少女Aの憂鬱   作:王子の犬

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ご無沙汰しております。


クラス対抗戦とその道程2
★22 消えたチョコレート


●   1

 

 妙ちきりんな風体の美女が手帳を捲っては、蛇がのたくったような図形を描いている。難しい顔した守衛さんに向かって片言交じりの日本語で話していたのだが、意図がどうも伝わっていないようだった。

 

「ワガハイハ・タバネサン・ダ。ナマエハ・マダ・ナイ」

 

 遠巻きに眺めていた私は、喉元まで出かかった言葉を無理やり呑みこまねばならなかった。

 

「ワガハイニハ・ココヲ・トオルケンリ・ガ・アル。ナゼナラバ・ワガハイハ・コノガクエン・ヲ・シンリャクシニキタ・ノダ。クリカエス・ワガハイ」

 

 守衛さんが言い終えぬうちに女の首根っこをつかんで門から閉め出した。

 彼女はすかさず柵にしがみつく。抵抗を試み、うつろな表情に緩慢な仕草で腕を突き出すと、振りかえって私に向けて何度も手を振ってくる。

 守衛さんと目が合い、胡乱な視線が突き刺さった。

 私は浅学非才の身であるためか、小賢しく立ち回ろうとする浅はかな性分の持ち主であった。

 今から実行することが正しいと思いこんでしまったのだ。

 美女のすがたかたちにある人物の面影を見いだしてしまい、腹の中で計算する。

 紙袋を腕にひっさげていたので、おやつ代わりに買ってきたオレンジを引っ張り出した。

 

「どうしたのかなあ。元気にしてた? 久しぶりだねー。ちょっとこっちに来てよー」

 

 普段はこんな口調ではないのだけれど、守衛さんが無線に向かって「不審者発見、排除しますか?」なんて物騒なことをつぶやいたので一刻を争わねばならなかった。

 私はなれなれしく彼女の肩に手をまわし、掌を重ねてから柵から遠ざける。

 そして近くの公園まで連れだした。

 

「……ええっと、あの、学園に何か用なんですか?」

「シンリャク・シニキタ」

「侵略? ご出身は何星?」

「ケサワ・ノ・ヒガシ・デアル。タバネサン・ハ・テンサイ・ナノダ」

「ケサワノヒガシ? どう書くんですか」

 

 女は落ちていた棒を拾い、地面に字を書く。何とか最初の文字だけは読めた。

 

「毛……そうなんですね」

 

 思わず間抜けな返事をしてしまった。

 

「で、そのこころは」

「ショウダン・ダ。ジマン・シニキタ」

 

 女は頑として卓上扇風機を離さなかった。何も持っていない方の手をかざし、投影モニターを出現させる。あっけにとらているうちにショッキングピンク色のバイクがひとりでに近づいてきた。

 私は美女……を凝視してしまった。

 この(ひと)、やっぱりお顔が美しい。真っ先に「美人」という言葉を思い浮かべる。体は案外ムチムチで、もしも私がオトコだったら、その場で暗がりに誘ってイケないことをしてみよう……などという妄想をするに違いない。目元に隈が浮いているのが玉に瑕だけれど、アイラインの一種なのだろう。

 

「あのう……学園の誰かとアポを取ってるんですか」

 

 女の口から大きなため息が漏れた。

 

「ちーちゃん……あッ……オリムラ・チフユ・ダ」

 

 間抜けにも素を出してしまったようだ。

 

「日本語いけるじゃないですかー」

「キミ・ハ・ガクエン・ノ・セイトダナ。オリムラ・チフユ・ヲ・シッテイルカ」

 

 織斑千冬は担任である。私は言おうか言うまいか逡巡した。だが、後頭部のあたりからガッシャン、という破滅的な音が聞こえて遮られてしまった。

 地面に押し倒された私は、口に入った砂をはき出そうと試みた。そうこうしているうちに意識がはっきりしてきたので、こっそりまぶたを開ける。

 自称侵略者も昏倒し、砂だらけになった顔を見てたちまち状況を理解してしまった。

 

 ——私たちは誘拐されたのだ。

 

●   2

 

 黄金週間が終わった。

 織斑特訓の試みは半ば成功し、半ば失敗しつつあった。織斑が一度教えたことは忘れない、という天才肌だとわかり、ほっと胸をなで下ろしたのもつかの間、四組代表がこっそり見せつけた超絶技巧に一組全員が真っ青になった。

 ボソボソと現役日本代表の猿まねだと説明していたが、何をまねしたのかがさっぱりわからないと来ている。

 なので、小狡く浅知恵を弄した。

 当初の予定通り、織斑には試合度胸をつけさせる。

 加えて、凰さんにかかっているであろうカッコイイフィルターを最大限利用しようというものだ。鉄帽をかぶって突撃すれば縦深陣地を突破できる、と説明したのだが、いつもぶつぶつ冗談を口にしているくせに、このときにかぎってはポカンと惚けてきたのだ。セシリア嬢ですら理解を示してくれたのに! ……口を押さえて笑いをこらえる姿に、恥ずかしさのあまり死にたくなったけれど。

 その後叔父からメールが来た。近々ちゃらんぽらんな上司が出張するので面倒かけるかもしれないけどゴメンネ、と記されている。追伸にはヨーロッパでいろいろ面白そうな土産をいっぱい送るから許して、とあった。本人受け取り限定サービスを利用したために届いたときにはタイミング悪く、私は部屋を空けていた。不在者通知表片手にしばらく悩む。ちゃらんぽらんな叔父がちゃらんぽらんだと断言するような人物に関わりたくない。が、気がついたときには叔父から贈られた土産のひとつ、1箱1万オーバーの高級ベルギーチョコレートが胃の中で跡形もなく薄靄(うすもや)同然になっていたのである。

 高価なお菓子はおいしい。テレビゲームをするために実家へ帰省する叔父から学んだ真理だ。私は叔父に餌付けされていた。いつか面倒なことを肩代わりさせるつもりで、せっせと胃袋に奉仕していたらしい。もちろん勝手な憶測なのは言うまでもない。

 自称侵略者と出会ってしまったのは、高級ベルギーチョコレートの存在を知っていたがために単独行動に出た帰りだった。出向いたついでに美濃紙を貼った高級桐箱を処分して証拠隠滅し、スーパーに寄って食材(お菓子)と果物を買っていった。現金なルームメイトの目をごまかすための見せ餌である。子犬ちゃんに餌を進呈し、彼女を側に置いておけばセシリア嬢と布仏さんが守護騎士になる。私など足もとに及ばぬほど浅ましい鷹月静寐の口をも封じることができる。

 完璧な計画だ。私はほくそえんだ。

 だからこそ、罰があたったのかもしれない。お顔の美しさに目がくらんで自称侵略者なんかに声をかけるんじゃなかった。

 

 

●   3

 

 微睡みながら眼が覚めた。身じろぎしてから体を起こすと、濡れタオルがベッド脇に落下した。

 タオルには紫色で「(株)みつるぎ」と染め抜かれている。連絡先が記してあったので、本気で電話しようと懐を探ってみた。携帯端末を見つけたまではよかったものの、蜘蛛の巣を張ったかのような画面に変わり果てていた。

 

「うわっ。うんともすんとも言わない」

 

 泣きたい気分になる。携帯が壊れてしまったのだ。

 失意を紛らわせようと室内を歩き回る。隣のベッドには自称侵略者が寝かしつけられ、額には同じタオルがのせてあった。

 ここはどこだろう。

 外に出るべく把手に手をそえた。だが、びくともしない。押しても引いてもダメだ。扉は襖や障子と同じく引き戸になっていて、ちょうど最近の病棟にあるようなダンパー付き扉と似ている。IS学園の扉のようでもあったが、今私が立っている場所が学園の敷地内なのか確信が持てなかった。

 窓辺に立ってみた。はめ殺しで中から開けられない。カーテンを引くと日が昇っていて明るい。気を失ってからさほど時が経過していないようだ。

 外には海が広がっている。漁船やタンカーが遊弋し、タグボートが巨大な飛行場のような物体を曳航していた。戦闘機らしき双発機が離陸したかと思えば、大気がうなり声をあげ、すぐ近くを旋回した。最近配備されたばかりのFー35B(ライトニング)。航空戦艦〈うちがね〉の直掩機だと自慢げに話す織斑の姿が思い浮かんだ。

 

「ウウウウ。ウウウーン」

 

 何事かと思って振り返る。卓上扇風機が独りでにまわりだした。

 自称侵略者が目を覚ましたのかもしれない。

 私はすがるような思いでベッド脇にひざまづいた。

 

「起きてますかー。起きてるなら返事してくださーい。死んでるなら死んでるっていってくださぁい」

 

 自称侵略者の女が胸をかきむしって歯ぎしりする。ボタンが外れて豊かな谷間がのぞく。下着の紐がずれて肌の色があらわになるんじゃないか、とドキドキしたが杞憂に終わった。

 

「返事してくださぁーい」

 

 もう一度呼びかける。

 と、一呼吸置いてから彼女が眼を開けた。私を凝視しながら上体を起こす。掌で何度もベッドや布団を叩いている。結局、卓上扇風機を手に取るまで続いた。

 

 

 

 私は悪戯のつもりで卓上扇風機を取り上げてみた。

 女は急に不機嫌になり、私を睨めつけて舌打ちする。扇風機をさし出すと、自称侵略者だと口にしていたときのようにほんわかとした風貌に戻った。彼女は不思議の国のアリス、もしくはオズの魔法使いをあしらったワンピースを身につけている。ヨーロッパの服がそうであったように、背中の肉をあげて寄せて強引に谷間を生み出してもいた。試しに腹の肉をつまんでみると、思った通りプニプニしていた。

 

「あなたは誰?」

 

 訊いたところで答えてくれるだろうか。

 身分証明書の類いを持っているか質問すると、彼女は自分の体をまさぐってありかを探す。

 

「ナイ」

「そうなんですか。残念」

「クロウシテ・キョーシュージョ・デ・トッタ・ウンテンメンキョ・ガ・ナイ。フンシツ・シテシマッタ」

 

 さらに問題が続いた。彼女の携帯端末は無事だったが、暗証番号がわからず操作画面に遷移できない。公園にいたときと同じく投影モニターを展開させてみたが、いつの間にかパスキーが変わってしまったらしく個人情報にアクセスできなかった。

 

「タバネ・サン・ハ・タバネ・サン・ダ。ナマエ・ハ・マダ・ナイ」

 

 彼女も混乱しているようだ。

 素性不明の他人にずけずけと指摘してよいのだろうか。相手がよくない気がする。自称侵略者の素性がわかったところで事態が好転するわけでもなし。誰か来るのを待つ算段で先ほどまで寝ていたベッドに腰かけ、再び横になった。

 

 うつらうつらするにも限度があった。突然、ベッドが軋んだ。薄目を開けると、枕元に卓上扇風機が横たわっている。頭を振ると、ついさっきまで隣のベッドにいた女が馬乗りになって私の制服に手をかけているのが見えた。

 

「ひぅっ」

 

 びっくりして状況が飲み込めないまま、お互いに眺め合うこと数分。声をあげようとしたら口を塞がれた。

 女は眼を血走らせていた。

 まるで殺人を犯す前のように……。

 あたふたしながらも理性が状況整理を試みようとした。

 私の状態はこうである。

 ——制服のファスナーとボタンが外されていた。ついでにスカートが下着が見えそうなくらいずり下がっていて、乳白色の華奢な膝があらわになっている。 

 

「ひ、ひ、ひとを呼びまっイデッ」

 

 噛んだ。

 

「黙れ。デュノアのスパイめ」

「ひいっ……ん……ちょっ……そこ、いやっ……あああぁっ……」

 

 彼女は触れるか触れないかくらいのタッチで玉の肌をまさぐってきた。あまりのくすぐったさに妙な声をあげてしまった。断じてえっちぃ気持になったわけではない。

 笑い声をあげる姿に、女は舌打ちしてスカートをひっつかむ。暴挙に出ようとしたので彼女の腕を握りしめ、最後の一線を超えさせまいと必死になった。

 

「へ、変態。だれかーっ、ここに痴女がいます! 助けてーっ!!」

「もうだまされないぞっ!」

「正気に帰ってくださいよっ! いやー! おーかーさーれーるー!!」

「スパイめっ!」

「へっ!?」

「親切を装って近づいたスパイだなっ。こっちはついこの間デュノアとヤンキーどもの産業スパイをとっちめたばかりなんだからねっ!」

「すすすスパイって何の話ですかっ」

「私を見て誰だかわからないなんて……パンピーを装うのもいい加減にしろよ、ってことだよ! さあ、言えっ。私の目を見て、私の名を言い当ててみろ!」

「篠ノ之束博士」

 

 言って、指呼の間迷った。篠ノ之さんと似ているから本当に篠ノ之束博士かもしれない。しかし、そう断言してしまうのは……あまりにも篠ノ之さんに失礼だ。

 なぜなら。

 

「ふっふっふ。ご名答! 私が全宇宙のサイコーサイキョー(すうぱあ)天才科学者・しのののたばねであーる!」

 

 女は胸を張った。

 ビシィっ、とわざわざ効果音を口ずさんだ。

 私は表情を消して、鼻で笑って見せた。

 

「……なあーんてのは冗談」

 

 女がポカンとした。すかさず仮定を証明するべく説明を加えた。

 

「そっちこそ篠ノ之博士を騙るスパイじゃないんですか。あなたは篠ノ之さんが言ってたお姉さん像とはあまりにも食い違っているんですよ。篠ノ之さんは言ってましたよ。『姉さんは器量が狭くて人間的にアレで性格最悪で絶対結婚できないけど。ものすごく頭いい。一を聞いて十を知る。一つのことに没頭する集中力だけは他人には負けない。精進せねば……』って」

「ガーン……」

「今、ご自分でがーんって」

「う、う、う、嘘だ、嘘だ、嘘だーっ!」

 

 女は自暴自棄に陥ったようだ。髪型が崩れるのも構わず、ものすごい力で私の胸を押さえつけた。く、苦しい。下着代わりに着用していたISスーツを引きはがそうとした。

 

「箒ちゃんがお姉ちゃんを悪く言うはずがないっ! お前こそこんなに胸がぺったんこーなんだから男に違いないんだ! そうだろ、ええ!? シャルル・デュノアの同類なんだろっ!?」

「シャルルって誰ですか! そんな人知りませんよ!!」

 

 そんな名前、本当に聞いたことがなかった。

 

「嘘だね」

 

 女が断言する。

 

「話を聞いてくださいっ。私はむーじーつー」

()()()()()を着ているに違いないんだ。だからそんなに印象がうっすーい顔立ちなんだ!」

「ひ、人が気にしていることを! 印象が薄いのは生まれつきです。TSスーツってなんですか。一般人にもわかるように説明してくださいよっ。ついでに手を離してください!」

 

 女がTSスーツについて講釈を垂れた。

 要約するとこうだ。着ると性別が反転する。股間のアレを隠したり目立たせたり、体臭やホルモンを偽装できるらしい。ただし、ごつい成人男性が着ても意味がないらしく、華奢な体格の美少年が身につけると美少女に早変わり、だそうだ。眉唾なので話半分に聞いていたけれど。

 

 

●   4

 

 少年シャルルはデュノア社社長マルタンの一子である。愛人を侍らせて浮き名を流すマルタンの少年期と姿形がとてもよく似ていて、トゥールーズのリセ(高校)に通い、グランゼコールを目指す秀才だそうだ。ガリ勉かと思いきや容姿端麗弁舌さわやかな美少年で、交際相手に困ったことがない。彼女をとっかえひっかえする癖、一度も成績を落としたことがなく、しかも親が勝手に決めた許嫁までいるという絵に描いた餅のような生活を送っていた。シャルルは双生児でシャルロットという姉がいる。シャルルはマルタンとフランス政府の密命を受け、TSスーツを着用しシャルロットに化け、出張中のSNNスタッフに接近したようだ。

 当時、フランスはIS<ユーロ・ファイター>の魔改造に専念していた。少年シャルルは持ち前の話術でC・Cなる女性スタッフをたぶらかした、と彼女は言う。私怨と欧州の生産拠点を入手すべく敵対的TOB(株式公開買い付け)を仕掛けているのだと口にしたが、さすがに法螺だろう。携帯端末がご臨終してしまった今、私の拙い業界知識では知る由もなく調べることもできなかった。

 私はこっそり卓上扇風機に手を伸ばす。

 

「好色少年シャルル君はいったいナニをしでかしたんですか」

 

 面倒くさそうな口ぶりで訊いてみた。

 

「……」

 

 答えないので、気まずさを和らげようと、ずっと温めてきたとっておきの質問を口ずさんだ。

 

「ショタなんですか」

「ちーちゃんがね」即答だ。

「え」

「え?」

「えええっ!」

 

 予想外の反応だったらしく女があわてて口を押さえる。

 私のなかで「ちーちゃん=織斑千冬」という認識だ。どうやら織斑先生は正太郎コンプレックスをこじらせていたようだ。言いふらしてもいいのではなかろうか。いや良くない。実弟の……織斑の半ズボン姿を眺めてうっとりしていたなどと、噂にでもなれば先生の社会的信用は地に落ちるだろう。悪鬼と化した先生は鉢巻きに懐中電灯を差し、五・五六ミリ機関銃を二挺背負い、両手に日本刀を携えて全力で駆けてくるに違いない。

 想像するだけでも恐ろしい。

 

「さて、と。いい加減解放してくださいよ」

「嫌だね」

「私は日本国籍を持つIS学園の生徒です。あなたがおっしゃったようなすんごいスキルや秘密なんか持ち合わせていません」

「へえ……素人ぶるんだ。こんなものを持っているのに?」

 

 彼女は手にした土産袋を振って見せた。

 叔父さんが送りつけてきた土産が入っている紙袋だ。土産物をお裾分けしたという自己アピールのためだけに処分せず持ち帰ったのである。

 私は思わず苦笑した。

 

「使い道ないんで持ってっていいですよ。どうせ友達に配ろうを思っていたんです」

 

 女が紙袋に手を入れた。

 一着の衣服を取り出すと、得意満面になって眼前に突きつける。水着やISスーツと似た意匠の服だ。ブランドは「Dunois」。デュノアの英語綴りである。勝手にビニール袋を破って、私の胸に押しつける。身につけていたISスーツとは対照的に無垢の白だった。彼女は勝ち誇ったように告げた。

 

「ただの高校生が『Dunois』を所持している。この時点で常識から外れている。これ、いくらすると思ってる?」

 

 私は適当な数字を答えた。叔父さんのことだから高くて数千円だろう。妙な特産品ならもっと出すが、今回はまっとうな部類だ。

 

「お小遣いで買えない額だよ」

 

 私は心の底から狼狽した。耳打ちされた金額がべらぼうに高価だったのだ。同時に疑問がわき起こる。身をよじったら、逃げようとしていると勘違いされ体を抑えつけられた。

 

「勘違いですよ」

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 女の目が据わっていた。

 貞操の危機だ。お父さん、お母さん。助けてっ!

 私は女の腕を何度もひっかいた。気が動転して自分が何をしているのかわからなくなっていた。

 

「しゃ、しゃれになってない! 冗談に聞こえない! 助けて!」

「……大丈夫。けーけんないけどお姉さんが優しくひんむいてあげるよ」

 

 私は必死に抵抗した。卓上扇風機の首を握りしめると、腕を振り抜く。

 カン、という音が鳴った。女は鼻血を垂らして仰向けに倒れ、そのままベッドから落下した。彼女のスカートがめくれ上がり、白地のランジェリーが露わになった。何も言ってこないので上からのぞき込む。女は目を回していた。

 胸が上下している。よかった。死んでない。そのままでは悪いと思い、鼻血を拭き取って気道を確保する。

 ほっとすると同時に開かずの扉が開く。

 織斑モドキはどういうわけかIS学園の制服に身を包んでいた。

 平然とした顔で歩み寄り、携帯端末のカメラを向ける。

 

「ち、違う。やってない」

 

 シャッター音が鳴り、織斑モドキがニヤケ面で宣った。

 

「撲殺なう」

 

 

 


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