IS Striker   作:アーヴァレスト

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託されるモノは重く、そして負いきれなかったもの
最後の過去が明かされる


託されるもの、最後の過去

「というわけで次期生徒会長は俺で決まりらしい」

「俺にそれを言うのか?」

 

翌日、事の次第をカズマに伝えたら呆れ顔で返された

 

「まぁ、確かに、お前が適任といえば適任だろうよ?」

「何でだ?」

「人を使うのが上手いから、お前は人の上に立つ資質がある人間だ」

「でも、俺は」

 

あの日以来、俺は練習機すら使えなくなった

世界で初めてにして唯一ISを使える男性適正者はいなくなったのだ

 

「それがどうしたという?公表されても何も問題になってないだろう?」

 

そう、IS学園の次期生徒会長は既に公表されている

それでも問題が起きていないのは···

 

「お前達の働きを手伝っただけだろ、俺は」

「そうでもないさ、お前がいなけりゃ危ない場面もあったんだ、誇れよ」

 

そう言ってカズマは俺の背中を叩く

 

「どんなに辛くても、希望はそこに残っている。諦めずに前に進めば、自ずと道も開けるはずだ」

「あぁ···」

 

その言葉の意味は、前だけを見て進め、という事だと理解した

万策尽きてなおカズマ達は抗い続けるように、絶望を吹き払うという事だ

 

「人間だけが神を持つ···だったか」

「己の中にある、()()()()()()()()()()()()、それこそが鍵なんだ」

 

諦めなければ夢は必ず叶う、とカズマは何度も俺達に伝えていた

その本人も今回だけは流石に折れかけたそうだ

それでもこうして復活できたのは、自分を倒す決意をしてでも仲間として思い続けた皆の心が伝わったから、らしい

 

「お前は、何なんだ?」

「俺は、人類史の傍観者さ」

 

ふっ···と浅く笑うカズマの横顔は、今まで見てきた表情とは違った

まるで、何かを諦めきれない表情だったのだ

 

「なぁ、カズマ」

「なんだい?」

「そんなになってまで、お前が成したかったのは、何なんだ?」

「救済、かな」

 

これから語られるのは、最後の一面

俺が憧れ始めた存在の、()()()()()

 

「俺は、英雄に憧れた」

「正確には、正義の味方···だったよな?」

「あぁ、そうだ」

 

正義の味方···カズマにとってそうだった存在、養母である藍澤·ミヤはカズマの前で死んだそうだ

その横顔は微笑のままに

 

「彼女は特別な人間だった、その特殊さから忌避される程に」

「特別な人間?」

 

疑問を質問すると、返ってきたのは···

 

「彼女は人類の···人の願いを無差別に叶える力を有していたんだ」

「人の願いを···無差別に叶えるだと!?」

「あぁ、それゆえに、人と世界を天秤にかけて、一の犠牲で全を救う事をして来たそうだ」

 

正義としては、歪んでいる···そう感じた

その歪みが何なのかは分からないが、歪んでいるのは間違いない

 

「それでも、俺を研究所から救い出した時に···その考えを捨てたそうだ」

「何でだ?」

 

それはこれまでの人生への反抗ではないだろうか?

何故、なのだろうか···

 

「俺の触れた手が、俺の目が、これまでの自分とまるでそっくりだったから。そこに虚無を見たそうだ」

「虚無···」

「そんな虚ろなモノのために人生を賭した訳では無かったそうだ。最後の最後に彼女が残した言葉は、今も俺の中に息づいている」

 

カズマにとって二人目の母親、藍澤ミヤの残した言葉···

 

「私は正しく成ろうとして際限なく間違いを重ね続けてしまった、そうしてどう使用もなく行き詰まった果てに、都合のいい奇跡(俺という存在)を求めたんだ」

「お前が、彼女の能力を受け継いでいたのか?」

「いや、受け継いではいないよ」

 

悲しげな横顔が、やんわりと俺の問いを否定した

 

「悲しいかな、俺の能力は攻撃のみしかない」

「防御という性質がないのか?」

「あぁ···」

 

悲しいかな、それはカズマの性質が、人類史の傍観者というものだからだろう

傍観者はただ見るだけ···という事か

 

「見えない月を追いかける、暗闇の夜の様な旅路だった」

「・・・」

 

それこそが人生だろう···と言いそうになるが、カズマが言おうとしているのは意味が違う

 

「カズマは、なんて答えたんだ?」

「暗闇なんてあるものか、月は見えなくても···星は輝いている。正しく成ろうとする事が間違いなものか、私が、間違いになんかさせない!!と答えたよ」

 

カズマは幼い頃、女性体がメインだった様だ

というのも、本人が前に言っていた

"幼い頃は女性体を基本の姿として生活していたよ、そちらの方が生活には困りにくかったからね"と

 

「その人は、なんて言ったんだ、その後?」

「そうだね···それなら、安心だ···それが最後の言葉だったよ」

 

最後の言葉の意味、それは···

きっと、()()()()()()()()()()()()()という確信から来た言葉だろう

 

「彼女にとっての最後の希望、それがお前だったんだな」

「そうである事を、祈るしかあるまい」

 

その悲しげな横顔は、まるで···

 

「だから一夏、俺はお前に託したい!!」

 

悲痛な叫びをカズマはあげる

 

「俺は結局、()にしか()()を見いだせていない!!」

「つっ!!」

 

確かにそうだ、カズマの()には、犠牲になった者達しか映っていない

 

()()()()()()()()ッ!!お前は、()()()()()()()()()()()()になれる!!」

 

弱々しい、今のカズマは正しくそれだった

身体が男性体に戻るまでまで期間があるのもそうだろう

それよりも、カズマの中の何かが折れているのかも知れない

 

「俺は···」

 

だから俺は···

 

「正義の味方には、なれねぇや」

「・・・」

「俺には、まだ正義がなにかなんてわからねぇからな。でも、お前の人生を知って、思っている事はある」

 

俺が思ったのは、カズマの人生から俺が得たものだ

 

「お前は、間違ってなんかいねぇよ。その時その時の選択は間違いなんかじゃねぇさ」

 

そう、その時の選択は決して間違いなんかじゃないんだ

人類全体から、あるいは長期的に見れば間違いかもしれないけれども、その場においては正義であったはずなんだ

 

「お前の今までの行いを、悪だという奴がいるのなら···ソイツは間違いなく、俺達の敵だ!!」

 

カズマが見出した正義の成れの果てを俺は知っている

その先にあった絶望も、話に聞いている

だからこそ絶望を希望に変える、という意味で黒を自分の色としているのだ

 

「絶望を希望に変える、お前のやってる事は間違いなんかじゃない!!」

 

意識失いながらカズマは頷いて、眠りに落ちた

俺は、守るために力が欲しい···今までのように




希望を託されてもなお、今は力無き少年
力を求めた先には何があるのだろうか!?


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