黒鴉と親殺しの神 (更新停止中)   作:ウィキッド

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決戦前夜ー金髪少女と赤服女、ワカメを添えてー

「あら?」

「おっ?」

 

 最終日、マイルームでじっとしているのも暇なので学園内をブラブラ歩いていると偶然ルヴィアに出会った。彼女とは前回の格闘技? の試合を見て以来の対面だ。

 

「キシナミ、貴方顔色が悪くてよ?」

「残念ながらこれがデフォなんですよ」

「あらそれは可哀想に」

 恐らく彼女に悪気はないのだろう。多分、彼女自身の性格が気さくなんだろう。その性格がいいものかどうかは置いとくが。

 

 

「ちょうどいいですわ! あなたにはまだ借りを返しておりませんでしたわね」

「借り?」

思い出したかのように声をあげる彼女に疑問を覚える。

 彼女とは地上での面識はなく、予選が初対面だろう。つまり借りというのはこちら(ムーンセル)側での話だろう。思い返す、すると一つだけ心当たりがあった。

 

「あ、保健室の」

 

 倒れていた彼女を保健室まで連れていったことだろう。だがそれは人として当然の行いだ。貸し借りの問題になるようなことではない。

 そう告げるも納得のいかないように彼女はむくれる。

「それではエーデルフェルトの家名が泣きますわ!」

「といっても何してくれるんだよ」

 

 眉間を押さえながらどうするか考える。正直借りなどどうでもいいから面倒ごとだけは起こしてほしくない。かといって邪険に扱うのもダメだろう。

 

「そうですわね……特別にわたくしのお弁当を分けて差し上げますわ!」

「いや、いらんよ」

 

 食べ物には言うほど困ってないし、それに俺がもらってしまっては彼女のお昼が足りなくなる。年上の男としてそれはさすがに情けない。

 

「では、食堂を借りて作って差し上げますわ!」

 

「まぁ、それなら」

 

 どうせこれで断ってもまだ彼女は渋るだろう。むしろ悪化して返される借りの規模が大きくなってしまうかもしれない。だったら比較的マシなもので妥協しよう。

 

 

「どうした?」

「自分自身で提案したことではありますがさすがに危機感がなさすぎではなくて?」

「自分でもそう思うけど……別に何も企んでいないだろ?」

「確かにそうですが……ここまで警戒心がなくては勝ち残ることは難しそうですわね。まぁ、どちらにしろ優勝するのはこの私ルヴィアゼッタエーデルフェルトでしょうけども!」

 

 腰に手を当て高らかに笑う目の前の少女。いかにも絵に描かれたお嬢様というそのふるまいに吹きそうになってしまう。

 なんとか耐えているとそこで一つの疑問、興味が生じた。

 

「ルヴィア、お前の願いってなんだ?」

 

 この少女は聖杯戦争に参加しているのだから当然願いがあるのだろう。命をかけるに値する大きなものが。だが容姿端麗、性格は……まぁおいといて。全体的に見ても恵まれている彼女が命をかけるほどの願いをもつなど正直、想像がつかない。

 

「敵情視察ですの?」

「そんなんじゃないよ。ただ興味があるだけだ」

 

 訝し気な視線をこちらに向ける彼女に苦笑いで返す。実際ただの興味本位なだけでもしも答えたくないといわれたら追及はしないつもりだ。しかし彼女は顎に指を当て、考えるそぶりの後答える。

 

「そうですわね、まぁ簡単に申し上げますと”世界の枯渇した魔力の回復”ですわね」

 

 ルヴィアが告げた願いは規模が大きい。

 魔力の枯渇、1970年頃に起きたとされる。大災害ともいえる出来事だ。この出来事は文献による情報しか知らないが世の魔術師達にとってはそれこそ世界が変わったものと同意義だったと言える出来事だったようだ。魔術師(ウィザード)魔術師(メイガース)の違いがわからない俺にとってはどうでもいい話だが。

 

 しかし、彼女にとっては違うのだろう。そして彼女の願いは確かに聖杯に頼る必要があるものだ。何故なら一度変わった世界をもとに戻す、言い換えれば世界を作るものなのだ。人智を越えたものにでも頼らなければ無理だ。

 

「理由を尋ねても?」

「……流石にそれを貴方にお話しするほど私は軽くありません。それで? 貴方の願いは一体なんです?私だけ話すなんて平等ではないでしょう?」

 

 そう返され、確かに不平等だと納得する。それに別段話したところでこちらにデメリットがあるわけではない。

 

「俺の願いは――」

 

 興味津々といった表情のルヴィアに話そうとしたその瞬間、

 

「どういうことだよ!! お前!」

 

 遮るように食堂内で大声が響いた。

 

「全く、なんですの?」

 

 ルヴィアは不快を露にしながら声の主を親の敵のように探す。

 あの声の主は最近聞いたあの(・・)人物だろう。うんざりとした表情を浮かべながら彼女と共に声の主を探す。すると奥の方に二人の人間が見えた。

 

「別に繰り返すことでもないわ。それにそんなに大声を上げたら周りの生徒に迷惑よ?」

 

 一人は赤い服を着た女性。遠阪凛。そしてそれに対するのは――

 

「そんなのはどうでもいい!」

 

 どうでもよくない。仮にもここは食堂だ。静かに食事を楽しみたい奴だっているだろうに。

 なぁ――――シンジ。

 まぁそんなことを言うものならばあのマシンガントークの矛先がこちらに向くので言うことはないだろうが。

 

「あの男性がトオサカのボーイフレンド? ……他人の交際関係をとやかくと言うつもりはありませんがトオサカも意外な性癖をお持ちですのね。それにしてもどこかで見たことがあるような髪型ですわね」

「あ、それってワカメじゃないか?」

「ワカメ?」

 どうやらルヴィアは日本の食文化には言うほど詳しくないようだ。

「これ、この海藻は日本でよく食べられているんだけど」

 

 電子生徒手帳を使って画像検索して出てきたワカメの画像を見せる。

 手帳、シンジ。手帳、シンジ。何度かの確認を終えて納得のいったような表情で満足げに頷く。

「なるほど、瓜二つですわね。私が感じた既視感もこれからかもしれませんわ」

「おい! お前らいま僕のことワカメっていったな!?」

 

 地獄耳なのか、言われなれているからかここから距離があるのにシンジは反応をしてきた。怒りの形相でこちらに駆け寄ってくる。

 

「ええ、似てますわトオサカのボーイフレンドさん」

 

 その様子に臆することすら微塵にも感じさせない張りのある声でシンジに答える。それにシンジが反応するよりも早く、凛が不快だというように叫ぶ。

 

「なっ! ルヴィア! 気色の悪い冗談を言うのはやめなさいよ! うぅ鳥肌が……」

「ちょいとひどすぎやしませんかね!? この扱い! お前からも何か言ってくれよ!」

 

――――ふむ。年下からフォローを求められたならば答えなければな。

 

「……ワカメって健康にいいらしいよ。髪とか伸びるらしいし」

「それって僕のフォローになってないよ! ワカメのフォローだよ!!」

 

「冗談はさておき、なんで争っていたんだ?」

 

「この女が僕のことを馬鹿にしたんだよ! このゲームチャンプ、間桐シンジに!」

 シンジは強調するように自らを指さしてくる。どういうことなのか凛に目線で尋ねる。

 

「別に馬鹿にしたわけではないわ。ただ、そんなに驕っているとあっという間に対戦者に足をすくわれるわよ、って」

 なるほど。確かに馬鹿にしていない。むしろこの戦いに対して警告をしているようにも感じる。地上での彼女の評価は”非情になり切れないお人好し”。こちらでも凛に対する評価はいまだ変わっていないようだ。

 だがそんなことを知らないシンジにとっては馬鹿にされているようにも感じられるのだろう。さて、どうシンジの怒りを鎮めようか考えよう。下手をするとここで戦いになってしまう。シンジの性格からサーヴァント戦をここで仕掛ける可能性だって十分にあり得る。勿論、凛だって仕掛けられたら全力を持って応えるだろう。つまり以前にあったルヴィアと凛との争いとは違い、本当の戦いになるだろう。

 

 それはまずい。確実に言い逃れはできずにペナルティを課せられる。決戦前日にそんなことになってはたまらない。対処を考えるか、何もせずに逃げるかどうか考えていると意外なところから声が発せられた。

 

「ミスター・ワカメはそれなりの地位に就いてらっしゃいまして?」

 

「あ、ああアジア圏のゲームチャンプだって」

「……それはすごいものですの?」

 

 ああ、そんなことを言ってしまうと

 

「すごいのっ!つか僕の名前はワカメじゃないっての!」

 案の定シンジが怒りの矛先を凛からルヴィアに向ける。しかし涼しい顔で彼女は聞き流す。

「だとしても私にはそのすごさがいまいち伝わってきませんわ」

「おまえっ!――」

「ですから、そのすごさを伝えるために相手にはその分野の基礎を教えて差し上げればよろしいのでは?」

 

 

――これは意外だった。

 

 彼女のとった行動は子供に対して言い聞かせるものに通ずるところがあった。

 ただ怒るだけでなく当人がなぜダメなのかを正直に指摘し、尚且つアドバイスをする。そのアドバイスも強要するものではなくあくまで提案に近い。

 彼女の性格からいうとこういうことは苦手だと思っていたがそうでもないようだ。

 おかげでシンジは怒りをどこかに置いたように静かに考え込んでいる。なまじ優秀だからこそ自らの非を認めているのだろう。

 俺の中でルヴィアの評価が上がった。

 ただ、

「ルヴィア! 余計なこと――」

「なるほど、ほら遠坂、教えてやるからそこ座れよ! 僕のすごさを教えながらルールも教えるからさ!」

 

……遠坂凛に対する嫌がらせという意味でもあるのかもしれないということも否定できないのであまり高くはあがっていない、が。

 

「……全く、騒がしいことありませんわね」

 

 席に座ってギャーギャー騒いでいる彼らを尻目にルヴィアはため息をこぼす。

 

「あー、俺そろそろ帰るかな」

「ええ、気分じゃなくなりましたから借りはまた今度の機会に」

「ま、いつでもいいよ。なんなら返さんでもいい」

「だからそれは」

「エーデルフェルトの家名が泣く、だろ?」

「む」

 セリフをとられたことに不満そうにするルヴィアを後ろに俺は食堂から立ち去った。

 

 

 マイルームに戻るころにはもう夜だった。なんやかんやで今日は何も情報を得られなかったがリフレッシュはできた気がする。これなら明日の戦いはコンディション面は万全だろう。

 

「さて、黒野くん。最後の晩です」

「ああ、整理しよう」

 

 部屋の中は蝋燭一つだけだ。無駄な明かりは無くす、というキャスターの考えにしたがってみたが……確かに明るいところよりは暗いところの方が集中できる気がするのでいいかもしれない。

 揺らめく炎を眺めながら現在の情報をまとめる。

 

敵マスターは間桐竜太。男性。おそらく、コードキャストは使用できずまた、指示もあまり上手ではない。だが問題はサーヴァントのライダーだ。

”イスカンダル”

 古代マケドニアの王であり、アレキサンダー大王の名称が有名だ。彼は騎兵を用いた兵術で知られ、遠征・征服した地域は東西4,500kmに及ぶと言われる

 ゆえについたあだ名は”征服王”。

 宝具は”牛の戦車”が今のところ判明している。だが宝具はサーヴァントに対して必ず一つと決められたものではない。注意深く考えるとして、宝具は三つ、そこまででなくとも二つはあるだろう。そしてその概要は一切わからない。

 こうみると状況的にこちらは不利だと考えられる。戦闘能力ではキャスターはライダーに劣る。そのうえ”キャスター”というクラスは正面切っての戦闘はあまり向いていない。だがムーンセルでの条件では必ず一対一での戦いになる。

 考えているだけでネガティブになる。だが、ポジティブに考えられる点もある。

 

「なんです? こっちを見て」

 

 相手に対してこちらの情報も一切知られていないのだ。これはこちらに理がある点といえる。

 

だが、それだけでは勝てない。

 

「やはり、マスターをどうにかするしか勝機はないのか?」

「ええ、サーヴァント戦ではどうやっても相手に理があります」

「……魔力を大量に消費させるか」

「つまり、宝具を使わせるということで?」

 

 サーヴァントの維持だけならばバーサーカー以外だったら魔力の消費が少なく、容易だ。だが、宝具の使用ではどのサーヴァントも大小あるが魔力は消費される。

 竜太はマスターとして未熟だ。俺と同じくサーヴァントの力を出しきれていない。おそらく所有魔力量も言うほどない。

 なので宝具を長時間使用、もしくは使用回数を増やすことでマスターの維持の魔力をなくすようにするというわけだ。この作戦が唯一の勝ち筋だ、だがこれはサーヴァントに対する負荷も多くなる。

「悪いな、たぶん辛い戦いになる」

「別に構いやしませんよ。それにちゃんと召喚した礼装もありますしね」

 

 腰元にあるキューブを手に取る。

 自らが持っていた礼装が圧縮されたキューブ、最後にこの間召喚した礼装をコンパクト化したもの。合計4つだ。それぞれ赤、緑、青、そして白色の色がついている。

 

「ああ、だけどこんな地味な効果でよかったのか?」

「ええ、私の手伝いをしてくれるならそれが一番です」

 作る際に彼女からあることをお願いされ言われた通りのことを氷室からもらった礼装に打ち込んだ。これでおそらく入れた情報通りの性能を有した礼装ができているはずだ。無事できるか不安だったが問題なく作ることができた。

 栞の礼装は燃えカスのようになって消滅したが、まぁ仕方ない。役目は十分果たしたのだ。

 

 

 今の段階、というよりはもうこれ以上はどう考えても対策は思い付かない 。あとは本番次第だ。

 

 

「さ、早く床について体も明日に備えましょう」

「ああ、そうするか」

 

 キャスターは蝋燭に息を吹きかけ、火を消す。辺りは完全に暗闇、とまでは言わないが外からの月明かりだけになった。

 

「黒野くん」

「ん?」

 

 布団の中に入って眠りにつこうとしたとき、後ろから声が投げかけられる。

 

「私を驚かせてくださいね。こんなところで終わらずに」

「……善処するよ」

 

 

 彼女の期待に応えない、それはつまり俺が明日の戦いに敗れ、死ぬことを意味している。もちろん恐怖はある。だが、

――死んでたまるか。

 そう意気込み瞼を閉じた。




今回は短めです。
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