黒鴉と親殺しの神 (更新停止中)   作:ウィキッド

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初の共同作業! (対サーヴァント編)

「さて、あいつらがいればいいんだけどな」

 

「私的にはいない方がいいんですがね」

 

 確かにキャスターの言う通り、戦闘は本来は避けるべきなのだ。しかしこのままでは情報がみじんもない状態だ。決戦の際に勝てないのは確実、ならば多少の危険を承知で情報を得る必要がある。

そんな理由でアリーナに俺たちはいるわけだが……気配がない。キャスターにも確認を取ってもらうが――

 

「黒野くん。ドンマイです。いませんよ」

 

 ということらしい。俺の覚悟をあざ笑うように竜太たちはアリーナに来ていないようだ。気が抜けたと言っていいのかわからないが少し肩透かしを食らったかんじだ。

 

「仕方ない、トリガーとって、また鍛練でもしてるか」

 

「いいんですか?疲労した状態であの二人にであったら勝ち目はありませんよ?」

「誰もそこまでやるとは言ってないよ」

 

 流石に前回みたいに大量のエネミーを倒すなんて真似はしない。せいぜい体を整えるぐらいを考えている。

 

「さて、ではまずは探しますか」

「と言っても、どこにあるか検討もつかないからしらみつぶしに探すしかないけどな」

 

 トリガーは基本アリーナ内のボックスに隠されている。しかし、その場所はわからない。

だから運が良ければ一発目で見つかるが下手をすればアリーナ内をくまなく探さないといけなくなるかもしれない。しかも決戦場に行くにはトリガーは必要不可欠。見つからないと問答無用で消滅だ。

 

……そう考えてみるとなんだか不安になってきた。

 

「まぁ大変ですけどいつかは見つけられるんですから」

 

 俺の心を読み取ったうえで安心させるように、また、誘導するよう俺の手を握る。英霊のはずなのに彼女のその手は暖かい。それに女性らしい柔らかさを感じられる。

 というより彼女はよく俺の手をとってるがする。別に嫌ではないけど少し照れ臭い。

 

「おやぁ?黒野くん。ドキドキしてますね」

「……なんのことだ?」

 

 ニヤニヤとした笑みを浮かべるキャスターに対して白を切る。

 

「手汗で気持ち悪いですもん」

「おい!変なこと言うなよ!」

 

 慌てて手を放す。その慌てようを見て彼女はいたずらが成功した子供のように笑う。いや、嗤う。

 

 

「冗談ですよ。でも、ドキドキしてるのは本当のことでしょう?」

「うっ」

 

 カマをかけられたことに気づき顔に熱が集まるのを感じる。だが事実なので言い返すことができない。

 

「かわいいですねぇ」

「うっさい!さっさと行くぞ!」

 

 プニプニと頬を突く彼女をおいて先に別のアイテムボックスを開けに行く。後ろから「待ってくださいよー」という声が聞こえたが無視しよう。

 

 

 

「また、外れ……」

 

 中に入っていたのはエーテルの欠片。サーヴァントの傷を癒やすものだ。

 別にいらないものというわけではないがそこまで必要なものでもない。というより今はトリガーを探しているんだからどちらかというといらないものに分類される。

 

 これで外れが4つ目。そろそろ出てきてもいいのだが……

 

「そう言えばあの保健室のNPC、言峰カレンさんでしたっけ?彼女と大分親しかったようですが」

 

 いい加減キャスターも飽きてきたのか世間話話してくる。まぁ俺も退屈していたからそれに乗ることにする。

 

「気になるのか?」

 

「ええ、ムーンセル側の人物があそこまで親しいのは始めてみますし」

 

 

 話に乗ってくれたことがうれしいのか若干声が弾んでいる。そんな彼女につい微笑ましくなり説明をする。

 

「まぁ、簡単に言うと俺が自殺しようとしていた、正確に自己消滅だな。とにかくそんなことをしようとしていたカレンを助けたのが始まりだな」

 

 大分掻い摘んで話すと凄い内容だが気にしない。事実なのだから。案の定彼女も興味を持ったようで話しに食いつく。

 

「そ、その件からお二人は恋仲になったのですか?」

「ん? なってないよそんな仲じゃない」

 

 

 頬を赤くし、瞳をキラキラさせながら迫る彼女に引き気味に答える。

 カレンは美人で親しい。恋人だったらうれしいが恋人ではない。ただの仲が良い先輩と後輩との関係だ。まぁ、あっち側がそう思ってくれているかはわからないが。

 

「もっと詳しく――――といきたいところですが残念、奴さんの登場ですね」

 

 

 キャスターの視線の先を追うとそこには堂々と歩いてこちらに向かってくるライダーと、竜太がいた。

ライダーはこちらに気づくと笑顔で手を振り声をかけてきたが、なぜか対照的に竜太はどこか疲れているような雰囲気をまとっている。また体調が崩れでもしたのだろうか。

 

「キャスターとそのマスターではないか」

「あら、筋肉マシマシライダーとその病弱マスターではありませんか」

 

 キャスターが挑発しながらも俺を庇うように前に出る。

 

「こんにちは、お二人とも」

「……大丈夫か? あまり顔色よくないぞ? どこかまだ悪いとか?」

 

 

 以前よりは健康そうな竜太だがまだ顔が青白い。どこか悪いのではないだろうか。

そうおもい心配するが彼は笑いながら首を横に振る。

 

「ご心配ありがとうございます。ですが大丈夫です、桜さんに酔い止めをもらいましたから」

「全く、情けなくて泣けてくるわい。余の戦車に酔ってしまうとは」

 

「酔い止めでなんとかなるんですか?貴方の宝具」

 

 至極まともな突っ込みをするキャスター。彼女もこのライダーを相手にするときは真面目になっている。

苦手な相手だからか、ふざけることが難しいぐらいの強敵だからか……できるならば後者がいいなぁ。

 

「それで、どうするのだ?小僧?」

「出会ったら戦う、それしかないでしょう」

 

 その竜太の言葉に周囲の空気が変わる。どうやら戦闘は避けられそうにない。

 

「よかったですね黒野君。どうやらやる気みたいですよ?」

 

 ああ、こちらもこれ以上戦闘を避けようとは思っていない。相手が逃げないなら好都合だ。

 

「ではライダー、王たる貴方の力見せてください」

「フハハハハッ!! おうともよ! 耐えて見せよ!我が蹂躙を!!」

「キャスター、頼むぞ」

「黒野くん、指示頼みますよ」

 

 初のサーヴァント戦が始まりを告げた。

 

「むぅん!」

 先手はライダーがとった。

 肉薄してきたライダーが鞘から抜いた大剣をキャスターの頭めがけてたたきつける。直接剣を交えなくても感じてくる気迫からライダーの強さが感じとれる。

 しかし、こちらのサーヴァントだって負けてはいない。

 

「お、やおやぁ? ライダーさん。ご自慢の乗り物はお使いにならないんですかぁ?」

 

 普通の人間では頭を叩き割られていた一撃を扇を使ってライダーの攻撃を受け止め、さらにキャスターは挑発する。

 しかしやはり筋力の差、性別の差、クラスの差などいろいろ合わさってこの状態はあまりよくない。

 その証拠にキャスターの腕が震えている。ライダーの大剣を止めたはいいが、このままでは均衡が崩されるのは時間の問題だろう。だが

 

「キャスター!」

 

 そこは俺がフォローできる。

 礼装”天使の白衣”でキャスターのステータスを強化する。キャスターの体が淡い光を纏う。

 無事に効いているのか不安になったがキャスターの震えが止まったこと、彼女が親指を立ててこちらに成功の合図をしているのを見て杞憂だとわかった。

 

「ふむ、ちと事情があっての。そういうお主こそ自らの陣地からでてよいのか? キャスターなのだから己が作った工房で戦うなりすればよかろうに」

 

「仕方ないでしょう! アリーナでは作ってもエラー扱いされちゃうんですから!」

 

 そう叫ぶとキャスターは胸の谷間から二枚の札を取り出し、惜しみもなくくしゃりと握りつぶす。

 

「斥っ!」

 

 宣言と同時に彼女の手、正確には握られた札からだろうか? 突風が吹きだした。

 

「ぬっ」

 

 キャスターはその噴射の勢いに乗ってライダーから距離をとる。その余りの勢いに転びかけていたようだがすぐに体制を立て直す。

 

「疾っ!」

 

 立て直した先で扇を逆かさぎで振る。ヒュン、という音共に風の刃が吸い込まれるような速さでライダーに襲い掛かる。

だがさすが名を馳せた英雄。虫でも払うような簡単な動作で剣を振り打ち消されてしまう。

 それを予想していたかのようにキャスターは次の行動に移る。

 

「三枚、いや四枚で!」

 

 新たに白い札を四枚取り出す。彼女は指を噛み、流れた血をそれらの札に垂らす。すると血が模様を作り、札が彼女の前に漂い始める。

それらは赤、青、黄色、緑の色を帯びて怪しく光る。

 

「”呪法、流星”!」

 

 キャスターの言葉をきっかけに札が回転を始める。緩やかな回転が次第に速さを増していき、目が追い付けないような速さになった。

 

「全弾、掃射!」

 

 ライダーは数発はじき返すが流石に耐えきるのは無理だと判断し、バックステップで距離をとった。

 光弾はそこまで射程が長いわけではなく、ライダーの手前までが限界のようでアリーナの地面に着弾していく。

 

「むぅ、近づけん」

 

 攻めるに攻められず苛立ちが含まれた表情でうなるライダー。ダメージ覚悟で突っ込めば何とかなりそうだがそうしないあたり彼は見た目と違いに意外と慎重なのかもしれない。

 

「……やはりこの程度の術じゃだめですか」

 

 息もつかないような術の連発をしたキャスターはやはり強い、が俺の評価とは裏腹に彼女の表情は芳しくない。その理由は簡単だ。

 キャスターのつぶやく通り、数発被弾したはずのライダーはほとんど傷がついてはいない。それはライダーの能力なのかわからないが効いていないということだけはよくわかった。つまり、現在の彼女の技ではほとんどの攻撃が効かない可能性があるのだ。

 

 これは不味い、下手をすればここで俺たちは敗れてしまうかもしれない。

 

「ちっ」

 

 キャスターもこちらと同じように焦っているようで舌打ちがこぼれた。

 

「どうした? キャスターよ。顔色があまり好くないようだが?」

「うるさいですねぇこちとら生まれつきこの顔です」

 

 ライダーの軽口にそう言い返す彼女の顔には言葉とは裏腹に焦りが見え始めた。光弾の数が少なくなり、札の回転の勢いもおぼつかなくなる。そして――

 

 

「ほぉ、どうやらその攻撃は時間に制限があるようだな?」

 ――完全に途絶えた。

 

 宙に浮いていた札は力なく落ち、地面に溶けて文字通り消えていった。その様子を見てライダーは笑みを浮かべ、再び攻撃を仕掛けてくる。

「二枚!」

 

 キャスターはすかさず懐から新しい札を取り出す。今度は無地ではなく、鳥居が描かれた模様の札だ。

 それを乱暴に手前の地面に投げつけ、印を結んでいく。その彼女の動きに連動し札から光があふれ始めるのが見えた。

 新しい術を行使するようだがライダーが迫ってきている。間に合うのだろうか?

 

(くそ、足止めできるものなんてないぞ)

 

 下手に人間である俺がライダーを相手にすることなど当然できはしない。あの男は容赦なく切り捨ててしまう。

 印を結んでいる彼女は無防備だ。ライダーの攻撃を防ぐこともよけることもできない。

 だが、そんな中キャスターが動いた。

 

「結べ! ”封界”!」

 

 すべての印が結ばれると同時に薄いガラスのような壁が現われる。それと同時にライダーの剣が振り下ろされた。なんとか間に合ったらしい。

 

「むっ!?」

 

 その壁は攻撃を防ぎ、逆にはじき返した。しかしそれだけで壁ははじけるように消え去ってしまう。

ライダーはたたらを踏む程度ですみ、また剣を構える。警戒はしているようだが今だ無傷だ。

 

「珍妙な技を……」

 

「そりゃ、キャスターですからっ!珍妙、奇妙、絶妙はおてのものですよっ!」

 

 彼女は焦らずに次の攻撃のための札を取り出していた。

 

「雷天、貫け!」

 札を投げ、叫ぶ。

予選の時のドールを撃退した時の技、雷天を繰り出す。いや、心なしかあの時のものよりも幾分か速いように見える。

投げつけられた札は徐々に細くなり、雷となる。そして――

 

「ぬ、ぉおおおおおお!!」

 

 白い稲妻がライダーの体を貫き、アリーナの壁にその巨体をたたきつけた。

 

「ライダー!」

 

 吹き飛ばされたライダーに駆け寄る竜太の姿を見て俺もキャスターに近づく。

 

「キャスター」

 

 麒麟の護符で彼女の体を癒す。

「どうも、では黒野君。少しばかり距離を」

 

 彼女の声は硬い。何故なら――――

「今の一撃、キャスター。お主本来の力出せてはいないな?」

 

ライダーは今だ健全だからだ。

 彼は体をゆっくりと起こし確信を込めた笑みを浮かべる。

 

「ええ、未熟なマスターのせいでしてね」

 

 彼女の言葉に心が痛む。薄々は気づいていたがやはりライダーに傷がついていないのは彼の能力ではなく俺、つまりマスターの実力不足が原因なのだ。

 

「お互い苦労するのぉ未熟なマスターを引いて」

「でもあなたも満更ではなさそうですが?」

「そうみえるか」

「ええ」

 

 のんきに会話をしながらもお互いの戦意は燃え上がっている。

 

 

――どうする。

正直な話、手詰まりだ。敵はほぼ万全状態でこちらは満身創痍とまではいかないが俺のせいでキャスターは実力を出せずにいる。どちらが有利か、このままぶつかればどちらが生き残るかなど素人にも見てとれる。

 

右手に視線を落とす。そこには赤い模様がまるで”使え”とでも訴えているかのようにうごめいていた。

 

なるほど、令呪を使ってブースト、もしくは逃げるか。確かに不可能ではないだろう。だが、それでいいのか?

 

 

 一回戦の相手で切り札を切っていいのだろうか? これがあと六回、正確にはライダーも含めて七回もあるのだ。それに対して令呪は二回しか使えない。それを切ってよいのだろうか?

 焦りと共に考えがまとまらなくなる。

 ――――――どうする、どうする、どうする。

 

 際限なく巡る思考の渦に捕らわれていると視界が赤く染まった。

 

「ここまで、ですか」

『アリーナ内での対戦者同士の戦闘は禁止されています。直ちに戦闘を終了します』

 

 アリーナ内を無機質な声が走る。これは……ムーンセルの緊急停止だ。三度ほど警告が繰り返された後、視界が晴れた。

 

「なんだ?もうしまいか。物足りんのぉ」

 

「仕方ありません。ライダー、戻りましょう。お二人もまた今度、ってライダー!おいてかないで!!」

 

 消化不良だとでもいいたそうに不機嫌を露にしながら騎兵のサーヴァントはマスターそっちのけでアリーナから退出した。残ったのはキャスターと俺のみだ。

 

「正直、ムーンセルの強制停止に助けられました。魔力もあまり余裕がありませんでしたからね」

 

「勝てないか?」

 

 肩をぐるぐる回す彼女に問いかける。

 

「ええ、そりゃ今のままでは無理です。ですが相談はマイルームにて、まずはトリガーを探しましょう。できるだけ戦闘は避ける方向で」

「……了解」

 

 初のサーヴァント戦は少なくとも勝利とはいえない結果に終わってしまった。

 

 

 

 無事トリガーを習得し、マイルームに戻るとキャスターが座布団を投げ渡す。つまり座れということだろう。

 

 もらった座布団を畳の上に敷き、彼女の向かいに腰を下ろす。規則正しい姿勢の彼女にあわせてこちらも正座だ。

 

「わかったことが一つあります。あの筋肉ダルマ(ライダー)は本来の力を出せていません」

「それはなんで?」

 

きっぱりといいきる彼女の姿に確固たる根拠があるのだろう。彼女はどこからか取り出した煎餅の袋を開けながら説明をする。

 

「宝具であるあの牛車を使わなかったことがそれを物語っています。性格的に出し惜しみはしないようなタイプでしょうしあの輩は」

 

 確かにあのライダーは隠し事しないようなタイプだ。しかもあの牛車の宝具は派手、派手好きそうなライダーが好んで隠すことなどしないだろう。おそらくマスターの指示か、彼女の言う通り弱体化によって回数が限られているかのどちらかだ。

 

「マスターの竜太が一切アシストをしていなかったことも気になるな」

 

 他にも色々と気になる点がある。もう一度調べて見る価値はあるだろう。

 

「黒野君、もう少し情報を集めましょう。このままでは私たちは負けます。ですが、付け入るスキはあるかもしれません。あきらめずにあがきましょう」

 

 

キャスターも同じことを思ったようだ。そしてやる気を鼓舞するように両拳を胸元で握りしめている。そんな彼女の姿をみてズキリと心が痛んだ。

 

「……責めないのか?」

 

 何を言っているんだ? とでも言いたそうに眉を顰めるキャスター。その表情に苛立ちを覚えてしまう。

 

「俺のせいで、苦戦しているんだろ?」

「ええ」

 

 平然としている彼女の様子についに限界が来た。

 

「だったら!俺を……」

 

 つい叫びが口からこぼれる。だがその勢いは続かず呟くように続けた。

 

「……俺を責めろよ。気を使われるなんて惨めだ」

 

 

 驚いたように目を見開く彼女だったがそれも一瞬のことで、すぐにいつものにやけ顔に戻った。そして――

 

「黒野くんはMなんですか?」

 

「は?」

 

 彼女から発せられた場違いな単語につい間抜けな声をあげてしまう。

 

「……あのなぁ」

 

「Mじゃないのなら進んで責められることもないでしょう。少なくとも貴方は自分に非があることを理解している。その非を否定するならば私は責めましょう」

 

――――

 

「誇りなさい、ヒトの子。それは到底できるものではない」

 

 いつもの彼女が醸し出すふざけた雰囲気などそこにはなく別人と対峙しているように錯覚した。

 

 

「そもそも責めたところで何もないでしょう。落ち込まないでください、貴方に落ち度があるのならばそれは私の落ち度でもありますから」

 

 いつの間にか近づいてきたキャスターによしよしとを慰めるように撫でる。恥ずかしい。恥ずかしいが、心地よく顔をほころばせてしまう。そんな俺の顔を覗き込んで、笑う彼女を見て慌てて撫でる彼女の手を振り払い赤くなった顔を隠す。とにかく今は作戦会議だ。

 

「なんで弱体化してんだろうな」

 

 若干声が上擦ってしまったがが気にしない。

 

「なぜ黒野君がマスターとしての才能、まぁ本来の実力が発揮できないのか。なぜ私が必要以上に弱体化しているのかですが――」

 

ゴクリと息を呑む。

 

「正直わかりません」

 

 

…………まぁそうだろうな。ぶっちゃけ期待はしていない。

 

「まぁ、私説でよいなら心当たりはありますが」

 

 そう言うと指先が俺の腰に向けられる。

 

「そのキューブ。礼装でしたっけ?」

「ああ」

 

 腰にキーホルダーとしてつけているのは三つの礼装。これは俺が持ち込んだ礼装の使用が許されたものだ。もっとも今は圧縮されていて使えないが。

 

「それはムーンセルによって制限されているんですよね?」

「そう、あまりにも強すぎるからって」

「……どんなものを持ち込んだんですか?」

「そこまで強くはないさ、ただ数が多いから結果的に強くなったんだろうな。それで? 礼装がどうしたんんだ?」

「礼装はどうでもいいんですよ。問題は――”ムーンセルによって制限されている”、ということです」

 

「……? それが?どうして――」

 

 弱体化に繋がる、そう疑問を口に出そうとしたがあることに気づく。

 

――ムーンセルによって制限?ムーンセル自身によって制限されている?

 

 

「まさか、ムーンセルが?」

 

 そもそも参加者の能力に制限をかけることができる存在などムーンセルぐらいしかないだろう。規格外のサーヴァントがいて自分になにかしたなら別だが。生憎、そんなサーヴァントとは出合っていない。

 そして俺の結論にキャスターは頷く。

 

「ええ。おそらく貴方の本来の素質が制限されているのでしょう。その礼装を制限する際にしてやられましたね」

「だとしたら礼装が制限を解除できたらも連結して解放されるってことか?」

「あくまで、私の考えが正しいのならばですがね。しかも説が正しくても連結してない可能性がありますから確定もしていませんが」

 

 俺は自分の手を見る。なんの変鉄もない普通の手だ。

 

――ムーンセルがなぜ俺の礼装を制限したのか、なぜ俺の本来の力も封じなければいけなかったのか理由はわからない。だが、早く取り戻さなければ。

 

 それは焦りによるものではなく、力を貸してくれている彼女に対して報いたいからだ。

「ははっ……」

 

 彼女に吐露する前に抱いていたものとは違い前向きな考え方だな、と自らの単純さに小さな笑みを浮かべた。

 

湯呑を傾けながら私は考える。

 ――おかしいですねぇ。なぜ運営側が、あのムーンセルがわざわざ礼装を多く持ち込んだだけで制限するのでしょう? 

 

礼装の数の多さだけで倒されるような英霊など多くはないはずだ。それこそほかに気にするべきことがあるでしょうに、アリーナ改造をしている輩とか。

それを見のがし、いや完全に無視して黒野くんのみに焦点を置いているように思える。

 それはまるで――

「……岸波黒野という個人の人間に関心を持っているみたいじゃない」

 

 

 たった一人に意識を向ける。これが人間ならまだいい。だが相手は人間ではない。情報の海ともいえる、いや一種の世界の方が正しいだろう。そんな規模のものが個人に意識を向けるなど……想像しただけで他人事ながら身震いする。

 ――ヤンデレってレベルじゃねーですよ。

 

「なにかいったか?」

「いえいえ。あ、お煎餅たべます? 購買で売ってました」

 

 どうやら考えていたことが口に出てしまっていたようだ。私もまだまだ未熟らしい。幸いにも聞き取られはしなかったが余計な情報を与える必要もない。追及される前に話題をそらそう。意外と黒野くんはメンタルが弱いようですし。

 

 そう思い私の頭のなかで会話の糸口を探そうとしたが黒野くんがこちらを先程から見ていることに気づく。いや、睨んでますねこれ。

 

「なんです?」

私の手、正確にはそれが掴んでいる煎餅の袋を指差す。

 

「……金は?」

 

 あ。

 

「もちろん、黒野君から」

「返品してくるっ!」

 

 ガシッと私の手ごとと袋をつかむ。あらやだ意外とたくましい。

 

「ちょっ! 開封済みの、というより菓子を返品なんてやめてくださいよ! 情けない!」

「うっさい!」

 

 

 袋の端を掴みながら引っ張りあう。

 

「分けてあげますから!」

「当たり前だっ! もともとこれは俺の金だろ!」

「稼いだのは私ですけどねっ!」

 

 ギャーギャーお互い文句をいいながら引く力を強める。

 実際黒野くんの問題は後回しにして行くしかない。解決策など思い付かないのだから

――まぁ退屈しのぎにこの未熟な人間を見ていきましょうか。

あ、煎餅バラけた。




ありがとうございました!

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