英雄伝説 斬の軌跡(凍結)   作:玄武Σ

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エスデス編の決着になります。そして、そして、後半で超展開が……
それでは、どうぞ。


第22話 VS氷の女王 そして英雄の降臨

脱出の一歩手前で、エスデスと戦うこととなったリィン達。しかし、マクバーンとの一騎打ちで消耗&戦術リンクという相手側にとって未知の力があるため、勝算もいくらかあった。

一同はそこに賭けて、妥当エスデスに身を乗り出す。

 

「グラオホルン!」

 

エスデスが技名を叫ぶと、地面から無数の氷柱が生えてリィン達を串刺しにしようと迫る。

 

「孤影斬!」

「百裂撃!」

 

しかし、真っ先にリィンとエステルが技を繰り出して生えてきた氷柱を粉砕する。そしてそこに、すかさずヨシュアとロイドがエスデスに飛び掛かった。

 

「絶影!」

「ブレイブスマッシュ!」

 

高速斬撃と回転タックル、その応酬をエスデスに叩き込むがそれを容易く喰らうエスデスではなかった。

 

「「な!?」」

「いい連携だが、私の帝具をもっと警戒した方が良かったな」

 

エスデスはデモンズエキスの力で氷の壁を出し、それでロイド達の攻撃を防いでしまっていた。すかさず二人は距離を取るが、エスデスはそこに追撃をかけた。

 

「ヴァイスシュナーベル!!」

 

虚空から出現した氷片を無数に飛ばし、ヨシュアとロイドを同時に攻撃する。しかし、二人は双剣とトンファー、二対セットの武器であるため手数に物を言わせてエスデスの攻撃を撃ち落す。

 

「全て落としたか……なら、白兵戦といくか!」

 

そしてエスデスはサーベルを振り上げ、同時に氷で剣を作り出して二刀流の剣術で襲い来る。

 

「く!?」

「どうした、お前の実力はその程度じゃないだろ!」

(予想以上に強い……執行者やプロの猟兵の比じゃない!)

 

二対一にも関わらず、エスデスはロイドに二刀流での連続攻撃を与えて隙を与えない。しかもそれでいてヨシュアが背後から斬りかかって来たのにかかわらず、瞬間的に帝具で作り出した氷片を飛ばして牽制、攻め入る隙を与えなかった。まさに帝国最強であった。

しかし、武術の境地である理に足を踏み入れたロイドが、ここで防戦一方になる筈もなかった。

 

「レイジングスピン!」

「な!?」

 

ロイドは一瞬の隙をついて、必殺のスピンアタックを叩き込む。エスデスは咄嗟に防御した物の氷の剣を砕かれて、懐に一撃を受けてしまった。

 

「今だ!」

 

そしてそこに隙を窺っていたリィンが飛び掛かり、刀を振るう。しかし、エスデスは気配でそれを察知し、またも氷の壁を出して防いでしまった。リィンはそのまま反撃を警戒し、距離を取る。

 

「いいタイミングだったが、もう少し早い方が良かったな」

(攻守供に隙が無い。伊達で最強を名乗っているわけじゃないか)

 

エスデスの帝具、デモンズエキスは強力だ。無から氷を生み出し、自在に操る。エスデスはその好戦的な性格から派手で破壊力のある技を使用する。そのため破壊力重視の帝具に見えがちだが、即席の武器が作れたり防御に用いたりと、その真価は応用力にあった。

 

「せい!」

「はぁあ!」

 

今度はヨシュアが持ち前のスピードで、攪乱しつつ攻撃を加える。エスデスの氷片を飛ばす攻撃を捌きつつ、懐から出した投げナイフで攻撃するがやはり氷の壁を作って防ぐ。その隙をついて一瞬で背後に回って切りつけるが、やはり一瞬で対応して防いでしまう。

 

「まだ詰めが甘いようだ……」

「やぁあああああああああ!」

「な……ぐぁあ!?」

 

しかし、エステルがその一瞬の隙をついて飛び込み、エスデスの鳩尾に強烈な突きを叩き込んだ。しかし直後、エステルの足元から新たに氷柱が生成されたため、咄嗟に飛びのいて回避する。

 

「あそこから咄嗟に反撃するなんて、思ったよりやるわね」

 

エステルもその想像を超えたエスデスの戦闘に関する才能に、思わず感心する。しかし、当の本人はそれを聞いている様子がない。

 

「相対しただけでお前達の強さは大体見抜いたはずだが、その何倍も強い。強いくせに群れると思ったら、そのおかげで何倍も強さを引き上げているという訳か……マクバーンに並んで面白い、気に入った!」

 

その一方で、エスデスもリィン達のチームでの戦闘力に対して興奮気味だ。やはり戦いを楽しむ以外が頭にない模様。

 

「だが、それでもまだ私には届かない。もっと私を楽しませろ!!」

 

そして最後に叫んだかと思いきや、空中からどんどん氷柱が出現し、それがリィン達を目掛けて落ちてきた。

 

「まだこれだけの力を!?」

「ちょっと、出鱈目すぎじゃないかしら!?」

 

あまりの規格外ぶりに、リィンとエステルが叫んで攻撃の回避に入る。しかもそれが地面に突き刺さっても、そこからさらに枝が伸びるように鋭い氷の針が生えてこちらを目掛けて伸びてきた。

 

「とんでもない力の帝具だな」

「それ以上に、使い手の彼女が凄まじいってことだと思うけどね!」

 

ロイドとヨシュアも、伸びてくる針を捌きながらエスデスと彼女の規格外ぶりに悪態をついている。しかもそんな中でも、エスデスは氷片を新たに作り出して連続発射してくる。

 

「ああ、もう鬱陶しい!」

 

そしてそんな中、エステルはリィンの前に躍り出て棒をプロペラの様に高速回転、それで飛んできた氷片を防いでいく。

 

「リィン君、このまま突撃するわよ!」

「了解!」

 

そのままエステルは棒を回転させたまま駆け出し、リィンもそれに続いて走る。更にロイドとヨシュアも一旦距離を取り、構えなおしてエスデスに飛び掛かる。

 

「四人同時と来るか……ならば、こうだ!」

 

エスデスが叫んだ直後、またも氷柱を生やして串刺しに資しようとする。しかし驚くことに、最初に使った氷柱攻撃グラオホルンよりも攻撃スピードが速かったのだ。ここまで帝具による攻撃を乱発しているのに、まだ消耗した様子が見えない。

しかし、四人はゼムリア大陸で武の境地と言われる「理」に踏み入れつつあるため、咄嗟に武器を構えてそれを防いだ。

 

「あれを防ぐとは、やはりお前達も強い。さっきも言ったが、マクバーンに並んで楽しませてくれるな」

「俺達としては、あんたのその強さが心底恐ろしがな」

 

エスデスがリィン達を褒め、それに対してリィン達はうんざりした様子で返す。

 

「このままじゃ先にこっちが消耗してしまう……どうする?」

「……リィン、少し考えたんだがこれはどうだ?」

 

ここまで戦って今だ勝ち目の見えないエスデス。そんな彼女にどう対処すべきかリィンが考えていると、ロイドからある提案がなされた。

 

「コンビクラフト、いわゆる合体技を使うんだ」

 

コンビクラフト。高い信頼度を持った使い手同士が、連携で放つクラフトだ。習得するのは容易ではないが、強力な力である。

 

「戦術リンクで呼吸を合わせれば、俺とリィンでも即興でコンビクラフトが撃てるかもしれない。賭けになるが、やるか?」

「どのみちやらないと生きて帰れないんだ。成功させてみせる」

「よし、ここで一気に決めましょうか」

「だね」

 

このコンビクラフトという賭けにすぐに乗るリィン、そしてそんな二人の意思を組んだエステルとヨシュア。まだ心は折れていない。

 

「まだ何かするつもりのようだが、果たしてどれだけもつかな!」

 

そしてエスデスも詳細は知らないが、四人の折れていない心に期待し、再び戦闘態勢に入った。そしてエスデスが再び氷塊を四人に飛ばし、それを捌きながらリィン達もとびかかって得物をふるう。

 

(まだだ、もう少し攻撃が緩いタイミングがあれば……)

(だけど、ここまでやれば多少は疲労も溜まっているはず。どこかに隙はあるはずだ)

 

リィンもロイドも、エスデスの攻撃を捌きつつこちらからも攻撃し、コンビクラフトを放つための決定的な隙を探す。

 

「それ、いつもより巨大なハーゲルシュプルングだ!!」

 

そしてエスデスが一番威力のある技を最大出力で放とうとし、上空に超巨大な氷塊を生み出す。しかし直後……

 

「おっと……」

 

ここでようやくグラつき、疲労している様子を見せた。

 

「「今だ!!」」

 

直後にリィンとロイドの声が重なり、二人が強いオーラを発する。リィンは黒いが邪悪さを微塵も感じず、それでいて猛々しいオーラを、ロイドは熱く燃え滾る、炎のような赤いオーラだ。

 

「「はぁあああああああああ!」」

 

そして咆哮を上げながらエスデスにとびかかり、地面にバツの字を書くように交差して攻撃する。エスデスも攻撃準備を解除して防御するが、威力を殺しきれずにダメージを負う。

 

「「双牙・滅砕刃!!」」

 

そして技名を叫びながら再び交差しながら必殺の一撃を放つ。生成途中の氷塊が空から降ってきたが、二人ともそれを砕いて無事だった。

 

「……惜しかったな。もっと威力がれば、私に膝をつかすくらいは出来たろうに」

 

しかし、今ので威力が殺されてしまい、エスデスはまだ立っていた。帝国最強は、やはり侮れない。

 

「いい線行っていたが、まだまだ……!?」

「はぁああ!」

 

しかし直後、今度はヨシュアがエスデスの懐に飛び込んで斬撃を叩き込む。

 

「はぁあああああああ!」

 

そしてヨシュアが飛びのくと同時に、エステルも連続突きをエスデスに叩き込む。そして二人してエスデスが怯んだ隙に離れると、ヨシュアは幻影奇襲の時と同様に三人に分身、エステルとともに構えをとる。

そう、実はリィンとロイドのコンビクラフトは囮で、エステル達の物が本命だったのだ。

 

「「奥義・太極無双撃!!」」

 

そしてとびかかりながら技名を叫び、コンビクラフトを叩き込む。その衝撃でエスデスは大きく吹っ飛び、手にしていたサーベルも弾き飛ばされる。

 

「はぁ、はぁ……立ち上がってこないといいけど」

「もしまだ立てたら、この人マジの化け物なんですけど……」

 

コンビクラフトを見事に決めたエステルよヨシュアだったが、エスデスがまだ立ち上がりそうな気配がしたため、安心できていなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

一方、残りのイェーガーズと対峙していたアリサはというと。

 

「メルトストーム!」

「イセリアルエッジ!」

「うぉ!? 帝具も無しに何でこんな技が……」

 

アリサとエマの二人がかりで、まずはウェイブの撃破に乗り出している。ボルスは帝具の特性から広域殲滅に特化し、単一の戦いだと隙を作りかねないので肉弾戦を主とした戦いにならざるを得ない。ランはマスティマで高所から攻撃を仕掛けるため、飛び道具でないとダメージを与えられない。しかし前衛二人がいる為、狙い撃つ隙が無い。

となれば必然的に、前衛で高い能力を持つウェイブを必然的に狙うこととなった。

 

「ウェイブ、下がってください!」

 

直後、ランがマスティマの羽根を飛ばして援護射撃に入る。しかしアリサもエマも、咄嗟にそれを回避して反撃する。

 

「フランベルジュ!」

「アステルフレア!」

 

そしてアリサとエマも炎攻撃で反撃する。流石に放っておくとランも攻撃してくるため、時折牽制しておくに越したことはない。

ランはマスティマの翼を楯に攻撃を防ぐ。しかし強烈な炎攻撃だったため、翼越しの熱や隙間から漏れた炎で傷を負った。

 

「二人ともあの若さであの強さ……思ったよりも修羅場をくぐっているようですね」

「これでも学生時代に戦争経験してて、止めるために色々と動いていた身でね」

 

降りてきてランが二人の実力を褒めるので、アリサが代表してそれを返答する。すると今度は、エマがランにある話題をふる。

 

「ロイドさんが仕入れた情報なんですが、ランさんってキョロクという町で教師をしていたそうですね」

「!?……なるほど、つまり私の過去や目的も知っているわけですか」

「ええ。復讐と内部からの革命、ですよね」

「大方の事情は聞いていますか。ならば、貴方達もこの国の異常と惨状は知っていますよね?」

 

そのまま問答に入るエマとラン。

 

「ええ。ですが、ランさんは血で手を汚して政治に携わって、誰かを救ったり変えたり出来るんですか?」

「出来るかどうかではなく、やるんですよ。そうでないと、この国の暴走は止まりませんから」

「そうですか……アリサさん、私達のすることは決まったようですね」

「ええ。あなたがこれ以上手を汚す前に、止めてみせる!」

「なら、私の邪魔になる貴方達も排除しなければなりませんか!」

「俺はまだあんた等やランの事情は知らないが、ここで負けたら帝国軍人としての名折れだ! 一気に決めさせてもらう!!」

 

直後にランが翼を広げて、羽を飛ばしながらウェイブとともに突撃していく。しかしアリサがそれを避けながら、弓に導力を溜めていく。

 

「行くわよ。ジャッジメント・アロー!」

 

そして向かってきた二人に、弓から高出力の導力ビームが放たれた。それが二人を飲み込もうとした直後……

 

 

 

 

バシュッ!!

「うそ!?」

 

なんと、ジャッジメント・アローがはじき返されたのだ。アリサはとっさにエマとともにその場から飛びのき、どうにか回避する。そしてランのほうに視線を向ける。

 

「……今の攻撃は想定外でしたが、私にだって奥の手はあるんですよ」

 

そういうランの背で、マスティマに異変が起こっていた。それまでマスティマが形成していた翼は鳥のような翼だったが、今はなんと不定形なエネルギーの塊が翼状になっている、いわば光の翼だ。

 

「すべてではありませんが、帝具には”奥の手”が存在します。性能を跳ね上げるものや補助的なものまで多種多様で、マスティマは前者で”神の羽根”といいます。飛び道具を跳ね返し、接近戦能力に特化しているので、あなた方では少々厳しいでしょうね」

「……正直、シャレにならないわね」

 

丁寧にランは自身の力の詳細を語るが、これは圧倒的な力量差でこちらを折るのが目的の模様だ。

 

「ラン、今の子達との会話でいろいろ気になることを聞いたんだが……」

「まずは彼女たちの始末、もし可能なら捕縛をしてからですね。そのあとなら、ゆっくりと話させてもらいますよ」

「わかった。それじゃあ、一気にやるか!」

 

そしてそのまま、アリサたちに突撃しようとするウェイブとランだったが。

 

「「奥義・太極無双撃!!」」

 

直後にエステルたちの技名を叫ぶ声と轟音が聞こえ、行動を止めてしまう。そして視線を移すと、エステルたちに吹き飛ばされるエスデスの姿が目に入った。

 

「「隊長!?」」

 

そのまま戦闘態勢を解いてしまうウェイブとラン、アリサとエマもつられて戦闘態勢を解いてしまった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「それでは、失礼いたします」

 

その一方で、シャロンはもう一人の前衛であるボルスと交戦していた。ルビカンテの能力は、アカメが有する村雨同様に生物相手に必殺の攻撃となる。ウェイブ同様、先に対処しておくべきだろう。

そしてシャロンが鋼糸を放ち、ボルスの片腕を縛る。

 

「ふん!」

「!?」

 

しかし、ボルスはその縛られた腕ごと鋼糸を引っ張り、シャロンごと引き寄せる。そしてそのまま殴り飛ばそうともう片方の腕を振るう。

 

「……シュッ!」

「!?」

 

しかし、引き寄せられたシャロンは自ら鋼糸を引いてボルスの方に跳んでいき、ナイフでそのまま斬りかかる。ボルスも咄嗟に回避するが、間に合わずに左腕に傷を負ってしまう。しかし、思った以上にボルスの腕の筋肉が頑強で、そこまで深い傷を負わせることはかなわなかった。

 

「相当鍛え込んでいますわね。その筋肉は、まさに鎧と言ったところでしょうか?」

「軍人は体が資本だし、私の帝具は重たいからね」

 

シャロンがボルスの屈強な肉体について称賛すると、ボルスの方も己が肉体について簡単に説明する。

 

「ボルス様と仰いましたか? 誰かのために戦っているのでしょう」

 

唐突なシャロンの問いかけに、思わず固まってしまうボルス。しかし、シャロンは構わず続けた。

 

「あなた、誰かに対しての深い愛と、それを守ろうという使命を初めて見た時から感じさせていただきました。これでも私、他者への愛が行動の基盤となっていますので」

「……初見でそんなことが分かるなんて、あなたもすごいね」

 

ボルスと交戦したシャロンは、彼の内に秘めたものを見抜き、当のボルスも身の上を簡単に話し始めた。

 

「うん。私には妻も娘もいて、そんな家族たちを守るために今でもお仕事を続けているんだ。焼却部隊なんて仕事柄、処刑とか村ごと焼きはらうなんて無抵抗な人に攻撃する、全然優しくない私を妻も娘も知ったうえで一緒にいてくれる。だから、私は家族を守り養うために戦うことを決めた」

「ご立派な愛ですが、それでも私は譲れませんね」

 

しかし、それを聞いてもシャロンは止まらない。なぜなら、彼女も愛を原動力とするためだ。

 

「私も裏の仕事を生業としていましたが、アリサお嬢様の母君であるイリーナ様は、私にメイドという形で裏か行以外の生き方を教えてくださいました。そんなイリーナ様達ラインフォルト家とその友人方に大いなる愛をささげることこそ、私の生き方でございます。ですので、それを邪魔しようするなら……」

 

シャロンは元々、執行者の任務の一環でRFグループに潜入したが、アリサの母イリーナにそれを見抜かれたうえで使用人として引き抜かれた過去を持つ。執行者と兼業しているのは、ヨシュアやかつて執行者に属していたレンという少女が結社を抜けられたのに対し、離れられないほど穢れてしまったと語っていた。

しかし、それでも執行者以外の生き方を示してくれたイリーナやその娘のアリサに愛をささげると誓ったのだった。

 

「他者の大いなる愛だろうと、一片の慈悲もなく断ち切って見せましょう」

「……わかった。だけど、そう簡単にはいかせないから、覚悟してね」

 

そして二人は再度、得物を手に戦闘を再開しようとしたら

 

「!? 今の、隊長の方から……」

「リィン様達、やったようですわね」

 

こちらもエスデスとの戦闘チームに起こった事態を察して戦闘を中断することとなった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

土煙が舞う中、エスデスが吹き飛んだ方を凝視するリィン達。そこからエスデスが立ち上がってくるが……

 

「消耗していたとはいえ、私をここまで叩きのめすとは見事だな」

 

サーベルを拾い立ち上がるエスデスの姿があったが、肝心のサーベルを杖代わりにして立っている。戦闘の続行は不可能だった。

 

「やった!」

「どうにか勝てたわね」

「うん。でも手負いの筈なのに、かなり危なかった」

「まさか、ここまでとはな……」

 

しかし、エスデスの力がすさまじかったため今でも信じられないといった感じである。

そしてそんな中、ウェイブたち残りのイェーガーズが動揺したため、そのすきをついてアリサたちが駆け寄る。

 

「リィン、やったみたいね」

「ああ。後はこのまま脱出を……う!?」

 

しかし直後、リィンが苦しそうな表情を浮かべだす。そしてそのまま、鬼化が解除されてしまった。

 

「リィン、大丈夫!?」

「ああ、なんとか。でも、流石に無茶しすぎたか」

「病み上がりなのに無茶して……」

「でも、動けないのはリィン一人なんだ。僕かロイドでおぶれば……」

 

ヨシュアが最後にそう提案し、そのまま脱出しようとするも、そう簡単にはいかなかった。

 

「貴様らを逃がすわけにはいかん」

 

壮年の男性の声と同時に一行の周りに雷が落ちる。そう、ブドー大将軍が現れたのだ。

 

「まさか貴様の本気がこれほどで、同等の力を持った仲間がこんなにもいたか」

 

ブドーがリィン達一行を褒めていたが、その威圧感にエステルやロイドもたじろいでしまう。

 

「すごいプレッシャーね。どうやって逃げる?」

「エステル、彼は僕たちの手の内を知らない。だから、何とかして虚をついたら……!?」

 

ヨシュアが脱出案を出そうとした直後、不気味な気配を察知したためそれを中断する。

 

「へぇ、今のに気づくとはあんたもこっち側の人間なわけか」

 

直後に陽気な青年の声が聞こえたと思いきや、黒ずくめに口元だけを露出した兜の集団が現れる。男女で服装が分かれており、女子はクロメと同じセーラー服だったため、暗殺部隊が出現したとすぐに察しがついた。

 

「はいはい、俺っち暗殺部隊のカイリっていいます。すぐにお別れになるだろうけど、よろしく」

 

直後に声の主が名乗りながら現れたのだが、その姿は異様だった。カイリだけが兜を外して素顔をさらしていたのですぐ気づいたのだが、彼は声音が若い男のもので体格もいいのだが、顔だけが年寄りのようにしわだらけで白髪というアンバランスな容姿だったのだ。

 

「君、それって……?」

「帝具の数に限りがあるってことで、俺ら暗殺部隊はドーピングで力を上げてんの。こいつは副作用でホルモンバランスがどうのってことで出ちまったみたいでさ。嫌になっちゃうよねぇ」

 

カイリ自らが己の身に起きていることを語り、その異様さにヨシュアも不快感を感じてしまう。しかもその直後に、セリューたち残りのイェーガーズが駆けつけてしまったのだ。

 

「あ、カイリ。久しぶりだけど、それって副作用?」

「クロメっち、おひさ。そうだけど、見た目で出ちまうのは正直嫌になっちゃうよな」

「うん。私も結構やばいけど、今ので運がよかったってわかったよ」

「おいおい、俺っちもさすがに傷ついちゃうぜ」

 

やはりというか、クロメと同期らしいカイリ。そしてクロメもやはりドーピングしていたようだが、自らの体に起こる異常を、それこそ世間話をするかのようにあっけらかんとした様子で語る二人に寒気を感じてしまう。

 

「さて、さっきは逃がしたが今度こそ葬ってやる。外に出たから、遠慮なく武器も使わせてもらうぞ」

 

しかもセリューはセリューで、ここまで大勢の人間がいるにもかかわらず重火力装備を展開している。しかもコロは、奥の手を使っていないせいで再生してすぐに戦闘可能という事態だったのだ。

 

「さて。さすがにここまで行ったら、あなたたちも詰んだことになるわね。負けを認めてここで死ぬか実験材料になりなさい」

 

そしてそんな中、勝利確実ということでスタイリッシュが降伏するように告げてくる。誰がどう見ようと、リィン達が勝つのは絶望的な状況だ。

 

「お前達、ドクターはああ言っているが降伏すれば命だけは助けてやる。どの道もうすぐで他の将軍も駆けつける、勝ち目はないぞ」

 

更にブドーが追い打ちをかけ、状況は更に悪化していく。

 

「八方塞がりか……だけど、俺たちはここであきらめるわけにいかない!」

 

しかしすぐにリィンは疲労で震える体に鞭を打ち、刀を構えて臨戦態勢に入る。そして、それはほかの仲間も同じだった。

 

「ここで私の大切な人を失いたくない。いくらでもあがいて見せるわ!」

「同じ恋する乙女として、アリサを助けるのは当然よ!」

「そして僕も、エステルのために負けるわけにはいかない。全力で抵抗させてもらう」

「そして俺は、この帝国という巨大な壁を、絶対に超えてみせる! そのために、今日まで逃げなかったんだからな!!」

「私たちも、そんな皆さんをサポートするために今ここにいますから」

「貴方達も、全員まとめて断ち切ってみせます。だから、覚悟してくださいまし」

 

全員が全員、強い意志をもって戦闘態勢に入る。流石にシャロンもこの数とブドーという難敵を相手にするのは無謀だが、だからと言って弱音を吐く人間でもない。やはり身も心も強い者ばかりがここにいた。

 

「……暑苦しいのは嫌いじゃないが、任務なんでその(タマ)は取らせてもらううぜ」

「カイリに同意。ここで引いたら役立たずって処分されちゃうし、戦って死ぬよりつらいし」

 

しかし、カイリもクロメも自分の命とプライドがかかっているようで、ほかの暗殺部隊同様に引き下がる気配がない。

 

「……揃ってまっすぐないい目をしている。お前達のような若者が帝国にいてくれたら、どれだけよかったか」

「大将軍、何を言っているんですか!? こいつらは帝国に仇名す、悪なんですよ! それを駆逐しないで……」

 

ブドーがエステル達に対して感心する中、セリューがその意見に反発する。しかしその途中、ある音を聞いてちゅうだんすることとなった。

何か巨大な物が空を切る音が聞こえたかと思いきや、上空に四つの巨大な影が現れる。

 

 

「な、何だアレは!?」

「赤と白の、空飛ぶ船?」

「わぉ、なんてスタイリッシュな!」

 

現れたのは、四隻の飛行艇であった。一隻はエレボニア帝国の誇る高速巡洋艦カレイジャス。それより少し小さいがその分飛行速度で上回る白い船、リベール王国の高速艇アルセイユ。そして残り二隻は星杯騎士団の守護騎士専用作戦艇であるメルカバだ。

 

「カレイジャスにアルセイユ、メルカバまで!」

「このタイミングで、西ゼムリア連合が動いたのか?」

 

突然の事態に帝国陣営だけでなく、リィン達一行も驚愕している。

 

「空は危険種が飛び交ってるはずなのに、なんで……!?」

 

その直後、セリューが何かに気づいた。船から次々に、何かが落ちてきたのだ。しかし当のセリューはレーダーを装備しているため、すぐにその正体に気づく。

 

「あの船から、人らしきものが落ちてきました! 恐らく、敵です!」

 

そして降りてきた影の中から真っ先に、二つの影が落下の勢いを増していく。

 

「聖と魔の刻印銃よ。光と影の弾となりて、魔を打ち払え……」

「我が舞は夢幻、去りゆく者への手向け……眠れ、白金の光に抱かれ」

 

直後、聞き覚えのある二人の女性の声が響いたかと思いきや、影から白と黒のエネルギー弾と鎖付きのトラばさみのような物が飛んできたのだ。そしてそれが暗殺部隊やイェーガーズの面々にダメージを与えていく。

 

「この技……二人とも来てくれたか!」

 

現れたのはロイドがよく知る女性二人、エリィとリーシャだった。

 

「ディバインクルセイドー!!」

 

そしてエリィが手に持っていた二丁の銃を交差して発砲すると、二色のエネルギーが混じって巨大な鳳凰を形作って飛んでいき、イェーガーズを蹴散らす。

 

「滅!」

 

そしてリーシャが飛びかかり、手にした巨大な剣をふるって暗殺部隊を蹴散らしていく。

 

「みんな、おまたせ。援軍を連れてきたわよ」

「だから、ご安心ください」

 

着地したエリィとリーシャが口々に告げる。しかもこれだけでなく、立て続けに何人もの人影が降りてくる。

まず最初に赤紫の髪の女性と緑の髪の抽象的な少年が現れ、そこにジンやケビン、リースといった今回の任務でも行動を共にした面々、更に屈強そうな黒髪の青年と男と見間違えそうな端正な顔立ちの女性が、それぞれオリビエとクローゼを抱えて飛び降りてきた。

 

「リィン、待たせたわね!」

「A級遊撃士と守護騎士の、大サービスにきたよ」

「エステル君もロイド君もリィン君も、無事みたいだね」

「教官に殿下、来てくれたんですね!」

「クローディア陛下にワジまで!」

 

現れたのはリィン達の学生時代の担任でA級遊撃士のサラ・バレスタイン、特務支援課メンバー兼守護騎士九位のワジ・ヘミスフィアだ。

 

「殿下に陛下? てことは、あれはよその国の王族だってのか?」

「気品のようなものを感じるので、まず間違いないでしょうね。しかしあの殿下と呼ばれた青年、妙におちゃらけた雰囲気を一緒に感じるんですが?」

「それよりも私は、神父さんやシスターさんが武器持ってることが不思議なんだけど」

 

キョトンとするウェイブにオリビエを見て顔をしかめるラン、戸惑うボルスとイェーガーズの面々もその濃いメンバーに驚いてしまう。

そんな中、オリビエたちが自ら自己紹介を始めた。

 

「どうも、はじめまして。僕はエレボニア帝国の第一王子、オリヴァルト・ライゼ・アルノールだ」

「リベール王国女王、クローディア・フォン・アウスレーゼと申します。以後お見知りおきを」

「このバカ皇子のお守り兼護衛、ミュラー・ヴァンダールだ」

「リベール王室親衛隊隊長を務める、ユリア・シュバルツだ。以後見知りおきを」

 

オリビエとクローゼの王族2人がが自己紹介を行い、護衛の二人も続いて自己紹介を開始する。

更にこれだけにとどまらず、新たに三つの影がケビンのメルカバ以外の3隻から降りてきた。

 

「「父さん!」」

「アリオスさん!」

「「子爵閣下!!」」

 

現れた茶髪に髭の、エステルと同じく棒術使いの男。青い髪に茶色いコートの刀を携えた剣士。青い短髪に大剣を携えたナイスミドル。

それぞれがエステルの父で元S級遊撃士のリベール王国軍少将カシウス・ブライト。元A級遊撃士でクロスベル警察特別機動隊隊長アリオス・マクレイン。そしてエレボニア帝国武の双門の片割れ、アルゼイド子爵家当主ヴィクター・S・アルゼイドだ。

それぞれが「剣聖」「風の剣聖」「光の剣将」の異名をとる、ゼムリア大陸有数の実力者たちだ。

 

「エステル、どうやら無事みたいだな」

「今日までの調査任務、御苦労だった」

「ひとまず、ここは我らに任せておけ」

 

カシウスたちを品定めするように見るブドー。そこにエスデスも加わり、ある答えを出した。

 

「今降りて来た三人、この中でも群を抜いて強いな」

「ああ。明らかに将軍クラスを超越している」

 

ブドーもエスデスも相対しただけで、カシウス達の実力を感じ取っていたようだ。その一方で、カシウス達もブドーの戦闘力について思うところあり本人にそのことを告げる。

 

「そう言う貴殿こそ、かなりの実力と見受けた」

「恐らく、帝具の補正もあって我等でも一対一では勝てないだろう」

「そして、そこで膝をついている貴殿も万全なら同レベルの実力だろうな」

 

カシウスたちがそこまで言うあたり、この二人はやはりそれだけの怪物なのだろう。

 

「それでは、今度は私たちがトリを飾らせてもらいましょうか」

 

そして最後に少女の声が聞こえたかと思いきや、空から3つの鉄塊が落ちてくる。いや、それは鉄塊ではなく機械だった。2アージュはある全長の人形兵器に似たそれは、無骨な二足歩行方が二機とスマートだが重武装した飛行型一機で構成されている。

そしてそのコクピットには、三人の少女が操縦しており、肩にまた人が乗っていた。二足歩行型にはゴーグル付きの皮帽子をかぶった金髪少女と白いドレスを着たすみれ色の髪の少女がコクピットに、肩には見覚えのある茶髪と黒髪の少年少女が捕まっていた。

 

「ティータにレン、来てくれたのね!」

「それに、タツミとサヨまで!」

「「エステル(お姉ちゃん)、助けに来たよ(わよ)!」

「リィンさん達、お久しぶりです!」

「無事に準遊撃士になった矢先、皆さんのお仲間が帝国に行くと聞いたんで助けにきました!」

 

リベールの技術都市ツァイスから来た少女ティータ、元執行者でエステルの家族となった少女レン、更に準遊撃士になったというタツミ達までいる。この事実には、リィンもエステルも驚くしかなかった。

 

「兄様、とりあえず無事みたいで安心しました」

「まだカレイジャスにVII組の皆さんが残っているので、安心してください」

「ロイドさん、またやらかしたらしいですね。しかも敵の主力を相手に」

「エリゼにアルフィン殿下まで……もうこれはなんて言ったらいいか……」

「ティオ、これはあの人が一方的に俺を好きになったんだし、俺はエリィ以外は選ばない。だから、その目をやめてくれないか?」

 

最後に、飛行型には特務支援課メンバーの水色の髪の少女ティオ・プラトー。その肩につかまるのはリィンの義理の妹で男爵家の正式な跡取りエリゼと、オリビエの腹違いの妹で皇后の実子アルフィンだ。

 

今、ゼムリア大陸を救った若き英雄達が、千年帝国に舞い降りたのだった。




軌跡名物、美味しいところをかっさらう乱入者&チート親父。ようやく書けたぜ!
予定としては次回で前半のラスト、その次にタツミの番外編を終わらせるので楽しんでいただけたら幸いです。

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