書かずに脳内に溜まったネタの墓場というかごった煮というか 作:むみあ
ある日気が付いたら見知らぬ場所に寝かされていた。
まったく覚えのない場所、戸惑いながら動こうとするも自由にならない体、すぐにその体が自分の知るそれでないことに気が付く。
赤子になっていたのだ俺は、俺の体は。
わけのわからないまま泣きわめき、親と思しき者にあやされて言葉にならない叫びを喚き散らした。
それから色々あったが正直な話、思い出したくない。
とりあえず、生まれ変わりだかなんだか知らんが、納得できないままに俺は現状を理解した。
我ながらもう少し取り繕って生きればよかったのだろうとは思う。
しかし、唐突にガキの時分から別人としてやり直せなどと言われて、はいそうですかなどと素直に現状を受け入れられずに投げやりだった。
周りの目など大して気にもせずに思ったことを言い、思った通りに行動した。
ガキの時分から歳に似合わぬ物言いと行動で、随分と周りから浮いていたのは自覚している。
しかしそんなの知ったこっちゃなかった。
中身はある程度の年齢を経た男であるからして、同世代なんぞとつるむ気にもならずむしろ見下してすらいた。
小学校をそんな感じでろくに友人も作らず、手下みたいな連中を取り巻きにして過ごし、中学に上がった。
そこでもやはりまともな友人を作る気にはならず、と言うよりは小学校時代よりも周りが個人的にウザったい感じになり、取り巻きすら遠ざけて過ごした。
思春期のガキとかマジ面倒くせーなあ、とか思いながら適当に過ごしていたのだが、一人だけ気が合う奴が居た。
シンジという俺と似た感じで周りを見下した感がある、はっきり言ってケツの穴の小さい男だったがそこが個人的にシンパシーを感じる奴だった。
そいつと適当につるみながら日々をダラダラと過ごしていたんだが、そこにもう一人変なのが加わった。
シロウというんだが、コイツはあからさまに変な奴だった。
人が良いというべきか、典型的な都合の『いいひと』というか。
馴れ初めはなんつーか、いきなり夜中にシンジの奴から学校に呼び出されたら、文化祭の看板を一人でそいつが黙々と作ってやがった。 なんでも周りから押し付けられたらしい。
はあ?馬鹿なんじゃねえの?押し付けた奴らも、それを黙って受け入れて看板作ってるコイツも両方とも、とか俺が言うとシンジの野郎はゲラゲラ笑いながらお前もそう思うよな、とか言ってきやがった。
なんも手伝ってないでこんな夜中まで学校にいるお前も大概馬鹿だと思うんだがシンジさんよぉ、とか言いながらも俺も何故か帰らずにそこでシンジの奴とだべりながらシロウの看板作りを見ていた。
そして出来上がった看板を見て、馬鹿のくせにいい仕事してんなあとか言って二人して笑った。
なんかこう、今までにない笑いだったような気がする、俺もシンジにとっても。
それに対するシロウの反応がずれていてすぐに別の笑いに変わったが。
そっからは俺の友人は二人になった。
主に俺とシンジでシロウのお人よしぶりを散々に馬鹿にするという関係の友人関係だが。
本当にシロウの奴は馬鹿だった。
馬鹿でお人好しで、見ていて苛々する位に見返りなく人の頼みを聞く奴だった。
俺もシンジも程度の差こそあれそれを馬鹿にしながら諫めた。
特に俺としては非常に腹立たしかった。
ダチと認めた奴がしょうもないボケどもに都合よく使いまわされてるように見えるその構図に苛々した。
だからシンジと二人であまりにも舐め腐った奴にはそれ相応の対価ってもんを色々な意味で払わせたりもした。
そしてシロウの奴に散々にそのわけのわからん慈善活動モドキを控えるように言ったんだがまるで効果がない。
シンジの野郎的には呆れつつも、行き過ぎた奴以外の事は大半がどうでもよさそうにしてやがったが、俺としては我慢ならない事が多かった。
シンジの奴に、意外とお前って暑苦しい奴だったんだなとか言われたが知らん。
実際、自分の認めた奴が何とも知らんクソボケ共に安く使いまわされてたら腹が立つだろうが、シロウの奴の場合は安いどころかタダ同然というかタダだぞ阿呆かと。
なんなのあいつ、修行僧か何かなんですかねえ、クソが。 とか当人の目の前でシンジに愚痴ってみたりもしたんだが、そしたらねえ、心配してくれてありがとうとか抜かすんですよ馬鹿だろシロウ君よぉ。
そんなこんなで日々を割かし呑気に過ごしていた俺だったが、その呑気さは唐突に終わりを告げた。
その日、シロウと共に初めてシンジの家に招待されて、途中までは楽しく馬鹿をやって―――
トイレに行こうと
迷って
気が付いたら
地下室らしき場所に
蟲?
目の前に居る
化け者 シンジの背中が
怯えて叫ぶ姿初めて見る
なんだこの爺
魔術回路?
俺に?
マキリ? エミヤ?
―――気が付いたら家に戻っていた。
呆然としつつその日はそのまま風呂にも入らず、着替えもせずにそのまま寝入った。
目が覚めて、昨日のことを振り返って俺は今更に気が付いて、というかなんで今まで気が付かなかったのか、ここは―――
「Fate、だと・・・マジかよ」
前世、今世含めて数十年前のゲームの世界であると言うことに愕然とした。
そして、一度思い出してしまえば次から次へと湧いて出るように連鎖的に情報が頭に浮かんでくる。
数十年も経ってるのによくこんなこと覚えてるな、と呆れるより先に俺の思考の大部分を占めるのは怒りだった。
怒り、そう怒りだ、目の前が真っ赤になるほど俺は怒り狂っていた。
この先に何が起こるか俺は知ってる。
シンジが、ダチである間桐慎二がかなりの確率でロクでもない死に方をするって事を。
同じくダチであるシロウ、衛宮士郎がその舞台で主演を張らされた挙句、下手をすると守護者だのというクソみたいにロクでもないもんになっちまうという事を。
俺は、前世の俺は、Fateっていうゲームは好きだったし、衛宮士郎という『主人公』も割と好きだった。
けど、俺はあの生き方に物語のキャラクターとしては好ましいものを感じてはいたが、それ以上に気に食わないところも多かった。
そして今、ダチとして、等身大の人間として、物語のキャラクターとしてではないアイツを、シロウのダチをやっている俺は、その『気に食わないところ』ってのを絶対に許せない。
今でさえ、ああ今でさえアイツが何とも知れないクソボケ共に都合よく扱われる現状に苛々してるんだ。
それを、なんだ? 守護者ァ?ふざけンじゃねえぞ。
それに至った経緯も含めて、俺としては絶対にそんなものを認められない。
シンジが死ぬかもしれない、シロウが死ぬかもしれない、それ以上に本来居なかった筈の俺が死ぬ可能性が最も高いのかもしれない。
けど、俺にはそれ以上に『それ』が我慢ならなかった。
シロウが、俺のダチが、今あるお人よし具合を更に拗らせて、都合よく使い回されて死んじまった挙句、その先で更に『世界』だか何だか知らんがそれに更に都合よく使い潰される?
ふざけンじゃねえぞ、絶対に認められねえ、画面越しのキャラクターに対してすらイラついたそれが、その境遇が―――
―――俺の、俺のダチにこの先待っているだなんて絶対に認められるか!
「―――っざけんじゃねえぞクソがぁぁぁぁぁぁぁ!!」
前世すら含めても未だかつてないほどの激情に駆られ、俺は力いっぱい叫んでいた。
そっからは振り返ってみて正直なところ俺自身どうなのかと思うんだが、俺はその怒りに突き動かされるままに行動というか暴走した。
まずは昨日の件で云々と気まずげに、非常に珍しく殊勝な態度で話しかけてきたシンジをひっ捕まえてそのまま学校をフェードアウトして知っていることをすべて吐かせた。
口籠った事も俺が知っている知識から先取りして喋ったりして、隠しても意味がないと促して全て喋らせた。
なんでもシンジの家の蟲蔵に俺が迷い込んだか誘い込まれたかだかわからんがしたらしく、爺が云々だのの話も含めつつ色々と話した。
なんか途中地雷を踏んだりしたらしくお互いに罵り合いながら殴り合いに発展しながらのOHANASHIになったが知らぬ。
結論だけ言う、俺には魔術回路があったらしいのでシンジに鍛錬法だのなんだのを供出させると言う事になった。
マキリの後継者だと思ったら魔術回路がないからそう思ってたのは自分だけ本当は妹が後継者だった?
なんで何も知らないお前に魔術回路があってなんで僕にはないんだ、だと知らんわボケが。
使える知識があるんだったら供出しろや、お前のが俺より頭がいいんだし教えを乞うぐらいしてやっからピーピー喚くなやオラァ!
お前のできないことを俺がやってやるから、俺のできない事、知らないことをお前が俺に教えろください、って頭下げてんだろうがなんでキレてんだよこのワカメが!
物を頼む態度じゃないだとかうっせーんだよ、とにかく教えろっつーのこっちは余裕がねーんだよ!
とかいう心温まるやり取りがあったような気がするが、もう色々と言葉と拳の応酬がごっちゃになってわけわからんぐらいぐちゃぐちゃでよく覚えていない。
まあ、俺もシンジもあの時は色々あってお互いにいっぱいいっぱいだったのは間違いないんだが。
そのまま互いにいっぱいいっぱいでテンパった勢いのままシロウ宅に乗り込んで色々ぶちまけたのもやりすぎだった気がする。
「オラァ! シロウ、実は俺は魔術師なんだよオラァ!」
「衛宮ァ!お前この裏切者、なんでお前まで魔術師なんだよクソォ!僕一人が惨めじゃないかふざけんなよクソォ!」
「え、は?な、え―――は!?」
「どうせ間違った鍛錬して毎度死に掛けてんのはわかってんだよボケェ!こっからは俺と一緒に魔術回路はないけど無駄に知識だけはあるシンジセンセーのどきわくワカメ講座を俺と受講して清く正しいクソッタレな魔術師になるんだよオラァ!」
「・・・赤佐ァ、お前ちょっと土蔵行こうか? いい加減、僕ァキレちまったよ。 衛宮も一緒だ、無事に朝を迎えられると思うなよお前ら」
「な、なんで? なんでさ!?」
いやぁ、あん時の俺とシンジはどうかしてたね。
俺らのぶっ壊れたテンションによる暴露にシロウの奴がかわいそうな位に狼狽えまくったりして、あの後も衛宮家の土蔵で肉体言語込みのOHANASHIが一晩中続いたりして酷いザマになったもんだ。
そっからの展開も色々と酷かった、ヤケクソとも言える。
毎夜シロウの家で鍛錬することになったけど俺は魔術さっぱりわかんねーし、シロウの奴はへっぽこだし、シンジの奴ぁ魔力感じ取れないから適切に指導できねーし、速攻で行き詰ったね。
で、よく考えたらシンジの家に行った時に俺はマキリの爺にばっちり目をつけられてるわけで、シンジが探し出して庇いだてしてくれなきゃ一体どうなっていたことやら。
まあ、そん時にどーも蟲蔵に桜?が居たらしくシンジは自分が後継者でもなんでもない道化と知って心折られたらしいんだが。
そりゃそうと、既にあの爺にばっちり目を着けられてるんだったらあれの餌だの傀儡だのになる可能性も、放し飼いにされて体よく利用されんのもアレの胸先三寸次第なわけで、俎板の上の鯉も同然なんじゃないかと。
それならもう毒を喰らわば皿まで、毒蟲を喰らわば壺ごと、どうせ掌の上なら懐に飛び込んでやるわクソがーとヤケクソ気味に止めるシンジを引きずって間桐宅に突撃、はせずに別の場所に爺、というか爺の蟲を呼び出して談判した。
もうなんてーか、色々余裕がなくて俺の知ってる事の中から適当に繕いまくってあっちがロクに喋りもしないうちからガーッと一気に俺の言いたい事を一方的に要求というかお願いと言うか並べ立てまくった。
色々と言いまくって自分でも何言ったか細かくは覚えてねえが、なんか爺が呵々大笑して不気味なぐらいすんなりと俺の要求は通った。
そして、
「今日からァ!クソ役に立たないワカメに代わって新しい先生をお迎えしましたァ! マキリ・ゾォルケン大先生だオラァ!頭を垂れろへっぽこぉ!!」
「ちょ?!お前!ふざけんなよアカサァ!」
「・・・む、蟲?」
「呵々、元気のいいことじゃ」
この上なく鬼畜かつ外道な蟲妖怪だが、知ったことじゃあないねえ!手段があれば真っ先に駆除したいぐらいにクソみたいな野郎だが、その手段が全くない以上はむしろコイツを引き込んで黒幕サイドに行ったほうが余程マシだと判断した。
あの穢れきった聖杯で若返りかつ不老不死を得れるんなら是非ともやってほしいもんだ、そして摩耗して忘れ去った自身の理想を思い出して自責の念で死に腐れ妖怪。
理想に溺れて溺死すんのはシロウじゃなくてテメエのような妖怪こそがお似合いだ。
当然だが、シロウには爺が腐れ外道である事は伝えていない。
シンジの奴にも親族とは言わないように口止めを行った。
こうして、俺達は魔術という外法を扱う上である意味実に適役の、極上のクソ外道を師と仰ぐことになった。
そして時は流れ、運命の日が来年と迫ったある日、俺は唐突に右腕に痛みを感じて服の袖をめくり愕然とした。
「痣・・・? って、おい、これ、まさか令呪の兆しって奴か? いや、嘘だろマジか!?」
ま さ か のマスターとしての参戦フラグが起つという事態に仰天した。
ゾォルケンの爺に確認をとると呵々大笑どころか爆笑されて令呪であると告げられた。
「呵々、まさか、まさかのぅ! ヌシの話が与太話でなければ衛宮の倅にも兆しが表れるのであったか。 ヌシがマキリの者としてではなくそうなったのであれば、三騎を儂らで占めることになる。 これは愉しくなって来たではないか、クカッ、クカカッ、いかん、いかんのぅ・・・この老骨めが年甲斐もなく燥いでしまいそうじゃ、カカカカッ!」
楽しそうだな爺、しかし同意だ。
外来のマスターとして俺が一枠貰ったって言うんなら願ってもねえ。
しかもこの時期、異様な速さだ、まだ二か月以上あるってのは素晴らしい。
「クク、何やら企んでいる顔じゃのぅ。 どれ、この老いぼれに言うてみい、若人の為に骨を折るのも先達の努めよ」
抜かせよ爺、けどいいな、ならご協力をお願いするぜ。
「召喚陣」
「ふむ、触媒かの?」
ちげえよ、触媒何ぞ必要ねえ、必要なのはただ一つ。
「この冬木を丸々覆うだけの召喚陣を」
「・・・ほぅ、なんぞけったいな事を、」
何が言いたいかはわかってんよ、そんなデカい陣を書いたら魔力が足りねえで干からびるとでも言うんだろうが。
「お山に流れ込む地脈に意図的に瘤を作ってる場所があるはずだ、それを」
「ほぅ、ほうほうほぅ! なんじゃそんな重要な事を今まで隠しておったか、カカカッ! いいじゃろういいじゃろう、それを見つけ出して上手い事その魔力溜りを利用しろとな」
「今年中に陣の敷設も含めて、行けるか?」
「呵々、遠慮がないの! いいじゃろう、監視役も流石にこの街の外まではそう見てもおらん。 ましてや召喚陣程度の隠蔽は容易い。 魔力溜りを探すのと陣を描くの自体がちと骨じゃがその位はしてやろうて」
ならいい、なんの問題もない。 年明けに召喚する。
そして、俺の知る物語の幕開け、衛宮士郎の運命の夜に先駆けること一か月と少し。
俺にとっての運命の夜がやって来た。
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が大師シュバインオーグ。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
全ては順調に行き、この日を迎えた。 直前に陣を完成させあるかどうかは不明だが妨害が入る前に終わらせる。
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する」
触媒は用意していない、というよりこの冬木そのものが触媒だ。
聖杯戦争を四度もやって、至る所にその爪痕が残り、御三家の連中が集めた触媒もあるだろうここを、そしてこの街に居るであろう『お金持ち』の蔵の中身までひっくるめて全てを勝手に抵当に、俺の気質に最も近しい英霊を呼び寄せる。
「―――――Anfang」
何が来るかは知らねえ、だが必ず俺の願いにそうサーヴァントを、ただそれだけを祈って―――
「――――――告げる」
俺のダチを、シンジを、シロウを、死なせはしない、と己が回路に焼け付くほどに火を入れる。
生存するだけならあいつらをふんじばって逃げてもよかった。
だが、それは無理だと色々な意味で不可能だと結論付けた。
「――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
ならどうする、生き残る為に、更にはその先、あのクソボケの目を覚まさせるためには何が必要か。
誰でもいい、何でもいい、俺のこのちっぽけな祈りに答えてくれるなら―――
「誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者」
なんだってやる、だから、俺とダチが共にあることをできる明日を。
あのクソ嫌味くせえワカメと、お人よしの大馬鹿野郎、特に後者を。
あの大馬鹿野郎の衛宮士郎が一人ぼっちで死ぬなんざ、守護者なんぞなっちまうような―――
「汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
―――そんな未来なんざ、絶対に俺は認めねええええええええええ!!
体から力が抜ける。
立っていられずに膝をついた目線の先に誰かの足が見える。
召喚には成功したと思うが顔を上げることができない。
俺の前に何か圧倒的な存在感と魔力を放つ存在を感じながら、俺の意識は暗転した。
「―――マジかよ、俺を呼ぶとか予想外も程があるわ」
最後に、聞き覚えのある声音の悪態が耳に入った気がする。