赭石のイアーティス  ───What a beautiful dawn───   作:6mol

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携帯での投稿ですので、行間などめちゃくちゃです。
ハーメルン復帰のためのリハビリ作です。


白い女

《崩落地区ユノコス》は─────

 

延々とした瓦礫が積み重なった地区だ。地獄と呼ばれる《大洞窟(クシニーア)》の中でも最も建築物が崩落した街であり、以前の姿をそのまま残した建物など数えるほどしかないだろう。最早、その街の本当の名を口にするものはいない。そう、人の耳に静かに「囁くもの」でさえ。

……しかし、ユノコスはなるべくして崩壊をしたのではない。

《崩落》が崩したのは僅かな建物と命、流通口である横穴と人々の希望、そして《中央機関街》と螺旋階段塔(ツァト・ブグラ)のみであり、大規模の街単位の崩壊など何処にも起きていなかった。そう、ユノコスでさえ。

 

─────しかし、事実としてそれはある。

瓦礫の街とかしているユノコスが、地の底に。

なぜか。それは、なぜか。

跡形もなく崩れ去った、大機関都市の成れの果て。

それは……実に作為的な意思によるものであった。本能的であった。衝動的であった。

破壊。

自壊。

どちらとて同じことだろう。その《大いなる霧の意思》は容易く人々の生活をその巨躯と腕で打ち砕いたのだ。残酷なまでに、冷酷に。

 

─────ある日、突如としてその姿を現した大型の異形。

ユノコスを瓦礫とした霧の意思は、破壊の限りを尽くした後にその姿を抜け穴(サルース)へと消した……誰もが災害は去ったと思った。思わざるを得なかっただろう。

 

─────だが、現実は無情であった。

霧の災害は度々その姿を現し確実に人々を殺戮の夜へ誘っていったのだ。……その夜の悲劇は唄う導管(イステ)によって紡がれるという。

そしてやがて人はやってくる霧の災厄(マリ・クリッター)に怯え、バケツの水を必死に抱えて生きていくこととなった。

 

─────ユノコスに生きる人々に出来ることは、それだけだったのである。

そして、それがこの街(ユノコス)の全てでもあった。そう、この街は……

 

……諦めたものから、死にゆく都市。

 

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

 

 

『───フィリア』

 

────お母さん。

優しい声……私の大好きだった声。今はもう、聴くことのできない声。

その声が私を呼ぶ。それは、絶対にあり得ないこと。

死者は蘇らない……それを事実として私は知っていた。だから、わかる。

これは明晰夢だと。悪夢の一種であると。……わかっているのに、私の瞳からは涙が流れ落ちて。それは決して止まってはくれず、いつまでも流れ落ちていく。私をたやすく押しつぶす、苦しい位の感情の波濤。

そしてその暗闇から聞こえる声は徐々に遠くなり、代わりに聞こえてくるのは……いつも通りの怨嗟の音。

 

『ひどい……どうして、あなたなんかが……』

 

ほら。……こうして、声、耳まで届く。

その声に脳が、心が支配されていく。脊髄反射のように耳を塞ごうとするけれど、その声は一切も途絶えてはくれなくて。

いつまでも耳に残る。いつまでも聞こえてくる。

───いや、いや、いや!

───やめて、やめて、やめて!

そう叫んでも、その声は私を止むことなく責め立てる。ごめんなさい、そう、謝罪をしても。

 

『ゆるさない。ゆるさない。ゆるさない』

 

次に私を襲うのは、暗闇から伸びる無数の腕。

人ならざる異形の腕。揺らめく赫い炎の腕。その伸ばされる右腕は一つとして同じものはなく、ただ、私だけに伸ばされる。

請うように。

責め立てるように。

けれど、私には耐えることしかできなくて。

助けを呼んだって……誰も。

 

─────誰も─────

 

 

 

 

 

 

─────その、途端。

 

私を責め立てる声が止む。私に伸ばされる腕が見えなくなる。代わりに見えるのは、私の前に広がった深い青色……ううん、違う。その青色は、誰かの後ろ姿だった。

この青に、私は見覚えがある。

沈むような深い青、瞬く間に広がって。

私の前に庇うように立ったこの青色は……そう。

 

「エドさん……?」

 

そう、そうだ。

エドさん。

知り合ったばかりの、不思議な人。青色をした男の人。

その彼が前に立っている。私を背に庇うようにして、伸ばされた腕から遠ざける。

 

─────守って、くれてるの?

 

─────私、を?

こんなこと、今までにはなかった。この夢に、この悪夢に誰かが出てくるなんて。

 

─────守って、くれるなんて。

 

「どう…して……?」

 

震える声で、そう、私は尋ねる。すると彼は、出会った時からずっと変わらない不機嫌そうな声で。

 

『呼ばれたから』

 

そう、言って。

 

「呼ばれた……?」

 

『君が呼んだんだよ……君が、救いの言葉を言ったから』

 

振り向きもせずに彼は言う。視線、異形の腕に向けたままで。

 

『助けて、それを言うことは難しい……それは、弱さを見せることであるから。けれど、君はそれを口にした。だから』

 

助けに来た、と彼はいう。いつも通りの、不機嫌そうな声で。

だというのに、その声に私は……どうしようもなく優しさを感じて。また、瞳から────

 

─────涙が─────

 

─────溢れて─────

 

『君はそう……こうして彼らの声を夢として聞いてしまう』

 

 

 

 

 

『発狂せずにはいられないんだ。この《大洞窟》にただ一人……《夢幻》の瞳を持つ君は』

 

その呟きを最後に、私はふと身体が浮くのを感じた。……そう、ふわりとした感じの。

夢の最後で見たのは……彼の、あの────

 

─────寂しそうな、背中─────

 

 

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

「ん……」

 

深い眠りから、目を覚ます。

部屋に入る、朝日の日差し……それは、ない。この《大洞窟》にそれはない。雲もなく、太陽もなく、灰色の空もない。この蒸気に満たされた時代にあるはずの、当然のものがここにはない。ここにあるのは停止した機関群と、無限に漂う《青い霧》、それだけ。

この《大洞窟》には朝もない……その代わりに、永遠に明けない夜がある。だから、目を覚ましても外の景色は何一つ変わりはしない。そう、何も。

青色の霧、いつも通り。

つかない機関灯(エンジン・ランプ)、いつも通り。

それでも、私は半ば癖のように窓の外を見ようとして────

 

「おはよう、フィリア」

 

─────目が、合った。彼の、エドさんの、不機嫌そうな青い瞳と。出会った時と、そっくり同じに。

……ただ、問題が一つだけ。

 

「─────え?」

 

─────そこが、彼のいる場所が、私と同じベッドの上だったということ。

 

「─────え?」

 

呆然とした声を、もう一度。

混乱する頭をなんとか整理しようとしても、当然のような顔をしてこっちを見つめてくるエドさんの視線のせいでそれもままならない。

─────待って。待ってください。

なんで、私はエドさんと同じベッドで寝ているんですか。

頭、凄いこんがらがってる。スーッと考えていたこと、感じたこと、私の中から消えていく。

 

「なんで……」

 

「─────魘されているようだったから」

 

平然と彼は言う。それと同時に私は気付いた。

しかも……私の服装……?

 

「あれ……服が……」

 

「あぁ……君の服は濡れたままだったからね。そのままでは《大洞窟》といえどまずかった」

 

だから、着替えさせた。と。

彼は言う。いかにも「面倒なことさせやがって」といったような顔をして。

 

「……誰が、ですか?」

 

「僕が」

 

───────────────……

 

頭、今度こそ真っ白になる。

何も、考えられなくなって。手足の先がすっと冷えていくのに対し、どういうわけか顔に血液が溜まり始めてしまう。多分だけれど、今の私の顔は、真っ赤。

 

「え……あっ……ぅ……」

 

うまく言葉も出てこない。焦る私に対し、彼は本当にいつも通りの、素知らぬ顔。……とりあえずベッドから出て行って下さい。

 

「どうした」

 

どうしたもこうしたもありません。

本当に、信じられない!淑女であったなら、もうお嫁にいけないところでした。……あれ、一応私も……淑女?

 

「どうしたって……だって……あの……私の体……みて……?」

 

「ん。あぁ……それを心配していたのか」

 

今更気付いたと言わんばかりに彼は呟く。

 

「安心していい。君の肢体は理想的な健康体だった」

 

世界一嫌なものを見た、と叫び出すのではないかと言うほどに不機嫌そうな声でそう言う、彼。当然、そんなこと言われたって安心できるわけがありません。

でも、確かに濡れたままの服では《青い霧》の恩恵があっても体調を崩してしまったかもしれない。そう考えると怒るに怒れないのが現状で。

─────ただ一つ、私に致命的な失点があるとするならば。

 

 

「─────フィリア、新しい紅茶を持ってきたわ……よ……?」

 

 

入ってきたアーテル姉さんに見られる前に、エドさんをベッドから下ろすべきでした。

 

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

「─────話はわかったわ」

 

目の前に立つアーテル姉さんにひとしきりの説明をすると、ため息を吐いて呆れたように首を振る。

悪癖の治らない仔犬に呆れるように。

悪戯をした子供を諌めるように。

 

「わかった。わかりましたとも。貴女が優しい子だってことくらい……でもね?フィリア……」

 

ブツブツと続く姉さんのお小言。こういう時の姉さんのお説教は、長い。とっても。

そう、最後の方なんて全く関係のない話にまでなるんです。紅茶カップの持ち方がどう、とか。服がどう、とか。そしてその話がこれまた長いのだ。

私のことをとても気にかけてくれるのはとても嬉しいのですけれど……もう子供という歳でもないんだから、少しだけ程々にして欲しいとも思う。

 

「嫁入り前に殿方と眠るだなんて─────聞いてる?フィリア」

 

「───!聞いてます!聞いてます!」

 

ジトリとした目を私に向ける姉さん。しまった、こういう時の姉さんはいつもよりもお説教が長い。機嫌を損ねるとなおさらに。

自分の話を聞いてくれなくて拗ねるアーテル姉さんは年不相応に可愛らしいけれど、その可愛さに比例してお説教はネチネチと長引いてしまう。

なんとか話を逸らそうと私は今姿の見えないエドさんの話をすることにした。

 

「あ、そういえばエドさんは───」

 

「あの人なら、出掛けるといって先程出て行ったわ」

 

─────なんて、逃げ足の速い人でしょう。

少しだけの、憤慨。私をおいて逃げるなんて……確かにエドさんはお客様だけれど。

けれど、その直ぐ後にふと思い立つ。

……出かける?

出かけると言っていたと、アーテル姉さんはいう。それはつまり……またこの家にエドさんは戻ってくるということ?

それは……まぁ、良かったです。あの人とは、まだ話すことが沢山あるから。

 

「フィリア、あの人会ったのはつい昨日なのでしょう?」

 

そんなことを考えていると、姉さんが少しだけじとりとした目でそう言ってきた。

……ううん、違います。この姉さんの目はそう、少しだけ拗ねてるときの顔。昔、お母さんが生きていた時にたまに見せていた顔。

昨日、という概念があっているかどうかはわからないけれど、感覚的にはあっているので私は頷く。けど、それがどうしたのだろうか。

 

「……妬けるわね」

 

「え?」

 

そうして、姉さんはまた表情を変える。そう、その顔は────

 

「ミスター・エドのことを考えているあなた─────」

 

私が、お母さんに頭を撫でてもらった時に姉さんが見せていた────

 

「─────少しだけ、うれしそう」

 

羨望の─────

 

 

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

 

 

─────霧の都に、白が舞う。

 

あるいは、それは機関道(エンジン・ロード)に舞い上がる白い雪のように。

崩れた街の瓦礫の中に、一つの淡い人影があった。

─────女だ。

それは、白い女だった。

肌は灰色の雪よりも白く、ただただ白い。

髪も、白だ。白髪。

ただ、《青い霧》により淡く発光する瓦礫の中で、彼女の瞳だけが燃えるように赫かった。

─────赫く、赫く。

地面に届かんばかりの長い白髪は、見る者によっては淡く発光しているようにも見えるだろう。この、崩れた楽園に漂う霧のように。

やや小柄な体躯をしているが、それを感じさせないような雰囲気を彼女は持っていた。その、凍えるような美貌も。

だが、その白い彼女は見方によってその姿を変える。彼女のことを黒と言うものもいれば、彼女の事を白と言うものもいる。

瓦礫に腰掛けているというのに、彼女はまるで1枚の芸術のように様になっていた。

 

─────遠きカダスの地では《禁忌の魔女》とも呼ばれる女だった。

いわく、地下深くで人の命を作り変える狂気の医者であるとか。

いわく、かの結社の幹部でありながらそれと反する思想をもった奇矯な女であるとか。

いわく、雷電に無償の心を捧げた愛の女であるとか。

─────真実は誰も知らない。誰も彼女を語りはしない。誰も彼女について知りはしない。誰も彼女のことを理解できないからだ。

─────かの、雷電の男にでさえ。

あるいは彼女を語るとするならば、それは──

 

「─────初めまして、というべきかしら」

 

彼女自身、のみ─────

 

「《永劫石》、《半永久の囚人》……そして、この《大洞窟》の人々を《》するもの」

 

唄うように、彼女の唇からは滑らかに言葉が紡がれる。ただ、目の前に立つその男に向けて。

 

「お目覚めの気分は如何かしら、エド」

 

「────悪くはないね」

 

彼女の目の前に立つ男は、彼女の軽口にも凛として応えた。彼もまた、彼女がなんであるかを知るが故に。

そう、男だ。それは背の高い男だった。

失われた青色を持つ男だった。とあるカダス辺境の一帯では彼のことを《青空の如き男(マン・オブ・セレナリア)》と呼ぶ者もいる。西亨の極東にある帝国にて残滓を観測されたもの。

……その、彼は知っていた。

誰も知り得ぬことを知っていた。

この白い女が、かのチクタクマンと明確に敵対しているということを。

そして、彼と幾度となく相対しているという事実を。

それでいてなお健在であるだけで、彼女が既に超越的な存在であることが彼にはわかっていた。禍々しきロード・アヴァン・エジソンを相手に、生き残ったものなど数えるほどしかいないというのに。

なればこそ、彼は毅然として応える。友好的などではない……厳格なる敵意を以って。

 

────なぜならば、彼は《夢幻》を見定めなければならないからだ。故に、彼女に与することは、しない。

 

「─────この街で、何をするつもりだ」

 

あるいは、彼女に敵意を以て接すること自体が狂気に近い事象であるかもしれないが、それでも男は言葉を放つ。彼女の言葉に、脳が痺れるような感覚さえ覚えながら。

そうとも。……同じく『人ではない』エドでさえ……彼女の前では遠き感覚を思い起こさざるを得ない。それは────恐怖。

 

「そう睨まないで頂戴……復讐の王を刺激するようなことはしないつもりよ?」

 

─────その言葉を素直に受け取る程、エド自身も稚拙でないつもりだった。例え、それが暗示迷彩の類であったとしても、その魔女の言葉にエドは耳を貸さない。彼の心は小揺るぎもしない。

恐るべき女だ。真なる魔女だ。黒の王の祭祀、ではない……ドルイドの類でもない。しかし、人を弄ぶ魔女である。

彼女ともし一戦交えるとするならば、おそらくエドでさえ消滅は免れないだろう。それだけ危険な存在だ、彼女は。

 

「……もう一度言おう。《蘇生者》ウェスト……狂気の数式医(クラッキング・ドク)。貴女はここに何をしに来た」

 

─────ウェスト。それが異形たる彼女の名だ。本名をもじった異名ではあるが、およそその名前で間違いない筈だった。

 

「よもや─────今更に救済の情に拐かされたわけでもないだろう。混沌に連なるものよ」

 

エドの放つ言葉、それは厳格なる裁定の言葉だ。

目の前のものを闇であると断じ、それと同時に厳粛なる意志をも伴って放つ、粛清に似たもの。

……ただ、そのエドの言葉にも彼女は少し微笑むのみで。

意味をなさない。力が、足りない。彼女の『敵』に足るには、エド『ごとき』の存在では。

 

「もちろん、私は私の成すべきことを果たすだけ……それだけよ?」

 

「なるほど、貴女らしい物言いだ……(ことわり)なきクン・ヤンに願いを成すのか」

 

もちろん、エドは彼女が何を望んでいるか理解している。正確、とまでは言わないまでも。同時に、彼女にもまた、エドの成すべきことが見えていた。

────だからこそ、エドは憤怒する。その、彼女の有り様に。そして、自らの存在意義に。

 

「願いを成す……ね。それは、あなたも同じでしょう?エド……いえ、《紅き空に微睡むもの》。私達の道は概ね重なっている筈だけれど」

 

「……」

 

無言。無言。無言。

エドは言葉を返さない。……否、必要はない。静寂は既に明確な言葉となって彼女に届いているが故に。

 

「─────彼女が発狂していないのは、貴女の影響か」

 

彼女とは誰か─────などと間抜けな返答をウェストはしなかった。

彼女……それがさす人物は『フィリア』以外にあり得ない。

 

「あの子が黄金瞳を持っているのはわかっている……どういう事か瞳の色に変化はないが。だがそんな事程度では力が弱まるはずはない」

 

「……」

 

「現に、彼女は怨嗟の声を『夢』として聞いていた……力が働いている何よりの証拠だろう」

 

故に。

故に、とエドは言う。

彼女が発狂していないのはおかしい、と。

 

「なるほど。なるほど……流石に貴方は感知できるのね」

 

「濁すのは、やめてほしいな」

 

「そんなつもりはないけれど……あぁ、答えだったわね。私は何もしていないわ」

 

世間話の様に彼女は言い放つ。自分は潔白であると。

それを鵜呑みにはしないが……虚言ではない事はエドにもわかった。

ならば大きな疑問は依然残ったままになる……彼女の精神が壊れぬ様、何らかの力を誰かが行使しているという事実が。

 

「……さて、そろそろ始まるかしら……ね」

 

「……?」

 

唐突な彼女の言葉。当然エドも聞き逃しはしない……いい予感は、しなかったが。

 

「白い蝶が『あの子』と接触するわ」

 

「……なんだと」

 

クスリ、と彼女は再び笑う。まるで、この瞬間のために長い時を待っていたかのように。

喜びの、笑み。嗤い、ではなく。

 

嘲笑、でも、なく─────

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

 

 

ひらり、ひらりと視界の端を踊るもの。それに気づいたのは数秒前で。意識し始めると、それは明確に私の前に姿を現した。

白い、白い純白の蝶。《大洞窟》には似つかわしくないもの。いるはずのないもの。

だって、《大洞窟》にいるのは人と僅かな数の蛇、そして《霧の災厄(マリ・クリッター)》だけだから。

……だけど、私の眼前に舞うこの蝶は。そのどれでもない……はじめて見る、眩い程の純白で。

私はおもわず、手を伸ばす。それはまるで、緋星に右手を伸ばす幼子のようで。

その蝶は、けれど私の腕をスルリとすり抜けて飛び去っていく。

飛び去っていくけれど……その蝶から、私は視線、逸らせなくて。

目で追ってしまう……無意識の内に。

 

 

ふらり、ふらりとその蝶の後をついて行く。その先に何があるかは、わからなかったけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

↑1年半前に描いていたタイトルイラストです。こんな感じのイメージでした

 




バルトゥーム……

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