「ふむ、まあ及第点と言ったところか」
ユルトは、防具より先に出来上がった武器をじっくりと観察しながら言った。鈍く光沢を放つショーテルとどす黒い刀身のダガーを手に持ち二度三度振ってみる。
「ショーテルの柄を少し削ってくれ」
ユルトはショーテルをリズベットに渡し、リズベットはその場で柄を少し削る。改めてショーテルを持ち振る。今度は満足したようで、そのまま腰に仕舞った。ダガーをもう一度振る。ダガーを振るたびに黒い霧の様なモノを出しながらダガーは空を切る。今度も満足したようで、それも仕舞う。
「防具の方はどうだ」
「どうもこうも、まだヘルムとレギンスしか出来てないわ」
「早くしろ、それだけの金は出している」
「早くしろってねぇ、アンタちょっと、どこ行くのよ、ちょっと!・・・帰っちゃったし」
ユルトの休暇から一週間、依頼していた防具と武器は五割がた出来ていた。今日は、リズベットから武器の作成が完了したとの連絡を受け、武器の受け渡しの為に武具店に来ていた。無事に受け渡しは完了し武具店を出た所で、アスナと出会う。
「こんにちは、久しぶりね。ユルトさん」
「貴公の紹介した鍛冶師は非常に優秀だ。私の要求を全てこなしている」
「それは、鍛冶師冥利に尽きるでしょうね。ユルトさんはこれからお暇かしら?」
「ギルドから休暇をもらっている」
「それじゃあ、少し待ってもらえるかしら。武器の修理に剣を預けるだけだから」
アスナはそう言ってリズベット武具店に入って行った。ユルトは適当に木下に座り込み、ショーテルを日に当てる。硬い氷竜の皮膚で出来た刀身を水銀で鍛えたショーテル。日の光に当てれば、キラキラと水晶で出来た様な刀身が光る。暗殺に用いる武器としては二流だ。しかし、戦闘においては最強のプレーヤーと名高い血盟騎士団の団長 ヒースクリフとも打ち合える自信がユルトにはある。直接戦闘は好まないユルトにそれだけ思わせるほど、リズベットの作成したショーテルはこと戦闘においては素晴らしい物だ。次にユルトはダガーを取りだす。このダガーはユルトのいた世界で「赤子の爪」と呼ばれたダガーだ。特徴として、パリィからの一撃のダメージが増加し、攻撃を重ねることで相手を状態異常にする事が出来る。軽く武器を振るい、しっかりと手になじませる。これも一級品だ。ショーテルとは反対に、暗殺、闇討ちにこの武器は真価を発揮するだろう。
「素晴らしい出来だ」
あまり人を手放しに褒めないユルトが、絶賛するほど武器の出来は素晴らしい。心配なのは防具だが。
少ししてもアスナは出てこず、ユルトは手持無沙汰からダガーをくるくると回していた時、ガチャンと音がし武具店よりアスナが出てくる。
「ずいぶんと時間がかかったな」
「し、仕方ないじゃない。リズベットとは友達だし、つい話も弾んじゃうから」
「人を待たせておいて、その言い草か」
ユルトは木陰から出てアスナの隣に立つ。
「別にいいじゃない。ほら、行くわよ。転移、タフト」
転移アイテムを使い二人は第11層 タフトに転移する。
「で、結局二人でお茶会か」
「べ、別にいいじゃない。ここのアップルパイ美味しいんだもの」
アスナはある計画の為にこの店を選んだ。
(絶対、アンタの顔拝んでやるから)
そう、アスナはユルトの鎧に隠された素顔を見るためにこの店に訪れたのだ。
(まずはオーソドックスにこの紅茶をかけて鎧を脱がせましょうか)
アスナは紅茶を一口飲み、熱さを確認すると
「しまった!手が滑って紅茶が!」
アスナはわざとらしく手を滑らせ、紅茶をユルトの顔目掛けかけようとする。
ガシィ
そんな音と共に、紅茶をかけようとするアスナの手をユルトが掴む。
「危なかったな」
「は、ハイ」
(なにいまの!掴んだ手が見えなかったんだけど)
こうして、アスナの作戦は今後予定していた物を含め全てがユルトの脅威の身体能力の前に頓挫し、作戦は全てが凍結された。