リィンが捕えられてから二日が経った。そんな中、帝都内にあるスタジアムではエスデスがブラックマリンの新しい使い手を見つけるためにある催しを行っていた。
『エスデス主催・武芸大会
参加資格は戦闘経験あり。それ以外は出身・職業・年齢・性別など一切問わない
優勝者にはエスデス将軍から褒美がたまわれる』
そんなお触書に釣られ、帝都中に住む腕に自信がある男達がスタジアムに集まってきた。
そして試合がある程度進み……
『勝者、呉服屋ノブナガ!』
司会を務めるウェイブが勝利者の名を上げると、東方の古い剣各であるサムライを模した格好の男が勝ち名乗りを上げる。
「如何ですか、隊長?」
「つまらん素材らしく、つまらん試合だな」
VIP席にて試合を観戦していたエスデスだが、ランに感想を聞かれて本当につまらなさそうに答える。
「まあ、確かに参加者の大半が危険種やナイトレイドを相手に勝てるとは思えませんね。ですが、帝具は相性があるので使えるかどうかは試さないと分かりませんが」
「借りに使えたとして、使い手自身が弱かったり帝具に頼りきりになったりするような奴は不要だ。これでは、見に来た意味がなかったな(どこかに私を満足させられる者はいないものか……)」
『続きまして、最終試合となります!』
エスデスが感想を告げながらさらにつまらなさそうな表情を浮かべると、直後にウェイブがそう告げる声が会場内に響く。そして、そのまま参加者の紹介に入る。
『東、肉屋カルビ!』
呼ばれた男は、筋肉質でブドーのように2アージュを超える高身長の大男だが、それ以上に目立つものが顔、というか頭だった。なんとこのカルビという男、牛の頭をしていたのだ。被り物なのか素顔なのかは不明だが、普通に考えれば肉屋なので牛の被り物というキャラ付けをしていると思われる。しかし、オーガに賄賂を贈っていた油屋ガマルもかなり蛙寄りの顔であったため、これが素顔という可能性も捨てられなかったが。
そしてウェイブが次の参加者の紹介をするのだが……
『西、冒険家ロイド!』
現れたのは、いつものようにトンファーを携えたロイドの姿だった。
「冒険家、といったか?」
「はい。なんでも、物見雄山と武者修行の途中で帝都を訪れたそうです。年齢は21歳で、二十歳を超えてますね」
「それでも、私より二つ三つは下だな」
冒険家という肩書に物珍しさを感じ、それに何か感じ取ったのかエスデスはロイドに視線を集中する。
「ロイド、がんばってー!」
「ロイド君、負けたら承知しないからー!」
観客席では、エリィとリーシャがそんなロイドを応援している。
~回想~
事の発端は昨日にさかのぼる。
「エスデス将軍主催の武芸大会か……」
リィン救出のための侵入経路を探っていたロイドたちが、街の広場に張り出されていたそのチラシを発見する。
「主催ということは、エスデス将軍がこの場所に来るってことよね……」
「リィンの救出に、上手く使えるかもしれないね」
エステルのそのつぶやきを聞いて、ヨシュアが何かをひらめいた。そして、ロイド達もそれを察する。
「なるほど、エスデス将軍を人質にしてリィンを解放する交渉材料にするのか」
「幸い、私やヨシュアさんは隠形特化型なので可能性は充分でしょうね」
作戦内容はこうだ。まず、ロイドが武術大会に参加する。そして優勝してエスデスが褒美を渡そうとしたところを、不意打ちでとらえ、人質交渉に入る。もしものバックアップで会場内にヨシュアとリーシャを潜ませ、ロイドの不意打ちが失敗した時や優勝できなかった場合に奇襲、残るエステルとエリィは観客として会場に行って一般人を装い、バックアップに入れる。これを作戦とすることにしたのだ。
~回想了~
そして一方、気配を消してコロシアムの縁から様子を窺っているヨシュアとリーシャはというと。
「遠目に見てもわかる。あの将軍、微かにだけど殺気を放っている」
「流石に、自分の立場的に常に狙われていることを想定しているみたいですね」
エスデスは一般人のそれには気づかないレベルで、それでいてヨシュア達のレベルの使い手が警戒するレベルの殺気を放っていたのだ。
リーシャはこれについて、自分が狙われていることを想定している、と言ってはいたが……
(……動きが無い。まだ攻めあぐねているか、最初から監視目的かのどっちかだな。で、冒険家ということはあの男はそれなりに修羅場をくぐっていそうだな)
何とエスデスはヨシュア達の存在に気づいていた。そのままヨシュア達は気づかずじまいだったが、殺気も彼らを威嚇及び挑発目的で意図して放っていたのだ。その一方で、エスデスはロイドに期待を持って視線を集中していた。
そして、舞台でロイドと向き合う対戦相手のカルビは、品定めをするようにロイドを見る。
「おいおい。お前みたいな優男が冒険家って、冗談きついんじゃねえか? それに比べて俺は、破門されはしたが皇拳寺で九段を取ってんだからな」
そして開口一番、明らかにロイドを舐めている発言をした。しかし、その鍛え上げられた肉体と威圧感は、最後に自身で語った経歴が嘘でないことの裏付けだった。要は、自信の強さに慢心しているということだろう。
「あんたが強いのは本当だろう。でも……」
「でも?」
「だからって負けてやる道理も無い。勝ち進ませてもらうぞ」
そう言いながら、ロイドはいつものようにトンファーを構えて戦闘態勢に入る。その一方で、カルビも自分が舐められたと思ったのか、憤慨しながら拳を構えていた。
「いつまでも調子に乗ってられると思うなよ、若造が……」
『試合開始!』
そのままウェイブが試合の始まりを告げ、ロイドとカルビが同時に駆けだす。
「先手必勝。これ喰らって寝てろ、雑魚!」
そしてカルビは叫ぶと同時に、ロイドに鋭い右ストレートを放つ。
「……見え見えだな」
「な……あが!?」
ロイドは咄嗟にしゃがんでその拳を避け、そのままトンファーを持った右手でカルビの顎に打撃を通す。割れた腹筋などからわかるように全身が筋肉質なので、下手に腹や腿を攻撃しても効かないと判断した結果だ。
更にロイドは、素早く相手の背後に回って背中に両手のトンファーを同時に叩き付ける。顎を打たれて脳震盪を起こしたカルビは全身の力が抜けており、その衝撃でそのまま前のめりに倒れる。
「くそが……なめんじゃねえぞ!」
しかしカルビはどうにか持ち直し、そのまま床を腕でついて、その勢いで回し蹴りを放つ。しかしロイドは咄嗟に跳び上がって回避し、落下する勢いでカルビの頭にトンファーを叩き付ける。
「そろそろとどめだ」
ロイドはトンファーを前後逆に持ったかと思うと、それでカルビの鳩尾を強く突く。その痛みでカルビは意識を刈られ、倒れ伏したのだった。
『し、勝者! 冒険家ロイド!!』
「もう、勝ってしまいましたよ……彼、逸材ですね」
「一撃の重さ鋭さと言い、判断力と言い……軽く見積もっても、将軍クラスかそれに準ずる強さに達しているな。しかもそれでいてまだ伸びしろがある」
ウェイブが勝者の名を上げる判断が下るのが予想以上に早く、エスデスはロイドの強さに太鼓判を押している。
その一方、ロイドはというと
(あまり声援を送られることが無いから、少し恥ずかしいな……けど、こういう時は笑えばいいのかな?)
とりあえず、観客からの声援に答えようとロイドは笑顔を浮かべる。しかし………
(な、なんだあの爽やかさの中にあどけなさが残る、素晴らしい笑顔は!?)
それがエスデスにクリティカルヒットしてしまったようだ。
「(既に将軍級だがまだ伸び代があるから鍛えられる、肝も据わっている、辺境の出で年下、そしてあの笑顔……完璧ではないか)見つけたぞ」
エスデスは頭の中でそんなことがぐるぐると回り、何かの結論を付けた。つけてしまった。
「見つけたとは……帝具使いの候補ですか?」
「それもあるが、また別の物だ」
蘭の問いかけに簡潔に答え、エスデスはなんとVIP席から離れて会場に下りてきた。
「ロイドと言ったか。先程の試合、動きも読みも素晴らしかったぞ」
「褒めていただいて、光栄です」
エスデスはロイドに近づくなり、穏やかそうな笑顔で告げる。しかし、ロイドはリィンの救出がかかり、エスデスという規格外の存在と相対している事も相まって警戒心を強める。
(しかし、戦闘の意志が無い筈なのに凄まじいプレッシャーだな。最強なのは戦闘力や知略だけじゃないみたいだ)
遠目に見ていたヨシュア達ですらエスデスのその殺気やプレッシャーに押されていたので、近くにいるロイドは相当強い物を浴びせられているだろう。しかしこれでも、気配を察知できない人間や戦闘未経験者には何も感じないレベルだろう。
そんな中、エスデスはロイドに対してあることを告げた。
「そう硬くなるな。で、そんなお前の実力に敬意を表して褒美をやろう」
(まだ一回戦の最終試合なのに……!?)
しかし直後、ロイドは何か嫌な物を感じ取って後ろに飛びのく。
「……どうしたというのだ? せっかく私自ら褒美をやろうというのに」
そう言うエスデスの手には、何と首輪があった。これだけなら犬や猫に着ける物だと思うが、サイズは明らかに人間のそれだったのだ。
「褒美が首輪って……どういうことですか?」
「お前を私の物、平たく言えば恋人兼部下にしてやろうということだ」
ロイドの問いかけに、エスデスはとんでもない爆弾宣言をしてしまう。
「えっと……物的な褒美じゃなくてですか?」
「部下になればお前に帝具もやれる。物的な褒美はそれということだな」
まさかの事態と、それを意地でも敢行しようとするエスデス。
「……残念ですが、もう恋人がいるんで断らせてもらいます!」
しかしロイドはすぐにそう言い、トンファーを手にエスデスに飛び掛かる。最初はあの褒美の下りで隙をついて捕えるはずだったが、今のやり取りで完全に破綻したため強硬手段に出るロイド。逃げるという選択肢もあったが、それでも一撃喰らわせて隙を作ってからの方が確実であった。
「ほう。だったら、私がその恋人以上の存在になればいいだけだな」
しかし、エスデスは今のロイドの発言に答えると同時にロイドの振るうトンファーを回避、そのまま延髄目掛けて右足でハイキックを叩き込む。
「な!?(は、速い……)」
寸分くるわぬ無駄のない動き、それでいて重く急所を突く攻撃。どうにかロイドは、ギリギリで反応して体を旋回、トンファーを交差して防ぐことに成功する。
しかし
「うぉお!?」
「あれに反応するとは中々だ。しかし、詰めが甘いな」
そのままエスデスは左足で回し蹴りを放ってロイドの体勢を崩してしまった。そして自身は倒れないように両手で地面をついてそのまま逆立ちし、逆に倒れたロイドの鳩尾目掛けて右足のつま先を振り下ろした。
「さて。首輪よりこちらの方が確実、というのはわかったな」
そのままロイドが悶えている隙に、何処かから手かせと足かせを取り出してロイドを拘束してしまった。
「いきなり一悶着あったが、恋人候補としてまずイェーガーズの詰め所に来てもらおうか」
「あ、あんた、なんて横暴な……」
「待ってください!!」
そのままエスデスは苦しそうなロイドが批判するのをよそに、その体を担いで会場を去ろうとする。しかし、エリィとエステルが見かねて観客席から飛び出してくる。
「貴様ら、なんだ?」
「私はエリィ。ロイドの旅の仲間で、さっき言っていた恋人です」
「同じく仲間のエステルよ。さっきから見てたけど、ちょっと横暴すぎじゃないの?」
「さっきロイドが言っていた……お前がそうか」
エリィの言葉を聞き、エスデスは彼女を品定めするように見る。
「背は私の方が勝っているが、胸の大きさや髪の質は互角。……悪くはないが、まだ私の方が上だな」
「え?」
「残念だが、ロイドはこれから私色に染めさせてもらう。諦めるんだな」
エスデスはエリィより女性的魅力で勝っていると判断し、無慈悲&身勝手な返答をする。
「そ、そんな!? もう初めてだって……ふぐ!?」
「ちょ、こんなところで何言ってるのよ!?」
エリィが反論のためにまさかのカミングアウトをしようとしたため、エステルが思わず口を遮ってしまう。しかしエスデスはそんなことはお構いなしだった。
「私の恋人の条件はおおざっぱに言えば強さ、胆力、出身、年齢、笑顔の五つだ。童貞かどうかはどうでもいいから安心しろ」
「そんな滅茶苦茶な……」
「さあ、この話は終わりだから帰らせてもらう。ああ、それと……」
そのままエスデスは無理やり話を終わらせて帰ろうとする。しかし途中で立ち止まり、大声であることを告げた。
「この闘技場のどこかで私を見ている奴ら、今日は機嫌がいいから敵対さえしなければ見逃してやる! しかし敵対するならいくらでも相手をするから、覚悟しておけ!!」
エスデスのその言葉にエステルもエリィも驚き、会場全体が騒めき出す。しかしそんな喧噪の中、エスデスはロイドの延髄に一撃叩き込んで意識を刈る。
(まさか……全部最初から…………)
想像だにしない状況に驚きながら、ロイドはその意識を闇の中に沈めていったのだった。
「そんな……ロイドさんまで捕まって、しかもばれていたなんて」
「撤退するしかないか……」
一方、待機していたヨシュア達もそのまま危険と判断し、闘技場から撤退することとなる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
一方、宮殿にて。
「歌を余と大臣に捧げたいと申す女、とな?」
「ええ。昨日、私が帝都の歌劇場で出会った女でして、美貌も歌唱力も大変素晴らしい物でしてな」
謁見の間で皇帝と大臣にそう告げる、色黒肌のガタイがいい男がいた。彼は将軍の一人ノウケン、好色家として有名で戦場に愛人を10人連れていくほどなのだという。
「私めが愛人にとお誘いしたら、その条件に陛下と大臣閣下に歌を披露させて欲しいとのことで、これを機会にお二人にも堪能してもらいたく思いました。すでに控えさせておりますが、無用とあらばすぐに下がらせますのでご安心を」
「それほどの物か……余としては聞いてみたいが、大臣はどう思うか?」
そしていつものようにオネストに声をかける皇帝。オネストの方は、特大のソーセージにかぶりつきながら返事を返した。
「その歌姫が反乱軍の刺客という可能性も否めませんが……まあ、宮殿にはブドー大将軍や彼直下の近衛部隊、加えてこの場にノウケン将軍がおりますから安全なはずでしょうな。それに食事の余興に歌というのも、悪くないでしょうし」
「そうか。では、その女を通せ!」
「は!」
そして謁見の場に入って来たのは美しい妙齢の女性だったのだが……
「お初にお目にかかります、皇帝陛下に大臣閣下。私の名はヴィータ・クロチルダと申します」
なんと、身喰らう蛇の第二使徒にしてエマの姉弟子であるヴィータだったのだ。しかし彼ら結社について知る人間は帝国においては皆無であるため、皇帝も大臣も普通の歌姫、仮にスパイだとしても異民族や革命軍などの敵対勢力からの物としか見ていなかった。
「まだ帝都に来て日の浅い歌い手にございますが、ノウケン将軍閣下に見初められたのでこれを機に陛下と大臣閣下にも披露させていただきたく思いました」
「ほう、その心遣いには感謝しよう」
「ええ。そして、私は自分の歌には絶対の自信があります。しかし気を悪くしてしまうようでしたら、縛り首でも牛裂きでも好きにしてくださって結構です」
ヴィータの言葉を真に受け、皇帝は素直に感謝の意を告げる。
「(中々の自信ですね。まだこれだけじゃ革命軍のスパイかどうか判別できませんが、この女一人じゃ何もできないでしょう)では、早速披露してもらいましょうか」
大臣はヴィータについていろいろと思案するも、すぐに心配ないと思って考えをやめ、変わらずにソーセージを喰らいながら告げた。
「かしこまりました。では……」
『さあ お眠り坊や達
母の腕に抱かれて 愛の沼へと沈みましょう』
ヴィータは澄んだ声から急に艶っぽい声音になり、子守唄のような文句を語る。そしてそれを聞いた瞬間、謁見の間全体に異変が起こった。
「皇帝陛下、これから語る物語を心の隅においてくださいませ。そしてそれ以外の皆さまは、終わり次第忘れなさい」
『はい……ママ…』
なんと謁見の間にいるヴィータ以外の全員が虚ろな目になり、そのまま彼女の命令を承服しながら彼女をママと呼ぶ。子守唄と魔女の秘術を応用した、ヴィータの十八番である。
『人が次第に朽ち行くように 国もいずれは滅びゆく
千年栄えた帝都さえ 今や腐敗し生き地獄』
ヴィータが歌ったのは、帝都で暗躍するナイトレイドの活躍を唄った詩で、彼らの法で裁けぬ悪を裁くことを歌った内容だ。しかし、ヴィータはそれとは異なる続きを唄うのだった。
『新たな王は幼き王 幼く純粋 故に危うい
そんな王を傀儡と化して 無垢な命を喰らいし悪魔
しかしそんな悪魔を見かね 別なる悪魔が命を狙う
悪魔は別なる悪魔に討たれ 国は彼の者に救われる
しかし悪魔は幼き王を 仇の仲間とみなすでしょう
そして王は命を散らし 帝都は滅び去ってしまう
それが嫌なら悪魔を跳ね除け 己が足で歩みなさい
さすれば王を支えし仲間が 悪魔達を滅ぼすでしょう
彼らは帝都の闇を祓い 悪魔を滅ぼしつくす者達
彼らは全員 英雄也』
皇帝とオネスト大臣の関係を皮肉った詩と、何やら含みのある語りを続け、最後に大臣を含めた害悪たちを滅ぼすという詩を唄う。
「以上で歌の披露はお終いです。ご清聴、ありがとうございました」
「……は!? なんと、素晴らしい歌声だ!」
「ええ、ええ! 私も感動のあまり体重が増えてしまいます!!」
「うむ。やはり何度聞いてもいい物だ……」
しかしヴィータの言葉と同時に、皇帝も大臣も、ノウケン将軍やその他護衛の兵たちの全員がヴィータの歌を絶賛する。大臣に関しては、号泣しながらもいつものように食物に食らいつく。
「ヴィータよ、美しい歌をありがとう。大儀であった。そなたに褒美を……」
「結構ですわ。私はあくまで歌を聞いてもらうためだけにいらしたので」
そして皇帝がヴィータに褒美を与えようとしたら、それをはっきりと断るヴィータ。
「え、しかし……」
「帝都には大臣閣下でも見逃すほど僅かに貧しい物も居ります。褒美の分をその方達にでも寄付してくださいな」
「な、なんと……」
「それでは、ごきげんよう」
そのままヴィータは軽く会釈し、ノウケン将軍に連れられて謁見の間を後にする。
「……大臣、彼女が言っていたお前も見逃している貧しい民とやら、早速探してくれぬか? そしてそのものに支援を」
「はい、かしこまりました(チッ、あの女め陛下に余計な入れ知恵を)」
ヴィータが去った直後に、皇帝は大臣に告げる。表情に出さなかったものの、大臣は内心で悪態をつく。しかしその直後に異変があり、しかも自分を脅かす事に繋がるのだが大臣はこの時は気づかなかったのだ。
(なんだ? 大臣に妙な感じが……)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「さて。ヴィータ殿、いや人形38号よ。我が屋敷で今宵は熱く過ごそうではないか」
廊下を歩くノウケンは、ヴィータを愛人に誘ったが今回の謁見を条件にそれを承諾したという。しかし、今の彼女の頭の中には、それに関する話は微塵もなかった。
(さて、布石は打ったわ。後はリィン君やロイド君たちに任せるわね)
翌朝 ノウケンは屋敷の寝室で死体となって発見された。それも、体のある一か所以外の全てが細切れになって。
弟ブルジョワジー、爆発!(笑)
そして最後にまさかの展開、果たしてどうなる?