英雄伝説 斬の軌跡(凍結)   作:玄武Σ

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本編より先に完成したため、投降。
タツミたちの遊撃士修行をどうぞ。


タツミのゼムリア大陸紀行
タツミのゼムリア大陸紀行 1 エレボニア帝国・湖畔の町レグラム


「さて。まずはこの町でそなた達を預けようと思う」

 

ゼムリア大陸にやって来てタツミとサヨが最初に訪れたのは、カレイジャスの艦長ヴィクター・S・アルゼイドが領主を務める「湖畔の町レグラム」だ。レグラムは湖畔にあり霧が立ち込める幻想的な雰囲気の町で、エイドス信仰がもたらされるまで帝国各地で息づいていた精霊信仰の名残が各地に残っていた。

この土地には他にも魔物や妖精に関するおとぎ話や伝承が多く残っており、その中でも特に有名な伝説があった。

「槍の聖女リアンヌ・サンドロット」と呼ばれた、伯爵家出身の女騎士の伝説である。約250年前の「獅子戦役」の終結に多大な貢献を果たした救国の聖女で、武勇に長け、特に「馬上槍(ランス)」の扱いは神がかっていたという。《鉄騎隊》と呼ばれる一騎当千の勇士たちを率い、後に獅子心皇帝と呼ばれるドライケルス皇子と戦乱の終結に大きく貢献したという。しかし戦後に彼女は謎の死を遂げ、サンドロット伯爵家も没したという。この槍の聖女と大きく関係のある人物が結社に属しているのだが、今は置いておこう。

何故この街にタツミたちを降ろしたのかというと、単に艦長の領地だからというわけではない。

 

「ラウラ、トヴァル殿、サラ殿、戻ったぞ」

「お帰りなさいませ、父上」

「その二人が、話に聞いていた志願者ですか」

 

ヴィクターを出迎えたのは、青い髪をポニーテールに束ねた、凛とした女性。金髪に白いコートを羽織った気さくそうな青年、赤っぽい紫の髪のスタイルの良い女性の三人だった。

三人はタツミたちに近寄るなり、自己紹介を始める。

 

「リィンの学友、ラウラ・S・アルゼイドだ。アルゼイド子爵家の次期当主で、同時にアルゼイド流の師範代でもある。よろしく頼む」

「遊撃士のトヴァル・ランドナーだ。お前達の指南役だから、まあよろしくな」

「同じく遊撃士で指南役の、サラ・バレスタインよ。リィン達の学生時代の担任でもあるから、よろしくね」

 

三人とも、リィン達とは縁のある人間だ。学友にしてクラスで最強のラウラ。リィンと共に内乱鎮圧に貢献し、エステルも帝国を訪れた際に世話になったトヴァル。そして史上最年少でA級遊撃士になり、一時期トールズ士官学院で教師を務めていたサラ。三人とも、戦闘力も人格も優れた人物であった。

 

「はじめまして。向こうでリィンさんに助けられた、タツミです」

「同じくサヨです。よろしくお願いします」

 

タツミたちも挨拶を返す。すると、ヴィクターが再度口を開いた。

 

「さて。まず彼らは事前連絡の通り、リィン達の任務中に救われ、話を聞いて遊撃士に興味を示した。そういう訳だから、トヴァル殿たちに指導してもらいたいわけだ。ラウラも、出来れば協力してほしい」

「父上、お任せを。未来ある若者達を導くことも、これから私達に必要なことです」

「例の帝国、胸糞悪すぎるから少しでも希望の種を作らねえとな」

「そういう訳だから、お任せください」

 

三人とも、指導に乗り気のようだった。ちなみに、サラは渋いおじさまが好みの男性らしく、ヴィクターはド直球なので地味にウィンクしている。

 

「さて。私は皇帝陛下やオリヴァルト殿下に報告に行くから、後のことは頼む」

「はい。お任せを」

 

そのままヴィクターはカレイジャスに戻り、帝都ヘイムダルへと向かって行った。

 

「さて。では改めて……」

 

カレイジャスが飛び去ったのを見た後、ラウラはタツミたちにまた向き合って、宣言した。

 

「霧と伝説の町レグラムへようこそ。アルゼイド家の者として、歓迎しよう」

 

 

ラウラに連れてこられたのは、アルゼイド家の屋敷だった。最初、タツミたちはアリアに騙されたことで貴族の屋敷という物に抵抗を感じていたが、リィンの仲間の実家ということでとりあえず入っても問題ないことは理解した。

まずは長旅の疲れを癒すために療養を優先、タツミの訓練やサヨのリハビリは翌日となった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「さて。それでは、まずはそなたの腕前を見せてもらおうか」

 

翌日、ラウラに連れてこられたアルゼイド流の道場にて、タツミは彼女と手合わせをすることとなった。ラウラの得物は身の丈ほどある大剣で、凄まじい重量であった。女性の細腕でこれを持てる辺り、ラウラの実力がいかに高いかが伺える。

 

「じゃあ、俺もちょっとやらせてもらいますか」

 

そう言ってタツミは、得物の片手剣を構える。故郷で危険種を相手に修行していたころから愛用している、年季物だ。

まず先手を取ったのはタツミだった。素早い踏み抜きでラウラに飛び掛かる。しかし、ラウラはそれを紙一重で躱し、その動きを利用して横薙ぎに剣を振るう。だがタツミも咄嗟に飛びのいて回避、そのまま隙を突こうと剣を手に再び飛び掛かった。

 

「なるほど、速さを主体とした我流剣術か。しかも、相当な鍛錬を積んでいると見た」

 

ラウラは素直にタツミを褒める。しかし、ラウラはそれも容易く回避し、剣脊でたたきつけて来た。それを喰らってタツミは大きく吹き飛び、壁に叩き付けられる。

 

「いてて……でもまだだ!」

 

しかしタツミはすぐに立ち上がり、再びラウラに向かって行く。そして今度は高く跳躍し、空中からの縦回転切りを放つ。

 

「見事な芸当だな。これは迎え撃たねば、戦士として失礼だろうな」

 

ラウラはタツミの技を見て感心し、本人が呟いたように回避せずに剣を構えたまま佇んでいる。そして、タツミの剣が迫ってきた瞬間、剣で横薙ぎに払い、タツミの脇腹に剣脊を叩きつけた。

 

「うぉおおおおおおおお!!」

 

そのままラウラはタツミを床に叩きつけ、決着をつけてしまった。

 

「あんなギリギリのタイミングでって、マジかよ……」

 

床に倒れ伏したタツミは、痛がってはいるが気絶しておらず、ラウラの圧倒的な強さに目がいっている。

 

「まだ対人戦に慣れていないのか攻撃の仕方は単調だな。もし向こうでそのまま軍に入っていたら、戦う相手次第では命はないだろうな」

 

タツミはラウラの評価を聞き、少し顔を暗くする。故郷で危険種と戦い、二人の幼馴染と高めあった剣術を否定されたようなものだからだろう。

 

「だが裏を返せば、まだ伸びしろはあるということになる。それに単純な筋力や動体視力は既に準遊撃士のレベルは超えているから、それでこの伸び代は先が楽しみだな」

 

しかし、それでいてタツミの長所も述べ、少し嬉しそうな笑みをラウラは浮かべていた。先ほどの評価の直後でこれなので、タツミはつい呆けてしまった。

 

「どうしたのだ? せっかく褒めたのだから、素直に喜べばいいのではないか?」

「えっと……ありがとうございます」

 

ラウラはタツミに声をかけながら手を差し伸べ、タツミもラウラに手を貸されながら起き上がり、礼を言う。

 

「では、今より10分ほど休憩とする。タツミも生徒達も、しっかり体を休ませるように!」

「「「「「はい!」」」」」

「は、はい」

 

ラウラが傍で鍛錬をしていた門下生達に告げると、大きな声で返事が返ってくる。タツミも遅れて、返事を返した。

 

「なかなか面白い技をお使いですな」

「あ、クラウスさん」

 

壁にもたれて休んでいるタツミに声をかけるのは、アルゼイド家の執事兼道場の師範代クラウスであった。

 

「俺のいたところは辺境で大型の危険種、こっちで言う魔獣が多かったんで、特訓してたら自然にこうなった感じですね」

「ほほう、まさに実戦で鍛えて形にしたわけですな」

 

タツミの剣術の起源を聞き、クラウスも感心している。そんな中、ある提案が出される。

 

「それでは、休憩を終えたら私とも一戦交えてもらえませんでしょうか?」

「はい! 今以上に強くならないといけないので、どんとこいです!!」

 

こんな具合で、タツミの修業は順調に進んでいく。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

同時刻 遊撃士協会レグラム支部にて。

 

「以上が、遊撃士の歴史と業務内容だ。次は、導力革命と戦術導力器をはじめとした実用化されている導力器について解説するぞ」

「はい。それじゃあ、お願いします」

 

サヨはトヴァルから座学を受けていた。まだ体力が回復し切っていないため、実践訓練は後回しとなっていたためだ。

導力革命の概要説明をあらかた聞き終えたサヨは、強い関心を持っていた。

 

「すごいですね。私達のいた帝国でも、ここまでは発展していませんよ」

「これもひとえに、古代ゼムリア文明の恩恵ってわけだ」

 

現在の導力器の原典となった古代遺物。それを解析して現代で再現した導力器が使われてから50余年、大陸の科学技術は急激な発展を遂げた。高層ビルが建ち、飛行艇や鉄道、自動車といった移動手段、遠距離への通信技術。サヨが帝都に訪れた時に見た物を超える高度な文明が存在していたのだ。

 

「話に聞いただけですけど、帝具の存在以外にこういった技術は用いられていないようですね」

「だな。恐らく、帝具の存在に満足して技術的な躍進を止めてしまったんだろうな」

 

帝国は建国してから千年経っているが、にも拘らず大規模な技術進歩が見られない。導力器の技術は七曜石という特殊なエネルギー源があってこそだが、それでも内燃機関すら見られていないのがいい証拠だ。帝国が帝具を生み、それで今の情勢を維持した結果、外交や化学、考古学の調査がストップしたためと思われた。

 

「まあ、まだ掴めてないだけで裏で研究とかはしてる可能性もあるが、それを民生に還元する気は無いだろうな」

「……それも、腐敗とそれを増長する大臣の影響でしょうね」

「それで得られる利益が、無いところから搾り取るよりもデカいことに気づかないってことだろうな。もしくは……」

 

トヴァルが帝国の技術的な問題やそれに伴う帝国側の利益について考えていると、何かを言おうとしてそのまま止めてしまう。

 

「もしくは……何なんですか?」

「あまり考えたくないが、ただ利益を得ることで満足できない可能性もあるな」

 

首をかしげるサヨに対し、トヴァルが間を置いて返事をする。

 

「帝国の現状を考えるに大臣が、高い利益を得るより暴虐の末に搾り取った利益でないと満足できないって可能性だ」

「!?」

 

アリアも趣味で他者への暴力とその末の殺害を繰り返し、警備隊長のオーガも権力を振りかざして楽しむのを一般市民を陥れるという形で実践しているあたり、大臣本人もそうだという可能性は高かった。

 

「人の苦しむさまを見て楽しむ、そんな悪辣な嗜好の悪党は少ないながら確認されている。君達のいた帝国は、その数も質も比べ物にならないのは、諸悪の根源がその中でも最上級って可能性があるわけさ」

「……だとしたら、政治に関わるか外部から武力で打破するしかない気もしますね」

 

サヨはトヴァルの予想を聞き、遊撃士になって本当にこの現状を打破できるかが心配になってしまう。しかし、それを払おうとトヴァルはあることを教えた。

 

「だけど、俺らの方も色々考えはあるぜ」

「? 何をするんですか?」

「このエレボニア帝国と、隣国のリベール王国からそれぞれ代表を送り、帝国のお偉方と対談する計画があるんだ」

 

トヴァル曰く、帝具の危険性とそれを用い、腐敗政治を力ずくで維持する大臣がゼムリア大陸の存在を知れば、侵略を仕掛けてくる可能性があった。そこで先にこちらがコンタクトを取り、帝具の明け渡しの為の交渉を行うというのだ。ツァイス中央工房、略してZFCによる導力技術とそれを持ち出した先代女王アリシアの巧みな交渉術。これが小国でありながらエレボニア帝国とカルバード共和国の二大強国に挟まれながらも、独立を保てた理由だった。アリシア女王の孫である現女王クローディアも、その交渉術を伝授されているためオネスト大臣の知略に対応可能かもしれない。

リベール同様千年以上の歴史を持ち、代々の皇族男児は獅子心皇帝ドライケルスが興したリィン達の母校トールズ士官学院で学ぶのが習わしの、エレボニア帝国。本来、貴族と平民のそれぞれがクラスに分かれながらも同じ学舎で学ぶこの学院で、武と智を養ったエレボニアの皇族も外交に置いて高い素養を持っていると言えた。

 

「なら、まだ希望が持てるかもしれません。そのためにも、今は学ばないといけませんか」

「そういうことだな。午後からはサラにリハビリを頼んでいるから、それまでは勉強漬けで行くぞ」

「はい。望むところです!」

 

 

 

 

その頃、手配魔獣の討伐依頼を終えて帰る途中のサラはというと……

 

「そういえば、サヨちゃんは弓が得意らしいけど、剣もある程度は扱えるらしいわね。アリサみたいにアーツ主体なら攻撃補助に十分だろうけど……」

 

サヨの戦闘スタイルについて思案しながら、独り言をつぶやいていた。遊撃士にも剣術使いは多いからタツミは問題ないとして、弓は銃の普及で競技やアリサのような導力式の特殊なものをアーツの補助に使うなどが現状だった。しかしサヨは衰弱こそしていたものの、直接戦闘の方が得意な肉体づくりをしていたため、他に戦闘法が必要と思われた。

当初は銃を持たせようとも考えたが、自分の様に銃と剣の二刀流という特殊な技を教えても、染みついた戦い方もあって上手くは戦えないのは目に見えていた。

 

「そうだ。確かクロスベルに腕のいい武器職人兼メカニックがいるって、前にアリオスさんから聞いたことがあったわ。その人に依頼してみようかしら」

 

そして思いついたと同時に、歩みを速めてレグラムへと向かって行く。若者二人は、遊撃士としての力を身に着けつつあった。




こんな感じで、軌跡シリーズの世界観紹介とタツミを絡めた番外編を不定期で掲載します。

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