書かずに脳内に溜まったネタの墓場というかごった煮というか 作:むみあ
「問うまでもないけれど、君が僕を呼び出したマスターかな?」
目の前に現れたそれに目を奪われた。
ゆったりとした服、なんか服と言うには貫頭衣みたいな布きれみたいなアレだが、そんなもんを着込んだ中世的な容姿の美人、男か女かもイマイチはっきり言えないがとにかく美しい人の形をしたナニカ。
そんなのが柔らかく微笑んで俺を見てくるので思わず目をそらしてしまいそうになる。
「あ、ああ、そうだ。 俺がアンタを呼び出した赤佐修司(あかさ しゅうじ)だ」
なんか顔に熱が集まって目が泳ぐが、なんとか口を開いてどもりながらも自分の名前を告げる。
そんな俺の様子に目の前のサーヴァントはくすりと笑って、
「うん、よろしくアカサ。 僕の名前は―――」
己が名を口にした。
互いに名乗った後も俺とサーヴァントは話を続けた。
今すぐに寝てしまいたいぐらいに体が重かったが、目的の為にもこのサーヴァントが俺の気質に近しいから召喚されたのか否か、本当に俺に協力してくれる相手かを知らねばらない。
下手に誤魔化さずにその旨を、聖杯を得るためでなくその為に気質の近しい英霊を召喚しようと考えた事を伝え、俺の目的の為に協力してくれるのかどうかを尋ねた。
何を目的としているのかは口にしなかった。
俺の気質に近しい奴が来るのなら、きっと大まかに俺の願いを漠然とでも感じ取ってある程度肯定的な返答が来るだろうと、召喚前から考えていた問いかけだった。
もっとも、その名を聞いた時点で俺としては想定している中でも一番の当たりを引いた、事前にもし万が一この英霊が来てくれたのなら、と考えていた相手だったんで心配はしていなかったが。
「座に居る僕にまで響く程の君の祈り、友と明日をという願い、それを聞いたからこそ僕はここに居る。
他の誰でもないこの僕が、断言してもいい『既存の英霊で僕以外も僕以上もありえない』
君のあの声を聞いた者が他に居たとしても、君自身以外であの中に込められた想いを汲み取ることができるのなんて他にはいない」
まさかそこまで絶対の自信を持って言い切られるとは思ってなかったが。
力強くそう言われ、視線にまでそうも力を入れられると動揺してしまう。
別に威圧だの殺気だのじゃない、柔らかく包み込むようなそんな力をひしひしと感じる眼差しの力強さに目が離せない。
くそ、顔が絶対に赤くなってるぞ俺、でも目が逸らせない。
なんでこんなに初っ端から好感度が高いんだよ、勘違いしようもないほどにストレートな好意に動転している俺に構わずソイツは謳うように続ける。
「ここに居る『彼』にだって僕ほどは理解できないだろう。 僕にはわかる、僕にしかわからない。
友を置いて去ることなんて、消えてしまうなんて、一人にしてしまうなんて耐えられない」
そこまで口にしてその容貌が悲しげに歪む。
「でも、僕はその想いを遂げられなかった。
未練を残して、『彼』を独り残して土くれに戻ってしまった」
英霊ってのは果たせなかった未練に固執するものなのかな、と言って力なく笑うその顔に咄嗟に何か言わなくてはと、その顔を曇らせたくないと何故か強くそう思った俺だったが。
「でも―――」
俺なんぞが小賢しく何か言う前にすぐにその顔は晴れやかな物へと戻った。
それどころか先ほどよりも更にいい笑顔、まだ上があるのかと言わんばかりにその笑顔は輝いて見えた。
「参ったな、僕の未練が先に果たされちゃってる。 本当にどうしたことだろう。
願いをかなえてあげようなんて偉そうに出て来ておいて、その時点で僕の願いが叶ってるなんて―――」
そして今度ははにかむような照れ顔になって、
「―――もう、恥ずかしいなあ」
とか言うものだから、もう俺はこの男か女かもわからない奴相手に変な世界に目覚めてしまいそうだ。
落ち着け、落ち着くんだ俺、平常心、落ち着け平常心―――!
ぐわんぐわんと回る思考に茹る頭に、しかし相手の声だけは染み渡るように流れ込んでくる。
一方的に先払いされてて申し訳ないやら恥ずかしいやら、これじゃ自分の沽券に関わるだの、なにか保護者からやんわりと叱られているかのような声音で、こうなんというか『めっ』ってされてるような。
助けてくれ、もう俺は限界だ、がくがくと震えて崩れ落ちそうだぞクソ、どういうことだ。
「だ、か、ら、絶対に叶えるよ。 君の願いは僕が必ず叶えてみせる。
アカサ、僕のマスター、座にまで届いた君の願いを、嘘偽りない赤心をどうかその口から聞かせて欲しい」
終わった、はい俺終わったー、なんかいつの間にか手とか握られて至近距離でこんなこと言われて何かが音を立てて崩れるのを心の中で聞いた。
俺は気が付いたら今まで誰にも話したことのない『前世』も含めて洗いざらい喋っていた。
今まではシンジにも、シロウにも、ゾォルケンの爺にも曖昧にぼかして、話す情報も取り捨て選択して慎重にやっていたのに、話さなくていい事もひっくるめて今ここに至る、この願いに至る根っこの部分から須らく喋ってしまった。
言葉に出すことで今まで意識すらしていなかった事まで引き摺られるように溢れて来て言葉が止まらなくなった。
恥ずかしい、死にたい。
そうして語り終えるとともに体から糸が切れたかのように力が抜ける。
「おっと、ごめんねアカサ、召喚直後で凄く疲れてるのに無理をさせてしまった。
十分すぎるほどに聞かせてもらったよ。 まさかここまで詳らかにその心の内を明かしてくれるなんて。
参ったな、本当にこれは負けるわけにはいかないなあ」
微睡む意識にふわりとした感触とそんな言葉が聞こえてくる。
「おやすみアカサ、僕のマスター。 本当に君に呼ばれてよかった。
改めて誓いを此処に―――
―――任せて、『君の呼んだ僕』は最強だ。 だから『君』にだって譲りはしないよ」
「―――ハッ、久方ぶりの語らいだというのに出だしがそれか、随分と薄情ではないか『朋友』よ」
何か最後に聞き覚えがあるが聞きなれない、そんな声を聞いたような気がしつつ俺の意識は途絶えた。
ああ、ここまで来て気が付いてしまった。
これは夢だと。
だってそうだろう、寝るという間断なしに次の朝がすぐに始まったんだから。
まるでページを捲る様にすぐに次の場面、次の朝が来てしまったんだから。
果たしてそれを自覚したからなのか、それともその『オレ』にとっての運命の夜が記憶に焼き付いてそこだけ異常に鮮明だったからなのか、そこからは場面が繋がりなく飛び飛びに、多分前後すらしている状態の早回しだった。
「目が覚めたか小僧、全くこの我を待たせて高鼾とはいい身分だな」
「おはようアカサ、なんかいきなり顔が真っ青だよ?」
「ふん、全くいい身分だな、本当にいい身分だ。
こうして我と朋友が共にある場所で朝を迎えることが出来るなど―――どうした、笑ってもよいのだぞ」
「ああ、朋友(とも)と共(とも)に、ね。 つまらないからちょっと黙ってようか」
いきなり目覚めに金ピカってのは朝日よりも眩しいな、なんて、というか何故いるんだ。
「ほう、太陽よりも眩いとな。 陳腐であるが寝覚めに偽りなき赤心を溢したと思えば中々に―――」
「驚かせてごめんね、帰れって言ったんだけど帰らなくって」
なんでも、昨夜の召喚成功直後には既にバレて俺達のやり取りを余すことなく見られていたらしい。
うわあ、死にたい。
そして俺が意識を失った後に夜を徹した語らい(物理)でなんとこの金ぴかに勝利したとか。
愕然とする俺に、
「ふふ、だから言ったよね。 『君の呼んだ僕』は最強だって」
なんて笑顔で言われて言葉を失った。
「ふん、力が拮抗している状態で、たとえ塵屑程度であっても載せる想いの重さが違ったのだ。
他に紛れがなかったのであれば、どちらに天秤が傾くかなど明白ではあったな。
どうした、笑ってよいと言ったであろうが、いくら我が眩いからと言っていい加減に目が慣れて―――」
「想(おも)いの重(おも)さ、ねえ。 マスターとの語らいに邪魔だから黙ろうか?」
「本当に連れないではないか朋友よ、これは由々しき事だ。
世にいう貢ぐ女とかいう連中のようにこの友情を繋ぎとめるために宝物庫の財を貢がねばなるまい!」
「落ち着こうか、貢ぐっていうのは蔵の刀剣類を相手に投擲する事じゃないからね?
仮にも至宝の財なんだろう?自分の財宝が惜しくないのかい?」
なんだこれ、ほんとになんだこれ?
――――――。
――――。
――。
「ん、シンジ、それがお前の妹が召喚した奴か?」
「ああ、召喚しておきながら私は戦いたくないんですだとよ。
こうして哀れな僕に恵んでくださったよ、ハッ!」
「捻くれてんなあ相変わらず。 しかし辛気くせえなあやっぱり、なあ『メドゥーサ』さんよ?」
「―――ッ!?」
「ああいやだいやだ、辛気臭くっていけねえ。 こんなんで奈落から人を救い上げようとか無理だろアホめ。
一体どこに置き去りにしてきた負い目だかなんだか引き摺ってるか知らねえが、そんなウジウジして尻込みしてっから、助けるべき対象からこんなワカメに三文以下で売り飛ばされるんだよヴァーカ」
「―――なっ! あ、貴方に何がわかるというのです!」
「アカサ、お前のほうがよっぽど捻くれてるよ」
「あはは、うちのマスターもその友達も素直じゃないなあ」
「「一緒にすんな」」
――――――。
――――。
――。
「ほれシンジ、今召喚されたぞ。 今頃シロウの奴土蔵で尻もちついてポケーっとしてんだぜ」
「ハッ、目の覚めるような美少女騎士?を召喚して一目惚れかい、いいご身分だな羨ましくて反吐が出るね」
「『問おう、貴方が私のマスターか?』キリッ、とか言われて『―――その日、運命に出会った』とか『きっと地獄に落ちてもこの姿を忘れることはない』とか脳内で恥ずかしげもなく言ってんのかしらねあの木石が、うはははは後で馬鹿にしよう」
「ほんとお前って衛宮を馬鹿にする事には色々と容赦がないな」
「―――シンジ、下がってください」
「アカサの予想通り、仕掛けてくるね」
「はあ、やっぱり―――って、うぉ!?いきなりかよ」
「サーヴァントが二騎・・・っ!」
「ハッ、思い込んだらまっしぐらってかぁ! ちったあ落ち着けよセイバーさんよお。
そんな風に直情径行、前しか見えてませんみたいなザマだから足元お留守で国も滅んだんじゃねえのぉ?」
「―――貴様」
「アカサ、煽るのは敵になる奴か雑魚だけにしてくんない? おい衛宮!サーヴァントの躾がなってないぞ!
ほんとにコイツの言う通りに色ボケしてんじゃあないだろうな!?」
「エミヤ・・・? まさか・・・」
「―――やめろ、セイバー! そいつらは味方だ!」
「―――なっ、どういう事ですかマスター!」
――――――。
――――。
――。
「ちっ、なあんで結局夜中の学校に残っちゃうのかねえあのクソボケ!」
「僕は何も言ってないぞ、掃除は他の奴に押し付けたのに何やってんだ衛宮の奴!」
「押し付けずに自分でやれよこのクソワカメが!」
「貴方達は・・・!」
「セイバー、落ち着こうよ」
「落ち着いていられるか! やはり貴様らは信用できない!
やはり学校に行かせるべきではなかった。 私が付いていれば―――」
「・・・あらら、カッ飛んでいったな」
「―――どちらかが先行して追いかけますか?」
「貴様らなど信用できるか、私は一人で行くぞー、ねえ。 アイツ馬鹿なの?」
「フラグ立ってんなあ、でもアレの場合は死亡フラグじゃなくて槍が物理的に突き立てられる予感」
「いや、あの、シンジ?アカサ?」
「呑気だなあ、これは信頼してるって言うのかな?厳しい友情・・・いや、普通か」
「世界最古の友情は随分と厳しいのですね・・・まるで神々の傍迷惑な試練並です」
「ははは、そりゃそうだよ、神様の顔面に肉塊ぶちまけたりして呪われたりする日々だからね」
「「お前らも大概呑気だよ」」
――――――。
――――。
――。
「お、三つ巴にやってるぜ三騎士で」
「―――不味いな、クソ、この勝負預ける」
「待て、ランサー!」
「逃げられると――」
「――思っているのですか?」
「―――チッ!」
「なっ、サーヴァントが更に二騎・・・間桐君に赤佐君ですって・・・?」
「「よう、遠坂」」
「げ、」
「被せんなよアカサ・・・」
「ふ、二人とも相変わらずだなホント」
「やかましいわこのへっぽこが、お前のせいでいらん苦労してんだぞこのエミヤシロウが!」
「全くこれだから衛宮は衛宮すぎて困っちゃうよね、ほんと」
「お前らね・・・」
「何なのよこの状況は、ってかあいつら人を無視してトリオ漫才とかいい度胸ね・・・」
「落ち着け凛」
「あれ?遠坂まだいたの?」
「うっかり逃げ損ねたんだよ流石ミスパーフェクト、ただしうっかりは除く」
「本当にいい度胸ね・・・!」
「いや、凛まずいぞ、あの二騎は一当てしただけでランサーを見逃した・・・これでは三対一だ」
「しまっ・・・!」
「ま さ に ウッカリン」
「なんだその人工甘味料みたいなのは」
「ああ、サッカリン」
「そこ拾うのなシロウ、だがイエース! 貪りつくせ!夜明けまで!」
「なんですかそれは・・・」
「西博士の真似、知らないんですかァ―――?」
「―――知るか!!」
「あ ん た ら ね ぇ 」
「―――あら、楽しそう。 私も混ぜてくれないかしら、お兄ちゃん」
――――――。
――――。
――。
「いやあ、実は『彼』との語らいで九割失った土がまだあんまり回復してないんだよね」
「そう言う大事なことはもっと早く言おうぜ!?」
「おま、ふざけんなよお前ら!?」
「シンジ、私ではアレとは打ち合えません。 いざとなれば貴方を抱えて離脱します」
「ふふ、やっちゃえ、バーサーカー」
「―――グッ、シロウ離れて!」
「セイバー、無理するな!」
「ああもう!アーチャー援護!」
「やれやれ、この隙に離脱すればいいものを。 凛、君はまた要らぬ苦労を――」
「――投影、開始」
「―――な、に?」
「―――投影、装填」
「シ、ロウ―――?」
「―――うそ」
「いきなり飛ばすねえシロウ君よぉ、ルート違いだぜそいつぁ」
「楽しそうだね、マスター」
「チッ、いいねえ、恰好よろしくて結構だね全く。
魔術師としては三流以下だけど自分だけが持ってる特別な力ってか、反吐が出る」
「シンジ、言葉と表情が全く噛み合っていませんが・・・」
「何それ、なんでバーサーカーと同じ・・・知らない、そんなの私知らない!」
「■■■■■■――!!」
「う、ぉおおおおおぉおお!!」
「なんて出鱈目、さっきのアーチャーの双剣といい、なんなのよアイツ!
って、アーチャー?離れろって・・・アンタ待ちな―――」
「アーチャー、テメエ・・・!」
「いけない、シロウ!」
――――――。
――――。
――。
「チッ、キャスターがここで登場とはね」
「あら、貴方のお友達を助けてあげたのに随分な言われようね」
「ハッ、獲物を狙ってる狩人の後ろから忍び寄って契約破りの短剣で脾腹を一突きってか?
アサシンにクラス変えしたらどうよ、クソッタレが」
「そんな・・・アーチャー!」
「チッ、全く私としたことが、冷静さを欠いた結果がこの様とは・・・すまない凛」
「さて、収穫はあったのだし怖い狂獣もいることだし私はお暇させていただくわ」
――――――。
――――。
――。
「結局このへっぽこに絆されて協力関係を結ぶことになった、と。
ツインテールが仲間になった! とりあえずうっかり愚鈍なシロウ君に食べられない様にしろよ、うははは」
「ハハハ、真っ先にサーヴァント奪われた挙句に施しは受けないとか強がってた癖にそれかよ。
遠坂、今どんな気持ち? なあ、今どんな気持ちか聞かせてくれよ」
「―――コロス」
「落ち着け遠坂―――! お前らも煽るな頼むから」
「アカサ、折角だからこの子から魔力を提供して貰えばいいんじゃないかな?」
「三人とも魔力がお世辞にも多いとは言えませんから悪くないですね」
「私は直接『吸わせて』頂ければ・・・リンの血はとても美味しそうです」
「やめて、色んな意味で干からびてしまうわ」
――――――。
――――。
――。
「なあんで遠坂とセイバー伴ってデートに行って
ヒロインなの?アイツ実はヒロインだったの?」
「全くいい迷惑だね。 ほら頑張って悪いロリ魔女の居るお城に突っ込んで来いよツインテールの王子さまと腹ペコ
「―――間桐君、後で覚えてなさい」
「―――シンジ、後でお話があります。 道場に来るように」
「おおこわいこわい」
「あはは、アカサもシンジもいつでも煽るのを忘れないね」
「ヘラクレスと対峙するとわかっていてもこれとは・・・うう、帰りたい」
――――――。
――――。
――。
「で、これはどういう状況なんだ?」
「城はボロボロだし、シロウも襤褸雑巾みたいになってやがる上に何故か後ろにメイドが一匹」
「バーサーカーもイリヤスフィールも居ないようですね」
「僕たちがここに来る直前までキャスターが居たね。
あと、僅かにバーサーカーの気配もあったけれど・・・消えかかっていて、尚且つ妙な気配だったなあ」
「シロウ、しっかりしてください。 シロウ―――!」
「うわ、死にかけだったはずなのに急速に傷が治ってる。 意識もないのにどういう種よコレ」
「あの魔女ではどう足掻いてもヘラクレスを打倒することなど適わないはずなのですが・・・一体何が」
「んー、アインツベルンのホムンクルスか、アンタはある程度事情を把握してんだろ?
あーその前に治療か、見たところこの襤褸雑巾ほどじゃないが怪我してるだろメイドさんよ」
「余計な気遣いは無用です人間。 この程度は自分で治療できます」
――――――。
――――。
――。
「えー、で、セラだっけ? の話によると攫ってきたシロウがそろそろ目覚めるかなーって時に」
「気安く名を呼ぶな、人間」
「何コイツ、感じ悪くない?」
「間桐君黙って、貴女も話の腰を折らないでくれる?」
「あー、続けっぞ。 いきなりサーヴァントが襲ってきてバーサーカーを大量の刀剣類の投擲で滅多刺しの上に鎖で拘束して無力化して、イリヤスフィールの心臓ぶち抜いて高笑いしながら去っていった、と」
「んで、コイツは無謀にもそのサーヴァントの前に飛び出していってバーサーカーと同じく針鼠になる所だったけど衛宮がいきなり飛び出して来てそれをかばったと、ハッ相変わらずお人よしが過ぎるね」
「それで、心臓を失ったイリヤスフィールだったけれどその時はまだ生きていて無駄とは知りつつ治療をしていたら、同じくまだ辛うじて息があったバーサーカーが何を考えたか自分の心臓を引きずり出して押し込んだ、と」
「そしたらまるで図ったかのようなタイミングでキャスターが現れてイリヤスフィールを連れ去った、ねえ」
「バーサーカーは消える前に狂化が解けたのか、キャスターに何某か言葉を発してそれに対してキャスターは頷いたように見えました。
そして私たちにお嬢様の身柄を貰い受けると、そうすれば結果として助かると・・・リズは、もう一人のお嬢様付の者はキャスターに付いていきました」
「ふうん、これはあれかな、キャスターはアーチャーに続いてバーサーカーと同化したマスターを手に入れたって事でいいのかな?」
「同化、ねえ・・・なんつーか、デミサーヴァント?とでもいうのか?
そういったもんとして出てくるのかよ。 勘弁してほしいもんだな」
「はあ、事情は粗方わかったから戻りましょうか。 貴女はどうするのセラ」
「大変遺憾ですがこの男、エミヤシロウには借りもありますし問わねばならない事もあります。
それ以上にお嬢様の事も・・・きっとそちらに同道しなければお会いすることも適わないでしょうし・・・」
「あー、つまり付いてくるって事でいいんだろ。 前置きが長え」
「僕としてはさ、コイツ気に食わないしなんか嫌な予感がするんだけど」
――――――。
――――。
――。
「セラ、なんでアンタがいちいち口を出してくるわけ。 これは私と衛宮君の師弟の話なのだけれど」
「師弟の話だからと間違いを正さない、というのは違うでしょう。
それでは非効率だと言っているのです。
エミヤシロウ程度の技量ではこうした方が正しい。 貴女の教え方は無駄に高尚すぎる」
「いや、二人とも・・・落ち着こう」
「ほら見ろ、だから嫌な予感がするって言ったんだよ」
「見てる分にゃおもしれえんだが、アイツら俺らに教える気が全くねえな」
「あはは、セイバーのマスターは人気者だね」
「―――はあ」
――――――。
――――。
――。
「キャスター、これは、お前が・・・いや、違う・・・これは、この人達は・・・!」
「あら、てっきり思い込みで私の仕業と決めつけてかかると思ったのに意外ね。
そうよ、私があの神父を始末したけれど、その時には既にここは、この子達はこうなっていたわ。
ひょっとして貴方のお知合いかしら?」
「―――シロウ」
「親父に、引き取られていなかったら、俺もこうなって・・・俺だけが助かって」
「あら、そうなの、本当に色々と運がいいのね坊や。
こうなってしまったら流石に私でも元に戻すことは無理ね。
だってこの子たちは既に魂が壊れてしまっているのだから、体を戻しても何も解決しないわ。
ほんとうに運がいい・・・いえ、むしろ・・・」
「一人だけ助かってしまって運が悪い、と言うべきなのかしら」
――――――。
――――。
――。
「シロウ、まだです。 聖杯を、聖杯を手に入れれば、そうすれば彼らも救うことができます。
貴方は自分の望みはないと言ったが、それは違う。 やはり貴方にこそ聖杯が―――」
「確かに聖杯を使えばこの子達をどうにかできるでしょうね。
ただ、既に壊れた魂を、経た年月に相応しい形で元に戻すことは無理よ。
だってそうでしょう? 十年、その年月をこんな形ではなく普通に、安寧の中で過ごした場合どうなったかなんて、『貴方達にも、私にもわかる筈がない』」
「それは―――」
「聖杯なんて言っても、決して全能などではない。
過程を知らずに結果だけを手繰り寄せるなんてできない。
全能よりも小さく、万能よりも大きい、その程度の便利な道具、所詮はそんなもの」
「それでも―――!」
「『不幸を無かった事にはできる』とでも?」
「―――ッ」
「あらセイバー、まさか貴女の願いはそういった事なの?
困ったわ、私に降れば聖杯を使わせてあげようと思ったのだけれど・・・それでは駄目ね」
「どういう事だキャスター! 私の願いが―――」
「―――黙りなさい。
ここに呼ばれる英霊という連中は、須らく果たされなかった未練に拘泥するような輩だとばかり思っていたわ。
逆にこれといった未練もなく、ただ面白そうだからと降り立ったようなふざけた輩か。
お奇麗に、誉れ高く歴史に名を刻んだ正道をゆく英霊たるものが、私みたいな反英霊みたいに自らの道のりを『悔いる』なんてね。
ましてやそれそのものを無かった事にしようだなんて、ああ可笑しい」
「私を愚弄するか、キャスター」
「愚弄しているのは貴女自身でしょう。
裏切られ、裏切った、それを積み重ねたその果てにこうなってしまった私ですらも、反英霊である私ですらも思い至った、理解したその事を、まさか真っ当な英霊である貴女が、ね。
そんなんじゃ、英霊として最低限の誇りですら見失うわよ」
「―――わ、私はッ!」
「あら、既に誰かに指摘された後だったかしら?
なら本当に黙りなさいなセイバー、もう貴女と語らう事なんて私にはない、『貴女とは』ね」
――――――。
――――。
――。
「さあ、聞かせて頂戴、坊やの答えを。
聖杯なら確かにこの子達の不幸を、坊やの抱え込んだ苦悩を『無かった事』にできるわ。
それを望むのかしら? 」
「―――でき、ない」
「シ、ロウ―――?」
「無かった事になんて、できな、い」
「――――」
「そんな事をしたら―――今までの想いは積み、か、さねた物、は――どこ――に、行けばい、い」
「―――ぁ」
「死者は甦ら、ない。起き、たことは戻せ――戻せな、い。
そんなおかしな、おか、おかしな、望みなんて、持、てない。 持てないん、だ」
「―――っぁ」
「今まで、踏みにじって来たものの為にも、全てを、無かった事になんて―――俺には、出来ない」
「シロウ・・・っ」
「ふうん、それが貴方の答えと言うわけね。
まさに英雄たるものの言いそうな事、踏み躙られた私みたいなのからしたら甚だ不愉快な話。
―――けれど、そんな顔で言われてしまうと・・・それに、この子達が良いと言うなら私からいう事はないわ」
「―――ぁっ、皆・・・」
「ふん、恨み言の一つも言ったって罰は当たらないでしょうに、なんて馬鹿な子達なのかしら・・・」
「キャスター・・・アンタ」
「去りなさい、セイバーとそのマスター。 それに聞き耳を立てている悪趣味な坊や達」
「―――まあ、気が付いてないとは思ってなかったけどな」
「―――シュウジ、それにシンジも」
「全く、辛気臭い場所だね。 どこかの蟲蔵を彷彿とさせる悪趣味さだよ」
「お前ら・・・」
「―――どういうつもりですかキャスター」
「あら、何がおかしいのかしらライダー」
「ここは既に貴女の工房と化している。 みすみす招き入れた我々に帰れなど―――」
「気が変わっただけよ。 グダグダ抜かしてないで『この子達の命が惜しかったら』さっさと帰りなさい」
「―――貴女は」
「ふん、感傷よ。 そう―――ただの感傷」
「随分とお優しい事だね。
でも、この子達はここでこのまま今の気持ちを抱いたまま終わった方が楽だと思うけどね」
「黙りなさい土人形、例え壊れてしまっても、踏み躙られても、先があるなら掴めるものもあるわ。
この子達はまだ終わっていないのだもの、改めて死にたいと願うなら止めたりはしないけれどそうでないなら――」
「愚問だったね。 まったくその通りだと思うよ。
『そのまま土くれに還るのが幸せだなんてことは断じてない』まったくもってその通りだ。
それが君の答えなのかな?」
「ええ、その通りよ。 悔やむこと、憎むこと、嘆くことばかりの道のりだったけれど―――。
私は辿り着いた『今』に満足しているの、だから今回は見逃してあげる。
だから私の気が変わらないうちにさっさと失せなさい」
――――――。
――――。
――。
「全く、常に単独でピンチに陥る奴だねお前は、ここまで来ると流石は衛宮とでも言うべきか?」
「何をやっても結果ピンチに、唐突にピンチ、常にピンチ、ピンチあっての主人公!ってか」
「いや、まさか教会がキャスターに乗っ取られてるとは思わなかったんだよ・・・」
「シロウ」
「セイバーもごめん、悪かった。 もう一人でうろついたりしないから勘弁してくれ」
「違うのです、シロウ。 その―――私が、間違っていました」
「セイバー?」
「いえ、一人で出歩いたのは怒っていますが、そうではなくて―――」
――――――。
――――。
――。
「おい、また衛宮がいつもの始めたんだけど」
「妬くなよワカメ、いつもの事だろ」
「いい加減ワカメって言ってりゃ面白いとか思ってるんなら詰まんないからな」
「完全に二人の世界だね、主従の関係が密接で良い事だ。
まあ、僕とアカサには負けるけどね」
「お、ぅ、おぅ・・・」
「うっわキモ、なに顔真っ赤なんだけどキモ、何アカサお前―――」
「黙れワカメ、毟るぞ」
――――――。
――――。
――。
「よう、邪魔してるぜ坊主ども」
「―――遠坂、なんでランサーがここに居るんだ?」
「知らないわよ! あんた達がいきなり飛び出してった後に来たのよ。
そのせいで生きた心地がしなかったわ。 一人ぐらい置いていきなさいよ死ぬかと思ったわ」
「その割に落ち着いてるように見えるが」
「まあ、殺るつもりだったらとっくに決着はついてるし、そういう用事でもないみたいだからね」
「はあ、剛毅なこって、心に贅肉が付くのは嫌うが心臓には毛が生えてるみてえだな、さっすがぁ」
「赤佐君?」
「おおこわいこわい」
「ハハッ、そう言ってやるなよ小僧。
こういうのは気立てのいいサッパリとしたいい女って言うもんだぜ」
「いい加減その軽薄な口を閉じなさいランサー」
「おう、給仕のねーちゃん、アンタもツンケンしてるが嬢ちゃんに負けず情の深いイイ女だぜ。
勝てないってわかってて逃げもせずに嬢ちゃんと互いを庇おうとして―――」
「黙れ」
「おおこわいこわい」
「――戯れはその程度にしてもらおうかランサー、何が目的だ」
「そう睨むなよセイバー、っとそう言えばここはお前のマスターの家だったか。
えーと、ボウズ、お前がそうだよな?」
「あ、ああ、衛宮士郎だ」
「はは、これはご丁寧にどうもってか、律儀な奴は嫌いじゃあないぜ。
そのくせ奇麗どころばかりまあ連れ込んで、隅に置けねえなあ」
「べ、別に連れ込んだってわけじゃ―――」
「照れんな照れんな、イイ女を見ればほっとけねえのは男の性って奴だ、甲斐性があるってのはいい事だぜ。
嬢ちゃんも給仕のねーちゃんもイイ女だ、マスターにするならこういうのがいい。
と言うわけで、どうよ?」
「何がさ」
「察しが悪いなボウズ、二人ともお前の『コレ』だろ? まずはお前に話を通しておこうかと――」
「何言ってんのよアンタ! 私と衛宮君は師弟であってそういうのじゃ―――」
「何を言っているのですか貴方は! 私はこの男の軍門になど降った覚えは―――」
「なんだ、ホントに脈ありかよ。
ほんとに隅に置けねえなあボウズ!」
「いい加減にしてもらおうか、ランサー」
「ったくカリカリしてんなあセイバー。
もしかしてお前もこのボウズに懸想してんのか?」
「な――ッ・・・い、言い残す事はそれだけか、ランサー!」
「・・・おいおい、マジかよ、落ち着けよセイバー。
いや、これは、ボウズ・・・お前すげえな」
「え、いや、なにが?」
「・・・訂正するわ、苦労しそうだな、ボウズ。 いや、苦労するのは嬢ちゃん達か」
「いや、なんでさ」
――――――。
――――。
――。
「協力してこい、ねえ」
「俺のマスターが何を意図してんのかは知らねえが、そういうこった」
「これでこっちは四騎、キャスター陣営は三騎、か」
「イリヤスフィールがデミサーヴァントになっているのであれば、そうなのでしょうね」
「わかりやすい構図になってるな、こうも奇麗に二分されてまあ」
「なあ、ふと思ったんだけどね。 こっちの陣営で聖杯求めてる奴ってうちの爺以外に居なくないか?」
「・・・そう言えばそうだな、唯一サーヴァントでそれに固執してたのも心変わりしたしなあ」
「うっ、な、なんですか・・・べ、別に変節したのではありません!
間違いに気が付いて正道に回帰しただけであって私に疚しいところなど・・・!」
「『聖杯などよりもシロウが欲しい』キリッ」
「な―――なぁっ!?」
「へえ、どういう事かしら衛宮君?」
「私たちがこの野卑な男の相手をさせられている間に、一体何をしていらしたのやら、大変興味がありますねエミヤシロウ」
「いや、え、ちょ、言われてないぞそんな事!」
「そ、そうです、そのような歯の浮くような事を口に出したりなど―――」
「『口にだしたりなど』ねえ・・・おいおい、語るに落ちたぞアカサ」
「二人の世界作ってやがったもんなあ、勝手に脳内ナレーション入れたつもりがまさかの図星。
クカカ、若いってのはいいもんですのぅ、甘露なり甘露なり」
「爺や柳洞みたいな物言いは止めろよ気色悪い」
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「それで、昨日の今日で馬鹿正直に正面からやって来て何なのかしら?」
「いや、交渉って奴よ。 正直こっちに聖杯を求める理由が薄い事に気が付いてねえ」
「またいきなり可笑しな事を言い出したものね・・・」
「聖杯そのものを求めず参加する奴もいるんだから、途中で心変わりする奴だっていてもおかしくねえだろ?
アンタだって、途中で心変わりしたクチだと見るんだが? 昨日の口ぶりからするとよぉ」
「ふうん、まるで『最初から答えがわかっているかのよう』な口振りね。
あまり賢しげな男は好きではないし、信用もできないのだけれど?」
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「つーわけで、三日後にサーヴァント同士の一対一の三本勝負で決定したぜー」
「結局戦うのかよ、てっきりお手て繋いで大団円とかいう白けるオチになると思ったのに意外だねえ」
「俺としてはそっちのが楽で良かったんだがなあ。
先方もシンジ、お前と似たような捻くれた感じだからこうなっちまったわ」
「ハッ、流石にロクに戦わずに馴れ合いとか気持ち悪いし当然だろ。
むしろ、そんなお奇麗な決闘ごっこで向こうが納得した事の方が意外だけどね僕は」
「寝首をかかれるんじゃないか、とでもいいたげだな。
ま、その勝負に俺のサーヴァントを出さないのを条件にしたら飲んだぜ」
「・・・お前ちょっと楽しすぎじゃないかアカサ?」
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「さて、それじゃあ始めっか」
「ええ、それぞれに一騎打ちで三本勝負、生死は問わず、二勝した方が勝者」
「負けた陣営は全員従う。 尤も、こっちはランサー以外は殺る気はあんまねえけどな、勝つ気はあるが」
「随分お優しい事、けど私たちはそんなつもりは微塵もないわ」
「ま、流石にヘラクレスの分だけじゃあまりに少ないだろうし、そうなるわな」
「当然よ、『残りの全騎を現界させたまま終わらせろ』なんて、呑めるわけがないわ」
「無理じゃねえと思ってるんだけどなあ、少なからずアンタの手にかかればよ『メディア』さん?」
「そういうのを現世風に言えば『無茶振り』というのではなくって?」
「ははは、無茶ではあっても無理じゃねえって事じゃん」
「・・・本当に憎たらしい坊やだこと、サーヴァントが規格外でなければ真っ先に豚に変えてあげるのに」
「おおこわいこわい」
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「セイバー・・・」
「わかっていますシロウ、元よりあの姿を見ては・・・」
「もう、妬けるわね・・・何時までも見せつけないで欲しいわ」
「イリヤ・・・」
「イリヤスフィール・・・」
「もう、戦う前になんなのその顔は」
「いや、なんていうか、見違えたな、と思ってさ」
「あら、ふふふ・・・少し会わないうちにレディの扱いが上手くなったのねシロウ、でも手加減はしないわよ」
「・・・そうしていると、アイリスフィールと―――」
「―――貴女の口からお母様の名前を聞くのは不愉快よ、セイバー」
「―――ッ」
「わかっているのでしょう? 何故私が相手に貴女を指名したのか」
「イリヤスフィール・・・私は・・・ッ」
「ええ、貴女のせいじゃない事はわかってるわ、それこそ誰よりも私が一番わかっているの。
お母様が戻ってこなかったのは必然で、キリツグが帰ってこなかったのも貴女のせいじゃない」
「・・・イリヤ」
「でも、それでも、貴女が約束を守れなかったのは事実で、私は一人待ちぼうけ。
嘘つきに八つ当たりする位は許されるでしょう?」
「お嬢様」
「セラ、今はお小言は聞きたくないの私」
「そのようなつもりはございません。
生まれ落ちてたかが数年の私如きが十年お待ちになられたお嬢様のお心を推し量れるはずもなく。
ただ、お気が晴れるまでご存分に、とだけ―――」
「―――へえ、驚いたわ。 まさか貴女の口からそんな言葉が出るなんて」
「らしくないことを申し上げている自覚はあります。
兎にも角にも、お気が済みましたら、淑女らしい振舞いにお戻りいただけますよう」
「・・・やっぱりお小言じゃない」
「当然です。 このような原始的な手段に訴えるなど下賤の者にのみ許される贅沢なれば。
今回こそ目を瞑りますが、次からはお控え願います。
言葉を交わしてみれば、その、我々が思っていた程はこの者達も、そう度し難いほどの愚物というわけでも―――な、なんですかお嬢様、それにエミヤシロウ貴方達もなんですかその顔は」
「驚いた、セラ、人間褒めるなんて」
「リ、リズ? わ、私は別に褒めてなどいません。
一体今のどこに褒めるような意味合いが含まれていたというのです」
「あはははは、凄いわシロウ、一体何をしたのかしら?
私がキャスターの水槽でプカプカ浮いている間にすっかり仲良くなって、シロウってば本当にレディの扱いが上手くなったのね」
「お、おう、セラはいいやつだしな、イリヤの事をずっと心配してたし。
俺はできればイリヤとも仲良くしたいな」
「エミヤシロウ、そこは否定しなさい! それに、お嬢様までその毒牙にかけようというのですか!」
「セラ、毒牙にかかった?」
「なぁ―――ッ!?」
「あは―――あははははっ! いいわ、とっても楽しくなってきたわ!
私の八つ当たりをセイバーが受け止めきれたら考えてあげる。
さあ、いい加減始めましょう?」
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「あっちは華やかでいいねえ」
「そう思うんなら君もあちらに行ってはどうかね」
「ハッ、馬に蹴られる趣味はねえ」
「そうかね、蹴られてくれると私もこのあとが楽だったのだが」
「抜かせ、その程度でどうにかなるほど温かねえよ」
「だろうな。 さて、次に遣り合う者同士、馴れ合うのも柄ではないだろう。
お仲間の所へ戻ってはどうかね?」
「いやいや、アイツらのとこも悪くねえがテメエとは次でお別れなわけだ。
いけすかねえ奴だが最後とも思えば言葉を交わすのも悪かないかと思ってな」
「これは面白い冗談だ。 その言葉そのまま返すとしよう」
「お前ら仲が良いのかひょっとして」
「「―――まさか」」
「あー、うん、さよか」
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