英雄伝説 斬の軌跡(凍結)   作:玄武Σ

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今回はVSザンクですが、誰が戦うかはタイトルで察してください。


第8話 首斬り魔VS西風の妖精

「よし。とりあえず、イヲカルの暗殺は成功したな」

 

とある屋敷にて、ナイトレイドのマインに狙撃されて殺された男がいた。彼の名はイヲカルと言い、オネスト大臣の遠縁という立場を活かして堂々と女性を手籠めにしたり、暴行の末に殺害したりする人物だ。東方には「強い物の威光を借りて威張る」という意味がある諺「虎の威を借る狐」があるが、名は体を指すと言わんばかりの男であった。

そんなイヲカルの暗殺に成功したのを確認し、レオーネが宣言する。

 

「二人とも、騒ぎを聞きつけた護衛達も迎撃に成功しました」

「大臣と血縁とはいえ、やっぱ遠縁は遠縁だったな。そんなに重要じゃないのか、護衛の質も評判の割に微妙だったぜ」

 

マイン達のところに近づいてきたのは、シェーレとブラートだった。案の定、イヲカルの護衛達がナイトレイドの仕業だと嗅ぎつけ、迎撃に向かったらしい。彼らは帝国で普及している皇拳寺という武術の経験者で、リーダーが師範代クラスの実力者だという。しかし、ボスのナジェンダを除く全員が帝具持ちのナイトレイドが相手では、対して苦戦することも無く葬られるのであった。

 

「さて。それじゃあ帰るか、マイン」

「………」

 

レオーネが安全の確保を終え、マインに声をかける。しかし、マインは何故か心ここにあらずな状態だった。

 

「おい、マイン!」

「!? そうね、早く帰りましょうか!」

「ここの所、様子がおかしいですけど、何かあったんですか?」

「ああ。リィン達が帰ったときに無断で刺客の迎撃に行ってから、こんな感じだぜ。ボスに絞られたのが、まだ堪えてるのか?」

 

シェーレやブラートに心配されて言われるマイン。あの時、アカメとブラートにだけリィン達の監視として出撃命令が出された中、マインはリィンが認識が甘いというのを痛感させようと、もしもに備えてという名目で無断出撃をしてしまう。その結果、何故か戦術導力器を持っていたバン族という異民族の生き残りに襲われ、逆にピンチになったところをタツミに救われた。

その後にナジェンダに無断出撃したことで叱られたのだが、マインはそれ以上のことが気になっていた。

 

『この道を進もうと、あのままナイトレイドに入ろうと、俺は自分で選んだ道を突き通してやるつもりさ』

 

別れ際にタツミが言ったこの言葉が、ずっとマインの胸に引っかかっていた。マインは、革命軍と同盟を組んでいる西の異民族の血を引くハーフで、その所為で幼少期に迫害を受けていた。故に、マインは勝ち組であることにとことんこだわっていた。そんな中で、タツミの取った選択はマインの理想からかけ離れているにも拘らず、それでいて迷わず突き進んでいた。それに何か惹かれるものを感じ取っていたのだが、マインは自身が惹かれていることに気づいてはいなかった。

 

「ああ、もう! それもこれも、あいつらの所為よ!! 今に見てなさい、自分達が甘いって思い知らせてやるんだから……!!」

 

マインは一人で勝手に憤慨し、そのままアジトへ帰還していくのだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

その更に二日後

 

「サリア、付き添いありがとう」

「いいのよ。生かしてくれた上に仕事まで手に入ったんだから、これくらい」

 

夜の帝都をフィーと二人で歩くのは、ヨシュアに撃破された異民族の刺客の少女だった。あの後、異民族の約半分は私利私欲で動く外道だったので、適当な森に放置して去っていった。しかし、このサリアを含めたもう半分は本当に故郷へ稼ぎを送るためだということが判明。ミリアムとアルティナの働きもあって裏も取れているため、リィン達のサポートとして雇われていたのだった。主な仕事は、危険種の生態や分布を聞き出して新たな戦闘手帳を作成する、帝都の裏事情やそれに関する現場に案内してもらう、などがあった。

サリアは年が近い事もあってフィーとは気が合うらしく、何かと行動を共にしていた。この日はフィーが貧乏に負けた親が子を売る市場があるという噂を聞き、同じく雇われたサリアの父とその調査をした結果、黒だった。ちなみに、その父はジンと呑みに行っている。

 

「明日、例の警備隊長さんに伝えて検挙しないと」

「確か、フィーって孤児なんだよね。もう物心ついた頃にはそうだって聞いたけど」

「うん。だから余計に、家族が大事だって感じてるとこがある」

 

フィーはかつて、大陸最強の二大猟兵団の一角”西風の旅団”に所属していた。そもそも、フィーは物心がついた頃には親がおらず、どこかの国の紛争地帯にいたという。捨てられたのか先立たれたのかは不明だが、とにかく一人だった。そんな中、”猟兵王”の異名を持つ西風の団長ルトガーにフィーは養子として引き取られた。団のメンバー達に家族として迎えられたフィーは、主に家事などを担当していたが共に戦いたいという想いをメンバー達が尊重し、ルトガーも最後まで渋っていたがどうにか戦闘員として迎えられたという。その結果、10歳で戦闘を経験し、圧倒的な強さを身に着けて現在に至る。

 

「……本当に、大切な家族なんだね」

「団のみんなも、目的があって離れて行動しているけど、今もわたしを気にかけてくれてるみたい」

 

幼い頃から過酷な環境に居ながらもフィーが歪まなかったのは、拾われた相手が良かったのが大きい。それほどに、旅団のメンバーはフィーにとって大きな存在だった。

 

「あのままヨシュアさんと戦わずにナイトレイドとやりあったら、私も死んでただろうし……故郷の母さんも悲しんだだろうな」

「よかったね。お父さん共々、生き残れて」

「だね。どれだけ貧乏でも、家族は大切だっていうのを思い知らされたよ。だからこそ……」

「うん。そんな現場、潰さなきゃ」

 

会話を終えたと同時に、フィーとサリアは互いの拳を打ち付け合う。ラウラに並ぶ最大の親友になりえる存在だった。

そんな中……

 

 

「街中に殺気……それもかなり濃い」

「そう言えば、帝具持ちの辻斬りがいるって噂を聞いたことが……急ごう!」

「りょーかい」

 

尋常じゃないものを感じ取った二人は、脱兎のごとく駆け出す。そして、殺気の主を発見した。

 

「フィー、あれ!」

「拙い……」

 

そこには、180リジュはあろう長身の男が右手の甲に括りつけた剣を、怯えている女性に向けていたのだ。そして、その剣を女性に向けて振るい……

 

 

 

 

「!?」

「させないよ」

 

剣が女性の首に迫るより早く、フィーが割って入って女性の命を救った。

 

「サリア。この人を、早く安全な場所に」

「任せて。ついでに援軍を連れてくるから」

 

そのままフィーはサリアに女性の保護を任せ、女性を抱きかかえて疾走する彼女に背を向け男と対峙した。

 

「おやおや。俺の楽しみを邪魔してくれちゃって、代わりに首を斬られる覚悟でも出来てるのかな?」

 

男の様相は異様だった。長身でガタイがいいのはまだよかったが、額に眼球を模したアクセサリのような物を付け、目をこわばらせながら常に口角を挙げて笑みを浮かべる、傍から見ても異常者にしか見えない人相だったのである。

 

「おじさん、どうでもいいけど気持ち悪いね。さっき帝具使いの辻斬りがいるって聞いたけど、その額のやつがそうだったりする?」

「気持ち悪いとはショックだね。それと、コイツが帝具なのは正解だが、帝具使いとか辻斬りなんかより、こう呼んでほしいかな」

 

フィーと言葉を交わした直後、男は腕を交差する。すると、左腕の袖からも剣が生えてきた。これが真の戦闘スタイルのようである。

 

「愛着込めて、首切りザンクってね」

 

通り名からして物騒極まりない。そんなザンクは変わらずに笑みを浮かべており、フィーの警戒レベルを上げる。

 

「おじさんには何の恨みもないけど、仕事で帝具を集めるか壊すかしなきゃだから、観念してね」

「おやおや、あえて呼ばないスタイルでいくのか。しかも帝具狙いとは、愉快愉快! お嬢ちゃんはナイトレイドか帝都の軍人なのかな?」

 

フィーの言葉になぜか楽し気に声を上げるザンク。重ねて言うが、その異様さにフィーは警戒を強める。

 

「残念ながら、どっちでもないよ。他所の国からきて、帝具が危ないから壊そうって仲間たちと考えただけ」

「ほほう、帝国の人間ですらないか。さっき異民族と仲良くしてたが、そういうことなら納得だ。楽しませてくれたお礼に、干し首コレクション分けてやろうか?」

「人のか動物のかは知らないけど、遠慮しとく」

 

ザンクとの問答を終えた直後、フィーはポシェットから何かを取り出し、投げた。そして一瞬でそれは爆発、強い光を発してあたりを埋め尽くしたのだ。

そしてフィーはその光に紛れてザンクに突撃していく。早くに勝負を決めるつもりのようだ。そして切り掛かったその時

 

「え?」

「閃光弾で目くらまししてから奇襲、けど目を瞑ったらその時点でおしまいの策だな」

 

何とザンクは今の攻撃を読んでおり、フィーの攻撃をそのまま防いでしまったのだ。

フィーはとっさに距離をとり、今度は銃弾をお見舞いする。

 

「距離を取って銃撃による牽制か。短剣と銃が合わさった武器とは、面白いものを使うな。愉快愉快」

 

またもフィーの考えを言い当て、どこに弾が飛んでくるのかがわかるように、全弾を叩き落としてしまった。

 

「……あなたの帝具、人の考えを読む道具なのかな?」

「厳密に言えば能力のうちひとつだが、概ね正解だ。"五視万能"スペクテッドの効果のひとつ、洞視でお嬢ちゃんの頭を覗かせてもらったぜ」

 

フィーの推測は当たったが、まだ他にも能力が隠されているという。だが、この洞視だけでも白兵戦で圧倒的アドバンテージを叩き出せるのは目に見えていた。厄介極まりない。

 

「ついでに二つ目の能力、透視で隠し武器の有無も調べられる。……爆薬の類がポシェットに入ってるようだし、閃光弾もまだあるのか」

「透視……その様子じゃえっちぃ事には興味なさそうだね」

 

ザンクは更に能力を明かしてフィーを追い詰めようとする。しかしフィーは軽口を叩くだけの余裕があった。

 

「他にも、遠視で普通の視力じゃ見えない距離の物が把握できて、無心になろうと筋肉の動きの機微で行動を予測する未来視もある。最後の一つはとっておきだから、残念ながら伏せさせてもらうぜ」

 

余裕があるのか、ザンクは切り札以外のスペクテッドの能力を明かす。しかしそのいずれもが、直接的な攻撃力は無いが所有者に圧倒的な強さを与える物だった。帝具のすさまじさを、フィーは身をもって感じ取っていた。

 

「未来視って、別に予知をするわけでもないのにその呼び方はどうなのかな?」

「作られたのが千年も前だから、その辺りが曖昧になってたんじゃないか? 今の状況でそんなことを言える余裕、本当に愉快だなお嬢ちゃん!」

 

状況は圧倒的に降り、それは揺るぎない事実のはずだった。しかし、フィーには余裕があった。

 

「別に動きを読まれるってわかるんなら、対策法はいくらでもあるからね。例えば……」

 

そう言ってフィーは脚に踏ん張りを入れ、ザンクに視線を集中する。そしてフィーは一瞬でザンクの懐に飛び込み、双銃剣での刺突を放った。

 

「な!?」

「読まれても付いて行けない速さで動くとか」

 

間一髪でそれを防ぐザンクだったが、フィーはすぐさま袈裟切りを放ってきて、ザンクも回避するが顔にかすり傷を負った。その後もフィーは刺突、袈裟切り、発砲といった攻撃を織り交ぜ、圧倒的スピードの連続攻撃を行った。

洞視で頭の中を読んで行動を予測しようと、それによる攻撃がザンク自身の身体能力や反射神経、動体視力が付いて行けないスピードでは、意味をなさなかったのだ。

 

「おお! 速すぎて動きを読んでも追いつけない。お嬢ちゃんの歳でそんな動きができるなんて、驚きだな!!」

「うん。これでも昔は猟兵団、超一流の傭兵部隊の一員で、10歳から戦場にいたからね」

 

ザンクは防御が精一杯のはずなのに、お喋りをするだけの余裕が見える。フィーも気にはなったが、隙を見せたらこちらの命が危ないため、攻撃の手を止めはしなかった。しかし、次のザンクの一言でついにその動きが止まることとなる。

 

「そんな子供時代から戦ってたのか……お嬢ちゃん、君は声に対してどう対処してるんだ?」

「声?」

 

ザンクがいきなり発したその言葉に、ついフィーは攻撃の手を止めてしまい、反射的に距離を取った。しかしザンクはその隙を狙おうとはせず、言葉の意味を律儀に説明し始める。

 

「俺は元々、首刈り役人をしてたんだが大臣が民に無実の罪を着せたせいで、仕事が多くなっちまったのよ。で、そのせいで首を切り落とすのが癖になっちまって、俺は首切りザンクになったのさ。スペクテッドはその時、当時の獄長を殺して奪ったものだ」

 

ザンクが辻斬りになった経緯はわかったが、本題はここからだった。

 

「けどあんまり首を斬りすぎたせいで、その連中が地獄から早く来いって呼んでくるようになっちまった。俺がおしゃべりなのは、それを誤魔化すためさ」

 

ザンクが殺人鬼になった原因、これを見るに彼も今の腐敗政治の被害者と言える。不気味な笑みも、壊れてしまった人間の象徴であり、今の発言を見るに彼はそれを自ら認めているということだった。

 

「お嬢ちゃんはどう誤魔化すんだ? 10歳から戦ってるなら、結構な数を殺しているんじゃ無いかな?」

 

ザンクから告げられたその言葉を聞いたフィーだったが……

 

「残念だけど、そんな声聞いたこと無いよ」

 

そしてそのまま続ける。

 

「私は直接相手の息の根を止めたことが、実は数えるだけしかないの。団のみんなが過保護で、わたしの手をなるべく汚したくなかったんだって」

 

それは、家族の愛ゆえの物。

 

「それに、戦ってたのは同じ猟兵や正規の軍人、とにかく戦いを生業にしてるような人ばかりだった。だからあなたが斬ったみたいな無抵抗な人じゃなくって、お互い死んでも恨みっこなしだったからね」

 

そして望んでその場にいた。フィーはゆえに過酷な猟兵の世界で生きてこれた。

 

「……そうか。折角の共感者に会えたと思ったら、そんなことなかったぜ」

 

落胆したような発言をするザンクだったが、表情は変わらず笑みを浮かべていた。

 

「それじゃあ、とっておきでも使わせてもらおうか」

「何が来ても、今更……え?」

 

そして、ザンクが何かをしようとするのでフィーもすぐに警戒態勢に戻った。しかし、いきなりフィーはそれを解いてしまう。何故かザンクの姿が消え、代わりに別の人物が現れた。

 

「だ、団長……?」

 

そこにいたのは、飄々とした雰囲気にオールバックの髪型と無精髭が目立つ、どこかずる賢そうな印象の男がいたのだ。この男こそがフィーの養父にして西風の旅団団長、《猟兵王》ルトガー・クラウゼルだった。

しかし、かつて宿敵との一騎打ちで同士打ちに会い死んだルトガーが出現したこれこそ、スペクテッドのとっておきだったのだ。

 

(幻視、相対した人物にとっての最愛の人物の幻を見せる技。スペクテッドに奥の手は無いが、相手が人間である以上、最愛の人物は攻撃できない。だからこそ、これは奥の手同然と言っていい)

 

実際、フィーの前にいるのはルトガーではなくザンクだった。実はザンクに殺された人間の何割かは警備隊の隊員が占めており、恐らくは隊長クラスや帝具使いもいたと思われる。しかし、ザンクはそう言った各上の相手もこの幻視で惑わし、確実に仕留めて自らは生き延びていたのだった。そんなザンクはフィーに対して駆け寄り、とどめを刺そうとする。そしてフィーの首を切り裂こうと剣を振るう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………団長は死んだ! もういない!!」

「何!?」

 

しかし、フィーが叫ぶと同時に彼女の視界からルトガーの姿は無くなり、ザンクが現れた。そして、ザンクの攻撃を躱すと同時に腕を斬りつけ、剣を括りつけていた革ベルトを外す。ザンクを負傷させつつ武器も封じてしまった。

 

「ま、まさか……自力で幻視を解いたのか………何故だ!? 最愛の人物を見て、その幻に溺れていた筈じゃないのか!?」

 

ザンクは信じられないと言わんばかりに声を荒げる。しかも、それまで浮かべていた笑みをここにきてようやく崩したのだ。切り札が通じず、ついに余裕をなくしたのである。

 

「……わたしたちの団長は、もう死んだしみんなで見守ったから頭でわかっている。で、ふと思ったの」

 

フィーの今の気持ちは、殺人鬼にはわからない。

 

「あなたが隠していたとっておきとやらで、わたしに団長の姿を見せたんじゃないかって。そうしたら……」

 

家族を愛するがゆえ、彼女はこのように思った。

 

「怒りがこみ上げてきた。わたしの大好きな人を、わたしなんかを殺すために利用するなんて……!!」

(こいつ、なんてまっすぐな眼をしてやがる!? しかも、純粋な怒りまで……)

 

顔を上げたフィーの瞳は、その奥に静かながらに憤怒の感情が見えていた。加えて、ただひたすらにまっすぐな眼をしている。少なくとも、今の帝都では数える程しかいないであろう存在だ。

そんなフィーに対して、今度はザンクが警戒を強めることとなる。

 

「あなたはここで倒す。そして、これ以上誰も斬らせない!」

「くっ! 死んでたま……がぁあ!?」

 

ザンクは構えを取ろうとするが、それよりも速くフィーはザンクに一太刀浴びせた。あまりの攻撃スピードに、そのまま体勢を崩す。

 

「スカッドウィング!」

 

フィーは技名を叫んで再び駆けると、一瞬でザンクを切りつけてそのまま通り過ぎて行った。

 

「クリアランス!」

 

更に銃の乱射で牽制し、隙を与えないようにする。片方の武器を封じた今、ザンクは攻撃を捌ききれずに手傷を追うこととなった。

 

「フィー、ヨシュアさんが近くにいたから連れてきたよ……って」

「増援の必要はなさそうだね」

 

丁度そのタイミングで、サリアがヨシュアを連れて戻ってきた。しかし、もはや勝負は決まったも同然である。ヒット&アウェイの斬撃と銃撃のオンパレードにより、ザンクは一切の隙も与えられずにダメージを重ねていったのだ。

 

「わたしの目的は帝具の破壊。そして、今が好機!」

 

そして遂に決定的な隙を見つけたフィーは、ザンクに飛びかかり、額につけていたスペクテッドを奪取する。そしてそれを宙に放り投げると、そのまま集中的に弾丸を撃ち込んでいく。スペクテッドはそこまで強度が無いようで、すぐに粉々に砕けた。

 

「ま、マジでスペクテッドを壊しやがった……」

「うん。それじゃ、最後の仕上げ」

 

帝具を失い唖然とするザンクに、フィーは一瞬で懐に入り、双銃剣でバツの字に切りつける。そしてひたすらに銃弾を撃ち込み、銃口に導力を溜める。

 

「リミットサイクロン!」

 

そして溜め込んだ導力を炸裂させ、ザンクにとどめを刺した。そのままザンクは倒れ伏すが、致命傷を避けたためまだ息があった。

 

「ま、まさか、ここまでコテンパンにされるとはな。帝具無しでこれとは、恐れ入った」

「彼女が強いのは、当たり前ですよ」

「あ、二人とも来てくれたんだ」

 

そんな中で、ヨシュアがザンクに近寄り、話し始める。

 

「彼女は僕たちの住んでいた大陸で最強の二大猟兵団の片割れ、西風の猟団に属していた過去があって、そこでの異名は西風の妖精(シルフィード)だったそうですよ」

「妖精って、大層な肩書きだな……地力の差がでかいと見たぜ」

 

ヨシュアから語られたフィーの異名、ザンクも今の圧倒的な強さに思うところがあったようだ。

 

「さあ、殺せ。逃げ切れる自信も無いからな」

 

ザンクも流石にあきらめムードだったため、そんなことを言う。しかし、当然ながらフィーにその気はなかった。

 

「わたしの目的は、あくまで帝具の破壊。だから、貴方を殺すつもりなんて微塵も無いから。それに」

 

フィーはそれだけ伝えると、ザンクに手を差し伸べたのだ。

 

「なんのつもりだ?」

「あなた、殺してきた人たちの声が聞こえてくるって、さっき言ってたよね? それって、心の底で罪悪感を感じている証だと思うよ。もし罪悪感なんて微塵もなかったら、そんな声も聞こえないでもっと素直な笑顔で殺して回ってたんじゃ無いかな?」

 

確かに、フィーの言う通りだった。アリアや先日にリィン達が接触した貴族たちは、己が悪行を悪行だと認識せずにいた。しかし、ザンクは今まで首を刈ってきた人物が無実の罪を着せられた人間ばかりだと知りつつ、首を斬ってきた。その所為で壊れてしまった彼は、いわば被害者の一人である。

 

「だからあなた、ザンクは罪を償ってやり直す資格があると思う。わたしみたいな小娘の意見、絶対正しいなんてないだろうけど、少しは考えられないかな?」

 

そして少しの沈黙の後、ザンクが出した答えは…

 

「……俺に自首を勧めるとは、お嬢ちゃん愉快だな本当に。その愉快さに免じて、乗ってやろうじゃねえか」

「すごい……フィー、すごいよ」

 

ザンクもフィーの勧めを受け、フィーの手を取ったのだ。サリアも驚き、その様子にヨシュアも満足そうな表情を浮かべ、全てが丸く収まったかと思われた。

 

 

 

 

 

 

しかし、運命とは残酷だった。

 

「葬る!」

「「「「え?」」」」

 

いきなり空からアカメが降ってきて、村雨でザンクを切り捨ててしまったのだ。背中を深く切られたため、村雨の致死性が無くても長くはないだろう。

 

「お前達、大丈夫か?」

「アカメ、君はなんてことを……」

「なんてこと? 指名手配犯のザンクに襲われて、好機と見て助けるついでにとどめを刺したんだか……」

 

アカメはフィーがザンクに襲われていたと勘違いし、この凶行に及んだようだ。しかし、この一言がフィーに火をつけてしまう。

 

パンッ!

「え?」

「……!」

 

そんな中、フィーはアカメに平手打ちを放ち、涙を浮かべながら怒りの表情となっている。突然の事態にアカメも困惑していた。

 

「待ちなよ、お嬢ちゃん」

 

そんな中、ザンクはフィーに声をかけてきた。息も絶え絶えの中、言葉を紡いでいく。

 

「た、多分、これも、報いなん、だろうな。神様がいるとしたら、俺には、罪を償う、価値もない、なん、て、思われちまった、んだろう……。それに、声が止んで、そこに安心も、しちまった。俺は、所詮そんな、もんなんだろうぜ」

 

 

「声から、解放してくれて……俺にチャンスをくれて、ありがとよ。アカメと、名も知らない妖精さん……」

 

ザンクは最後に、とどめを刺したアカメと更生のチャンスをくれたフィーに礼を言い、穏やかな笑みを浮かべて事切れたのだった。

 

「ど、どういうことだ?」

「この人は、自分が殺人を止められないことや、罪悪感から来る幻聴に苦しんでいた。だからわたしは、ここで見てきた外道貴族とちがって、改心してくれると思った」

「だからフィーが手を差し伸べたら、乗ろうとしてくれた。なのに、ここで死んでしまって……」

 

フィーが事情を話していると、一緒に説明していたサリアが次第に涙を浮かべていく。

 

「アカメ。君は、国を変えるためにナイトレイドの一員として命を奪う剛を背負うことを選んだ。でも、その陰で会心の余地がある悪人たちはいたりしたのか?」

 

ヨシュアの投げかける問いに、アカメは無言で通す。

 

「帝都の腐敗具合を考えたら、改心を促す余裕がないのかもしれないし、咎めないでおく。ただ、少しはそのことについて考えて欲しい。長くこの仕事をして、心がすり減っていることが無いと願っておくよ」

「それと、ザンクの亡骸はわたしたちで引き取らせてもらうから。このままだと、たぶん悪人のまま死んだって公表されないからね」

 

そして、三人がかりでザンクの亡骸を運び、帝都を脱出した。

 

 

 

 

「……わかっている。少なくとも、お前達と同じくらいには」

 

アカメは一人で呟くと、人が来る前にその場を去っていった。

そして翌日、フィーたちが運び出したザンクの亡骸は、帝都からいくらか離れた森の中にひっそりと葬られた。




サヨが生存してますが、マインにもしっかりフラグを立てておきます。あのカップリングを崩すのが、個人的に抵抗があったので。

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