英雄伝説 斬の軌跡(凍結)   作:玄武Σ

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難産でしたが、閃Ⅲの最新情報のおかげで熱が入り、書きあげられました。
アガットとティータがⅢに参戦するらしく、オリビエ以外で初代からのメンバーが来るということですごい楽しみです。
このままエステルとヨシュアも出てきてほしいですが、果たして。


第25話 再会と初遭遇

危険種の群生地でタツミ達の実力を図ろうとしたリィン一行だが、そこで遭遇したのはナイトレイドのマインであった。しかも、タツミが彼女のビキニを釣り上げるという最悪な形での再会である。

 

「あんた、戻ってきてたのね……」

「ああ。お前らのスカウトは蹴ったけど、その分強くなったつもりだぜ」

 

そんな中で、悠長に会話しているタツミとマインだったが……

 

「……って、それ返しなさい! ついでにくたばれ!!」

「うぇえ!?」

 

そのままパンプキンで発砲してきた。タツミはギョッとしつつもどうにか回避する。

 

「とりあえず返すから、攻撃やめろ!」

 

そしてそのままビキニを投げ返し、マインもそれを受け取る。そしてそのまま装着した。

 

「で、それはそれとしてくたばりなさい!」

「ええ!?」

 

しかし、それでもマインは攻撃を続行、タツミだけでなくリィン達やサヨも驚愕した。

 

「なんで返したのに、攻撃してくんだよ!」

「うるさいわ! あんたが正道からこの国を変えるとかほざいて、そのまま異国の勢力に取り入ったのが気にくわないのよ!」

「なんだよ、その理由!」

 

マインのその物言いに、滅茶苦茶なものを感じてタツミも怒りを露わに戦闘に入る。

 

「タツミ、加勢するぞ!」

「リィンさん、こいつは俺が抑えるから周囲の安全を確保してください!」

 

しかし、いきなりタツミの方から加勢不要の通告が入り、リィンも驚く。

 

「大丈夫です。彼女は大火力砲撃と狙撃特化、今のタツミなら問題はないかと」

 

サヨからの発言で、リィンは少し考える。話を聞けば、エステルの父である剣聖カシウスから直接手ほどきを受けたらしいため、相当な実力を身に着けたのだろう。ひとまず、それを信用して手出ししないことにした。

 

「こんにゃろ!」

 

しかしマインは、パンプキンをマシンガンバレルにして連続攻撃に突入する。

 

「猟兵と同じで機関銃も使えるのか……けど、関係あるか!」

 

想定外の攻撃だったようだが、タツミにとっては関係ない。自分の今日までの訓練は、ナイトレイドを始めとした帝具使いと、対等以上に戦うためだからだ。

そしてタツミは、双刃剣を分割して二刀流に切り替える。

 

「変なギミックね。でも、そんな程度で勝てると思うのが間違いだわ!」

 

しかしマインは構わず、パンプキンを乱射する。だが、タツミは高速で剣を振るい、パンプキンの銃撃を捌き切る。ゼムリアストーンで強化されたタツミの愛剣とイエヤスの形見の剣、それを合わせた双刃剣はパンプキンの威力でも刃こぼれ一つしない。

 

(まさか、パンプキンのエネルギー弾を剣で弾くとはね。武器の強度もそうだけど、あれを見切る動体視力が凄い)

「どうやら、強くなったのは本当の様ね」

「当たり前だろ! そのための修行だったんだからな!!」

 

マインは攻撃を続行しつつ、タツミの戦闘力を冷静に分析、そこについては素直に感心している。しかしその一方で、タツミも冷静に分析していた。

 

(あっちからお褒めの言葉は来たが、このままじゃジリ貧だな。さて、どうするか……)

 

どうにか隙を伺っているタツミだったが、不意にそれは訪れた。

 

「あ……(しまった、パンプキンを乱発しすぎた!)」

「! 今だ!!」

 

精神エネルギーを弾丸として放つため、パンプキンは使用者に激しい消耗を強いる。マインにその兆候を見たタツミは、咄嗟に剣を連結して双刃剣に切り替えた。反撃に入るようだ。

 

「喰らえ、ブレードスロー!」

「はぁあ!?」

 

ブーメランの要領で双刃剣を投げるこの攻撃は、流石のマインも想定外だったらしい。咄嗟に回避するもタイミングが遅れたため、飛んできた双刃剣が掠ってしまう。

結果

 

ポロリッ

「「「「「「あ」」」」」」

 

それがマインのあるものを彼女の体から切り離したのを、一同は見ていた。そして、当の本人は気づいていないのか、水場から這い上がって再びパンプキンを構える。

 

「今のは想定外だったけど、手傷を追わせられなかったのは残念ね。それじゃあ反撃に……って、何で男どもは顔をそむけてるのよ?」

 

そのまま気づかないマインは、タツミだけでなくリィンとヨシュアが顔をそむけていることに首を傾げてしまう。そんな中で、サヨとエステルが顔を赤くしながら必死に伝える。

 

「え、えっと、その……み、水着が」

「今の攻撃でねぇ……」

「え? そういえばなんかスースーするような?」

 

指摘されることでようやく違和感に気づき、片手で自身の胸を触り、ゆっくりと視線を移す。

 

「き、きき……

 

 

 

 

 

 

 

きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

そして絶叫した。

 

 

 

 

 

しばらくして

 

 

「全く……ぎゃふんと言わすはずがなんでこんな」

「その、さーせんでした」

 

着替えながらぶつぶつと文句を言うマインの後ろには、顔をぼこぼこにはらしたタツミの姿があった。そしてそのそばにはリィンとエステルが顔に引っかき傷を作っている。

あの後、どうにかマインをなだめようとするも、そのまま馬乗りされてタコ殴りを受けたらしい。流石に見過ごせないとリィンもエステルと二人でマインを止めようとするが、抑える最中に顔をひっかかれた。憤怒と羞恥に燃える乙女の恐ろしさに、同性のエステルですら戦慄していたという。

そんな中、どうにか場の空気を和らげようと、アリサが話題を振る。

 

「それで、あなたは何でここにいるのかしら? 少なくとも任務じゃなさそうだけど……」

「今更あんたたちに黙るのもアレだからバラすけど、修行よ。帝国の新設部隊に対抗するためと、新しいメンバーと親睦を深めるため」

 

意外にもあっさりと事情を話したマイン。しかし案の定というべきか、マインの方からも質問が来る。

 

「それでこっちからも質問だけど、この間に帝都で空飛ぶ船が複数も出てきたとか聞いたわ。ぶっちゃけ、あんたらの大陸から干渉しに来たでしょ」

「ああ。向こうの王族を始めとした政治関係者が、ようやく動き出したんだ」

 

こちらとしても隠しておく理由はなく、そしてできればナイトレイドにも理解はしてほしいので話すことにした。

 

「まあわざわざそこを気にするところからして、やっぱり僕たちの干渉については反対のようだね」

「当たり前でしょ。いきなり外部勢力が介入してきて、先の不安とかいろいろと考えるに決まってるわ」

 

やはり今のところ理解は示してくれないようだが、マインの言うことも尤もだ。下手をしてその外部勢力の傘下にくわえられ、最悪今以上に抑圧された生活が待っている可能性、国の未来ということからそういった外交問題も少なからず考えていたようだ。

しかし、だからといって引き下がるわけにもいかない。ヨシュアはどうにかマインを論破できないか考えを巡らせ、アリサも同様に考えていた。

 

「!? みんな、下がって!!」

 

しかし直後、ヨシュアは何かさっきのようなものを感じて周囲に退くよう促す。元暗殺者の彼の判断ということもあり、リィン達は揃ってその場から飛びのいた。

 

「……どうやら、ますます強くなったみたいだな」

 

直後、マインのそばに何かが着地したと思いきや、聞き覚えのある少女の声を発する。黒い長髪に黒い服、全身を黒一色にしたことで映える白い肌と真っ赤な瞳の少女。そう、アカメであった。

 

「アカメ、君だったのか。とりあえず、久しぶりでいいかな?」

「まあ、そうだな。近くで食料を取っていたら、マインの悲鳴が聞こえたんだ。何事かと思ってきたら、お前たちがいたというわけだ」

「あ、えっと……」

 

アカメが現れた理由が語られ、その原因となってしまったタツミはバツの悪そうな顔をしている。ふと、そのタツミにアカメが気付いた。

 

「お前……こっちに戻ってたのか。しかも、お前も以前よりはるかに強くなっているみたいだ。そっちも、すっかり健康そうで何よりだ」

「あ、まあな。帝具使いと帝具なしで戦うために、修行したもんでな」

「向こうの強者や技術は、いい刺激になりましたよ。あと、気遣いありがとう」

 

しかし、アカメはまずタツミの実力を分析して称賛、サヨに対しても気にかけている様子だった。するとマインがそこに不満をぶつけてきた。

 

「ちょっと、アカメ! あんた、こいつは一応帝国の外の勢力に就いたんだから、敵みたいなもんでしょ!!」

「だが、はっきりと敵対する様子はまだない。それに、まだ仲間がいる可能性もあるから下手に敵対すると不利だろう」

「ぐっ……」

「けど……」

 

アカメの方が正論で、流石にマインも黙るしかなかった。だが、だからと言って完全にこちらに気を許したわけではないらしい。

 

「だからと言って信用しすぎるのもよくない。和平を口実に、彼らの所属勢力に利用されかねないからな」

「って、そりゃねえだろ! 俺は帝国や村を救うカギが向こうにあるって信じて、遊撃士になろうとしたのに」

「その平和が、帝国側の望む形と違ったらどうだ? 実際にゼムリア大陸に行ったことのない私たちには、信じろという方が無理だ」

 

タツミも反論するが、アカメは正論を更にぶつけてくる。そして、新たに事実を伝えてきた。

 

「先日、お前たちの大陸の犯罪組織がアジトを強襲した。身喰らう蛇と名乗っていて、内一人がリィンに因縁があると話していた」

「な!?」

 

まさかの事実に、驚愕する一同。しかし、アカメは構わず続けた。

 

「流石にお前たちとあいつらがグルという線はないだろうが、狙いが帝具の完全破壊と言っていた。帝具は元が国家安寧のための武器だから、革命後も国を守るために必要な物だ。そういうこともあって、私たち全員がお前たちを警戒している状況でもあるから、それは理解してほしい」

「……そうか。なら、この場での説得はあきらめるよ」

「でも、俺たちはお前たちに理解してほしいからな。また、改めて話をしようと思う」

 

そしてヨシュアとリィンがそのことを伝え、一同は去ろうとした。

しかし直後……

 

 

 

 

「A,Agigiiiiiii!」

 

何やら雄たけびのようなものが聞こえたので、視線を移す。すると近くの崖から、何かが下りてきた。

 

「こいつは?」

「この辺りを縄張りにする特級危険種。その群れだな」

 

リィンの疑問に対し、アカメが簡潔に説明する。人間より一回り大きなトカゲで、二足歩行だが前かがみになっている体勢をしていた。強靭な二本足に対して小型になった腕のような前足、鋭い牙と完全に肉食のそれであった。

 

「あなた達の言い分はとりあえず分かった。でも、ここは共闘した方がいいんじゃないかしら?」

「少なくとも、戦力としては申し分ないと思うけど?」

 

そんな中、臆することなくエステルとアリサが前に出てきて、得物を手に臨戦態勢に入る。同じくリィンとヨシュア、タツミとサヨも武器を手に並んだ。

 

「だな。それに、あれはああ見えて食用になっている危険種だ。今日の夕食にもぴったりだろう」

「アカメの言い分はともかく、流石に今回だけは賛成するわ」

 

アカメもマインも、流石に戦闘慣れしているので有利不利もすぐに判断できる。そのため、二人も帝具を手に戦闘態勢に入った。

ちなみに、アカメはよだれを垂らしながら言っていたので、本気で食べるつもりらしい。

 

「はは。じゃあ、とりあえず行こうか」

「私もタツミも、強くなったところを見せる時ですね」

「みんなやる気だな。なら、行くぞ!」

 

アカメの様子に軽く笑いながら声をかけるヨシュア、待ってましたと言わんばかりにやる気満々のサヨ。そんな二人にリィンも負けてられないと思い、真っ先に危険種の群れに突撃していった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

同時刻・ロイド率いる支援課メンバー

 

「それじゃあ改めて、特務支援課の再集結ってわけだな」

 

ロイドが改めて口にすると、そのまま集まった支援課メンバーに視線を移す。

最初から同行していたエリィ。エプスタイン財団から出向してきたティオ。猟兵から警備隊に転向、そこをクビになってから支援課に配属になったランディ。いったん装備の強化に離れた、警備隊の出向要員ノエル。元不良チーム・テスタメントのリーダーで実は星杯騎士の守護騎士ワジ。厳密には支援課メンバーではないが、元暗殺者で劇団の人気スターでもあるリーシャ。

全員がかつてマリアベルの一族、クロイス家の『碧き零の計画』阻止、そしてその後のクロスベルの解放に尽力した、まさに英雄と呼べるチームである。

そんな中、ふいにランディがある話題を上げる。

 

「ロイド、お嬢から聞いたがなんかトンデモねぇ姉ちゃんに惚れられたそうだな」

「ああ。エスデスさんか……」

 

ランディに振られた話題に、思わずどんよりした空気を醸し出してしまうロイド。それを聞いた支援課のメンバーは、口々にその感想を述べる。

 

「セリューさんに輪をかけて過激な戦闘狂で、しかも戦争狂でもあるとか……」

「私も最初、潜入した時に感づかれた時は驚きましたよ」

「伝説の凶手である銀を相手に……映像で見た戦闘力も相まって、中々とんでもないね」

「というか、ロイドさんはまたやってしまったわけですか」

 

エスデスのぶっ飛び具合に戦々恐々している中、ティオがロイドの弟貴族ぶりについて言及。当の本人はそれに反論する。

 

「ティオ、あれは不可抗力なんだって。それに、エスデスさんに関しては本当にいい迷惑なんだよ」

「なんかその言い方だと、他の女性はいいみたいに聞こえるんですが?」

「いや、それはないって! 俺はもう、エリィ以外とそういう関係は……」

 

しかしそんな中、ロイドの足に何かがすり寄る感覚がしたため、視線を移す。

 

「なんだ、こいつ? 猫?」

「妙に人懐っこいわね」

「ちょっと待ってください、調べてみます」

 

こんな危険種の群生地に、人畜無害そうな猫が現れたのだ。しかも警戒心が妙に薄いのだ、疑問に思うだろう。

そんな中、ティオが魔導杖を構える。アナライザーという解析機能を使ったのだ。

 

「現地協力者のおかげでできた危険種のデータベースによると……ありました。マーグパンサーという危険種のようですが、子供の内は警戒心が薄いうえに人懐っこいから、ペットにもできるそうですね」

「なるほど、つまりまだ子供か。親か飼い主が近くにいるのか……!?」

 

しかし、途中でしゃべるのをやめてしまうロイドは、いきなり顔色を変えた。

 

「みんな、こいつから離れろ。コイツから急に殺気が」

「「え?」」

「ロイドさんの言うとおりです。この子、何かおかしいです」

 

ロイドの尋常じゃない様子とそれに同意するリーシャ。気配の察知に特に疎いであろうエリィやティオでも、異常であることは一目瞭然なので、ひとまず言うとおりにする。すると、いきなりマーグパンサーの体が煙に包まれ始めたのだ。

 

「へ~。警戒心とかそういうのは、及第点ってとこかしらね」

 

いきなり女性の声が聞こえたかと思うと、煙の中からマーグパンサーの代わりに一人の女性が入った。赤っぽい茶髪と、口にくわえた棒付きキャンディーが特徴的だ。

 

「な、君は一体?」

「まさか、さっきの危険種、なの?」

「うん、そうだよ」

 

突然の事態に驚くロイド達に、あっけらかんとした様子で疑問に答える女性。いったい何者なのかと思っていると、直後の彼女の一言でその正体が察せられた。

 

「ブラートから聞いた見た目と合致してるからもしやと思ったけど、貴方がロイドで間違いないみたいね」

「ブラート……じゃあ、君はナイトレイドの!?」

「そ。私はチェルシー、最近ナイトレイドに配属になった革命軍のメンバーよ」

 

まさかのナイトレイドとの接触に、思わず驚く支援課メンバーたち。すると直後に何者かの気配を背後に感じ取った。直後に何者かが襲撃、槍を振り下ろしてきた。

 

「うぉおらああ!!」

 

すかさずランディがスタンハルバードを振るい、背後からの襲撃者を迎撃する。しかし、元猟兵のランディの必殺の一撃のはずが、その襲撃者は手にした槍で防いでしまったのだった。

 

「ロイドの仲間だとは思ったが、粒ぞろいみたいだな」

 

現れたのは、一度見たら忘れられないデザインの鎧を纏い、巨大な槍を携えた戦士だった。ロイドも当然知っている、あの男だ。

 

「試すなんて人が悪いじゃないか、ブラート」

「お前さんの信念と、それを実行する仲間たち。揃って力がちゃんと伴っているか気になってな」

 

案の定、インクルシオを纏ったブラートであった。どうやらチェルシーと揃って、特務支援課の面々を試すのが目的らしい。

そしてブラートはインクルシオを解除し、そのままロイドに話しかける。その際、ノエルや来たばかりのランディたちはハンサム顔とそれに合わないリーゼントの組み合わせに、つい呆然とする。

 

「無事みたいだが、何よりだ」

「ありがとう。でも俺たちもやるべきことがあるから、そう簡単にくたばるわけにはいかないさ」

 

素直に自身の心配をしてくれたブラートに礼を言いつつ、決意のこもった眼をしながら応えるロイド。そんな中、急にチェルシーが声をかけてきた。

 

「へぇ……その鎧が噂の帝具ってやつの一つか。イカすデザインだな」

「お、こいつの良さがわかるか。なんなら今からでもこっちに来るか?」

「ランディさん、念のため言っておきますけどやめとくべきですよ」

「わかってるっての、ティオすけ。そういう血みどろが嫌で、猟兵をやめたんだからな」

 

さっそくランディがブラートと気が合っているような雰囲気を出すが、ティオの忠告を聞くまでもなくナイトレイド入りは拒むつもりである。

ランディは本名をランドルフといい、西風の旅団のライバルである最強猟兵団の片割れ”赤い星座”の団長である《闘神》バルデル・オルランドの息子であった。しかし、嘗ての任務で立ち寄った村で親しくなった少年が、作戦の一環で彼を含めた村の全住民が犠牲となり、それをきっかけに団を脱走。クロスベル警備隊に入るも猟兵時代のトラウマから標準装備のライフルが使えず、それを不快に思った当時の警備隊司令官にクビにされた。そこを現指令官で当時の副指令ソーニャの勧めで、特務支援課に配属となった。

ちなみにソーニャはセルゲイの元妻だが、仕事上の都合での離婚であって決して不仲ではない、というのは完全な余談だったりする。

 

「さて。初見の奴もいるから自己しょ……」

「ブラート、名乗ったあたしに言える義理でもないけど、なれ合いは不要よ。君たちの目的は、ボスやブラート達ナイトレイドの仲間から聞いたよ。帝具使いの犯罪者の手がかりを追ってきたとか、その為に帝国の現状を平和的に解決しようとしてるとか、色々とね」

 

チェルシーはすでにこちらの事情は聞いているらしいが、そこから続けざまにあることを告げた。

 

「この際だからはっきり言っておくけど、甘すぎるよ君たち。この国の現状は、千年の歴史による腐敗の積み重ね。そこに付け入って甘い汁を吸う、オネスト大臣を始めとした悪徳政治家と軍や警備隊。そんな連中に取り入って、無実の民に対しての暴虐を楽しむイカれた貴族。先にこっちに来た君は、嫌というほど見てきたでしょ」

「ああ。だからこそ何とかしようと、向こうの王族や政治家たちと協力を……」

「そこが甘いって言ってるのよ」

 

反論しようとするロイドの言葉を折って告げるチェルシーと、その様子を静観するブラート。いきなりの事態に困惑しながらも、ひとまず話を聞いてみることにする。

 

「改心の余地もなく悪事を重ねた連中が、今の帝国を動かしている。もう、一度外から破壊しない限りやり直せない領域まで入っちゃってるのよ。そんな中で平和的解決なんて無理難題に挑もうとしたら、命がいくつあっても足りないわよ」

「おいチェルシー……すまねぇな。こいつ、この間も仲間内で甘すぎる云々言ってていがみっちまって」

「まあ、殺し屋なんてしている以上は持っておく認識ではあるね。気にしないでいいよ」

 

チェルシーの物言いに対して、ブラートが代わりに謝罪、ワジがそれに受け答えする。

 

「それがわかったなら、革命が終わるところを指咥えてみてなさい」

 

しかしチェルシーはそんな様子を顧みる様子もなく、去ろうとする。ロイドはふと気になって、チェルシーに声をかけるのだが……

 

 

 

「君、まさかとは思うけど俺たちを心配してくれてるのか?」

 

ロイドから思わぬ返答が返ってきたために驚くチェルシー。それにはブラートや、エリィ等支援課のメンバーも驚く。

 

「さっきから俺たちに忠告する時、目に何やら哀しみの様な物をかすかに感じた。加えて、明らかに俺たちをこの国から遠ざけようという発言。ここから察するに、君は最近に仲間の死か何かつらい目に遭った。それで、俺や他のナイトレイドのメンバーに同じ目に遭ってほしくないから、わざと突き放すようなことを言っているんじゃないか?」

 

警察官という職業上、いろんな人間を見てきたロイド。そんな彼だからこそ、表情や感情の機微に気づけたのかもしれない。そしてその問いかけにチェルシーは動きを止め、少しの時間が経過する。そして振り返って告げた。

 

「その辺りは想像に任せるけど、少なくとも私の精神衛生上のためにも、周囲にもっとしっかりしてほしいってのはあるわね」

 

そうつっけんどんな物言いをするチェルシーだが、若干顔が赤いため少なくとも間違いではないようだ。しかし構わず、ロイドは告げた。

 

「どちらにしても君の言うとおり、俺たちは甘いのかもしれない。事実、この国で暴虐の限りを尽くす人間はその子供の世代にもなると、善悪の区別もつかない性格に育てられている。そんな連中を私欲のために裁こうとしない上層部を相手に、平和的解決なんて無理な話かもしれない。でも、それでも俺たちは正義を、正しいと思えること事実の模索とそれを実践することを忘れちゃいけないと思うんだ」

 

それを告げたロイドの発言に、思わずチェルシーは聞き入ってしまう。彼の目に、自分たちとは別の意味での強い意志を感じ取ったためだろうか。

 

「今から話すのは知り合いの受け入りなんだが、正義は個人の価値観で変わってしまうし、人によっては綺麗言と同義に捉えてしまう。しかも、今の帝国では正義そのものが形骸化してしまって意味をなさない。でも、それでも『人は正義を求めてしまう生き物』だそうだ」

「正義を、求める?」

「ロイド。聞いているはずだが、俺たちは自分を正義と認めるわけには……」

「わかっている。それを踏まえたうえでの話だ」

 

特務支援課が設立されて間もないころ、マリアベルの父で先代IBC総帥のディーター・クロイスが話したこと。ロイドはそれをチェルシー達に話し、エリィ等支援課メンバーもそれを見守る。

 

「その人曰く、正義は人が社会を信頼する”根拠”だかららしい。もし法が形すら無い国があれば犯罪は横行し、誰も街を出歩かずに社会生活そのものが成り立たなくなる。俺たちの故郷クロスベルも、この国ほどじゃないが目に見えないところで犯罪が横行する不安定な場所だった」

 

クロスベルの不安定な自治とそれによる法の歪み、方向性は違うが帝国と同様に正義が形骸化していた。そんな中でも困難に立ち向かえたのは、後にディーターとは敵対するものの彼が伝えたこの話があったからだ。

 

「帝都市民の中には、法で裁けない悪を裁くことからナイトレイドを信奉する者もいると聞いた。殺しを正義とするのは君たちは認めたがらないだろうし、俺も個人と立場の双方で認めたくはないが、彼らはナイトレイドを自分たちを守る正義の味方と見ているんだろう。正に、その事実の現れじゃないか?」

 

ロイドのその言葉を聞くも、チェルシーもブラートも表情を崩さない。しかし、真摯にその話を聞いているようには見えた。

 

「だから俺たちは君たちナイトレイドがどう言おうと、俺たちなりの正義でこの国に抗う。そして邪魔しようっていうなら、武力行使も厭わない。それだけは胸に刻んでくれ」

「……どうやら、梃子でも動かないみたいね。一応その話は覚えておくけど、完全に受け入れるつもりはないから」

「俺も足を洗うつもりはないが、その意味は忘れないでおこう。お前らも、嫌な思いさせて悪かったな」

「大丈夫です。正義に限らず、価値観で物の見方は変わるものですし」

「そういうのわかんねぇと、警察官なんてできねえだろうしな」

 

チェルシーは己の意志を曲げずにいながらもロイドの言葉を受け入れ、ブラートもあらためて一行に謝罪する。しかしリーシャモランディも気にしている様子はなく、黙っていた残りのメンバーも同じのようだった。

そしてそのまま別れに入ろうとするが……

 

 

ドシンッ!

 

「な、何だ!?」

 

何か重たいものが落ちてくる音がしたのでその方を向くと、奇怪な姿の生物がいた。

 

「何ですか、これ? まさか危険種というこの大陸の魔獣??」

「だと思うが、見たことねぇタイプだな」

 

ティオの疑問に答えようとするブラートだが、確証の得られない答えしか出てこない。

それもそのはずだ。現れた危険種は人間の様な体躯をしているが首が胴に埋まっており、体の各部に金属装甲があったりや数字が刻み込まれている。野生の生き物には到底見られない、奇怪な姿をしていた。

 

「数字が刻まれているということは、どこかの施設から逃げ出した実験生物あたりか?」

「どちらにしても、敵意はあるみたいね」

「みたいだな、お嬢。しかもまだ気配を感じやがる」

 

ロイドがその正体を察する中、ランディが告げた。しかもそれに合わせて、気配の元と思しき同型の危険種が数体出現した。いずれも装甲の個所や刻まれている数字など、個体ごとに微妙に異なるものがあるため、ロイドの推測に間違いはないようだ。

 

「ひとまず、この場を切り抜けるためにも共闘と行くか」

「ああ。なんだかんだ言って、ロイドの戦いを見るのは初めてだから、実は楽しみでもあるんだよな」

「余裕そうだな。けど、それでこそ頼りがいがあるものだよ」

 

言いながらロイドはトンファーを構え、残りのメンバーも得物を構える。ただ一人ワジは格闘術で戦うため構えるのは拳だが、それでも守護騎士に名を連ねるだけの実力は本物だ。

 

「チェルシー、お前は逃げてボスたちにこのことを伝えてくれ」

「オッケー。あたしも非戦闘型だし、その方がいいわ」

 

ブラートに告げられたチェルシーは、そのまま自身の帝具ガイアファンデーションでマーグファルコンという鳥の危険種に変身、飛び去って行った。

 

「変身したものの性質までコピーできるのか。つくづく恐ろしいものだな」

「ああ。だが、戦闘技術とかはチェルシーに由来するから、直接の戦闘は向かねえらしい」

 

ロイドが帝具の力に戦慄するも、ブラートがフォローを入れる。そしてブラート自身も戦闘に入ろうとインクルシオの装着準備に入る。

 

「インクルシオぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

そして叫ぶと同時にブラートの体にインクルシオが装着され、手には副武装ノインテーターが握られる。

 

「それじゃあ、ひと暴れするか」

「ああ……みんな、行くぞ!!」

『おお!!』

 

そして、特務支援課&ブラートによる共闘が始まった。




次回から戦闘開始。あの新型危険種が本編より先に登場しましたが、次回で触れる予定です。そしてその正体からロイド達がとどめ刺すのはNGかもですが、どうなるかは見てのお楽しみということで。
そして、そろそろあれを動かそうかと。

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