玉座の間は4畳半   作:820

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どこに行くのか…

恐怖公からの闇の波動だ、きっとそうだ。

そういうことにしておこう。


世界の中心で…

悟は、慌てて起き上がり携帯端末でペロロンチーノに連絡を取った。

 

「ちっ!何で出ないんだ!もしかして大怪我とかしているのでは?」

 

それから3日間、ペロロンチーノと連絡が取れず悟はAOG財団の執務室でイライラしていた。

悟付きの一般メイド始め報告書を持参してきた階層守護者達の顔は青くなっていた。

 

4日目、悟の携帯端末に記憶に無い番号からの着信があり訝しげに出ると

 

『モモンガお兄ちゃん?』

「ちゃ、茶釜さん!」

それは聞き間違いなどしないロリボイスを演技する茶釜の声だった。

 

茶釜のおどけた声は直ぐに地声になった。

 

「はい、…はい、わかりました。宜しく御願いします。わざわざ有難う御座います。」

 

ひと通り話を聞き終えた悟は違和感を持った。

「茶釜さん、声が…」

「あ!気付いちゃった?ごめんね。少し前に移動中マスクを奪われて…少し肺に入ったみたい…」

と茶釜はかすれた声で、某谷の姫様の様に話した。

 

一つ大きなため息を吐いて悟は携帯端末を机の上に置いた。

 

茶釜からの話しでは、怪我人はなくペロロンチーノもピンピンしているそうだ。

だが不審火とあって警察、消防の取り調べを受けているのが長引いているそうだ。

 

現在の建物ではオフィスビルをはじめ一般住宅でも無人になる際、セキュリティーシステムが働き、電気、ガス、水道などの各ライフラインは管理システム施設で個別に遮断されるので事故は起きない。

実際放火事件などは存在するのだが、今回はビル自体のセキュリティーにも不審者が侵入したという事実がないため、最後まで建物内にいたペロロンチーノが時限発火装置などを使用して保険金詐欺の疑いが持たれているそうだ。

 

 

それよりも、コレクションしていたエロゲー、特に《ダ・カプ》の主役であり一番のお気に入り声優がCVしていた、柏木音夢の等身大フィギアが焼失した事がペロロンチーノにとっては最大のショックだった様で真っ白な灰状態になっているそうだ。

 

ペロロンチーノが無事な事に、悟は安堵の表情を浮かべる。

 

 

だが、悟の安堵も長くは続かなかった。

 

ホロテレビに緊急速報が連続で流れる。

 

○○新聞社の東京本社をはじめ各支社での爆発事故発生。

○○化学薬品会社の工場に数人の武装集団の攻撃発生。

○○地区国家公務員宿舎エリアでの無差別斬り付け事件発生。

風見学園での刃物を持った男の立て籠もり事件発生。

と立て続けに速報を流していき、暫くして報道特番に画面が切り替り連続テロ事件として

放送をしている。

 

 

「どこのどいつだ!!」

悟が怒気を纏って叫ぶ。

 

「モモンガ様!如何なされましたか?」

慌てながらも執事としての矜持を忘れていないセバスが入室してくる。

 

「セバスか、何でもない。」

セバスの入室で少し落ち着きを取り戻した悟はセバスに指示を出す。

 

「セバス、至急各階層守護者及びプレアデスを呼んでくれ。」

「畏まりました。」

恭しく頭を下げ退出していくセバス。

 

数分後

悟の執務室に階層守護者、プレアデスが揃う。

 

「忙しい中、皆を急に呼び出してすまない。」

 

「すまないなどと、モモンガ様の御命令とあれば、私達は何事もおいて馳せ参じます。」

アルベドが代表して答える。

全ての僕が頷いていた。

 

「今、ナザリックに…いやアインズ・ウール・ゴウンに異変が起きている。」

 

悟の言葉に僕全員に緊張が走る。

「このニュースを見てくれ。」

悟はホロテレビを投射モードで壁面に拡大して投射する。

 

「まずは、数日前。ペロロンチーノさんの会社が放火された。そして茶釜さんも襲われ、喉を傷めた様だ。」

悟の言葉で、シャルティア、アウラ、マーレの3人は怒気を顕わにする。

悟は手を上げシャルティア達に落ち着くよう指示を出す。

 

「そして今現在の状況だが、この新聞社はウルベルトさんの会社だ。」

デミウルゴスも怒気をはらむが、先程のシャルティアの件があるので息を軽く吐き落ち着きを戻す。

 

「この公務員宿舎地区は…たっちさんの自宅がある場所だ。」

セバスの握り拳から血が滲んでいた。

 

「そして、この学園はやまいこさんの…」

ユリは全身から力が抜けていくのを意思の力で抑え込んだ。

 

「最後に、この化学薬品工場はタブラさんの会社だ。」

アルベドは普段と変わりない立ち姿だった。

その態度の変わりなさをデミウルゴスは視界の中に捉えたが、言葉は発しなかった。

 

「この連続テロ、単なる偶然かもしれないが、万が一アインズ・ウール・ゴウンに対する攻撃なら次はここが狙われるかもしれん、各自警戒を密にして業務にあたってくれ。」

各僕は再度臣下の礼を取り退出しようとしたが、

「一言言っておく、各自勝手な行動は慎め。お前たちにまで何かあれば、俺は…」

伏せていた顔を上げた悟は言葉を続ける事が出来なかった。

全員が退出した後、悟は指輪を取り出しナザリックへ転移した。

 

玉座の間でスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使用し各僕達の行動を監視していたが、僕達は悟の命令通り通常の業務を行っている様で少し余裕の出た悟は過去ログを見直していた。

 

【偶々の偶然なのか?それとも俺達が狙われて…】

 

ゲーム内といえアインズ・ウール・ゴウンのメンバーは悪目立ちしていた為、リアル晒しについては細心の注意を払っていた。

よく2ch連合などは意見の違いでスレッドにリアル晒し合戦など頻発していたからだ。

 

そんな事を考えながら過去ログを見ていた、悟は違和感ともいえない感覚が…。

 

「やはり第8階層に…。」

悟は第8階層へ歩いて移動する。

 

第8階層

「目覚めよ。」

悟はルベドの前に立ち声を掛ける。

 

「やっとおいで下さいましたね。モモンガ様。」

「ルベド、無理しなくていいぞ。」

「ふふふ、その様子だと聞きましたね。」

「あ~、まだよく分かってないがな。」

ルベドが空中に浮かぶ。

「お前は誰で?何が目的なんだ?」

悟はローブの中で自身の緊張をほぐす様にアイテムを握り直す。

 

「私は…誰?私は…何?私は…私は…そう私は貴方、そして貴方は私。」

 

「何を言っている?………」

ルベドの話している事がよく分からず。悟はルベドを凝視し顎に手をあて考える。

 

ルベドの姿が霞みはじめ別の姿になっていく。

「分かりませんか?」

 

「あ、あなたは!」

その姿形を見た、悟は驚愕する。

「ブ、ブループラネットさ…ん。」

「お久し振りですね。モモンガさん」

その姿と声は嘗てのギルメンだった、ブループラネットそのものだった。

「何故…?あなたが…」

「私はこの星の意識の集合体の一部なのです。この星の生命(いのち)、永い時を

旅する物。人類がダイブシステムを実用化した時、私は囚われた存在、

そして滅びいく存在。でもユグドラシルはこの惑星(ほし)の滅びと共に消えゆく私を受け入れてくれた。そして私の、いやこの惑星(ほし)の過去の夢を呼び覚ましてくれた。

この世界を愉しんでいた、しかし絶望もした。私の絶望からあなた達は救ってくれた。

その借りを返すのにあなたの願いを叶える為、私は少し力を貸しただけです。」

 

「力を貸す?俺の願い?俺が何を願ったって言うんだ。」

 

「ユグドラシル最終日、あなたは円卓の間で何を思いました?」

「最終日?」

「そう、あなたは怒り!哀しみ!憎んだ!この世界を、そしてギルドメンバーを。」

「ち、違う!俺は…」

「確かに、あなたは数年間そう思いながらも意識を押し殺した。その数年間の思いを受け止めたのは彼女ですよ。」

悟はブループラネットの視線を追って振り向くと、そこには涙を流し佇むアルベドが居た。

「不思議ですか?」

「NPCだった、アルベドに何が分かる?」

「今は、どうなのです?」

「今は…今は生きている。」

「気付いて無かっただけですよ。あなたは…いや全てのプレイヤーは。彼等、彼女達はあの世界に生まれ落ちた時から生命(いのち)が、意識があった。」

「生きていた!?」

「そうです。そして私は彼女の願いの成就の為、そしてあなたの願いを叶える為に、彼女の身体を利用して今回の事件を起こした。」

そう言い終わるとブループラネットは両手を前に差し出す。

その時、悟の胸にあるモモンガ玉が光り輝き粉々に砕け散った。

「な、何が?…起こった。」

「モモンガさん、あなたの体内にあった、それはメモリー・オブ・ユグドラシル。

この欠片1つ1つがあなたの想いです。」

悟は1つの欠片に手を伸ばし掴んだ。そこにはゲーム初期に散々PKにあいユグドラシルを辞めようかと思った時、たっち・みーに助けられた時の映像が流れていた。

「これは!」

悟は欠片に注目する。そこには様々な画像が流れていた。

ギルメン会議で意見が割れ必死に仲裁する悟の姿。

取り留めのない馬鹿話しを徹夜でしていた時。

仲間と共にワールドエネミーと戦闘した時。

 

そしてまた、悟は1つの欠片を掴む。

その欠片には第6階層の森林や闘技場の星空の下でブループラネットに自然の素晴らしさについて話を聞いていた時の物だった。

 

「あの時の、モモンガさんの笑顔は素敵でしたよ。」

険しさから柔和な顔になる悟。

「あ~、楽しかったんだ。あの時は…」

 

現在(いま)は、どうですか?」

ブループラネットの問いに悟は言葉に詰まる。

そして自信に満ちた笑顔で

「今も、楽しいですよ。皆とも会え、話し、仲間が創造した子供たちも居ますから。」

 

ブループラネットは頭を下げ、そして頭を上げ。

「すいませんでした。そして有難う御座いました。モモンガさんにこれを…」

悟の手の上に、蒼く輝く珠があった。

「これは?」

「それは、メモリー・オブ・ガイヤ。この惑星(ほし)の想い。そして私の想いです。思い起こして下さい。今、この世界であなたが本当にしたい事を。」

「この世界で、俺がしたい事…」

悟は蒼い珠を見詰め考える。

 

「そろそろ時間です。」

「時間?」

悟はブループラネットの顔を見る。

「そうです。私が戻るべき所へ帰る時が来たようです。」

そう言いながらブループラネットの姿が薄くなっていく。

「ブループラネットさんも一緒に…」

「私は、御一緒できませんが、あなたの想いをいつも見ていますから…それと彼女を叱らないであげてくださいね。」

ブループラネットの姿が消えると同時に空間が戻り、アルベドが駆け込んで来た。

 

「申し訳ございません、私が…。私の命をもってして償わさせて頂きます。」

短剣を自身の喉元に突き立てるアルベド。

悟は、慌ててその短剣を握り取り上げる。

「謝罪するのは、私の方だ。アルベドよ。」

「モモンガ様が謝罪など…」

悟は左腕で包む様にアルベドを抱きしめた。

「ははは、上位物理無効化のスキルが効かなかったな。」

先程、アルベドの短剣を握り締めた右手から血が出ていたのでアルベドの純白のドレスを汚さない様にしていたのだ。

「アルベドは、何も悪くない。全ては俺の甘えた心が原因だ。」

「モモンガ様は、絶対的な支配者、そして私が最も愛する方です。悪いなど言わないで下さい。」

 

「俺はなアルベド。…お前を初めてタブラさんから見せてもらった時から…」

アルベドが顔を上げ涙で一杯になっている瞳で悟を見詰める。

「愛している。アルベド。」

「はい。私もです。モモンガ様。」

瞳を閉じるアルベドに顔を近づける悟。

 

 

一瞬躊躇い、悟はアルベドの額に口づける。

少し不満顔のアルベド。

 

「アルベド、お前が愛しているのはモモンガで間違いないか?」

「はい。この気持ちに嘘偽りはございません。」

「俺は、鈴木悟としてお前を愛している。」

「それがなにか?」

「鈴木悟としてお前の一番になるよう、ライバルのモモンガは強大だが歩みを進めるさ。」

アルベドは悟が何を言っているのか理解できずにいた。

 

「鈴木悟がお前の一番になった時、俺の妻になってもらえるか?アルベド。」

「今では、ダメなのですか?」

再び瞳に涙をためるアルベド。

 

 

「俺は非常に我儘なのだよ。」

 

 




タブ「俺の左腕が疼く…闇の力が…俺を呼んでいる。」

パン「Dunkle Welt ist mein Gott abstammen.(暗黒世界が我が神に降臨された。)

ウル「逃げたな。根性なしめ。」

モモ「に、に、逃げてないです。」

ペロ「押し倒して、エンディングロールだったのに。」

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