ユルトは月夜の黒猫団をターゲットに決めていた。
「では!月夜の黒猫団、七人目の仲間、ユルトさんに、乾杯!!」
リーダーのケイタが乾杯の音頭を取り、七人が御馳走を囲みユルトの歓迎会が行われた。ユルト以外は豪華な料理に舌堤を打っていたが、ユルトは飲み物も、食べ物も食べようとしない。
「あの、料理お口に合いませんでしたか」
サチがおずおずとユルトに話しかける。
「私は、たとえ仲間であろうと顔を見せることはない。この鎧が私であり、私はこの鎧でもある。しかし、このまま何も食べないのは不敬に当たろう」
ユルトは少しだけフェイスカバーを上げ、料理を食べ始める。それを見てサチは安心したのか、仲間の輪に入っていく。
「ユルトさんはどこ出身なんですか」
「今レベルってどの位ですか」
「正直、ショーテルって使いにくくないですか」
矢継ぎ早に出される質問に、ユルトは出来るだけ丁寧に答える。全ては、団の信頼をいち早く勝ち取るため。その中、キリトだけが、ユルトに疑いの目を向けていた。
ユルトが、月夜の黒猫団に入って二週間。ユルトは、黒猫団の参謀として確固たる地位を築いていた。夜は、ケイタと共にギルドホームを買うための資金の管理をし、昼には指揮官として、黒猫団の戦闘を指揮した。ユルトとキリトと言う二人の柱は黒猫団の要となっていた。
そんなある日。黒猫団は、クエストでいつもの狩り場よりも上の階層で戦闘していた。たしかにモンスターは強いが、キリトを主軸としたユルトの作戦で特に苦戦することなくクエストは、完了まじかになっていた。
「キリト下がれ!攻撃が来る」
「言われなくても分かってる!」
キリトが下がりモンスターの攻撃をかわす。すかさずそこにユルトのショーテルが、モンスターの首を刈る。モンスターは砕け散り、周りを見てもモンスターはいなかった。
「今ので最後か」
「その筈だけど。おかしい、クエスト完了のメッセージが表示されない」
「討ちもらしたか」
「依頼は、このフロアのモンスターの殲滅だけど」
ケイタとユルトが一向に現れない、完了メッセージに疑問を抱いた時
「きゃあ!」
サチから悲鳴が上がる。全員がサチの方を振り向いたとき、サチの足元から人の背丈を優に超えるミミズ型のモンスターが現れる。モンスターは巨体を振り回し、サチ目掛け巨体を振り下ろす。サチが恐怖で目を閉じた、が突然横からの衝撃に飛ばされる。飛ばされる直前にサチは、自分の代わりに巨体の潰される黒い甲冑を見た。
ガジャン
そんな音を立て、モンスターは黒い甲冑を叩き潰した。
「「ユルトさん!!」」
その場にいた全員が叫び急いでモンスターを倒す。多少のダメージはあったものの、すぐさまモンスターを倒しその下から、ひしゃげた鎧を着たユルトが現れる。すでにユルトのHPゲージは赤色の危険域にまで下がり、体に刺さった鎧の一部や、石のスリップダメージにさらに下がりつつあった。
キリトはすぐさま回復薬を使い、体力を回復させるが、スリップダメージにより体力は減り続けていた。ケイタが全員を連れ転移アイテムを使い、街へ飛ぶ。そして、すぐにギルドの倉庫からスリップダメージを消す回復薬を持ち出して、ユルトは難を逃れた。
「・・・・」
ユルトが気が付くとサチが抱きついてくる。痛みなど無いが、抱きついて泣きじゃくるサチにはユルトも動揺せざる負えなかった。部屋の隅には、ひしゃげ防具としての機能を放棄した、愛用のグルームが置かれていた。幸い、ヘッドアーマーだけは外されていない。暗殺者として顔を見られるのは避けられたのだ。しかし、ヘッドアーマーも一部が歪み、感じた事のない隙間風が吹いていた。
「防具を買う必要があるな。あれはもう使い物にならない」
ユルトは長年使い続けた相棒に一度だけ目をくれると、鎧をアイテム欄から消去し、ケイタが用意してくれたアーマーを着けた。
「貴公にこの鎧の製作にを頼みたい」
「えぇ、はあ」
ユルトは、ある人物の紹介で武具屋に来ていた。その名もリズベット武具店。ユルトは、かつてのよしみのアスナに腕の良い鍛冶師を聞いた所、即答で「リズベット」と答えたからだ。しばらくの間、正確には防具が出来上がるまでの間、ユルトは黒猫団から休暇をもらいリズベット武具店に来ていた。ユルトはリズベット、ピンクの髪に顔にはそばかすをつけた少女に自分の書いた防具の絵を見せていた。
「しかしですね、こんな防具ホントにあるんですか?」
「私が頼んでいるのはオーダーメイドの防具だ。正規の物ではない」
「ううう、やってみますよ、やってみますけどせめて代金は奮発してもらいますよ」
リズベットが言うや否や、リズベットに大金が振り込まれる。
「うえええええええ!ちょっと、これって」
「防具の代金だ。色もつけてある。ついでに武器の製作を依頼しよう」
ユルトは、アイテム欄からあるものを取りだす。
「これは?」
「水銀と氷竜の皮膚、それに病魔の体液と軟鉄だ。これを使い、最高のショーテルとダガーを作ってもらいたい」
「私を殺す気ですか!?」
「では、失礼する」
ユルトはそれだけ言い残しリズベット武具店を去る。リズベットは残された、ビンに入った病魔の体液を眺めながら、大きくため息をつく。
「しばらくお店休まなきゃいけないなあ」