1件1件ご返信ができてないのは心苦しいです。
後、お気に入りも600件以上と
感謝です。
綺麗に磨き抜かれた木の床に、1人の男が正座している。
男の整った呼吸音のみが響く静寂な空間。
午前3時
男の一日が始まる。
一礼しスッと立ち上がる男の手には一振りの真剣が握られている。
男はその真剣を上段より振り下ろす、その勢いのまま横に一振り
型を一つずつ確認するかの様な男の動きは見る者が見れば、感嘆で声も出せず見詰め続けるだけであろう美があった。
彼が初めて竹刀を握ったのは、3歳の時。
それ以後、彼は剣の道を邁進していた。
彼の道場は表向き普通の剣術道場であるが、本当の所は実戦を主体に置いた剣術。
所謂、人を殺す為の剣である。
流派としての認可状など存在せずに、一子相伝で伝わっている。
そう彼は流派を継ぐために、父親を殺しているのだった。
父親も自身の父を殺めている、その様に深き業の流れの中を、彼は歩んでいる。
もう1人の自分が冷めた視線で自分を見ている。
殺人を楽しみたい訳でなく、また殺人という罪悪感に苛まれる訳でもなく、
ただ単に彼は己の限界の先を見たいという欲求だけに囚われていた。
鈴木さん宅
悟は、中華料理店にある回転テーブルに改造されたちゃぶ台に正座させられていた。
ちゃぶ台の周りには、ぶくぶく茶釜・餡ころもっちもち・やまいこ・あけみが座っている。
茶釜の両隣にはアウラ・マーレが座り、やまいこの背後にユリ・アルファが控え、餡ころもっちもちの膝の上にイワトビペンギンが座っている。
クルクルと回転させられている悟は、女性ギルメンと正面で向かい合う。
その都度、女性陣から投げかけられる言葉は、
「すぐに教えて欲しかったのに…」
茶釜には泣かれる始末であった。
「私の事なんてどうでもよかったのね、そうなのね、モモちゃん!」
「いやいや…茶釜さん、ウソ泣きは…」
茶釜の演技に引き気味の悟は、どうにかしてこの状況からの脱出を考える。
アインズ・ウール・ゴウンのギルメンで、この女性ギルメンの包囲網を突破した者は誰1人として居ない。
ワールドチャンピオンであった、たっち・みーですら逃げられなかったのだ。
「そのへんで、お許し頂けないでしょうか?愛しきモモンガ様を…」
ユリの横で控えていたアルベドが意見する。
至高の御方々に意見するという暴挙にでたアルベドに横のユリは動揺していた。
アルベドの言葉に驚く女性陣、驚きの中やまいこが一言
「愛しき…?」
女性陣の視線は一斉にアルベドに向けられる。
アルベド包囲網を構築した女性陣は、一斉にアルベドに質問を投げかけ
「な、何なの、そのモモちゃんの嫁発言は~!」
「お嫁さん…お嫁さん…」
茶釜の驚愕した声とやまいこの深く沈んだ声がその場を支配する。
「私の愛しきお方です、モモンガ様は…くふ~」
餡ころもっちもちとあけみは固まっている。
その時、イワトビペンギンがトコトコと悟に近付き玄関へとエスコートする。
イワトビペンギンこと、エクレア・エクレール・エイクレアーはナザリックではセバスに次ぐ地位である、副執事長でありナザリックの支配を望む者。
但しレベルは1しかない。
[ここで、モモンガ様を追い出せば私のナザリック支配という餡ころもっちもち様の願いも叶う…ふははは!]
気配を消してその場から逃走を図る悟、そして悟に付き従うセバス。
それに気付いた、あけみが叫ぶ。
「モモンガさん!どこ行くの?」
「出かけますんで、ゆっくりしていってくださいね~。」
ダッシュで逃げる悟。
ちゃぶ台の上で仁王立ちするエクレアの姿があったが、女性陣は気付かずアルベドの恋話に盛り上がるのであった。
公園のベンチに座り一息つく悟は携帯端末を操作し先程届いていたメールを確認する。
セバスと並んでベンチに座っているが、その状態にもっていくまでに数十分要したのは言うまでもない。
「セバスさん、コキュートスに人化の魔法って効きますか?」
「敬称などもったいないお言葉。はい、コキュートス様にも人化の魔法は有効かと。」
「そうですか、了解も取れたので今度の日曜日朝4時に俺の部屋まで来るように言っておいて下さい。」
「畏まりました。」
「あ~あ、あの状態じゃ、今晩は帰れないかな?ペロさんの家にでも行って匿って貰うかな。」
日曜日朝…
悟は寒さを感じ目覚ましが鳴るよりも早く目覚めた。
部屋を見渡せば1人の黒髪をした凛々しい顔立ちの青年が座っている。
その青年が纏う雰囲気に圧倒されながらも、悟は青年に声を掛ける。
「こ、コキュートスさん?」
「御方ノ眠リヲ妨ゲマシタ事、申シイ訳御座イマセン。」
「いえいえ、大丈夫ですよ。直ぐに準備しますんで待って下さい。」
「勿体無キ御言葉、コノコキュートス待テト言ワレレバ何百年デモ御待チ致シマス。」
「いや~、直ぐですから…少し早いですが行きましょうか。」
「やっぱり少し早かったかな。」
とある道場の建物に着いた悟は時計を見る。
コキュートスは、その道場の中から流れてくる空気を感じ身を固くする。
「コキュートスさん、あの窓から少し中を見てみます?」
悟に促されてコキュートスは中を覗く。
そこには冷徹な空気を纏い剣を振る男の姿があった。
「ウ、美シイ…」
剣士が上座に向い一礼したのち、振り向きもせず声を掛ける。
「お早いお着きですね、モモンガ君」
「声も掛けずに覗いてしまい、申し訳ありません。」
「いや、結構ですよ。お隣の方が仰っていた方ですか?」
「はい、そうです。彼とお手合わせをお願いします。建御雷さん」
悟の言葉に驚くコキュートス。
「アノ御方ガ、武人建御雷様…」
正座し向かい合う2人。
「よくぞ、その姿を見つけ出したものだな。」
「え?どういう事なんです?」
道場の隅に座っていた悟は疑問を声にだす。
「モモンガ君、私の前に居る青年は蟲王としてのコキュートスを創造する前のコキュートスなのです。私は、ユグドラシルで自分よりも強者を作ろうとしました。今の私が持つ全ての経験を若かった頃の自分に投影しようとした。だが自分自身の力を百とすればこの青年のアバターも百だったのですよ。私はギルドのメンバーにも相談しました、まあ本音は隠してですが、その後ナザリックの図書館で見た物と源次郎君が答えをくれてね。創造し直したのが蟲王コキュートスなのです。」
「そうだんですか、知りませんでした。」
悟はゲーム時代、建御雷がたっち・みーに手ほどきをよくしていたのは見ていて知っていたが、コキュートスの創造に関しての経緯は全く知らなかった。
「では、コキュートス始めようか?」
「畏マリマシタ。」
「なんだか若い時の自分自身に話し掛けるというのは変な感じだね。モモンガ君。」
笑顔で頷く悟。
2人は一礼をしてそれぞれ構えをとる。
最初の一撃はコキュートスだった。
上段より振り下された木刀に対し建御雷は体を半身ずらし避ける、コキュートスは
振り下した勢いのままで方向を変え横一線に薙ぎ払う。
薙ぎ払われた木刀を、建御雷は自身の木刀で軽く上方に受け流しながら振り下ろす。
今回は竹刀ではなく木刀を使用しているが、2人の実力であれば軽い怪我程度で済む話ではない。
コキュートスは受け流された自身の木刀を素早く引き戻し防御する。
道場内に金属同士がぶつかったときの様な甲高い音が響き渡る。
その音の大きさに悟は反射的に目を瞑り手で耳を押える。
すぐさま木と木がぶつかる音が静かに響いた。
悟が目を開け2人を見ると、コキュートスの木刀が手元から2つに切断されていた。
「少し休憩をしようか。」
車座になり3人は向き合う。
「モモンガ君、先程の話の続きをしようか。なぜ私がコキュートスを作り直した時に虫に拘ったのかを…」
「はい!」
「あれはナザリックの図書館で見た昆虫図鑑だったかな、その図鑑には虫を人間の大きさに変えた時の人間との能力の対比が書かれていたのだよ。そこには、蟻の顎の強さは数トンの重さの物を数キロに渡って運べるとか、飛蝗の跳躍力は数十メートルとかね。その話を源次郎君にしたら、目を輝かせて蟲王としてのコキュートスのデザイン画を見せてくれた。私は、私を超える自分を創造できると歓喜し、私の持つ技能全てを詰め込んだよ。
ヘロヘロ君達には申し訳ない事をしたが。」
「そうだったんですか…」
建御雷は視線をコキュートスに向け話し掛ける。
「コキュートス、先程の君は私を少し見下していたようだな。」
「ソ、ソノ様ナ事ハ…」
「私には分かるのだよ、剣筋が甘くなり、心も散漫だった。」
「建御雷さん、たしか貴方はコキュートスを創造した後1度もコキュートスと対戦せずにたっちさんの稽古ばかりしていたのは、なぜなんですか?」
「それは、いくらヘロヘロ君達が素晴らしいAIを組んでくれても、動きがゲームだったからだよ。諦めてしまったのだろうね夢を、それで私はユグドラシルから身を引いてしまった。先日君から連絡を貰い、今日現実に剣を交えてみて、私の夢はまだ続いていたのだね。」
建御雷は、悟、コキュートス2人を見詰め頭を下げる。
「ありがとう、モモンガ君。」
「建御雷さん!?」
「さて、もう1戦しましょうか、コキュートス!蟲王としての君の力見せて貰うぞ。」
「有リ難キ御言葉。」
蟲王としての本来の姿に戻ったコキュートスは、大きく一つ息を吐く。
向かい合う2人。
悟は、この道場の空間の温度が下がった気がした。
コキュートスの吐く冷気のせいだと思った。
しかし、実際は2人が放つ殺気によって悟の本能が恐怖を感じていた為だった。
身長が2mを超えるコキュートスは左右の手に木刀を持ち、
建御雷は先程と変わらず1本の木刀を構える。
素人である悟の目から見ても身長差が70cm以上ある建御雷の方が不利に思われた。
先に動いたのは先程の戦いと同じくコキュートスだった。
コキュートスは右の木刀を上段より振り下ろし、避けられるのを見こしてタイミングをずらし左手の木刀を横薙ぎに振るう。
建御雷は上段からの木刀を受け流す、しかしタイミングをずらした横薙ぎは避けられそうにない。
「摩利支天」
建御雷の姿が陽炎の様に揺れた様に見え、コキュートスの木刀が空を切る。
「今ノ動キハ何ダ!」
驚くコキュートス。
「君には教えてなかったね。御雷流の秘伝だよ」
建御雷は笑顔で答える。
咄嗟にコキュートスは次の攻撃を繰り出す。
「倶利伽羅剣」
コキュートスの持つ木刀から2匹の炎を纏った龍が駆けた様に見えた。
右手の木刀は振り下ろしの一撃、左手の木刀は神速の突き。
建御雷は体を躱し避け、突きに来た木刀を弾く。
「ははは、楽しいねユグドラシルでは味わえなかったものが、こうして現実で味わえるとは。でもそれが本当の力か、コキュートス。」
コキュートスは左手の木刀を捨て残った木刀を両手で握り上段の構えを取る。
コキュートスは自身の最大の攻撃力を誇るスキルを発動する。
建御雷も合せて構えを取る。
「「不動明王撃」」
2人は同じ攻撃を繰り出す。
道場内に2回轟音が轟く。
コキュートスが片膝を付き、右手で左肩を押えている。
左肩の外皮革がひび割れていた。
「コキュートス、君は勘違いをしている様だな。いや違うなAIを担当したヘロヘロ君が間違ったか、ただ単に必殺技として改変したのか、本当の不動明王撃とは一振りに全てを賭けるものではない、同じ速度、威力をもってしての連続技だよ。まあこれは命を落とさない為の弱者の剣なのかもしれないな。私の剣、御雷流は…」
「ソノ様ナ事ハ御座イマセン、武人建御雷様。貴方様ハ至高ノ武人デアリマス。」
「コキュートス、剣という物は自分の心そのものだ。格下だと見える者であっても相手を舐めていると一太刀で命を奪われる、剣を振る時は心には隙を作るな、気持ちには余裕を持て。そうすれば君の剣は先に進める、私の剣も先に進める。」
「勿体無キ御言葉」
「モモンガ君、今日は有難う。私にもまだ熱がある事が分かった。」
「こちらこそ有難う御座います。もし良ければまたコキュートスを連れて来ても?」
「あ~構わないとも、でも人間の姿で頼むよ。ははは」
「では今日は失礼いたします。建御雷さんも遊びに来てください。」
鈴木さん宅
「モモンガ様、本日ハ誠ニ有難ウ御座イマシタ。コノコキュートス更ニ腕ヲ磨キ御方々ノ御役ニ立ツ様精進致シマス。」
悟の目には、コキュートスの青白い外皮革の輝きが増している様に見えた。
建御雷さんをギルドで2番目の年長者と設定しました。
ウルベルトさん、るしふぁーさんネタを考えてるんですが
難しいです。