英雄伝説 斬の軌跡(凍結)   作:玄武Σ

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アカメの原作ストーリーですが、最近「そして誰もいなくなったED」になるのでは? と危惧しています。本作はそんなことないので、ご安心を。


第19話 救出

宮殿内のイェーガーズ詰所にて。

 

(しかし、エスデスさんのあの性格は、許容しがたい物があるな)

 

ロイドは昨晩、任務から帰って床に就く際のことを思い出した。

 

~回想~

「え? 何これ??」

 

ロイドはエスデスに宛がわれた寝室に向かったのだが、そこにはある物があった。

豪華なベッドやたんすなどの調度品があったのだが、問題はベッドだった。天蓋付きで大きさは明らかにダブルベッドのソレだ。ここまでくれば、もうエスデスが何を考えているのかが一目瞭然だった。

 

「待たせたな」

 

エスデスの声が聞こえたかと思いきや、ロイドの前に現れた彼女はブラウス一枚で胸元を肌蹴た扇情的な格好をしている。誘惑する気満々だ。

 

「ロイド、何か飲むか?」

「い、いえ。大丈夫です」

 

どうにか冷静になろうと、ロイドはエスデスから視線を逸らす。見とれてしまったら、そのまま食われてしまいそうな予感がした。

 

「あのエリィとかいうお前の恋人曰く、既に経験済みらしいな。だったら、後学のためにも最初はお前がリードしてもいいんだぞ」

「ふぁ!?」

 

エスデスの爆弾発言に一瞬、心臓が止まりかけるロイド。まさかここまで肉食だとは、思いもしなかっただろう。

それでもどうにか堪え、エスデスに反論する。

 

「あ、あのですね……俺はこの帝国に永住する気は無いし、恋人はエリィ一人さえいればいいです。だから、明日には帰らせてもらいます」

「ほぅ、そうか……なら、気は進まないがエリィも一緒にイェーガーズに入れれば来てくれるか?」

 

まさかの返答にまたも驚愕するロイド。正直、彼女の思考が全く読めない。

 

「俺はこの国がどうも好きになれません。無害な女子供にさえ暴虐の限りを尽くすいかれた貴族、常に他国と戦闘中でエスデスさんも四十万なんて途方も無い数の人達を殺している。俺はそんな人とするつもりはないし、出来れば明日にでも冒険を終えて故郷に帰りたい。これが俺の正直な本音です」

「私の生き方を変えるのはまず無理だが、そんな貴族からも敵対勢力からも守ってやるからそこだけは安心しろ。だから私色に染まれ」

 

何処までも横暴で、論理感が破綻どころか存在すらしていないエスデスの言動。とうとうロイドも限界だった。

 

「とにかく、俺の考えが今日の内に代わることはマズないです。だから、別室で休ませてもらいます。あと、流石に何の策も無く逃げる気は無いので、念を押す必要はないですよ」

 

そのままロイドはエスデスの寝室を出て、ランの部屋に泊まることとなった。

 

「どこまでも強情だな……だからこそ、染め甲斐があるのだが」

 

~回想了~

 

(早いところリィンを救出して、ここから脱出しないとな)

「ロイド、大変だ!!」

 

ロイドが考えを纏めている中、ウェイブが慌てた様子で駆けつけてきた。その様子に尋常じゃないものを感じ、問い尋ねてみる。

 

「ウェイブ、何かあったのか?」

「いきなり宮殿に、とんでもなく強い奴が襲撃してきたんだ。赤いコート着たやる気なさそうな顔の男らしいんだが、手から炎出して次々と衛兵を蹴散らしているって!」

 

手から炎と聞き、ロイドは一つ思い当る節があった。リィン達からマクバーンの情報を事前に聞いていたのだ。

 

(なぜ執行者、しかもあのアリアンロードさんに匹敵するらしい程の男が? ……でも、これは好都合かもしれない)

 

昨日からエリィたちに連絡できていなかったロイドは、マクバーンの協力という事情を察することは出来なかった。しかし、これを利用しない手は無いと咄嗟に考えるのだった。

 

「わかった。準備を整えるから、先に行ってくれ」

「了解、死ぬんじゃねえぞ」

 

そしてそう言ってウェイブと別れたロイドは、少し間を置いてから出発、ある場所へ行くために宮殿の入り口とは別の場所に向かうルートを通るのだった。

 

同時刻、Dr.スタイリッシュの研究室にて

「何? 炎を出して自在に操る謎の襲撃者ですって?」

「はい。それでイェーガーズ全員で出撃、スタイリッシュ様も我々の指揮を執って迎撃して欲しいのですが……」

 

丁度スタイリッシュもトローマからマクバーン襲撃について聞かされており、少し考えている。

 

「未知の帝具、もしくは西の王国にあるらしい錬金術みたいな未知の技術を使っているのかもしれないわね……いいわ、出撃しましょう」

「了解しました」

「けど、もしもソイツに仲間がって可能性があるから誰かを研究室の警備に回したいのよね」

 

了承するもすぐに、寝台に拘束されたリィンに視線をやって困った表情を浮かべるスタイリッシュ。そんな中、ある人物が名乗りを上げた。

 

「スタイリッシュ、俺を忘れているぜ」

「あら、そう言えば忘れてたわ。あなたもそろそろ、あの力が馴染んだころじゃないかしら?」

「ああ。俺はまだ他の部下達との連携が取れねぇし、ここに一人残って警備してる方が効率いいぜ」

「そうね。じゃあ、貴方はこのままこの子に侵入者が近づかないようにしてちょうだいね」

「任せておけ。けど、もし侵入者が来たらこの力のテストついでに、ぶっ殺しちまうが構わねぇか?」

「まあ、今は研究材料に困ってないから、別にいいわよ」

 

そしてその人物に研究室の警備を任せ、スタイリッシュは移動を開始した。

 

(炎を操る謎の襲撃者……まさか、あいつか?)

 

拘束されたリィンは話を聞き、自分の記憶にあるマクバーンの存在を思い浮かべる。まさか、自分の救出に協力しているとは、この時の彼も思わなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

マクバーンが派手に暴れて、イェーガーズを始めとした主力を引き付けている。そのおかげでヨシュア達は宮殿内をスムーズに動けていた。しかし、皇帝の住む宮殿というだけあって、まだ中のあちこちに警備兵達が蔓延っている。そして、そんな兵達がこちらに気づいた。

 

「何者だ、貴様ら!? もしや反乱ぐ……」

「邪魔だ」

 

しかしヨシュアが敵兵達に一切の隙を与えず、超高速で懐に飛び込んで次々と切り伏せていく。全員が致命傷を避け、そのまま当身で意識だけを刈っていくのは、彼の闇の戦闘技術と遊撃士の心得の両立によるものだった。

 

「流石はヨシュアさん。執行者時代よりも生き生きしていて、遥かに強くなってますね」

 

ヨシュアのその戦闘力にシャロンが感心していると、背後から新手の兵達が現れる。そして彼らが機関銃を構えて、こちらに攻撃を仕掛けようとしていた。

 

「残念ですけど、遅いですわ」

 

しかしシャロンがすかさず袖から何かを伸ばし、それで兵達を拘束した。そして、その兵達を引き寄せて懐から取り出した装飾の施された大型ナイフで斬りつける。

 

「あ、相変わらずすごいわね」

「ヨシュア曰く、あの人も執行者らしいけど……メチャクチャ強いじゃない」

「シャロンさんはアリサさんの実家であるラインフォルト家に愛を捧げているそうで、少なくともアリサさんがいれば味方にはなってくれるそうですよ」

 

シャロンの圧倒的な強さにエステルが驚き、同時に彼女も執行者であるという事実に警戒してしまう。しかし、アリサがいる限り安心だとエマが言って聞かせていた。

シャロンの執行者としての異名は「死線」で、鋼糸と大型ナイフを駆使した戦闘を得意とする。そしてその戦闘能力は、人形兵器の装甲を貫き、一時的なら機甲兵すら拘束できるほどの腕だという。執行者は非戦闘型も含め、揃って人外級の能力を有している。そのあまりの能力の高さに、遊撃士や猟兵など身喰らう蛇を認知する戦闘のプロ達から、強さの基準にされるほどである。

 

「さて。先日、この宮殿に襲撃をかけた剣士がいた筈です。その方はどちらにいらっしゃるでしょうか?」

「あ、あの不届き物の仲間か、貴様ら……!」

 

早速シャロンは、倒した衛兵の一人からリィンに関する情報を得ようとする。皇族への忠誠心か大臣への恐れか、リィンの事だと察して忌々しそうにし、教えるのをためらっている様子だった。

 

「死にたくなければ、その方の居場所を教えてください。それとも、死より辛い痛みを与えて差し上げましょうか?」

「!? 奴はDr.スタイリッシュ、宮殿勤めの科学者の地下研究所にいる! 地下への入り口は中庭を通って宮殿の東側に行けばいい!」

 

しかし、すぐにその衛兵はシャロンから尋常じゃない何かを感じてリィンのいる場所を吐いた。

 

「ありがとうございます。それでは、私たちはこれで」

 

そしてシャロンは、その衛兵の延髄を叩いて意識を刈る。そしてそのままアリサ達を先導し、言われたとおりの場所に移動を開始する。

 

「貴様ら、宮殿に乗り込むとは不届きな……」

「捻糸棍!」

「アステルフレア!」

「ミラージュアロー!」

 

その途中で新たに衛兵たちが迫ってくるも、そのまま一気に撃破していく。エステルはA級遊撃士としての実力、アリサとエマも内乱やそれ以降の修行などで鍛えた力で、屈強な衛兵たちを蹴散らしていった。

そしてその調子で中庭を突破し、地下への階段を下っていく。

 

「よし。あそこが研究所の入り口だ」

「リィン、すぐ行くから待ってて」

 

そしてそれらしき扉を発見し、アリサ達は乗り込もうとするが

 

「おっと。こっから先には行かせねぇぜ」

 

そこに立ちふさがったのは、一人の巨漢だった。マクバーンの襲撃直後、スタイリッシュに警備を任された人物だ。しかし、この男に見覚えがある人物がこの中に一人だけいた。

 

「お。俺をとっ捕まえた糞野郎の仲間の女じゃねえか」

「まさか、元警備隊長のオーガさん!?」

 

なんと、そこにいたのはロイドの手によって悪行を暴かれ、逮捕された元警備隊長のオーガだったのだ。

 

「話に聞いた、元警備隊長? 何で牢屋じゃなくて此処にいるのよ!?」

「へへ。Dr.スタイリッシュが、改造手術の検体になることを条件に牢屋から出してくれたんだよ。あのロイドとか言うクソガキ、奴をこの手でブチ殺すためにあえて下に就くことにしたんだよ。スタイリッシュは正直気に食わんが、俺があのクソガキを始末するために妥協したわけだ」

 

まさかの事態に声を上げて驚くエステルに、わざわざオーガ自ら説明する。どうやらオーガも、他のスタイリッシュの部下達同様に検体になることで恩祓を得たようだ。しかし、その言動から他の部下達のように心酔しているわけではないらしい。

 

「貴方の部下だったらしいセリューさんと先日交戦したんですが、貴方が生きていると知ったらさぞお怒りでしょうね。あなたが悪だったってことで、ショックも怒りも凄い大きかったようですから」

「だろうな。けど、面倒事事態は避けたいが俺自身はあのガキよりはるかに強くなってるんだぜ!!」

 

オーガとセリューを同時に知るエマが挑発してペースを乱そうとするも、当のオーガ本人は自身に満ち溢れている。そしてその直後、オーガが力むと同時にその体に変化が起こった。

 

「な、何その体?」

 

オーガのその変化した姿に一同は驚愕した。山犬のようなピンと立った耳、しなやかで毛並みの良い尻尾、下手な包丁やナイフよりも鋭い爪、といった獣染みた姿をしていた。そのあまりの異様さに、思わずエステルは問い尋ねてしまう。

 

「こいつは昔、帝国が滅ぼした民族の一つが神獣だと崇めていたらしい、ヌビスって超級危険種の体組織を移植された影響だ。口から火を噴き、高い自然治癒力を持った最強の危険種の一体なんだぜ」

 

オーガは改造で超級危険種の力を移植されていた。その結果、獣染みた姿と高い戦闘力を同時に得たのだという。

 

「帝具使いですら、複数人集めないと倒せないような化け物だ。お前らがいくら強くても、そう簡単に勝てるとは思うなよ。しかも女がやたら多いようだから、そこの優男だけぶっ殺して俺の慰み者にしてやる」

 

オーガはその自信から調子に乗っているようで、アリサ達に下種な願望を抱きながら己の力をひけらしている。非常に腹ただしい。

 

「私達は今、敵の拠点にいるのよ。当然主戦力が固まっているから、勝ち目が薄いのは当然じゃない」

 

しかし、アリサは怯まない。

 

「私はそれでもその扉の奥にいる、私の大切な人を助けたい。だから、負けるわけにはいかない!」

 

恋を、愛を知った少女は強い。思いの強さが、自信の強さに直結するからだ。

 

「よく言ったわ、アリサ。恋する乙女のパワーで、こんなゴリラ狼ぶっ飛ばしてやりましょう!」

「エステル、他に呼び方ないのかな……それじゃあ、その扉の向こうの彼は友人なんで返させてもらいます」

「リィンさんは私達VII組の重心、クラス全員のかけがえない人。返してもらいます」

 

そしてそんなアリサを、エステル達は全力でサポートすることを決意する。

 

「そしてそんな皆様のサポートをするのが、第三学生寮の元管理人としての務めです」

 

そしてシャロンが最後に一同の前に躍り出て、スカートを翻しながらその場で一回転、そのままナイフを構えて戦闘態勢に入る。

 

「縛られ、封じられ、雁字搦めにされる悦びを、味わっていただきましょう」

 

そして物騒な一言、これにオーガが若干青ざめる。

 

「て、てめぇみてえなメイド、いくら強くてもたかが知れてるだろ! それなら、逆に痛めつけられて悦ぶマゾに調教してやるだけだ!!」

「えっと……明らかにグラついてるみたいですけど」

「うるせぇ、ぶっ殺してやる!!」

 

ヨシュアに指摘されてブチギレたオーガは、口から火炎ブレスを吐いて先制攻撃に入る。しかし、アリサ達はそれを容易く回避した。感情に流された直線的な攻撃なので、回避は容易だった。

 

「みんな。こんな奴やっつけて、リィン君を助けるわよ!」

 

そしてエステルが檄を飛ばし、そのままオーガに立ち向かっていくのだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

一方、マクバーンはというと。

 

「これで、仕留める!」

 

攻めて来た兵の大多数を撃破し、そのままイェーガーズと交戦していた。そんな中で、ボルスがルビカンテの炎を真正面からぶつける。一度着火したら自然鎮火するまで消えない、生き地獄を与える狂気の帝具が最強の執行者を襲う。

 

「ぬりぃ」

 

しかし、マクバーンは衣服すら燃えていない、完全なノーダメージ状態だった。流石に、これはイェーガーズの面々も驚愕していた。

 

「うそ……なんで効いてないの?」

「俺の炎でぜんぶ相殺しちまったよ。俺に炎は効かねぇ、覚えときな」

 

そしてそのままボルスに目掛けて火炎弾を投げつけるマクバーン。しかし、ウェイブがグランシャリオを纏ったまま躍り出て、そのままボルスを庇って炎の餌食となった。

 

「隙あり!」

 

そしてランがマスティマの羽根を飛ばして、一気に勝負を決めようとした。

 

「だから、ぬりぃ攻撃だっつってんだろ」

 

しかし、手のひらからの火炎放射で飛んできた炎を焼き尽くすマクバーン。しかもそのまま新たに火炎弾を生成し、ランを目掛けて投げつけ、そのまま大爆発を起こす。

 

「ウェイブ君、ラン君、大丈夫!?」

 

立て続けに仲間が凄まじい炎を喰らい、ボルスも二人を心配して声を荒げる。どうにか爆炎が晴れると、そこにはグランシャリオと衣服の一部を焦がしながらも、どうにか無事な二人の姿があった。ウェイブはともかく、ランもマスティマの翼を楯の代わりにして致命傷を避けたようだ。

 

「な、なんとか……けど、鎧越しでトンデモねぇ熱さだ」

「ええ。しかしこの威力……もしかしたら、未知の帝具の可能性がありますね」

「生憎だが、俺のは帝具じゃねぇ」

 

ランがマクバーンの力の正体を推測するも、当のマクバーン本人に否定される。

 

「でも、お前らは俺のお眼鏡にはかなわなかったし、説明するのもめんどくせぇ……帝具諸共木端微塵にしてやるよ」

 

しかしマクバーンはめんどくさそうにそう言うと、手の平に出した炎を凝縮、禍々しい光を放ち始める。ウェイブ達は一目見ただけで、その威力がどれほどの物か想像してしまい身震いした。

 

「ギルティフレイム!!」

 

そして技名を叫びながら、マクバーンはその火球をウェイブ達に投げつける。そしてそれは大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 

「やれやれ。弱者は淘汰されるのが自然の摂理だが、部下を見捨てるのも忍びない……それに、面白そうな敵の襲撃だから混ぜてもらいたいものだ」

 

爆炎が晴れるとそこに、巨大な氷塊がウェイブ達を守るようにそびえ立っている。そしてそこに、エスデスがゆっくりと歩きながらこちらに近づいてきた。

助けた理由について語ってはいるが、明らかに後者が本音だろう。

 

「へぇ……氷の異能ってことは、あんたが帝国最強のエスデス将軍か。あんたに会いたかったんだが、コイツはちょうどいいぜ」

「ほぉ、わざわざ私に会いに来たのか。ますます興味深くなった」

 

マクバーンはエスデスの登場にわずかだが頬を緩め、嬉しそうな様子だ。対したエスデスも、好戦的な笑みを浮かべている。

 

「あんたの異能は帝具によるものなんだろうが……混じってるな」

「何?」

 

マクバーンのその奇妙な物言いに、エスデスが反応する。そして、マクバーン自らその詳細を語り始めた。

 

「あんたの体に異質な何か混じっている……混じり具合は体の半分くらいだな。差し詰め、体に取り込むタイプの帝具なんだろ」

「相対しただけでそこまで見抜くか……察しの通り、私の帝具は”魔神顕現”デモンズエキスといって、かつて絶滅した氷を操る超級危険種の生き血をそのまま帝具にしたものだ。そして、それを飲むことで私はその氷の力を手にしたわけだ」

 

マクバーンがエスデスの帝具の正体を見抜き、それを聞いたエスデス本人は感心した様子で帝具の正体を自ら明かした。

 

「お前も何か帝具を持っているのか? しかし、ルビカンテ以外に炎の手具などあったか?」

「俺のは帝具じゃない。まあ、あんたなら教えてもよさそうだな」

 

そしてマクバーンはエスデスに対して機嫌をよくしたのか、ウェイブ達に対してめんどくさそうにしていた己の力の詳細を、エスデスに語り始めた。

 

「俺の異能は帝具の様に道具を介した物じゃない。魔術や錬金術のように術式を組んだり、呪文を唱えたりってプロセスも必要としない」

 

そう言い、マクバーンは右手の人差し指を立てたかと思うと、そこに炎を灯した。

 

「念じただけで炎を発する。威力も調節可能で、俺の体力が続く限り使用可能。俺のはそんな力だな」

「ほう。帝具じゃない、西の王国にある錬金術でもない、つまり全く未知の力という訳か。しかもそれでいて、私の帝具と対を成す力……ますます面白いな」

 

そしてエスデスの方もマクバーンに対して機嫌を良くし、二人揃って臨戦態勢に入った。

 

 

「仕事ですべての帝具を破壊しろと言われたが、今はそんなの知ったこっちゃねぇ。今、俺は最高にアツくなれるかもしれない相手を目の前にしてるんだ、ソイツとやり合うのを優先してぇ」

「私も、久しく楽しませてくれるかもしれない敵が来てくれてうれしく思ったところだ。どれ、せっかく面白そうな相手を見つけたんだ、名前を教えてもらえないだろうか?」

「いいぜ。俺の名はマクバーン、一応”身喰らう蛇”って組織の執行者No.Iで劫炎って二つ名がある。まあ、今はそんなの知ったこっちゃないが」

 

そのままマクバーンはエスデスに言われるままに名を名乗り、わくわくした様子で戦闘態勢に入る。マクバーンは先程よりも強大な炎、しかも黒が混じった禍々しい物を体から発している。対してエスデスは、その周囲の空気を冷やしてウェイブ達に寒気を感じさせ、その状態のままサーベルを抜いて構えた。

 

「ヴァイスシュナーベル!!」

「ヘルハウンド!!」

 

そして二人は同時に技名を叫ぶと、エスデスは無数の氷片を虚空から作り出して発射、マクバーンは獣を象った劫炎を放った。マクバーンは単発の威力が強大な技、対してエスデスは膨大な手数の技で攻める。

このまま互いの攻撃が消滅するまで動きが無いと思われたが、直後にマクバーンは足元に何かを感じ取り、その場を離れる。直後にそれまで立っていた場所に氷柱が生えてきたため、対応が遅れれば串刺しになっていただろう。

 

「へぇ、奇襲も出来るのか……でも、それって強ぇかどうか関係なくないか!」

 

不満のようにも聞こえるが、マクバーンは嬉々とした声音で叫んでいたため実際は歓喜の声なのだろう。そしてそのまま両手から火炎放射を放って攻撃するが、エスデスはそれを突撃しながら回避し、そのままサーベルで斬りかかる。しかし、マクバーンはそれも容易く回避する。

 

「私にとっては卑怯さも智謀も、戦うことに必要なすべてが強さだと思っている。だから、これも私の強さということにしておけ」

「は。その横暴さ、嫌いじゃねぇぜ」

 

言葉を交わしながら、エスデスもマクバーンも実に楽しそうな表情を浮かべていた。

 

「そういうわけだから、貴様は私を楽しませてくれよマクバーン!!」

「そっちこそ、俺をアツくさせてくれよなエスデス!!」

 

そのまま二人は戦闘を再開する。

帝国最強と結社最強、その片割れ同士が激突した。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ふぅ……思ったよりしぶといな」

「しぶといのは、てめぇらの方だろ……!」

 

一方、ヨシュアがそんなことを呟きながらオーガに視線を向けると、当のオーガ本人は体の各部から血を流している。しかし、生物帝具のスピードには劣るものの傷が瞬く間に塞がっていった。

オーガ自身はまだ力を掌握しておらず、ヨシュア達に決定打を与えられていない。しかし治癒力が異常に高いためにヨシュア達が与えたダメージもすぐに回復、おまけに危険種の力を移植された影響でスタミナも向上しているのか、先にヨシュア達が疲労を溜めることとなった。

 

「超級危険種とやらの力、どうやら甘く見ていたようですわね」

「もっと高火力の攻撃で一気に攻めれば、あるいは」

「だったら、上位アーツの準備をします。援護をお願いできますか?」

「オッケー、エマ。みんな、一気に行くわよ!」

 

結果、アリサとエマの二人はARCUSを駆動し、上位アーツの発動準備に入る。そして、それを援護するべくエステル達前衛組がオーガに飛び掛かる。

 

「百裂撃!」

「雷光撃!」

 

まずはエステルとヨシュアがそれぞれ、残像が見えるほどの連続突きと稲光を纏った斬撃でオーガを攻撃する。

 

「また若造にぶちのめされるのは、俺のプライドが許さねぇ!!」

 

そのままオーガは雷光撃を胴で受けながら百裂撃に連続パンチを正面からぶつけて相殺する。しかし、エステルの棒”太極棍”も全ゼムリアストーン製なのでオーガの拳が逆につぶれることとなってしまう。

 

「今だ、ラストディザスター!」

「クラウ・ソラリオン!」

 

そしてアリサとエマが同時にアーツを発動、それぞれ空と幻の上位三属性による上級アーツだ。アリサは地を這う極光を、エマは上空の魔法陣から出現した巨大な手が放つ光線を、攻撃対象にぶつける物だ。

そして上位アーツを立て続けに喰らったオーガは、そのままボロボロになる。そのままシャロンがとどめに入った。

 

「それではとどめに、死線の妙技をとくとご覧あれ」

 

呟くと同時にシャロンは跳び上がり、傷が再生し切っていないオーガに鋼糸を無数に放って拘束する。

 

「な、なんだこれ!?」

「失礼。ですが、もう逃げられませんわ!」

 

驚くオーガに対してそう言いながら駆け寄り、すれ違い際の斬撃を何度も叩き込むシャロン。執行者No.Ⅸ”死線”のクルーガーが誇る秘技が、外道に染まった元警備隊長を襲う。

 

「秘技・死縛葬送!」

 

そして技名を告げながら指を鳴らすと、一瞬にしてオーガを拘束していた鋼糸が、その体を切り刻んでいく。

四肢を欠損して全身に裂傷を負ったオーガは、そのまま意識を闇の中に沈めるのだった。

 

「シャロン、まさかこの人……」

「安心してください、お嬢様。この方は生きています。というか……」

 

アリサが懸念していたことは取りあえずしていないシャロンだったが、すぐに言葉を濁す。なんと、意識を無くしたはずのオーガの傷が、見る見るうちに塞がっていくのだ。

 

「どちらかというと、殺し損ねたという方が正しいでしょうか?」

「ちょ、流石に冗談きつすぎじゃないの!?」

「凄まじいのは超級危険種か、例のDr.スタイリッシュの技術か、はたまたその両方か……いずれにしても危険だね」

「早くリィンさんを連れて撤退しないと、危険ですね」

 

そのままオーガが目覚める前にリィンを助け出そうと、研究室の扉を開けるアリサ達。しかしその直後……

 

「ヒャッハー! オーガに内緒で残って、正解だったぜ!!」

「な!?(気配を全く感じなかった!)」

 

扉の向こうから、スタイリッシュの部下の一人であるトローマがナイフを手に飛び掛かってきた。ヨシュアでも気配を察知できなかった辺り、スタイリッシュの改造で隠密特化型になっていたようだ。そしてそのままヨシュアやシャロンでも対応できないまま、アリサにナイフが迫ろうとする。

 

 

 

 

 

 

「はぁああああああああああ!」

「ぶべら!?」

 

何処からともなく青いオーラを纏った一人の人物が、トローマの顔面をトンファーで殴りつける。それは、リィンに並んで一行が助けようとしていた彼だった。

 

「ロイド君!」

「エステルもアリサも、来てくれたのか!」

 

エステルもロイドも再会を喜び嬉しそうな表情を浮かべるが、ロイドはまずトローマを倒す方に集中することにした。そしてそのままトンファーの連打を叩き込み、一歩引いて纏った青いオーラを強め、それが虎の頭部を形成した。

 

「タイガー・チャアアアアアアジ!!」

 

ロイドの必殺技が炸裂し、トローマは大きく吹き飛ばされて研究室内の壁に叩き付けられて気絶。圧勝だった。

 

「みんな、どうやってここに来たんだ?  なんか、執行者らしい人物が襲撃して来たらしいけどそれに関係が?」

「実は、信じられないことが起こって……」

 

そのままエステルの口から、マクバーンが救出作戦に協力してくれたという事実を語る。ロイドは驚くも、この状況で嘘をついている場合ではないのですぐに信じた。

 

「さて。この中にリィンがいるなら、早いところ出してやらないとな」

 

ロイドに促されて研究室に入ると、そこには拘束されているリィンが、上半身裸で全身に生傷が絶えない状況で寝かされていた。

 

「リィン!」

 

真っ先にアリサが駆け寄り、体を揺さぶりながら呼びかける。

 

「リィン、お願い目を覚まして!」

 

やはり恋人の呼びかけだからか、すぐにリィンは目を覚ました。今、引き裂かれた二人の男女が再会を果たす。

 

「あ……アリサ?」

「助けに来たわよ、リィン」




次回は個人的に書きたいリィン復活劇と、あのイベントのオマージュになります。

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