黒鴉と親殺しの神 (更新停止中)   作:ウィキッド

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今回リアルが忙しく、粗いです。


征服の王と親殺しの神

「ようこそ、決戦の地へ。身支度は万全に整えてきましたか?」

 

 電子手帳に通達された集合場所に向かうとそこにはカレンがいつもの白衣をまといながら立っていた。相変わらずの冷たい眼差しと共に確認をとられる。

 

「カレンか。お前が案内人なのか?」

「そこまでしっかりとした役割ではありません。本来なら言峰神父が担当なんですがなぜか急ょ私に変わりまして。それよりも、トリガーを」

 

 言われるままに差し出された手へ二つのトリガーを渡す。彼女はそれを受け取り、用務員室の扉にある、長方形のくぼみにはめ込む。少しの振動の後、扉の外観が変わり、エレベーターの機械的なものに変わった。

 

 

「では、よい軌跡を」

 

「あ、そうだ」

「なにか?」

「おまえ、予選の時に行ってた言葉。あれ、どういう意味だ?」

「馬鹿野郎、ということです」

 

 冷たくそう告げカレンは離れる。いつもよりも扱いがひどい気がする。

 

「俺、嫌われてんの?」

「ただのツンデレでしょう。ほら視線が痛いのでほら行きますよ」

 

 無機質な声と共に見送られながら俺とキャスターはゆっくりと、それでもしっかりとエレベーターに歩みを進めた。

 エレベーター内に入ると透明な仕切り越しに竜太とそのサーヴァント、ライダーと対峙した。

ライダーは今だ力強さを感じさせてくる。

「…………」

 重苦しい空気の中、エレベーターの無機質な稼働音だけが鳴り響く。

沈黙の中、耐えきれず俺は竜太達と会話をすることにした。煽るわけでも、自分達が有利になるための情報収集でもない。単純に興味があることだ。

「なぁ、竜太。お前の願いは何だ」

 

「なんですか。急にしゃべりだしたかと思えば」

 

 やはり。返答に棘を隠そうともしない。これで断られたらあきらめよう。しかし竜太は意外にもため息を吐きながら答えてくれた。

 

「”優勝すること”ですよ。そうしなければいけない理由が僕にはある」

 

 その願いに込められたものはわからない。ただ瞳の中に見える揺るぎのない意思。それは本物だということだけはわかった。

 

「次は僕の番です。この間の件でわかったと思いますが」

「ああ、二重人格だろ?」

 竜太が言っているのはこの間のアリーナでの出来事、つまりは豹変した性格を見せたことだろう。それは二重人格だということを兄である間桐シンジから事前に聞いていたことであまり驚くことではなかった。

 ……まぁ、あの怒涛の罵詈雑言には驚いたが。だが俺の返答とは裏腹に竜太は否定の意を表すように首を振った。

 

「正確には違います。二重人格であるともいえますがね」

 どういうことだろうか?竜太の返答を待つ。

「脳の継続性、という話を耳にしたことがありますか?」

「脳の継続性?」

 聞いたことのない言葉だ。キャスターにも確認を取ろうとするが俺と同じく耳にしたことがないようで目を白黒させていた。そんな俺たちの様子を見て、わかっていたかのように”やっぱり”と声をこぼす。

「黒野さん、人の性格を決めるものってなんだと思います?」

「……過ごしてきた環境、か?」

 

 程度の差はあれ性格は生まれつきに決定するものではないと、何かで読んだことがある気がする。竜太も満足そうに頷く。

 

「ええ、その認識で構いません。ですが今は脳によって決められているという言い方に置き換えましょう。その方が説明しやすいし、理解もしやすいでしょうから。脳をまるごと置き換えた場合……先程もうした通り人格を決めるのは脳によるもの。なので他人の脳だったら体は同じでもそれはもう別人格なんです。全く別人格というわけではありませんがね。では脳を何回かにわけて少しずつ移植したパターンはどうでしょうか?」

 

「つまり、複数の手術で部分的に脳移植をするということか」

「はい。他人の部分を徐々に自分の脳として変えていくので最終的にすべて置き換えても人格は元のまま」

 少しの溜めの後、竜太はつづけた。

「――というわけにも行かないんですよ」

 

 どういうことだと眉を顰める

「だって、そんな単純じゃないんですよ、脳というものは。説明書どおり、理論通りじゃ成功なんてできないほどに精巧な作りなんですから」

 

 クスクスと気味の悪い声で笑う。その様子は少なくともまともな人間にできるものではなかった。

 

「詳しい事情を話すには時間がたりないようですが……簡単に言いますと、僕の中には僕自身の性格と移植された脳の持ち主の性格の二つが存在しています」

 なるほど、確かに二重人格とは少し違う。竜太のそれは元々の人格が分裂したものでもなく、新たに作りだしたものではない完全に別の誰かの物が存在しているのだ(・・・・・・・・・・・)。重症患者がある部位を移植されたときに移植元の人間の記憶が混在するケースがあるという。それが起きているのだろう。

 

そして今の説明を聞いて気づいたことがある。

「竜太、お前脳の移植手術を、したのか?」

 震え混じりの問いかけに竜太は何も答えず、笑みだけを返した。

現代の技術で脳の移植自体は可能ではある。しかし患者の負担も大きく、後遺症も残る可能性がある。 いや、実際に残っているのだ二重人格(・・・・)という後遺症が。

 

 突然ガコン、と大きな音共にエレベーターが停止した。

「さ、行きましょう」

 

 開かれたドアは決戦場への入り口、生死を決めるその場だ。しかし竜太はおびえる様子すらなく歩みを進めていった。それは地上での生活で命のやり取りが慣れてしまっているからか、はたまた本来の性格が剛毅なものだからか。それは俺に知りえない。いや、知ったところでどうする。

 

「黒野君」

 そう、俺と竜太は今から殺し合いをするのだから。いうなれば敵だ。だったら考えるのは今はよそう。くだらない思考は指示を鈍らせる。いまは戦って勝つことを、勝つ道を作るのだ。

 俺はキャスターに促されゆっくりと、後に続いた。

 

 コツコツと俺とキャスターの靴の音が響く。どれぐらい歩いたのだろうか。エレベーターを降りてからしばらく暗闇が続いている。

 数分、それぐらいたったころにうっすらと光が見えた。その光を目指して歩みを進めていく。すると

「ここが、決戦場」

 

 暗い道を抜けるとそこは砂漠だった。アリーナも砂漠だったがこれは規模が違う。

 辺り一面の砂の中大小問わず、岩石が転がっている。そして、何よりアリーナと違うのは道が用意されていない、つまり実際に砂の上にたっているということだ。試しに足元の砂を掬うと驚くことに本当の砂でできている。

 

 

「どうやらあの太陽以外だけは本物のようですね」

 キャスターがはるか上空を指さす。そこにはまぶしいほどに輝く太陽が存在していた。しかしその輝き様にあわず、熱さは言うほどのものではない。

「さすがに気温は調整されていますね。ほんのり熱い程度で済んで大助かりです」

 

 ただそれでも熱いのかパタパタと胸元を仰ぐ。ただでさえ目立つ胸が強調され、つい、視線がそちらに誘導される。うっすらと浮き出た汗の粒が谷間をねっとりと通り下着の中に消えていく。

 一部始終を見てしまっていたことに気づくのとキャスターがにやけていることに気づいたのは同じだった。

 

「あら、目線がエロいですよ?」

「はやく行くぞ! あっちも待ってる」

 

 男だから仕方のないこととはいえ、決戦前にいったい何をやっているのだろう。恥ずかしさを隠すように急ぎ足で先に進む。俺がなれない砂の上をふらつきながら歩いていると少しだけ平らに整備された場所についた。どうやらここが戦う場所らしい。

 ライダー達は先に到着しており、不適に笑っている。竜太は少し疲れた様子だがライダーは英霊だからか、それとも慣れているからかわからないが疲労はなさそうだ。

 その様子を見ていると声をかけられた。

 

「うむ、では最後に確認だどうしても余の配下に下る気はないか?」

「ああ、もうどうやっても配下にはならないぞ?」

 案の定俺たちを勧誘するライダーにくぎを刺す。俺の返答に本当に残念そうな顔を浮かべる。

「ならばやるしかないの」

「黒野くん。指示を」

 

 空気が変わる。アリーナで感じた時のものよりも重く、鋭い。針で刺されているような痛みも感じる。

 

彼方にこそ栄えあり(ト・フィロティモ) !今こそ蹂躙の時!」

 

 いま、ここに殺しあいの火蓋が切られた。

 

「AAAALaLaLaLaLaie!!」

「危なっ!! いきなりですか!?」

 ライダーは真っ直ぐにこちらに戦車を進める。キャスターはそれを翼をはためかせて上空に移動し回避。戦車は地上での滑走をやめ、スピードを一切落とさずに空中に移動し、縦横無尽に駆ける。

 

 

 

マイルームで話していたことを思い返す。

 

 

「黒野君。私が現在使えるスキルは3つです」

「雷天、流星、そして封界か」

「ええ」

 

今までの戦闘で使っていたスキルを思い出す。雷を帯びさせる攻撃”雷天”。四枚の札からの多彩な攻撃を可能とする”流星”。そしてライダーの攻撃を防いだ”封界”。これで三つ。言い換えるならばこれが現在の戦力だ。どれも俺ら人間に対しては強力なものだが同じサーヴァントであるライダーには歯が立たなかった。

 

「他には”斥”みたいなのもなかったか? こう、プシュってなんか風だす技」

 

 ライダーから距離をとったときに使っていた技だ。あれは数にいれなくても大丈夫なのだろうか?しかし彼女は困ったように頬をかく。

 

「あー、あれは単なる移動用や牽制用でほとんどダメージ与えられないんですよ」

 

 そう言い彼女はこちらに手のひらを向ける。攻撃されると思いびっくりしてしまうがプシュという音とわずかな風が当たったのみだった。

 

「まぁこれを頼りにはしない方向で」

 

 クスクスと笑う彼女に抗議の目で見るがどこ吹く風。話は続けられる。

 

「雷天はまぁ、単純な威力では一番ですね。ですが工夫が効かず攻撃の軌道も直線なので下手をすると避けられますね」

 

 確かに、雷天は今までの戦闘を見ていても直線にしか飛んでいなかった。イメージ的には銃みたいなものだろう。威力は高いが、直線的で軌道が読みやすい。サーヴァントなら避けようと思えば避けられるものだ。

 

「流星ですが……これは札と札との距離が長いほど威力は上がりますが、印を結ぶのにも時間がかかりますし、札を一つでも散らされたら発動しません」

 

 四枚の札を用いるあの技、流星は準備に少し時間がかかるが他の物よりも威力が高い。欠点としては術の距離が余り長くないことも挙げられるだろう。

 

「それに加えてこれは発動している間は動けません。術を打ち切れば別ですが魔力が無駄になっちゃいます。……後、封界も展開している間は動けません。しかも防ぐことができるのはあくまで一撃のみ。遠距離の攻撃、それこそ石でも投げられただけでも割れます」

 

「封界は、防御用のスキルなのか?」

「ええ、宝具以外だったらたいていの攻撃は防げますよ。一撃だけですが……あ、後こんなこともできますよ」

 

 キャスターは近くにあった座布団に二枚の札を対照的になるように張り付け上空に投げる。

 

「ほっ」

 

 素早く手を動かした矢先、座布団が切断された。切断面は見とれるほどに綺麗でまるで鋭利な刃物で切られたのようだった。

 

「こんな風に物体の側面に貼ると切断されます」

 

「どういう仕組みなんだ?」

 

 

「説明するとこんがらがりますよ? 今は地面に貼れば防御、物体に貼ればその物体は切断という風に考えてください」

「つまりライダーの戦車に二枚貼り付けることができれば……」

「ええ、たぶん破壊できます。張り付けることができれば、という条件がありますが」

 

「ふむ……宝具は?」

 

 サーヴァントの象徴ともいえる宝具。それならば元のステータスが低くても関係ないだろう。

 しかしその提案に彼女は拗ねたように口を尖らせる。

 

「嫌です」

「はい?」

「こんなところで使うんなら私は素直に死を望みまーす」

 

 ぶーぶーと駄々をこね、俺の話を聞かない。こうなると彼女は梃子でも動かないだろう

令呪を使うべきだろうか……いや、こんなところで使うべきではないしそもそも使う前に腕ごと切り飛ばされる運命しか見えない! 仕方ないので今回は宝具は使わないという方針をとることになった。

 

 

「で、ですね。勝利のキーとなるのはですね。黒野君。貴方のサポートです。回復のサポート、これは今回はなしの方向で」

「いいのか?」

 確かにアリーナと決戦場に持っていけるのは2つ、小さいものならば3つぐらいだろう。どれかひとつは置いていかなければいけないだろう。

 だがキャスターの作戦を採用するならばダメージを受けたらそのまま蓄積されていくということだ。彼女自身にかかる負担がとても大きくなり結果的に勝てないのではないだろうか? 礼装とは別にエーテルの欠片などを使っても回復はできるがそれでも微量なものしか回復できない。

 しかしそんな俺の心配を察し、大丈夫だというように胸を張る。

 

「ええ、私大分弱体化していますが速さには自信がございますので」

 

 彼女は確かに弱体化していても速さは特出している。その速度はライダーの機動力を上回ることができるかもしれない。当たれば確かに不利になるばかりだが、当たらなければ問題はないのだ。

 

「なので黒野君には強化の礼装と、昨日作成したたあの礼装を持ち込んでください。後は……強化の合図を決めますか」

 

 確かに彼女のいう通りいちいち強化の種類を伝えるのも手間だ。だったら合図を決めておいた方が無難だろう。

 

「まずは私がこう、胸の谷間を……」

「頼むからもっとましなアイディアを出してくれ」

 

「どうしたどうした! キャスターよ! 逃げ回るだけでは! らちが明かんぞ!」

 加速した戦車が直撃すれば紙装甲とも言えるキャスターの体はその衝撃に耐えきれずに跡形もなく消えてしまうかもしれない。それが冗談に聞こえないほどの破壊力を持っている戦車は雷鳴を轟かせながら執拗にキャスターを追いかける。

 

 しかしキャスターは余裕の表情を浮かべ、器用にも四回転しながら避けている。

 

「いやいや、貴方のその戦車だって卑怯でしょう。埒を明けたいならば降りてくださいよ」

「ふむ。それはできぬ相談だの」

 

 

「――そうですか、ならこちらが動いて片を付けましょう」

 

 そうつぶやき、キャスターが左手で持った札を燃やす。その札は通常とは違い、緑色の炎に包まれた。これは、合図(・・)のひとつだ。

 

「code、D!」

 緑の炎、左手。その合図は強化の礼装を使用、できるだけ耐久と筋力を重視にといったもの。その合図通りに天使の白衣で彼女に強化を施す。

 

「むっ!?」

 ライダーは歴戦の経験からか、ただの偶然かはわからないが強化されたキャスターから距離をとる。その判断は正しい。しかし――

 

「どーん!」

 

 ――キャスターの突撃を避けるにはまるで速さが足りていない。キャスターの敏俊を活かし、さらに俺の礼装で強化した体での捨て身タックル。この二つの合わせ技は単純ながらも強力だ。

 例えるなら流星のごときそれをライダーの戦車は回避することができずに直撃した。

 上空から勢いのままたたきつけられ、砂塵が舞う。

 

「さすがに壊れませんか」

 

 上空から戦車の落下地点をにらみつける。そこにはいまだ健全のライダーと戦車の姿が見える。

 当たりはした。しかしライダーの戦車はほとんど損傷はなく、逆にキャスターの体の方が反動による傷が目立つ。それも当然、小さい子供が相撲取りに体当たりをするものだ。衝撃は確かに与えられるが反動も大きい。ましてやこちらはいくら強化の状態であっても相手は硬い金属でできている。むしろ腕が折れていないだけましかもしれない。

 結局彼女に無理をさせてしまうことになってしまったが。彼女が言うには今のところの有効な手段はこれしかないらしい。だが、突撃するたびに傷が増えていく彼女を見ると無理をしても作戦の変更を申し出ればよかったと後悔がある。

 

「まさかキャスターが肉弾戦をやるなんて」

「ふっふっふ。魔術オンリーのキャスターなんて今じゃ時代遅れぇ!! 最近は肉弾戦もできて、魔術もできる。それってキャスター? 系なのが流行りなのです!!」

 

 竜太のつぶやきに胸を張って答える彼女に伝える言葉は一つ。

 

「……魔術師ってなんなんだろ」

 

 その質問に答えてくれる人間はいない。というより誰も答えが解らないのかもしれない。

 

「うぅむ。面白いっ!肉体を駆使する魔術師など始めてみたわい!ぜひとも余の軍団に加えたいなっ!」

「そういうのは事務所を通してからお願いしますね?」

 

 どこだよ事務所。

 

「確かに先程の攻撃は効いた。しかし、余の戦車はまだ動くぞ?」

「ですよねー。だから、まだまだ行くぞ?」

 

 不利な状況、相手は余裕しゃくしゃく。だがまだ戦いは始まっても間もない。状況はどうなるかわからない、良くも悪くも、だ

 

 

 最初の突撃からどれぐらいたっただろうか?

キャスターは隙を見て魔術を使いながらも戦車に対して突撃をしている。おかげでいくらか戦車にも傷がついてきた。

 そして

「っあ!」

 今の突撃によってキャスターの体は頭から地面に叩きつけられた。幸いにも下は柔らかい砂。死にはしないが蓄積されているダメージも合わさり大分追い詰められている。

 

「キャスター! 次が最後のエーテルだ。もう強化用のMPも次の一回しか余裕がない」

「ええ、次で仕掛けます。あることも確信しましたしね」

 

 血が混じった唾を吐き捨てる彼女は見た目とは違い瞳には揺らぎのない決意が見えている。

 

「黒野君、これを。あ、匂いをかがないでくださいねさすがに恥ずかしいので」

「っと」

 こちらに雑に投げ捨てられたのは黒いヒールがついた靴。それを受け取った先には白い足袋の状態で砂の上に立っているキャスターの姿だった。彼女は指を地面につき、足のつく位置は揃えずに一足長半の位置におく。そして前足側の膝を立て、後ろ足側の膝を地面につける。これは

「クラウチング、スタート?」

 陸上競技などでよく見るあの構えだ。

「これが一番速く走れるって書いてましたから。では、行きます!」

 飛び出そうとする彼女に慌てて強化する。MPはこれでほとんど底をつく。これでもう強化はできないかもしれないので今まで以上の力が出るよう全力で強化を彼女に施す。

 彼女は自慢の翼ごと体を一層地面に沈め、溜めを作る。数秒、数分、いくらたったかわからない。予想よりもはやく、もしくは遅く、それは訪れた。緊張から唾をのみ、まばたきをした瞬間。キャスターの姿がきえ、辺りの空気がえぐれ、渦ができる。

「っ!」

 突風と混じる砂に目をつぶる。彼女の飛び立つあまりの勢いから砂が当たるだけで傷ができる。

だがそんなことを気にしてられない、相棒である彼女が決死の攻撃をしているのだから。それを見届けるのが自分の役目だろう。

 無理やりにでも目を開け、俺の視界がとらえたのは――

「……え」

 ――メキョリ、と鈍い音を立て、そして力なく落ちていく彼女の姿だった。


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