試合が終了し、ピットからクラスの皆がいる観客席へ移動すると、大袈裟では無いだろうかと思うくらいに歓迎された。
「来た!一夏くん来た!」
「コレで勝つる!」
「もう勝ってるじゃん?!」
「おつかれー一夏くーん!」
「織斑くん格好良かったよ!」
「やったー!1週間分の食券、ゲットだよぉ!」
これが狭い観客席で無ければ、今すぐに胴上げされてしまいそうな程の勢いだった。
「皆さん、応援ありがとうございました」
「なぁーに言ってんの、まだまだこれからだよ!」
「目指せ、優勝だーっ!」
「そして私達に一ヶ月間のデザートを!」
「頑張ってね織斑くん!」
「はい、頑張ります」
ただ、こうやって応援されるのは悪い気分では無い。
最初はどこかくだらないな程度に考えていたけど、何時の間にか皆の期待に応えたいという想いが湧いてきたのに気が付いた。
どうやら僕は、乗せられやすい性格だったみたいだ。
「さて、その前に第二試合だね」
「この試合に勝った方が一夏くんと次に戦うんだよね」
「でも次は…………」
「決まっちゃってるようなもんだよねー」
○
第二試合の対戦カードは【更識簪vsロミー=ベンサム】というもの。
片や量産機、片や専用機というどこか出来レース然とした物を感じるが1年生の試合というのは大概がそんなものらしい。
これが2,3年生になってくると量産機が専用機を倒せる程まで熟練する生徒も現れたりして、試合も面白くなっていくのだとか。
「この試合は流石に一夏くんに聞かなくてもねー」
「4組の代表候補生が勝つんだろうな」
更識簪さんの機体は第三世代ISの打鉄弐式という機体で、世界でも有数のシェア──絶対数が467機までしかないのに有数の、と言うのも何か変だが──を誇る日本製のIS、打鉄の後継機だ。
しかし、打鉄が重装甲と近接戦に特化した機体なのに対して打鉄弐式は機動性とマルチロール性能を追求した全く別の機体に仕上がっている。
個人的見解としては、幾ら装甲を厚くしてもシールドエネルギーへのダメージ量が減るだけでジリ貧に陥る可能性もあり、変則的な機体の多い第三世代機のコンセプトとしては正解だと思う。
そもそもISはシールドエネルギーや絶対防御という機能がある以上は一撃で撃墜される様な事態はほぼ皆無なのだから、これからのISはオプションによる追加装甲を除いて軽装甲になっていくのでは無いだろうか?
「あれは、ナギナタというやつか?」
オリヴィエさんの指摘した薙刀のような武器は夢現と言うらしい。
「機体ステータスによれば、あの武器は超振動薙刀……あれに触れた物はチェンソーのように容易く切断されてしまうでしょう」
「うわ、見掛けによらず凶悪だね……」
実際、ロミー=ベンサムの操るラファール・リヴァイヴの盾代わりに使われていたアンロック・ユニットを夢現は容易く切断してしまった。
第三世代機のイメージ・インターフェースはアンロック・ユニットなどに付随する形で常に展開している機体も多いので、そう言った機体には有効かもしれない。
そして、試合は予想通りに更識簪さんが大幅にリードする展開となった。
これは試合終了のブザーが鳴るのも時間の問題…………かと思われた。
しかし、ブザーが鳴り響く前に、アリーナ会場が大きく震えだした。
比喩では無い。本当に会場が縦揺れを起こしたのだ。
「えっ!嘘、地震!?」
「け、結構大きいよぉ!」
「きゃああああっ!!」
突然の地震に、観客席はパニックに陥る。
中には大陸出身の為、人生で初めて地震を体験した者もおり、特にそういった生徒のショックは大きかった。
「いや、これは…………?」
しかし、そんな中で一夏は疑問を覚えた。
当たり前な話だが、地震は震源が地下なので地面から震えが来る。
だがこのアリーナの揺れは…………上から何か大きな衝撃を受けた事で生じた振動だ。
そしてアリーナの天井を見上げていると──黒い塊が、会場内に落ちてきた。
「な、何あれっ!?」
「ロボット……?」
「いや、ISなの?」
その見た目はどちらとも取れた。
四肢は巨大でエネルギーパイプや荷電粒子砲の砲門と思わしき孔が複数あり、対してISで人が在るべき場所は総体的に小さく見えた。
身体の線は妙に細く、顔に至ってはあからさまなカメラの様な部品が幾つもの見受けられる。
恐らくは、無人機。
そしてその無人機は、無差別に荷電粒子砲を撃ちだした。
流石に速射、連射は出来ない様子だが、その内の一発は一夏達の付近に着弾した
「か、荷電粒子砲!?」
「何っ、何何何なのよおっ!!」
「いやああああああっ!!」
「まだ死にたくないよおっ!!」
「ママァーッ!!」
阿鼻叫喚。
至る所から悲鳴や喚き声が聞こえ、そして次の瞬間には防護シャッターが降り始めた。
これで、観客席にいる生徒達には一応の安全が確保されたが……
『緊急事態発生!』
『Emergency!』
『непредвиденный!』
『教師の誘導に従って避難してください!』
『Please evacuation according to the instructions of the teacher!』
『Пожалуйста эвакуации в соответствии с указаниями учителя!』
様々な言語で避難を呼び掛ける放送が流れる。
しかし、それが更にパニックを助長させ、非常口はすし詰め状態となり避難は満足に行われていない。
1年5組の生徒達も、慌てて最寄りの非常口に向かって駆け出した。
「あれ、一夏くんは?」
「え?」
そこに織斑一夏の姿は無かったが。
○
その時、一夏は未だにシャッターで閉鎖された観客席の中にいた。
そして連絡用の端末を取り出すと、篠ノ之束に通信を入れる。
すると、まるで見計らっていたかのようにワンコールで繋がった。
「もしもし束さん、唐突だけど今の見えた?」
『うん、見えてるよいっくん』
やはり何かで状況を観察していたのでは無いかと疑いたくなるぐらいに迅速な返答。
だが、今はそれが心強かった。
「念の為に聞くけどさ、アレって、束さんが寄越した?」
『違うよ!?あんな美的センスのカケラも無いガラクタ、束さんが作る訳無いじゃないっ!』
声だけだが、恐らく『不本意です!』と言わんばかりに頬を膨らませながら不満顔で腕を上げ下げさせて大袈裟に怒って見せているのだろう。
まあ、束さんがIS学園にちょっかいなんて出さないだろうしね。
「束さん、ISの無人機って造れるの?」
それはつまり、一夏が見たあの黒い人型兵器が無人機であるかの確認でもあった。
『造れない事は無いけど、その場合は機械で造った人工的な擬似コアが必要になるかな』
どうやら、一夏の見立て通り、アレは無人機のようだ。
「無人ISを造れるのなら、どこかの企業や軍が量産してそうなものだけど?」
『もし仮に造るとしたら、本物よりも大型で機能も不完全になるしね。
それにコアを造れたとしても、機体を動かす為のアンドロイドとそのAIも別途必要になるから、開発費だけでも天文学的な数字になるだろうね………』
「と言うことは、アレを造ったのは不可能を可能にしてしまうような技術力と経済力を持つ組織…………」
『って、なると思い当たるのは一つだけだね』
次に口から飛び出した言葉は端末越しでありながら、見事にハモった。
「『亡国機業』」
○
ひとまず、一夏はこの閉鎖された観客席からアリーナ会場まで侵入する事にした。
そのためには、この障壁とその向こうにあるバリアを破壊しなければならない。
「行けるかな?」
【装着・完了・お任せください・マスター】
「頼もしいや」
ISを展開すると、一夏は右手を前に突き出し、武器の展開を開始する。
【データログを参照・・参照・・・構築開始・・・・・再構築・・・・・・完了・障壁破壊用近接戦兵装・展開】
それは、見た目は只の近接ブレードのように見えた。
だが、ISのハイパーセンサー越しで見ることができる者がこの場にいたのならば、その刃がとても細かく振動しているのに気が付いただろう。
そう、打鉄弐式の夢現のように…………
「せぇあっ!」
一刀両断。
たった一太刀で、一夏の目の前にあった防護シャッターと強化ガラスは木っ端微塵に崩壊してしまう。
しかし、それらの障害を取り除いても肝心要のバリアが残っていた。
【障壁破壊用近接戦兵装・変形・完了】
そして次の一手を打つ。
先ほどシャッターを切断した超振動近接ブレードは、亀裂が入るように蠢き、形状が変化していく。
そして、刀身には青白い光を帯び…………
今度は黒檀の雪片・改二を思わせる姿を見せていた。
そして、一太刀。
バリアを削ることにのみ特化した刀身は、あっさりとバリアを消滅させた。
「さて、行きますか」
役目を終えた近接ブレードを量子分解させると、無理矢理空けた坑から侵入していった。
Q.ロミー=ベンサムって誰よ?またオリキャラか!
A.ISのアニメ第1期の3話にてクラス別対抗戦のトーナメント表が出てくるのですが、そこにこっそり更識簪の名前が出てていて、その簪と第二試合で戦う筈だった人です。
Q.ゴーレム造ったのは束さんだろ常考!
A.私なりに束さんがゴーレムを送り込んで来た犯人だったとして、その理由を考察した上でこの小説では亡国機業の方が相応しいなという解釈の元でこんな事になりました。
Q.また一夏さん無双じゃねぇか!あぁん?
A.そういう小説です。