IS Striker   作:アーヴァレスト

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それは一人の少女を殺すために動いた組織の話
その少女は傷心状態にも関わらず、残酷な選択を迫ろうとする
主人公の続けてきた逃避行の真意がここに明らかとなる


逃避行編最終話

<IS学園学生寮食堂、一夏>

 

「そん・・・な」

「ホントなんだ・・・お父さん・・・死んだって」

 

カズマ達が学園から出奔して丸三ヶ月が経過していたその日、シャルからとんでもないことを聞いてしまった

父親が死んだという事で帰国しないといけないらしい

 

「父親が、憎いのか?」

「そんなこと思ってもいないの知ってるでしょ?」

「あぁ・・・でも」

 

シャルの父親は、性別を偽らせてでも会社を維持しようとしていたんだ。家族を犠牲にして

そんな父親でも、シャルにとっては唯一の父親で・・・

 

「あれ・・・なんで・・・」

 

シャルの頬に一筋の涙が流れた。皆の前にいるときは気丈に振る舞うのが多いシャルでも、コレには堪えるらしい。

それもそうだ、母親についで父親も失えば・・・

そう言えばセシリアも似たような過去があるっけ

 

「シャル・・・」

 

涙を拭こうとした瞬間、久しぶりに聴く警報が鳴り響いた

敵が・・・来た!!

 

「織斑先生!!」

「千冬姉!!」

「織斑先生と呼べと何度言えば・・・!!」

 

イラッとした感じで千冬姉はモニターを見せてくれた

そこには・・・

 

「カズマ!?」

「そうだ、今度の敵は最悪・・・藍澤・カズマだ」

 

俺は恐る恐る質問する事にした

 

「アイツの要求は?」

「シャルロットの身柄引き渡しだ」

「しなかったら?」

「殺す、と言っているらしい」

 

アイツならやりかねない、なんせ平然と金と契約は裏切らんと公約してのけるのだから

きっと莫大な金と契約をしているに違いない

 

「俺が出る、織斑先生、頼みたい事が」

「なんだ?」

「デュノア社の廃社申請がされていないか調べて欲しいんです」

「何のためにだ」

 

契約を大事にする奴が、その契約元が無くなっているとどう動くかはわからない

莫大な金だけで動いてるのなら確実に終わるが・・・

カズマがそんな血も涙もない奴じゃないのは知っている

 

「カズマに聞いてくれればわかりますよ」

「・・・?」

 

俺はそのまま戦場になるかもしれない場所に向かう

そこは奇しくもカズマの率いる組織が一度破壊し、つい最近直されたばかりの場所だった

 

「よぉ、一夏。元気そうだな」

「こんな状況だけどな。見たところあちこち傷ついているようだが・・・」

「なに、擦り傷だ。時間もないことだから本題に移ろう」

「遊ぶ暇もねぇのかよ」

 

ヤレヤレ・・・とため息をつきながら俺の質問にカズマは答えた

 

「全くもって心苦しいがその通りだ。俺としてはジュースの一本でも飲み交わしたいぐらいなんだが雇用者(エンプロイヤー)が許してくれない」

 

そこに通信が入り、映像も出てくる

 

「叔母さん・・・」

 

シャルはその姿を見ただけで誰か分かったらしい。叔母と言っていることから両親のどちらかの親族だろう

 

「あぁ、まだ生きていたのね妾の子供。さぁ、藍澤君・・・あぁ、それとそこの織斑一夏。さっさと殺しなさい」

「断る。そもそも蔑む目線の奴のことなんて聞かねぇよ。それにカズマ、お前もそうだろ?」

「これも契約に基づく活動だ。俺たちは指示に従うだけだな、うん」

 

この野郎・・・頭にもない事をさも真剣そうに言いやがって・・・!!

 

「そういうところ、尊敬するぜ」

「お前に評価されても大して嬉しくない。さて、新社長、刻限は近い。行動に移るがよろしいな?」

「好きにすればいいじゃない」

「心得た。さ、諸君。戦闘だ」

「待ってくださいっ!!」

 

そこに山田先生の声が響き、カズマは

 

「待たないが?」

 

そう答えた、当然まだ動く前のものだから微動だにしていない

 

「これでもですか!?」

 

出された画像は、日本語に訳された・・・

 

「デュノア社の廃社申請処理の・・・証明書!?」

「ほう・・・?」

「なっ・・・!?」

「EUはデュノア社の廃社申請を受理。同時刻をもって強制的に解体されました!!」

 

時間は今から逆算してちょうど一時間前、つまり今、カズマを雇っていた会社はない

 

「新社長、コレはデュノア社の放棄だと考えていいかね?」

「えぇ、そうよ?だから再契約を」

 

シャルの叔母が最後まで言葉を言う前にカズマは口を開いていた

 

「その前に、先約があるんでな」

「は・・・?」

「カズマ?」

「何を言っているのかしら?早くそこのガキを殺して」

 

再び口を開き、カズマは蔑む目に変わっていく

 

「不思議に思わなかったのかお前?何故、俺が世界各地を回っていたのか。何故、シャルの国籍がEUから日本に移っているのか。何故、彼女の父親の財産がゼロだったのか」

「それはこちらの調査でも見つからなかったわね、あなた達も同時期に調べて・・・ちょっと?」

「生前贈与、という言葉を知っているか?」

 

俺は話についていけなくなっている

どういう事だ?シャルの親父さんとカズマにどんな関係があるんだよ!?

 

「まさか・・・貴様!?」

「契約に差しさわりはない、これは個人契約だ。そして同時に、お前はもう、WALRUSの雇用主(エンプロイヤー)ではない。故にその契約を行使する。君達の処分を頼まれていたんでな」

 

通信が一瞬にして切れた、どんな事があったのかは想像もしたくない

 

「やれやれ・・・金の切れ目が縁の切れ目とはよく言うものだな」

「カズマ・・・」

「何か言いたげだが、どうだろうか一夏?」

「なんだよ?」

 

カズマは後ろにいる自分の組織の方に指差しながら話しかけてくる

 

「あそこにたった今大きな契約スタックを終えた兵士がたっくさんいるんだが」

「俺に金はないぜ?」

「じゃあ帰ろうか?」

「IS学園の飯、三日分でどうだ?」

 

俺がそう言ったら

 

「はぁ!?」

「ちょ!?」

 

千冬姉と山田先生から驚きの声が上がった

 

「二週間」

「藍澤も何故まともに対応している!?」

「師団クラスの規模の・・・全員分なんて・・・」

 

流石に二週間は無理だ、だから

 

「一週間、これが限度だぜ?」

「いいだろう」

「「はあぁぁぁ!?」」

 

先生方の意見を無視して話は纏まってしまった、後はカズマが指揮することだ

 

「すいません、お願いします」

「それで済むのならば・・・」

「仕方ないですね・・・」

 

その間にカズマは電子契約書を送りつけてきたのでそのまま署名して送り返した

 

「さて、WALRUS各員、これが終われば一週間美味いメシがタダで食える。デカい契約が終わったばかりでへとへとなところすまんが・・・やる気はあるかな?」

「「了解(ヤー)!!」」

「タダ飯と聞いて元気が出たな?おおいによろしい!!ならばお仕事だ。セリア、指揮を取れ」

「了解。各隊小隊まで分散し残存敵PMC群を各個殲滅撃破、相手はただの有象無象だ。分かるな?」

 

副司令官であるセリアに指揮を任せ、カズマは去っていく

 

「じゃあな一夏、すぐに終わらせてくるわ」

「あぁ、後で話は聞くぜ!!」

 

カズマがやって来たことの意味を知ったのは、その日の夕方だった




あまりの酷さに思わず涙目の作者です、逃避行と見せかけてこのざまだよ!!
タイトル詐欺だね!!



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