疲労困憊のリズベットは店のカウンターに突っ伏したまま、出来あがった防具を受け渡す。
「ちゃんと、出来たわよ。はい」
ユルトはアイテム欄に頼んだ防具が届くと早速、装着する。
「ふむ。軽さ、モデリング、各関節へのプレートの増強、及第点だ。礼を言おう」
「じゃあ、私は寝るから。強度は自分で調べてよ、ふあぁ、寝むい」
リズベットはそれだけ言い店の奥に消えていった。ユルトは、依頼していた防具の受け渡しに来ていた。装備している防具は、ユルトの愛用していたグルーム装備に関節部の防御の為のプレートを当てた、物だ。リズベットの仕事の良さにユルトは口には出さないものの、優秀な鍛冶師として認めていた。ユルトはリズベット武具店を後にし、黒猫団の元へ帰っていく。
「一体だれがやったんだ。こんな酷い事」
ユルトが黒猫団に復帰した頃、黒猫団では執拗な嫌がらせに団の雰囲気は沈んでいた。最初は、どこからともなくプレーヤーが現れ、自分たちが狩っていたモンスターを横取りされたり、最近ではギルドホームの外壁や、内部にクズアイテムの投棄、自分たちが留守の間にホームが荒らされたりと悪化の一途をたどっていった。みんな、ユルトの復帰よりも今はこの問題の解決が優先された。
そして、ユルトが復帰した翌日、ホームにメールが届き、黒猫団全員の名前と全員を暗殺すると書かれていた。元々気が弱いサチは繰り返される嫌がらせに、神経が衰弱していった。
その夜。
「どうしたんですか、ユルトさん。こんな夜遅く」
「サチ。私からどうしても言わなくては伝えなくてはいけない事があってな」
サチは、夜。全員が寝静まった頃にユルトから呼び出された。サチは寝間着のまま、ユルトの部屋に入る。ユルトは鎧を着たままベッドに腰掛けていた。
「サチ、実は私は今回の嫌がらせの犯人に心当たりがある」
「ホントですか!誰なんです!」
「声が大きいぞ。良いか、明日ケイタ以外のメンバーで心当たりのある人物に会いに行く。奴は話ではPKギルドに入っていて、ダンジョンをねぐらとしているようだ。一緒について来てくれるか」
「でも、ケイタが一緒じゃないと。ギルドのリーダーだし」
「これを私たちだけで解決するのは遠からずケイタの為でもある。アイツは私たちの為に影ながら色々な事をしている。今回の事件を解決すれば、ケイタは私たちに今まで以上に関係を強め、ケイタの手伝いもできよう」
それでも、渋るサチにユルトは肩に手を当て、囁く。
「私や、キリトも一緒だ。明日、貴公からこの話をすればキリトも貴公の認識を改める事になろう。キリトと仲良くなりたいのだろう。いつも見せている、うわべのキリトではなく、本当のキリトと」
「・・・・・」
サチは顔を真っ赤にして黙る。ユルトは肩を叩き部屋を出る。サチはただ黙ったまま床に座り込んだ。
「今日、嫌がらせの犯人を捕まえに行こうと思うの」
朝、ケイタが念願の家を買いに出かけている所、サチが口を開く。
「でもよ、犯人たってどこにいるんだよ」
「ユルトさんに心当たりがあるんだって」
「本当かよユルト」
「ああ、情報屋からの情報だ。犯人は27層の迷宮区に居を構えているそうだ」
「オッシャー行くぞ~」
キリトも含め全員が27区に犯人を捕らえに乗り込んでいった。
「貴公は私を疑っていたのではないのか」
27区の迷宮区に入り、ユルトはキリトにそう聞いた。
「最初は疑ってたさ。でも、ユルトが団の為にこうして働いてくれているんだ。認めるしか無い」
「殊勝な心がけだな。素直さは世渡りに必要だ」
ユルトはクツクツと笑い、初めて見せる笑い声にキリトはユルトを凝視していた。
「情報ではココだな」
ユルトは迷宮区の一角で立ち止まり、壁のひずみを見つめる。
「犯人は最近出来た、この小部屋を根城してるようだ」
ユルトが壁のひずみに手を当てると壁が動き出し、扉が現れる。扉を開けると中は真っ暗で何も見えなかった。
「中で潜んでいるかもしれん。テツオ、キリト、ダッカー、ササマル、サチ、私のフォーメーションで中に入るぞ」
ユルトは全体に指示を出し、フォーメーションを組み、中に入る。先の四人が中に入り、小部屋に明かりが灯る。
「!?どういう事だ!誰もいな
ユルトはサチの襟首をつかみ、後方に投げ飛ばす。そして、ササマルを蹴り飛ばし外に出る。扉は閉まり、中からけたたましく警報が鳴る。
「え、ユルトさん、何を」
「何も、ただあ奴らを罠に嵌めただけの事。貴公が悲観する事ではない」
「危険なんじゃあ」
「おそらくキリト以外は死ぬだろうな」
「!!どうしてそんなことを」
ユルトは腕組みし、サチを睨む。
「教えてやろう。今までの嫌がらせの犯人は私だ。元々、私は貴公らを殺す目的で入ったのだからな」
「なんで、どうして。あの時、私に前衛の才能があるって言ったのは」
「嘘だ。私が加減しなければ貴公の盾諸共に、首が飛んでいた」
「私達と過ごした日々も」
「偽りだ」
「なんで!なんで!なんで私たちなの!そんな相手いくらでもいるじゃない・・・どうして私たちなの」
「貴公らの所為だ。私を疑いもせず、手放しで受け入れた。優しい奴ほど、殺しやすい」
「殺人鬼!私も殺してよ!一人残されるのはいや!」
サチは剣を取り出し自分に刺そうとする。ユルトは剣を蹴り飛ばし、サチの胸倉を掴み、壁に押し付ける。
「私は殺すと決めた者しか殺さない。喜べ少女、貴公は私に選ばれた。私の手元に置き、従順な愛玩動物として躾けてやろう。死ねると思うな、これより貴公の頭の先から、つま先に至るまで私のモノだ」
サチは静かに涙を流す。声を上げれば私に殺されると思ってるのだろう。私は手を離し、その場にうずくまるサチの顎を掴み顔を上げさせる。
「今、この場で私に服従すると誓え。出なければ殺す」
「わ、私は、ゆユルしょ様に従います」
「上出来だ」
恐怖で呂律の回らない彼女に誓いの言葉を言わせ、彼女の心を砕く。静かに泣き続けるサチをユルトは抱きかかえ、転移アイテムですでに購入した自分の家に転移する。その場には彼女の涙の跡だけが無残に残されていた。