からいうことをよく聞け。」

「はい。」

「ボーデヴィッヒは何らかの事態により暴走を始め、お前を攻撃し始めた。少しの間でいい。食い止めてくれ。そうすれば警備部隊がそちらにつく。」

 

しばらく沈黙が続いた。

そして、八幡から出された結論に皆が愕然とした。

 

「お断りします。」

「一応理由を聞こうか。」

「被害を大きくしないために、俺のことより先にやることがあるでしょう?まずはそちらを片付けてからにしてください。それに、この問題は俺とボーデヴィッヒのものです。だから解決するのも俺たちでやります。では。」

 

一方的にそう言うと、チャネルを切り、八幡は戦闘を開始した。

千冬は唇を噛みつつ、次の策に移る。

 

「山田先生、他の生徒の避難を。それと専用機持ちを招集してくれ。」

「わかりました。」

 

真耶はすぐに行動に移し、モニターを見つめる。

そこには2つの刀剣で切り合っている八幡の姿が写っていた。

焦る気持ちを押さえて、専用機持ちを待つ。

しばらくすると、管制室に専用機持ちが集まってきた。

 

「千冬姉、これは何だよ?」

「わからん。だが、もしかしたらVTシステムかもしれん。」

 

VTシステム。

ヴァルキリー・トレース・システム。

過去のモンド・グロッソ優勝者の戦闘方法をデータ化し、そのまま再現・実行するシステム。

パイロットに「能力以上のスペック」を要求するため、肉体に莫大な負荷が掛かり、場合によっては生命が危ぶまれる。

現在では、あらゆる企業、国家での開発は禁止されているはずだ。

だが、今回のこの暴走はこれに共通点がいくつかある。

そう。

千冬に似すぎている。

だからこそ心配なのだ。

ラウラが、そして何より八幡が。

 

「織斑先生、私たちは何をすればよろしいのですか?」

 

セシリアが若干驚きを含んだ声で尋ねてくる。

 

「比企谷のサポートを頼みたい。」

「八幡のサポートですか?」

「あぁ。現在、比企谷は一人であの暴走ISに挑んでいる。」

 

そう言った瞬間、一夏、セシリア、鈴、シャルルの顔が強張った。

 

「だが、今の彼ではあれには勝てないだろう。だからお前らに頼みたい。」

「でも、警備部隊が出てるんじゃないんですか?」

 

鈴の質問は的確だった。

千冬はそうしようとした。

だが拒否された。

誰でもない八幡から。

 

「比企谷に拒否され、今は生徒の避難誘導を行っている。」

「なぜ、拒否されただけで八幡を見捨てるようなことをしたんですか?」

 

シャルルの問いは至極全うだ。

そういわれるのも仕方がない。

だが、今の八幡の戦いかたでは連携どころか警備部隊がやられる可能性が高い。

それほどまでに朧夜が、いや、八幡が強い。

なぜ、それほどまでに強いのか甚だ疑問なのだが、それを今考えても無駄だろう。

 

「今のあいつを見てみろ。連携できる戦いかたではない。だから、お前たちに頼みたい。説得と、あの暴走ISの鎮静を。」

 

各々の了解を聞き、少し安心する千冬。

 

頑張れよ、お前ら。

 

******************************************

 

八幡は千冬の言葉を聞かず、戦闘を続ける。

 

強いな…。

何であの時、あんなこと言っちまったんだ?

まぁ、いいや。

今はこいつを何とかしなきゃな。

しかしあの時、特訓しといて正解だったな…。

できればあの人にはもう会いたくはないけど…。

 

そう思いながらも十六夜と朔光を手に握りしめ、接近する。

ラウラの武装は変わっており、刀一振りだけになっていた。

だからこそ、あえて同じ土俵で戦っていた。

相手が刀を持っているのにこちらが銃なのは少し不利だ。

生身の人間同士であれば、ライフルを使ってもいいだろうが、事ISではそうもいっていられない。

機動力のあるISではライフルなどを持ちながら飛び、さらに撃ったりと余計な動作が入り、機動力が格段に落ちる。

だからこそ、機動力がそこまで落ちない刀剣で相対した。

 

こいつの行動パターン、どこかで見覚えが…。

 

そこまで思考した瞬間、ハイパーセンサーがなにかに反応した。

それはよく見覚えのある顔、シャルル達であった。

 

ちっ…何で来たんだよ。

 

心の中で悪態をつき、背面から流星をパージし、シャルル達の元へ飛ばした。

3つはそれぞれ連携を取りながら四人を追い詰めていく。

だが、それも時間稼ぎにしかならなかった。

三基ともに打ち落とされ四人がこちらにやって来る。

 

「八幡‼」

 

シャルルの叫びが耳にはいる。

だがそれを無視して、ラウラから距離を取り、月華を展開し、腰だめに構える。

そしてその銃口をラウラに向ける。

足からパイルバンカーが出て来て体を支える。

そして。

 

「ファイア‼」

 

その叫びと共にビームの奔流がラウラに吸い込まれるように真っ直ぐ放たれる。

直撃した。

八幡の耳に、四人の叫びが聞こえるが、すべて無視し、構えを解く。

そして、直撃した部分から暴走したISが溶けるように崩れ落ち、中からラウラが姿を現した。

八幡はISを解き、ラウラの元へ走っていく。

そして、落ちてきたラウラを抱き止める。

 

「大丈夫か?」

「……なぜお前はそんなに強い…。なぜ強くあろうとする?」

「俺は強くないさ…。ただ臆病なだけだ。それに、そんなこと聞いてもお前のためにはならんだろ。」

「どうしてだ?」

「お前はお前だからだ。」

「私が…私?」

「お前は俺じゃない。比企谷八幡じゃない。ラウラ・ボーデヴィッヒだ。だからお前はお前の強さを持て。それが本物の強さだ。」

「それが…つよ…さ…。」

 

ラウラは気を失った。

八幡はラウラを支えながら、なぜあんなことを言ったのかわからなかった。

だが今日の夜は確実に枕を抱えてベッドを転がるだろうと思った。

 

あーはずかしい。

何いっちゃってんの俺は‼

バカじゃねぇーの!?

恥ずかしすぎて死にたいよぉー‼

誰にも聞かれてないよね?

特に地面に降り立った3人の専用機持ちさんたち?

にやにやしてるけど聞いてないよね?

 

そんな心配しているときだった。

視界一杯にオレンジ色が覆った。

そして、右頬に衝撃が襲った。

 

「八幡のバカ‼」

 

八幡は理解するのに少し時間がたった。

どうやらシャルルにビンタされたみたいだ。

 

痛い…。

 

「何がバカなんだ?」

 

涙を流しているシャルルを見ながらそう言った。

 

「何で一人でやるの?僕たちは仲間じゃないの?」

「一人でやった方が効率的だし、それに、一人でやることは間違いなのか?」

「そうじゃないよ‼何で僕たちを牽制してまで突き放すの?そんなに信じられないの!?もっと僕を、僕たちを信じてよ‼」

「……。」

 

シャルルの言っていることは今の八幡のやり方を、いや、八幡自信を否定しているようなものであった。

 

なぜ他人に、俺の事を少ししか知らない人に俺自身を否定されなければいけないんだ?

俺は俺の流儀にしたがってやっただけだ。

信じたその先にあるのは、絶望だ。

信じてはその度に裏切られる。

それの繰り返し。

だから俺はいつの日か信じるのをやめた。

でもようやく、信じてもいいかもしれないやつが出来た、気がした。

なのに、裏切るようなことをするのか…。

やっぱり、世界は残酷で冷酷だ。

 

「デュノア、一つ俺の友達の友達の話をしてやる。そいつはそこそこ顔がよくて、成績もよかった。でもなぜかみんなから陰で嫌われていた。でもそいつは少ないが友達がいた。そのときは友達だと信じて疑わなかった。そして、いつものように学校に行ったら机がベランダにあったし、下駄箱の中には悪戯のラブレターも入ってた。極めつけは忘れ物をして戻って下駄箱に行ったとき、その友達が俺の下駄箱の中にゴミを入れてた。それを見て、俺は失望した。絶望した。つまりは上っ面の関係。偽物の関係。だから俺は…。」

 

八幡は最後の一言を言おうとした。

何も信じないと。

だが、それは叶わなかった。

シャルルが遮ったからだ。

 

「だから何?」

「は?」

「僕は八幡をいじめてた同級生でもないし、僕はいじめる事もしない。八幡が望むなら僕は八幡の言う偽物の関係じゃなく、本物の関係になりたい。だから…。だから…。僕を信じてよ。八幡に傷ついて欲しくない。だから…。」

 

そこまで言うと、シャルルは嗚咽し始めた。

心配そうに3人が寄ってくる。

 

この目、この口調、そして本気で心配してくれているとわかる涙。

あいつと一緒だな…。

俺が小町のために小町に暴言を吐いて自分を犠牲にしたとき、言葉は違っても俺のために、俺なんかのために泣いてくれる、怒ってくれる。

そんなやつを突き放すなんて俺には無理だ。

そんな強さは俺にはない。

俺は弱者だ。

だから、それが羨ましい。

だから、憧れる。

だから、近付いてみたいと手を伸ばしてしまう。

例え、その先が絶望しかないのだとしても…。

ならば、俺がデュノアにかける言葉は。

 

「デュノア、その、何だ。ありがとな。」

「え?」

「いや、だから、デュノアを、お前を信じるようにするよ。」

「うん…。うん‼これからもよろしくね、八幡‼」

「あぁ。」

 

八幡に向けられた笑顔は、かつての小町の笑顔のように眩しく、そして胸に暑いものが込み上げてくるような物だった。

 

これなら、デュノアとなら俺は自分自身がほしかった物が手にはいるかもしれないな…。

 

そう思った八幡は空を見上げた。

その空はいつもより青く美しく感じられた。

 




IS設定書いた方がいいですかね?
書いて欲しいなら言ってください。

ではでは次のお話でお会いしましょう。

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