第一層攻略から20日以上たち、ユルトは本格的に暗殺を開始していた。しかし、PK(プレーヤーキル)によるぺナルティ、街への進入不可がユルトの暗殺の妨げとなっていた。
そんな中、今日も一人でダンジョンに入り鍛錬をしていたユルトは、キリトと出会う。
「また会ったな。最後に会ったのは、第一層攻略の時以来か」
「ユルト。今度は何を企んでいる」
「私も信用されていないな。今回はただの偶然だ。気になるのはこちらもだ。いつからパーティを組んでいる」
「彼らは、俺の入ったギルドのメンバーだ」
キリトの後ろの、女一人、男四人のギルドメンバーが、こちらに会釈をする。男四人はそれなりに装備を整え、女は槍と盾を背中に背負っているが、まだ慣れていないのだろうしきりに肩のあたりを気にしている。
「ギルドマスターは誰だ」
「俺です。ケイタって言います」
「ユルトだ。彼女は、前衛を初めて日が浅いだろう。今日は、早めに帰るといい。それと、彼女は戦闘を怖がっているな」
「ど、どうしてそこまで分かったんですか」
「簡単な推理だ。お前たちの装備に比べ、彼女の装備は幾分貧相だ。おそらく、彼女を前衛とし、盾を持たせることで生存率を高めようとしたのだろう。そのため武器が彼女に合うかどうか、金のかからない初級武器を持たせている。そして、ココに来るまでに大勢の敵との戦闘があっただろう?そこの男の防具には、新しい傷が出来ている。彼女を除け全員が、大なり小なり防具に傷が付いている。それに比べ、彼女の防具は、見た所盾には傷があるが、防具には傷が無い。終始、盾を構えて怯えていた証拠だ」
ユルトは、ギルドを一目見ただけで、人間関係までも見抜いていた。ユルトの推理に、ケイタが目を輝かせる。
「あの!ユルトさん!どうか、ぜひうちのギルド、≪月夜の黒猫団≫に入っていただけませんか」
ケイタはうやうやしく頭を下げ、ユルトに頼み込んだ。ユルトは、その頼みを無視しショーテルを手に持つ。
「貴公達が私の試験に合格したのなら入ってやろう」
「ホントですか!一体、どんな試験なんで・・・す?」
ケイタが頭を上げるとユルトは消えていた。ケイタの後ろから、紅一点 サチの悲鳴が上がる。驚いて振り返ると、そこにはショーテルを振るユルトと、それに対峙するように剣を構えるキリトがいた。
「一体なんのつもりだ、ユルト」
「試験と言っただろう。退け、キリト。用があるのは後ろの女だ」
それでもキリトは構えを解かずユルトはやれやれと呆れた様に武器を持った。
「なら止めて見せろ。貴公の執念とやらを見せてみろ」
ユルトはノーモーションで加速しキリトの目の前にまで接近する。そして、左手のダガーを横に振る。キリトは自分の剣でガードしようとする。
「!?」
ユルトのダガーはキリトのガードをすり抜け、空振りした。
「しまっ
「遅い!」
ユルトは最初から左手には何も持っておらず、突然の攻撃にキリトは、左手にダガーを持っていると錯覚していたのだ。ユルトは空の左手で、キリトに裏拳を放つ。完全に虚を突かれたキリトの顔面に拳が入り。手を顔に当て、腰が引けたキリトにさらに中段蹴りを放つ。キリトは飛ばされ、地面にうずくまった。ユルトは、それを確認すると、サチへ向け走り出す。
「娘よ。試験だ。私の攻撃を防御出来たなら合格だ」
サチはあわてて盾を構える。ユルトはショーテルを振り上げ、サチに振りおろす。
「ヒッ!」
ショーテルの切っ先が、サチの喉に当てられる。ショーテルの湾曲部は盾を構えた敵に対して、盾を無効化する様に出来ている。サチからすれば、盾の横から、自分の喉元に剣先が曲がっていく様に見えただろう。
「サチ!」
キリトとギルドメンバーがやっとサチの元へ来た。ユルトはショーテルを仕舞い踵を返す。ケイタとすれ違う時
「彼女は合格だ。あのままショーテルを振り切っていたら、盾に阻まれ私のショーテルが折れていただろう。前衛としての才能は少なからずあるようだ」
「それじゃあ」
「私の連絡先はキリトにでも聞いておけ」
ユルトは転移のアイテムを使い拠点にテレポートした。