SAOとダイスンスーン   作:人外牧場

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好奇心は猫をも殺す、弁える事だな

 ゲームが始まって一カ月が過ぎ、ゲームの犠牲者は二千人にも及んだ。プレーヤーはいまだに第一層すら攻略できず、街に引きこもるものやプレーヤーを狙う強盗などが、増え始めた。そんな時、「第一層のボス部屋を発見した」との情報により、第一層攻略の為の会合が開かれた。

 

「みんな、よく集まってくれた。俺は今回の指揮を取るディアベル。気持ち的にはナイトやらせてもらってます」

 

「そんな職業はねぇぞ~」

 

 石でできた、壇上で青髪の男、ディアベルが冗談を織り交ぜながら自己紹介をする。ぱっと見ただけでも50人は下らないプレーヤーがディアベルの会合に来ていた。ユルトは、会場の端の柱にもたれかかりながら、ディアベル含めこの場に集まっていた、全プレーヤーの顔と名前を頭に叩き込んでいた。どんなに、絶望的な状況でも、物事が停滞し続ける事はない。必ず、ゲームのクリアを目指しそれに挑む者が現れるはずだ。ユルトにとって、そういった者たちが、勢力をつけるのは暗殺の難易度を上げるだけの為、ユルトはこの会合に来ていた。

 

(ゲームクリアを目指す者達の実力を見極めるにはいい機会だ)

 

 そう思いながら、ユルトは集まった者たちを端から端まで見ていた。その一角で、見覚えのある人物を見つける。

 

(キリトか、どうやらかなり鍛錬を積んできたようだな)

 

 ディアベルが、ボスの情報を話終え連携を高めるためこの場でパーティを組むよう言った時、男は現れた。

 

「ちょっと待ってや!」

 

 男は人の間を縫うように壇上まで走り寄り、そして、観衆の方を向いていった。

 

「わいはキバオウっちゅうモンや。パーティを組む前に話を聞いてくれんか」

 

 キバオウと名乗った男は一つ咳払いをし、話し始める。

 

「まずは、こんなかにもおるはずのβテスターに詫びを入れてもらわなあかん。βテスターが情報を独占した所為で、一か月の間に、二千人の犠牲が出てもうた。まずはこの中におるβテスターに謝罪をしてもらわなあかん!」

 

 キバオウを語尾を強めそう力説した。キリトが目に見えて怯え始める。場の空気がキバオウの流れに変わりかけようとしたときに、スキンヘッドの男が手を上げた。

 

「発言いいか、ディアベルさん」

 

「ああ、いいとも」

 

「キバオウさん。あんたはつまり、βテスターが情報を独占したせいで犠牲者が出たといっているんだな」

 

「そうや」

 

「それは間違いだと、俺は思う」

 

「なんでや!」

 

「ゲーム開始直後にこんな本が無料で配布された。これはβテスターが好意で作った、いわばこの世界のマニュアルみたいなものだ。戦闘から、生活まであらゆる情報が掲示され、自動でアップデートされる。βテスターは最初から、自分達の持っている情報を提供していた。あんたの発言は、これをふまえた上でのものなんだな」

 

 スキンヘッドの男は手帳の様なモノを見せながらキバオウを問い詰める。キバオウは悔しそうに顔を歪め、いそいそと自分の席に戻って行った。ディアベルがスキンヘッドの男に聞く。

 

「すまない、場を収めてもらって。名前は」

 

「俺はエギル。攻略の片手間、路商もやってる」

 

「そうか、この作戦が終わったら、寄るよ」

 

 場の空気が和んだ所で、ディアベルは止まっていたパーティの編成を続けるよう言った。

 

 

「入り損ねたか」

 

 キリトはそう言って一人ごちた。周りでは、すでにパーティが編成され自分だけがその中であぶれていた。どうにかしようとした時、端の方で、ローブを深くかぶったプレーヤーを見つける。即座に近寄り話しかける。

 

「お前もあぶれたのか」

 

「違う。他のパーティがお仲間同士だったから、遠慮しただけ」

 

「そうか、お前ソロプレーヤーなのか。だったら俺と組まないか」

 

 コクリと頷きキリトはパーティ依頼を送る。すぐさま受理され相手のHPゲージと名前が表示される。

 

(アスナ?)

 

 表示されたアスナという名前に疑問符を浮かべ話しかけようとした時

 

「久しぶりだな。貴公」

 

 後ろから、ガシャガシャと音を鳴らし、ユルトが話しかける。

 

「すまぬが私もパーティにいれてくれぬか。私もあぶれたのだ」

 

 とっさに嫌だと言いかけたが、今回の対手はボスだ。どんな不測の事態に陥るか分からない。仲間は多い方がいいと、自分に言い聞かせユルトにもパーティ依頼を送る。ユルトも受理し、ココに三人のパーティが結成した。

 

 その夜、ディアベルが景気付けにと宴会を開きユルト達三人は、会場の端っこでもそもそとパンを齧っていた。

 

「それ、そのままじゃあんまり美味しく無いだろ。これつけて食べると美味しいから」

 

 キリトはそう言って、アイテム欄からクリームを出す。キリトとアスナはそれぞれクリームをパンにつける。

 

「私も頂こう」

 

 ユルトも後ろからクリームを取り、クリームは砕け、消えていった。アスナは、キリトがパンを食べるのを見てから、食べ始める。一口食べ、想像以上の美味しさにパンがきれいになくなる。

 

「欲しいなら、クエストのコツを教えるけど」

 

 アスナは首を横に振る。

 

「私は、美味しいモノの為に来たわけじゃない」

 

「なら、どうして」

 

「私が、私でいるため。始まりの町で、腐っていく位なら、私のままで最後を迎える方がいい」

 

 重く、覚悟に満ちた声で、アスナが答える。

 

「パーティメンバーが死ぬのは嫌だからな。明日はやめてくれ」

 

 落ち着いた声で、キリトが言う。ユルトはすでに姿を消し、ランプの火は静かに二人を照らしていた。

 

 

「確認するぞ。私達の役割は、ルイーンコボルトセンチネルと言う、ボスの取り捲きを排除すればいいのだな」

 

 フィールドを移動している時、ユルトがアスナに今回の作戦を聞く。

 

「俺が、ソードスキルで、コボルトの武器を弾くから二人はすぐにスイッチして、攻撃してくれ」

 

 歩きながら、キリトが作戦を補足する。

 

「「スイッチってなに(何だ)」」

 

 キリトは唖然とし、歩くのを止めた。森から見える、一層のダンジョンがさながら魔王城に見えるキリトであった。

 

 

 薄暗いなかディアベル率いる、攻略隊はボス部屋の前に来ていた。ディアベルが剣を地面に突き立て話す。

 

「俺から言う事は一つ。みんな、勝とうぜ。勝って生き抜いてやろうぜ」

 

 それだけ言い。ディアベルは扉を開け放ち、全員が部屋に入る。扉が閉まり、奥からボスの取り巻きとボスが現れる。ボスは取り捲きの4倍はあろうかという巨体に、戦斧を持ち、こちらに迫ってくる。

 

「みんな、言った通りに陣形を組め!来るぞ!」

 

 

 

「せやっ!」

 

 キリトの剣が取り捲きの体を切り裂き、消滅する。もう周りには取り捲きはおらず、全員がボスとの戦闘に参加していた。

 ディアベルの指揮の元、攻撃と防御を入れ替えボスとの戦闘を優位に進めていた。ボスの体力は減り、にわかに勝利を確信した時、ディアベルが前に出る。

 

「俺に任せろ!!」

 

「!!」

 

 ボスは武器を持ちかえ、巨大な鉈を担ぐ。そして、今までにないスピードで、ディアベルに死の一撃を与える。

 

「ディアベルはん!!」

 

 キバオウの声が空しく響き、吹き飛ばされたディアベルは壁に激突する。

 

「ディアベル!」

 

 近くにいたキリトが回復薬を手にディアベルに近寄る。回復薬を使おうとした時、ディアベルがそれを止める。

 

「いい、やめろ」

 

「お前もβテスターなら、分かるだろ」

 

「!ラストアタックによる、レアアイテム狙い」

 

「そうさ。今必要なのは、英雄なんだ。だれよりも強く、希望を持たせる英雄が必要なんだ。ハハハ、俺はどうやら無理みたいだったけどな。頼む、奴を、ボスを倒してくれ」

 

 ディアベルはそう言い残し、光となって消えた。例えようのない、怒りと責任を感じキリトは剣を手に取った。すでに陣形は崩れ、敗色が濃厚になっていた。

 キリトは、ボスに向かっていった。その後ろからアスナが現れる。ボスの鉈が振り上げられ、キリトに向け、下ろされる。ソードスキルでそれを弾き、アスナがそれに合わせてボスに攻撃する。ボスは倒れる寸前で鉈をアスナに振る。

 

「アスナ!」

 

 キリトが叫び、鉈がアスナに当たる寸前でアスナは身をよじりかわす。着ていたローブが吹き飛び、ローブの名から、長髪の美少女が現れる。

 

「アスナ!最後の攻撃合わせてくれ!」

 

「了解!」

 

 まだ、態勢を直せていないボスに二人の剣撃がXの字に入れられ、ボスの体力が赤色の後を残し、減っていく。後は、ボスが消えるのを待つだけだ。勝利を確信したアスナにボスの最後の攻撃が振り下ろされる。

 

「アスナ!」

 

 キリトが気付いて呼ぶが、アスナはまだ気付いていない。一瞬ディアベルの顔が思い浮かぶ。アスナをディアベルの二の舞にさせてしまう。キリトがそう、思った瞬間

 

 ボスの後ろから黒い影が、凄まじいスピードでアスナと鉈の間に入る。

 

「気を抜くな、娘。窮鼠の一撃ほど、死につながるものはない」

 

 ユルトは、湾曲した曲剣 ショーテルでボスの鉈を受け流す。そして、左手のダガーで、ボスの喉を切り裂く。今度こそ、ボスは消え、第一層を攻略した。

 

 

「お前がディアベルはんを見殺しにしたんや」

 

「お前はチーターでベーター、ビーターや!」

 

 勝利は、キリトとユルトの批判で汚く汚された。キバオウが二人はレアアイテムの為に仲間を犠牲にしたと言いだしたのがきっかけだ。

 

「そうさ、俺はビーターだ。俺は、ディアベルなんかよりよっぽど上手くこのゲームを攻略する。犠牲も、代償も払って、俺だけで攻略してやるさ。貴様らはおとなしく、始まりの街で閉じこもっていろ」

 

 キリトはそう宣言し、ラストアタックで手に入れたコートを装備する。キリトは自らが悪役となることでこの場を収めた。

 

「貴公」

 

 ボス部屋を出て、キリトはユルトに呼び止められた。

 

「自らが汚名をかぶり、死者の尊厳を守るか。殊勝な心がけだが、いつかその優しさが、貴公を苦しめる」

 

「知っておく事だ。好奇心は猫をも殺す、弁える事だな」


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