IS Striker   作:アーヴァレスト

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その少女は敵に立ち向かう
それは彼女にとって普通でありながら、日常に溶け込めない原因
それでも少女は足掻き続ける、"それでも"・・・と


天秤と聖剣の巫女

よく晴れた連休の中日、突然破壊音がした、学園と都市をつなぐ橋の途中からだった

 

「敵襲か?」

 

千冬にすぐに確認を取らせる、返答は・・・

 

「あぁ、数はこれまでより多い、男性の権利団体だな」

 

何ともつまらないものだった、自分の出る幕ですらない

 

「女の次は男かよ・・・みっともねぇ連中だな、おい・・・」

 

女性が自分達より偉くなるのがそんなに屈辱なのかねぇ・・・俺には全くわからんな、これまで威張ってきた分の仕返しをされているだけだというのに

まぁ、実際には才能もあるのだろう。男に下に見られるのが大嫌いな上昇志向の強い女性や、自分の限界を求める探究心を持つ女性がこの世界には多い

それは大変素晴らしい長所で、褒められるべき点だ。それを伸ばしてやりたいし、その環境作りをWALRUSでは行っている

 

「俺のPMCを見習えよ、男女恋愛も当然だが、揉める事なんてないぞ?」

 

そう、WALRUSでは男女間での喧嘩や揉める事が起きていない。それぞれがそれぞれに適任であるという認識があるからだ

彼女よりも自分が優れている面があり、彼女もまた自分とは違う点で優れているのだからそれでいいだろう・・・という考えがあるからである

 

「セリア、千冬」

「「なんだ?」」

 

セリアに通信を繋ぎ、千冬と一緒に聴かせる

 

「エクスカリバーを出撃させろ、IS学園生徒しての初陣にはちょうど良い」

「外道め・・・」

「千冬さん、それは違うぜ」

 

セリアがそう言って一人頷きながら言った

 

「スパルタなんだよ、コイツは」

「そのレベルではない気がするぞ・・・」

「お前が言えるのかよ、人間の限界知ってる系教師」

「貴様に言われたくはないな、スパルタ生徒」

 

通信越しににらみ合うこと約1秒、折れたのは千冬だった

 

「まぁいい、そろそろ学園でも奴を庇うのが限界になっていた頃だ、好きにしろ」

「了解、では・・・」

 

エクスカリバーの部屋から地上へと通じるダクト並びに通路のセキュリティレベルをフリーにセット、通信を繋げる

 

「エクスカリバー、聞こえているか?」

「寝てたんだけど?」

「お仕事だ、外に出ようか」

「んぇ?」

 

何だそのやる気のない返事は・・・

 

「あぁなるほど・・・戦場なのね」

「すまんな、皆に紹介する前に出撃させるなんて」

「構わないけど、好きにさせてくれるの?」

「相手はISじゃないから、打撲か気絶程度にしておけ」

 

殺されては叶わん、相手は世間一般の普通の人間だ

転生者であり、こちらに敵対するのなら最悪殺してもいいが、それでもやはり人の死は何度見て()ってもなれないものだ

割り切りはできるが、その分溜め込んだ先には闇しかない

 

「わかった、出る。出来る限りサポートして?」

「あぁ、了解した」

 

 

<地下室、エクスカリバー>

 

「・・・」

 

不思議と何も感じなかった。人間として暮らしていける日々の前に、今までの自分を捨てる程度の感覚でしかない

 

「行こう、フェネクス」

 

自分の開発した機体であるIS-RX0"フェネクス"の待機形態にそう告げる

待機形態である十字架に刺さる二つの剣のネックレスは、答えるかのように光を反射した

 

「私はもう、戦争のための道具じゃない、人間なんだ。そしてアナタは、その力を増幅するマシーン・・・そのために作り、そのためだけにある」

 

戦争のための力ではなく、守るための力。かつてそう誓いを立て、絶望した人間に私は救われた

そして今、人間に戻るための戦いを始める。守るために

 

「人の心を、悲しさを感じる心を知る人間のために」

 

自分もそうありたい、そうなりたい

だから・・・

 

「怒りに、のまれるな・・・」

 

フェネクスを纏い、地上に出るダクトの基部に立つ

 

「フェネクス、エクスカリバー・・・出撃()る!!」

 

戦場になっている橋に向けて飛翔し、降り立つ

 

「たった1機だと!?」

「何故、こんな事をするの?」

 

自分の考えだけでなく、他者の考えも尊重しないといけない。今の女性にはソレがない、自分の考えを押し付けすぎるのだ

もっと他者のことを考えないといけないのだ、例えば、織斑一夏の周りにいる女性のように

 

「復讐だ!!積年の恨みを晴らす、ただそれだけ!!」

「ダメッ!!ここで殺された子の家族や友達が、貴方達への憎しみを募らせてしまう!!」

「黙れぇぇぇ!!」

 

砲撃が迫る、膨大といってもいい弾幕だ!!

 

「やめてっ!!こんな事をしたら、心が壊れて人ではなくなってしまう!!」

「うるさいッ!!俺の家族も、仲間も友も!!お前たち女が無実の罪で捕まえて牢屋にいれ、殺したんだッ!!俺はその無念と遺志を継ぐために生きて、今ここにいる!!」

「つっ・・・!!」

 

それをやったのは確かに女性なのだろう、その瞳は暗い闇と復讐の炎に彩られている

だからこそ止めないといけない!!

 

「そこをどけえぇぇぇ!!」

「つっ!?」

 

投げ飛ばそうとこちらに接近してきた敵に対応してなんとかこらえる

 

「これが本当に、貴方のしたい事なんですか!?本当にこれでいいんですか!?答えてください!!」

「俺にはもう、こうするしか・・・生きる意味がないんだ!!」

「なら見つけましょう?憎しみや怒りが生きる意味なんて、悲しすぎます・・・」

 

自分がそんな人間に操られていたからわかる、結果は虚しいものにしかならない

そして、全てをまた失う事になるんだ・・・

 

「理不尽な事を起こすのが人間だ、人は神じゃない!!」

「それでも、止めなきゃダメなんです!!」

 

それを示すために、全ての武装を使用不可・・・武装解除する

 

「うぅぅっ!!」

 

その瞬間、強い思念を感じた

誰かの思念だろう、託そうとして心から祈ったことだけど・・・

 

「最後の仲間を・・・家族を殺したのか」

 

マズイ、このままじゃ!!

 

「殺す・・・全てを壊して・・・殺す!!」

 

こんな事・・・認めたくない。私は救える人をできる限り救いたい!!

 

「私は、目の前の人を止めたい。止めなきゃならないんだ、フェネクスッ!!」

 

フェネクスは私の声に応えるように光を纏い始める

 

「私に力を・・・貸して!!」

 

展開装甲が開き、中にある特殊素材から光が生じる。黒いメタリック装甲に青色の光を放つ内部素材だ

 

「そんな黒いものに染まったって、意味はないよ!!」

「があぁぁ!!」

 

攻撃をかわして頬を優しく触るが、獣のように弾かれた

まだ、私の声は届かないみたいだ

 

「家族も友達も、貴方がやろうとしている事なんて望んでない!!」

「そんな事は昔から分かっている!!もはやこれは、俺の(・・)戦争なんだ!!」

 

家族や友に捧げる戦争ではなく、自分のための戦争・・・やる場のない感情を吐き出し、自滅するための・・・

 

「掴まれッ!!」

「つっ!!」

 

見知らぬ男性の声がした、白い機体・・・白式・・・織斑・一夏だ

 

「カズマから話は聞いている!!アイツを倒すぞ!!その銃の残弾は!?」

「一発・・・」

「一度きりか・・・」

「話し合えば・・・」

「もう遅い、手遅れだ!!」

 

断言されてしまった、そんな事なんてないのに!!

 

「皆を守るには・・・それしかない!!」

 

そういう彼も辛そうな表情だ、同じ男だから敵の感情もわかるのだろう

 

「迂回して正面から突撃、すれ違いざまに分かれて同時攻撃、一点突破だ!!」

「つっ!!」

 

なんでそんなに、冷たくできるの!?

 

「お願い、戻って!!」

「諦めろぉっ!!」

 

敵に威嚇攻撃しながら叫んだ私に、織斑・一夏はそう言う

 

「つっ!?」

 

敵の動きが変わった、大型砲が展開されている!?

 

「このまま撃てっ!!」

「つっ!?」

「可能性に殺されるぐらいなら、そんなもの(敵との相互理解)なんて、捨てちまえ!!」

「う、あぁぁぁ!!」

 

私は、引き金を・・・銃を・・・

 

「撃てません!!」

「つっ!!」

 

大型砲が放たれた瞬間、織斑・一夏は私の持っていた銃を奪い取り、敵を撃った

 

「あ・・・あっ・・・あぁぁぁっ!!」

 

私の手を握りながら地面に下ろし、織斑・一夏は降り立つ

 

「展開を解除してくれ、君とその機体には捕獲命令が出ている」

「織斑・・・一夏・・・!!」

 

私は彼を睨みつける、だが

 

「そこまでだ、一夏。お前も辛いのだろうが、彼女も辛い事には変わらん」

「カズマッ!!」

「それに捕獲命令ではなく保護命令だ。間違えるな」

「つっ!!」

 

藍澤・カズマが現れた、敵を抱えながら

 

「ギリギリで重傷を負わないように逸らしたんだ、言い訳は出来ないよな、一夏?」

「あーもう、好きにしろッ!!やってらんねーよ悪役なんて!!」

 

悪・・・役?それってどういうこと?

 

「今回の襲撃はお前の機体のテストです、敵こそ本物ですが舞台をこちらで整えました」

「今あなたを殺したくなったわ・・・」

「すまんな、でも、お前の誠意は心に響くほど伝わってきた。それでいい、そのまま成長していけばいい」

 

そう・・・悪い事をされたけど、他の方法で償ってもらおうかしら・・・




今回の話は難産だった、それを言うと全ての話がそうなんだが。
特に、エクスカリバーの言葉遣いな、前話において全く考えていなかったから大変だったんだ



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