SAOとダイスンスーン   作:人外牧場

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これより三騎士は忠義に応える

 キリトがアストラエアと会ってから3週間がたった。その間にこの世界にはいくつかの進展があった。血盟騎士団を筆頭とする幾つかのギルドが攻略を目的とした大同盟を結成、戦力を大幅に増やすことに成功した攻略組は次々と階層を突破していき、既に数体のデーモンの討伐も確認できた。その中で目覚ましい戦果を上げてきたのが、三騎士達だ。攻略組の中では三騎士ならばヒースクリフにも勝てるのではないかとのうわさも立つほどに彼らの強さに拍車がかかっていた。しかし、喜ばしいニュースの中にもやはり暗い話題もある。ここ最近で行方不明者が急増している。行方不明者は皆、死んではいない。しかし、同じパーティのメンバーとも連絡もどこに居るのかすら分からず、忽然と姿を消す。この話はいくつか尾ひれがつき都市伝説化しているが、誰かがいなくなった以上何かが起きているのは明らかで、ギルドの方では3人以上での行動を義務付けているところもある。

 

「・・・」

 

「た、頼むもうやめてくれ。金も装備も全部お前にやるから」

 

「私にそのような物は必要じゃない。今はただソウルが欲しいだけだ。火守女のような高密度のソウルがな」

 

 ユルトはそう言って拘束した男に拳を突き付けるとゆっくりと手を引く。そこにはソウルが握られており、ソウルを抜かれた男はぐったりとしている。

 

「これで105万ソウルか。まだ足りない。この世界に終焉を与えるにはまだ足りない」

 

 ユルトはそういい男の拘束を解き離れた階層の泉の傍に放置する。ユルトは攻略組の幾人からこうしてソウルを抜き取っていたが行方不明者にはなんら関係なく、ユルト自身も今回の失踪事件には難儀していた。失踪した奴らはユルトがソウル吸収の候補に上げていた者ばかりでユルトはしかたなく、候補にすら上がらない屑達からソウルを集めなければならなくなった。自宅に戻り、サチの出す甘いコーヒーに眉をひそめながら、この事件の犯人を想像する。

 

(失踪者の合計は既に12人。なのに手掛かりは一切出ない。私も偽装工作にはそれなりの自信があるが、これはあまりに出来過ぎている。犯人はそれだけのつわものか、もしくは失踪者と結託していたのか)

 

 ユルトの脳裏にある人物が浮かぶ、自分をポーレタリァへと向かわせた張本人。自らを秘匿者と名乗る女。彼女ならユルト以上の隠ぺい技術を持って人を消せるのではないか。それにユルトが身に付けたユニークスキル:吸魂はもとはあの女が扱うソウルの秘義であり、なぜそれが自分にできるようになったのか全くの不思議であった。

 しかし憶測のみで事件を解くなどナンセンスだと感じユルトは、コーヒーを一口すする。

 

「甘すぎる」

 

 

 

 

 三騎士は迷っていた。自分達は誰に忠義を払えばいいのかを。一介の兵士であった自分を騎士団の隊長に任命してくださった王か、愚鈍な大盾兵の自分を切り込み隊のリーダーにしてくれたヒースクリフか。しかしウーランは既に誰に就くか決心したようだ。誰からも蔑まれる蛮族でありながら、卓越した操弓術を買われポーレタリアの弓矢隊の長にまで抜擢してくれたオーラント王を彼女は選んだ。

 

「潔くしろ。私らは一体誰に認められて三騎士と呼ばれるようになったか」

 

「しかしウーラン。この世界での我々の主はヒースクリフ、それを裏切るのは騎士道に反する行為ではないのか」

 

「私は道理の通らない蛮族の王だ!それにあのヒースクリフはどこか信用できない。あんたがぎりぎりの時でもあいつのHPは半分を切った事がない。どう考えてもなにか裏がある」

 

 アルフレッドとウーランが口論を始める。恩義や人情に熱い二人がぶつかり合うのは初めてではない。いつもなら私が妥協案を出して場を収めるのが普通だが、今回は妥協案がない。どちらにも我々は多大な恩義がある。

 

「ウーラン、アルフレッド、聞いてくれ」

 

 私も決心を固める時が来たようだ。

 

 

 

 

「私はオーラント王に就く。私の王は後にも先にもあのお方だけだ」

 

 

 

 

「メタス、それでいいのか。我らはヒースクリフにも借りがあるだろう」

 

「アルフレッド、騎士には時として冷酷さも必要だ。戦場で情けや人情で切らなければ、我々の背中に大きな不名誉の傷がつく。疑わしきは黒。私もヒースクリフにはなにか我々にも隠さなければならない事があるように思う」

 

「・・・・・・・・・・・ならば」

「ならば塔の騎士アルフレッドも返るべき主のもとへ行こう。我々は一心同体、死ぬ時も、裏切るときも一緒だ」

 

「貴公の忠義感謝する」

 

 

 その夜、血盟騎士団結束して以来最大のクーデターが起こる。最大の戦力である三騎士の裏切り、ギルドマスター、ヒースクリフの実力を持ってしても三騎士は歩みを止めず、邪魔するものは全て切り伏せた。そして、全階層に向けてある映像が流れる。オーラントと周りに立つ三騎士が映し出される。

 

 

 

「これより三騎士は忠義に応える。邪魔する者、歯向かう者、抵抗する者、そのすべてを我々三騎士は切り捨てる」

 

 メタスがそう宣言すると、オーラントが話し始める。

 

「これより全ての階層に色の無い霧が立ち込める。この霧に飲まれれば、理性を失い、ただソウルを求める奴隷となるだろう。そうなりたくなくば、私のもとへ来い。そして私と三騎士を殺し、霧を止めろ。これより剣の世界、架空の世界は変わる。理性を失い、皆苦しむ事の無い新しい世界となる。残るデーモンは2体、灼熱の炎に住む竜王と狂気に憑かれた黄衣の王。デモンズソウルを集め、己を証明し続けろ」


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