IS Striker   作:アーヴァレスト

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それは彼女、峰島・由宇の戦い。敵は己にとって最強の敵
その敵との戦いに身命を賭した彼女にとって、最後の戦い


天才少女VS同一体

「・・・」

「・・・」

 

IS学園の一角、今は戦場と化したその場所で私達は向き合った、同じ顔の人間・・・そして同じ想いの敵同士として

 

「来たか・・・」

「何故、私と共に生きようとしない?」

「あぁ、そう言うだろうな・・・過去にそうして生きていたのだから」

 

驚く程に淡々とした声に、ここに攻めて来る他の敵の悪意や狂気、確固とした妄執は一切無い

ただ、事実だけを語る言葉のようだ

 

「飢えも苦しみもなく、他者と誤解による諍いもない、安らかな世界に出来るというのに・・・」

「お前が、全ての元凶か?」

「あぁ、その認識と概念で間違いないだろう。だが、私だけではない。私の作るものを持つ者全てが"終末の使徒"となる。つまりは・・・」

 

終末の使徒・・・久しぶりに聴く言葉だ、これまでカズマや皆に迫っていた敵の正体は正しくそれで、最悪なことにコイツはそれを増産していた

 

「私達の敵だった存在は、全て終末の使徒だった・・・一種の意識集合体(レギオン)という事か?であっても倒すだけだが」

「私を倒す意味はないように感じるが?」

 

一生感じてろ、今の私は過去の私とは違う・・・大切なものができたのだから

 

「お前は何故理解しないのだ?私たちを否定し、拒絶する意味などないだろう?意思が違うこと、他者を理解できない事。敗者と勝者が生じる世界。そのような世界が消えるだけ」

 

そう、それが私がかつて追い求め、縋ろうとしたものだった・・・

 

「全ての意思が一つになること、それこそが新しい世界、生物における進化のその先・・・終着点なのだ」

「いいや、それは違う」

 

だが、私はそれを自ら否定する

 

「それはお前だけ(・・・・)の進化だ、今の私や、人間が求めたものではない。人間の意思を取り込んだようであったとしても、その根底にはお前(・・)がいる」

「進化でなく、支配と言いたいのだな?」

「あぁ、そうだ・・・」

 

そう、それは支配だ・・・進化とはお世辞にも言えない

 

「だが、お前は相違する意思に心を乱し苦しむ事になった・・・違うか?」

「確かにそうだな、でも・・・」

 

だが、一人の・・・今、大切に思う人に出会えたことで変わった

いや、変えられたんだ

 

「とても悲しく、苦しかった・・・だからこそ、理解し合えた時に、その何倍も嬉しくなれるようになった。お前にとっては不安定でどうしようもなく弱く、非効率かもしれないが・・・人は確固とした()であるからこそ、その()は愛しいのだ」

「・・・」

「その()を守りたい・・・それが私の意()だ」

 

私の同一体は無言でこちらを見つめる。既に交渉の手はない、戦うだけしか選択はない

 

「生物に終末は訪れない、私はお前を倒し、全てを終わらせる」

「何も理解できていないな、人類を滅ぼすわけではないんだ。次のステップに進むだけ・・・今までもそうしてきただろう?知恵を付け、田畑を耕し、武器を作り、国を治め、電気を生み出し、そしてISを誕生させた一人でもある両親のように・・・人類とは進化の積み重ねではないのか?」

「・・・」

 

そう、この世界(・・・・)のISは篠ノ之束だけが作り上げたものではない。私の両親が、その雛形を作っていた。

篠ノ之束はその雛形を元にオリジナルのISコアを開発しただけで、詳細は知らないが隠された機能を大量に有するそれは大変危険なものだ。それを悟った彼女は零世代ISである白騎士の製造においてその問題の大半をクリアしただけに過ぎない

故に、その危険性の意味を知る私と彼女は・・・

 

「今回も何も変わらない、進化のあるべき姿なのだ。それに抗おうというのならば、進化の道標を示し、その真実を知らしめよう」

 

ISが起動する、全ての封印(かせ)が外されていくのを感じた

 

「全てを一つに」

 

膨れ上がる異様な力、ISコアを介して雛形に搭載されていたシステムが再構築されていく

ISとして名をつけるなら黄昏、本来の名はひねりもなく、終末

 

「私は抵抗する、小さなこの身にある意思を、心を守るために!!」

「それが答え、なのか?」

「あぁ、私の想いだ・・・負けはしない!!」

 

私もISを起動し身構える、来るぞ、見逃すな!!

 

「排除する」

「くっ・・・!!」

 

発生したのは異空間に接続するゲートだった、それに吸い込まれそうになる

 

「これで・・・」

 

ロングソード2を振りかざし、叫びながら飛び出す

 

「終わりだッ!!」

 

その声と共に破壊した、しかし私は吸い込まれ、フェードアウトし遠ざかる意識の中、敵が倒れるのを見た

 

「君は事を為した。親として、誇らしく思うよ」

 

気が付けば、昔住んでいた家の、父親の書斎にいた。最後に見た時のままのように、父が微笑みかけている

 

「あ・・・れ?お父さん・・・」

 

どこか違和感が拭えない、何がおかしいのかは分からないが、父ではない他の誰かがいたように思える

私はどこかに迷い込んでしまったのか?

わからない・・・

 

「同一体を倒し、その計画を防ぎきった、そして今、最後の終末(・・・・・)は終わりを迎えようとしている」

 

最後の終末・・・何を意味していたんだっけ・・・

忘れてはいけなかったはずなのに、霞がかかったように思い出せない

 

「これほどの功績は他の誰であろうと成し得ない、由宇は僕の期待に応えてくれたんだよ」

「でも・・・」

 

何かが引っかかる

 

「由宇はもう十分に戦った。まだ、何かしたいと思っているのかい?」

「そうなのかな・・・私は失敗ばかりしてきた気がするんだ、もっと強かったら、賢かったら、もっといい未来にできたのかもしれないから・・・あの子(・・・)とも分かり合えたかもしれない、父さんを救えたかもしれない・・・もっと大勢の人を助けられたかもしれない」

 

そして、産んでくれた母さんも助けられたかもしれないんだ・・・

振り返れば後悔ばかりが残っている

 

「そう考える度、不安なんだ。あの時の選択は間違いじゃなかったのか・・・あの時、あぁしてよかったのか」

「人は限られた条件の中で戦わなければならない。不運もある、理不尽な運命もある、どれだけ身構えていようと抗えない事もある。でもね」

 

父が言う言葉に私は同意する事ができる、何故ならそれは私の思いでもあるから

 

「僕はそれが人だと思っているんだよ」

 

部屋に満ちた光が不安や悩みを溶かすように、違和感は時間と共に薄れて、何も感じなくなった

 

「だけど、もう思い悩むことはないよ。この中では、君を縛るものはなくなる。心の壁を取り除けば、苦しむ必要はなくなる。隠し事もなく、自分の利益のために他人を犠牲にしない」

「・・・」

()という概念がすべてを惑わせるのさ、由宇も嫌というほど理解しているだろう?」

 

これで・・・いいのか?

 

「由宇なら理解できるはずだ、終末の使徒は敵でないことを。僕たちに新たなる道を指し示すモノ、それこそが終末の使徒なんだよ」

 

そして父から手を差し伸べられる

 

「さぁ、僕()と共に来るといい。()という存在を捨てて、次の段階へ進むんだ」

「私は・・・」

 

何も悩む必要はない・・・それでも、この引っ掛かりはなんだろうか?

決して忘れてはならないような気持ちが・・・あったような気がする

 

「あ・・・」

 

突然、私の身体が輝いた。まるで蛍のように淡い光を放ちながら、周囲を照らす

それと同時、全て再認識した

 

「あぁ、そうだった・・・」

 

私にとって誰よりも大切な存在、決して忘れてはいけない人物(ソレ)が、蘇る

そうだ・・・この輝きは、私から生まれたものじゃない。

全てを託してくれる、託せる。私の中にないものを見せてくれるものだから

 

「・・・」

 

胸が熱くなる

温かく、それでいて何よりも純粋な想いを感じながら、私は自分の意思を取り戻していた

 

「やっぱり、私は私でしかないよ・・・」

「由宇・・・」

 

そして伸ばしかけた手を戻し、首を横に振る

 

「不運もある、理不尽な運命もある、どれだけ身構えていようと抗えない事もある。父さんの考えはその通りで、終末の使徒に身を委ねれば、楽になるのかもしれないけど・・・でもこの世界には、みんながいるんだ。同級生や友達が、私に関わってくれる人たちが・・・」

 

私は思い出し、想起する。

カズマに出会い、共に過ごし、IS学園に入り、学友と主に過ごし、学んだ数々のことを

これから歩んでいく未来の事を・・・

 

「この世界は嫌なことばかりじゃない、分かりあって、気付かされることもある。自分一人では無理で、辿り着けないとしても、仲間となら正しい答えを導き出せる・・・」

 

悩みや苦しみもなく、何も感じない存在。

もしそうなったら、みんなが望む・・・私の好きな人が望む峰島・由宇ではなくなるんじゃないだろうか?

 

「お互いの壁がなくなれば、一つになれば悩む必要もなくなる。それは素晴らしいことかもしれない。でも、私は・・・」

 

()であるからこそ、彼を好きになれた。

誰よりも大切にしたいと、ずっと一緒に生きたいと、そう願うようになれた

終末の使徒と一つになり、この気持ちが消えてしまうのなら・・・何も感じなくなってしまうのなら

 

「私は、峰島・由宇は、別でいたいです。この感情が乱れだとしても、もしも間違っていたとしても、好きな人を好きと言える世界にいたいと思います」

「そうか、君はいつまでも変わらないんだね・・・」

 

ふと、父の瞳に別の色が生まれた。終末の使徒とは違う、別の何かが

 

「この世界はどこも薄汚れている。キレイなままでは息苦しい時もある。だけど、だからこそ由宇は誰よりも強く光り輝く。その人生で得た仲間と共に歩めば、道を違えることもないだろう。その輝きが色褪せない限り」

「・・・はいっ!!」

「・・・いい返事だ」

 

ドアを開けると、その隙間から光が漏れてきた。体の芯を熱くさせ、眠りから覚まさせるような眩しさだ

もはや、この部屋でやり残したことはない。私は最後に一礼し、心を留めてくれた部屋から飛び出した

 

「この世界と、君達の未来に幸多からんことを!!そして、まだ見ぬ遠い未来に祝福をっ!!」

 

光が広がる。私はこの先で待っている思い人と会うため、全力で駆け抜けた

 

 




肝心の戦闘シーンがねぇぇぇ!!という事に今気がついた作者です
よし、後回しにして次話に行こう



感想ください、作者の肥やしになります

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