ユルトとの交渉から3日。恥もプライドも捨ててユルトに頭を下げた甲斐もあり、ユルトは早速有力な情報を提供してくれた。
「第一層よりさらに下、新たなダンジョンンが解放されているらしい。その入口に貴公らが75層攻略に励んでいる時に、可笑しな小袋をぶら下げた服を着た男とそれに抱えられた白いワンピースの少女が入っていくのを目撃したとの情報が入った」
さも興味なさげにユルトが言い、キリトとアスナはすぐに第一層へと向かった。
「ようこそいらっしゃいました。私がこの子達の親代わりのウルベインと言う者です」
おかっぱ頭に神々しさすら感じる白いローブを着た男が教会の扉を開けて二人を歓迎する。ウルベインの足元には不安そうな顔をしてウルベインのズボンを掴む少年少女が二人を見つめていた。キリトとアスナは、やわらかく笑い教会の中に入る。十字架に架けられた大工の息子が安らかな顔で救済を遂げた所を表現したステンドグラスに日光が入り教会は荘厳な雰囲気に包まれていた。
「こちらへどうぞ。話は既に聞いています」
ウルベインは子供たちを引きつれてチャペルの奥の居住スペースへと二人を案内した。簡素なテーブルとイスに温かそうに湯気を出すウサギのスープと堅そうなパンが大量に並べられている。
「ミーシャ、コルベット。上にいる皆にご飯が出来たと伝えて来てくれないか。それと今日はごちそうだとも伝えてくれ」
元気な挨拶と共に二人の少年少女が階段を上っていく。ウルベインは子供たちと目線を合わせるために屈んだ状態から二人に話しかける。
「御二方もどうぞ今日はその為に昼食を少々遅くしたのですから」
優しそうな声色だが有無を言わさないウルベインの雰囲気に二人は静かに、席に着いたウルベインの前に座るのだった。
「全員座ったかね?ほらマルコ、御祈りの前に食べてはいけないよ。それでは・・・我らを見守る唯一の神よ。あなたの恵みに感謝しこの心とソウルを捧げます。アンバサ」
胸の前に両手を組んだウルベインが祈りの言葉を言い、子供たちも手を組んで静かにそれを聞く。二人もあわてて手を組み、最後にウルベインのアンバサと一緒に子供達もアンバサと言う。二人も小さくアンバサと言い、横目で食べ始めた子供たちを見て自分もスプーンを持つ。
「申し訳ありません。習慣のないあなた方に御祈りに付き合ってくださって」
ウルベインが頭を下げるが、気にしないでくれとキリトが申し訳なさそうにする。
「それで、あなた達は腐れ谷について知りたいのですね」
二人が一口目を口に運んだ時ウルベインは口を開く。
「腐れ谷は最近出来た1層よりもさらに下の階層の通称の事です。1層の倍あると言われるフィールド、僅かの報酬しか無い高レベルモンスターの大群、そしてプレーヤーの精神的嫌悪感をかき立てるおぞましい世界。だから腐れ谷、あそこはそう呼ばれています」
「サチと言う少女からの話では探しているのは娘さんでしたね。恐らくあそこに連れ去られたあの子に間違いありません」
冷静に話しながらパンを齧るウルベイン。キリトとアスナの顔に不安が立ち込める、本当にユイは生きているのだろうか。言いようのない不安が二人にのしかかる。
「ウルベインさ・・・・
キリトが不安から口を開こうとした時、荒々しい音と共に教会のドアが開く音がする。そして、ウルベインが席を立つより早く居住スペースの扉が開き5人の鎧を着た男が剣を片手に現れる。
「異国の坊さんよぉ、いい加減に子供たちを手放したらどうだ。てめえの渇渇のお財布じゃあガキども養うのは辛いんじゃないのか?」
「ふざけるな!未来ある子供たちを貴様ら下郎の金儲けに手放すか、恥を知れ!」
「誰がこの町を犯罪者から守ってんだと思ってんだよ!この町は俺達の正義で動いてんだ、でないとてめえのこの教会に強盗が出るかもな」
「誰も貴様らの力など必要としていない!正義だと?貴様らは、富裕層に子供たちを売りつけて財を得ようとする罪人だ!」
5人に掴みかかろうとする勢いで迫るウルベインに剣が撃ち込まれる。決して死ぬことは無いが、全身を凄まじい嫌悪感が走る。そして、ウルベインに蹴りを放ちウルベインは5人の前に尻もちをついた。
「やれ」
リーダー格の男の命令で残りの4人がウルベインを袋叩きにする。止めようと二人が剣を抜こうとするがそれをウルベインが止める。これは私の問題だ、と。そして、最初こそ威勢の良かった4人だったが突然攻撃が止まる。4人のうち1人が天井にぶち当たり落ちる。そして、3人となった輪の中からウルベインが立ち上がる。
「最後通告だ、今すぐ退け。出来ないようなら神の名の元貴様らを断罪する。そうなれば懺悔なぞ受け付けぬぞ」
「坊さんが粋がるな。やれ」
天井に当たった者も起き上がり4人からウルベインに決闘が申し込まれる。完全決着の決闘。対手のHPゲージを0にするまで戦い続けるデスマッチ。そしてウルベインは4対1の決闘を受け入れる。