激戦を果たして教育と呼んでいいものなのだろうか?
あぁ、今の由宇は信じているのだろう。一滴の濁りすらなく自分のトラウマが全てだと無意識のうちに確信して視野狭窄に陥っている。他の物には目が向かず自己完結というという停滞に陥っているぐらいに
だから・・・
「今の由宇には答えられないな」
俺がやらないといけないのは
「どうして?」
そんな事、問うまでもない
「だって君、俺を信じていないだろう?」
その目に映るのが
返答に対して傷ついている由宇の目を見つめながら、ゆっくりと近づいていく
「そんな事はない、ずっと信じている。カズマは強いのだと。すまない、私のことだから、きっと知らない内に変なことをしていたのだろう?謝るから、信じてくれ。何も嘘は言っていない」
「そういう事じゃない」
勘違いも甚だしい彼女に対して俺が言うのはこの一言
「抜け」
「え・・・?」
言い放ちながらブラックフレームを展開し武装を構える。
彼女の本質を見抜き、そして俺は悟った。正す事が出来るのは、言葉という生ぬるい手段ではない
重度といってもいい
それから逃げたことを臆病だとは言わないし、経験しているからこそ理解も深い。だがしかし、それを言い訳にしてその歪みを放置することだけは看過できないんだ
だから、戸惑っている由宇に研ぎ澄ました闘志をぶつける。さぁ俺流のスパルタ講義の時間だ、耐えてみせてくれ
「構えないのなら、俺から行くぞ!!」
一足で懐に入り、ためらいなく振り下ろそうとした瞬間、由宇は
「つっ!?」
それを一瞬でBALDR・SKYを展開して受け止めた、真っ向から、咄嗟に苦もなく、軽々と
一瞬でのIS展開と防御への移行、その体捌きは見事という他ないはないだろう
今までならば凄いのレベルで済んだが、真実を知った後では単なる手抜きの醜態に過ぎない
現に、これが全力だと取り繕う姿勢だ、どうしようもなく鼻につく
「なっ!?なんで・・・」
「それを分からせるためにだよ」
自覚しろよ、君はそんなものじゃないだろう?
へっぴり腰で精一杯なんて演出なんかしちゃダメだ。
「由宇、本気を出せ。それは俺が死なないとダメなのか?君を見て、信じている人がいなくなってからではないと発揮できないと?孤独になって、涙して、発狂しないと八つ当たりさえ出来ないだって?」
「それは・・・」
きっと違うと言いたいのだろう、だが俺の言ったことがあまりにも正鵠を射る言葉だったのか言い返せないでいる
「俺が役者として不足しているから、全力を出すと壊れてしまいそうだとでも?なるほど、侮られたものだな!!」
流石の俺でも頭に来たぞ。いいか、よく聞くんだ
「俺は
そこから始まるのは怒涛の攻撃、由宇はそれを紙一重でいなし続ける。防戦一方・・・なんとも白々しいな
そして同時に頷ける。混乱し真っ当な精神状態ではなかろうに手を抜いていないどころか8割以上本気の俺から
それはつまり生得的な素質に関して最高峰に位置するものを備えていることに他ならない、ずば抜けた才能・・・いや、超ド級の天才だ。しかし、それに見合わないのは傷だらけの小さな心。鋭く刃を振るいながら、今も童女の様に泣いている
心技体があまりにもアンバランスであり、欠片も統率が取れていない
「そんな事、一度だって思ってはいない!!」
だから捻る事もせず否定して泣き叫ぶ。追い込まれているように見せかけ、いかにも手一杯、降参だと白旗を振っている・・・自分は女だからだと
「カズマは男だ、お前の方が強くて凄くて格好がよくて・・・それは当たり前だろう?だから、訳が分からない。何に怒っているのか教えてくれ。やめてくれ・・・戦うなんて出来ないから。だって私は女だから、男よりも弱いんだ」
故に本気を出してしまえば俺が狂ってしまう。
男の人が強さにかける思いは狂気だから。女の私ではどうしても、その飢餓の深さを分かってあげる事が出来ないからと?
だから己の本気を、全力を出すべき時は無いと?
「強い女なんて、本当はこの世のどこにもいやしないんだ」
現にそうだろう?
この世界では女が戦い、強く、導いている・・・男の行き場を蹂躙していき、そして男は不満を抱えながらも、屈辱に耐えながらも生活している
「私は弱い、弱いから、変なことを言わないでくれ。女に戦いで負けて、平気な男がいる訳ないだろう?だからカズマには敵わない」
由宇は俺の体に刻まれた傷の数を知っている。それが全て、努力から来ているものだという事も。だからこそ、俺が負ける可能性を出してはいけない・・・と言いたいのだろう
「それにそもそも、同じ土俵に立たれる事すら嫌がるくせに・・・滅茶苦茶な事を言わないでくれ。どうしてお前は怒っているんだ」
俺からお株を奪ってはいけないと、だから自分は前に出ない、間違っていないと、これでいいのだと、思っているのだろうか?
だとしても・・・
「言いたいことはそれだけか?」
俺は否定する、だってさ・・・
「あぁ、確かに面白くはないさ、女は面倒だしな。だが男もどうして、かなり面倒くさい生き物なんだよ。野心とプライドの奴隷だとも。一夏の言葉に共感するのは少々癪に障るが、俺たち男は女性に戦いを任せる事を酷く不格好に感じるし、まして自分より強いとなれば心穏やかじゃいられやしない」
これが俺の本音、一夏同様この世の中の風潮に違和感を持つがゆえの言葉だ
「男女平等、能力、才能、効率効率・・・自分はその力を持っていないから。そういう風に生まれていない」
そんな思考をした時点で俺なら自害を選んでいる、そんな男など人間と言えるか
「性別など関係ないと言いながらその実、強い女を矢面に立たせようとする
そんな拘りすら待たない男など語るまでもなく
「そんな奴らはもう男じゃない、男に生まれた資格が無い!!」
「そうだろう?なら・・・」
「だがな!!」
彼女が反論しようとした瞬間、烈火のごとく怒号と同時にビームサーベルで斬りつける
「だからって、俺は君に手加減をしろと頼んだ覚えは一度としてない!!分かってくれよ由宇。女に知らず手を抜かれて、それを喜ぶ男もまたこの世のどこにもいないんだ!!そして、追い越されるのが嫌だ、怖いからって女性の可能性を摘むような奴は男以前に
「なんだ・・・それ」
そしてついに、臨界を迎えた彼女の感情が発露する
「そんなの、どうしたらいいんだ馬鹿ぁぁぁ!!」
今までの思考戦闘から無意識に、矢鱈滅多に斬り結び始めたそれは奸智の一切ない全てが必殺の剣術
容赦も手加減もない本気の戦闘の火ぶたが切って落とされた
「私は生まれつきこうなんだ!!えぇごめんなさい、弱く生まれる事が出来なくてっ!!」
それが原因で、大切に思っていた人に、多大な負担を負わせ、挙句自殺させてしまった
「それが間違いだって痛感して、我慢して、ずっと閉じ込めてきたんだ!!なのに今度はそれもやめろ?腹が立つから、嫌だからって・・・軽く言うな!!じゃあどうすればいい!?死ね?消えろ?じゃあそうしてくれ、カズマがすればいいんだ!!」
そして、声音が変わる、泣き叫びそうなものに
「私、頑張ったのに・・・もう、嫌だ・・・嫌ぁ・・・」
「由宇」
それでも、俺は彼女に男としての意見を告げる
「男も、辛いんだよ・・・見栄とプライドを女の前で張り続ける事を背負って生まれた、馬鹿で苦しい生き物なんだ」
だから、そんなに気を使わなくてもいいのだと、俺は純粋に思っている
「仮に君の才能が
そう、そんな事、どうでもいいんだ、負けた男は・・・
「
「つっ・・・」
泣きそうな顔で、わけがわからないという彼女に俺はさらに畳み掛ける
「それに、君はもう一つ間違えている。強さにかける男の想いは狂気じゃなくて
戦わねばならないという
彼女のため、仲間のため、誓いのため、未来のため。その波乱と苦難を一手に引き受けようとする覚悟。
「だから当然だけど、たまに無茶だってするから。それだけは許して欲しい。見えないところでバカみたいな努力だってするし、格好つける。その代わりに困っていたら最速最短で絶対に駆けつけるとも。見返りなんていらない。だってこれは、当たり前のことだから。ズタボロになって血反吐ぶちまけたって、全身跡形なくぶち壊されても。挙句の果てに君たち女に助けられる羽目になっても、恨むなどという狭量なことはするものか!!」
そう、全ては・・・
「鍛え方の悪く、足りていない自分が悪いんだ!!」
だから・・・
「そうやってやせ我慢をしながらいろんな荷物を背負い込んで、男は強くなるんだから」
だから、由宇・・・
「由宇、辛い時には幾らでも頼ってくれ。どんな困難が相手だろうと、俺は君を命をかけて守りぬく!!・・・まぁ、ほら、俺もそうだけど男って基本バカだからさ。意中の人に笑顔見せられたり、その笑顔を守れるだけで身体を張るには十分な理由なんだ。そう思っている限り神様だって殺せるし」
ちょっと苦笑いした、自称ではあるが神に近い存在を殺したことがあるから
「無理難題ふっかけて、男を辛くさせるのが、女の特権だろ?」
この言葉が彼女の心にある闇の欠片を砕いてくれればいいが・・・
「つまりはこういうことだよ、由宇。男の格好つけるべき場所を奪うな。見せるべき舞台を変な理屈で荒らさないでくれ。その意地を摘むような奴は女以前に人じゃねぇぞ?我も人、彼も人、ゆえに対等、基本だろう?」
さぁ、俺の言葉はもう終わり、そろそろフィナーレだ
「まぁ、諸々纏めてそういうわけで。そもそも、俺が君に負けるという場面が思いつかない。だから来なさい、どんな本気だろうと引かないし受け止めてやる。それとも・・・本気出したら俺も自害すると思っているのか?」
「カズマ・・・」
最後の一言は、これに限るかな
「男を舐めるなよ、峰島・由宇!!」
「そう・・・だな」
瞬間、由宇は視界から消えたと誤認識する程の速さで回避し
「受け止めてくれ、カズマ!!」
「もちろんだ!!」
返す攻撃を俺は紙一重で受け止めた
「ふぅ・・・」
今のはかなりやばかった、つか、えげつない
細かなスラスト移動と武装の超効率的選択速度、そして奸智を含んで体術も完璧・・・絶技という言葉でも生ぬるい
おかげで武装ごと首から下とお別れするかと思ったし、実際下手するとそうなっていた。実は割と本気で殺す気だったんじゃないだろうな?
当の本人もそれに気づいてそそくさBALDR・SKYを待機状態にしたし
「す、すまない、力入れすぎた、大丈夫だったか?」
「何がかな?全くぬるいぞ?見てわかんない?余裕余裕」
オロオロしている姿が可愛らしくはあったが気に入らなかったのでそう答える
痺れてる?気のせいだ。今回は俺の勝ちということでいいだろ
「ていうか、この程度で自惚れてたのかい?ちょっと自意識過剰じゃないかなぁ?」
「む・・・あぁ、あぁ、そう来るかこの場面で・・・足腰ぷるぷるしているくせに、意地っ張りな」
む、なんですと!?
「言ってろ、つまりこれこそ勲章なんだ。あれほど説いてやったんだからいい加減に分かりなさい。わー格好いいと黄色い声でもあげるがいい」
「うわー中身○○歳のくせに。おっさんわっかいなー」
はぁ!?今なんて言ったぁ!?
「精神年齢が○○歳のババア相手でもね。男のプライド。様式美だよ、文句ある?」
互いに顔を突き合わせるかのように見つめ合い、そして
「ぷっ・・・」
「ふっ・・・」
おかしくなって
「「あはははっ!!はははははははっ!!」」
大爆笑して終わったのだった。
過去最高文字数、5441文字を達成
頑張ったぜ・・・ほとんど寝てないけどな
考えながら書く上にネタ帳に記載したストックもそろそろ切れるぐらいにやばい
夏休み編はこれで終わりかな、これ以上ズルズルと夏休みするわけにはいかんよ
新学期編もドタバタやっていきます。それに新学期といえばナターシャさんの転校(名目はこれだが実際には再入学になる)があるしね!!