SAOとダイスンスーン   作:人外牧場

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75層攻略戦

ダン!と熱気が漏れ出す扉の前で攻略隊を連れたヒースクリフが振りかえる。普段冷静な彼らしくも無く、その目には素人にも分かるほど闘気に満ちていた。タンと剣を杖の様に持ち、一度息を吸い込む。

 

「まずはここにいる諸君に感謝せねばなるまい。危険を承知でこの75層攻略に、参加してくれた事を。諸君には、諸君なりに戦う意味を持ってここに来たと思っている。私はそれを否定しない。しかし、諸君!諸君はなぜここに来た!それは、部屋の隅で怯えるためか!こんな所で犬死するためか!ずるずると人の尊厳を失っても今の状況に甘えるためか!諸君は!闘いに来たのだ!命を賭して、この理不尽なデスゲームから解放されるために、ここに来た。ならば闘おう!全身全霊をもって!抵抗する!剣を捧げ!盾を持て!最後の一人まで我々は戦うと!」

 

 ヒースクリフの口上に隊全体が沸き立つ。メタスは剣を胸の前に掲げ、アルフレッドが盾で地面を揺らし、ウーランの弓が天高く掲げられる。

 

「全隊、突入」

 

 扉が開け放たれ、ヒースクリフ達は濃霧の中を突っ切っていく。そこは、マグマ沸き立つ神殿のようだが、既に崩壊しかつては美しかったと思われる大きな大理石の柱の残骸に寄り添うように、巨大な骨が鎮座する。

 

「どうしたんだ、ボスはどこだ」

 

 隊の誰かがそうつぶやく。いつもならフロアの奥や中央で待っているはずのボスが見当たらない。ピリピリと隊に緊張が走る。姿を見せぬボスに隊は良からぬ想像が止まらずにいた。そこに

 

   ウオオオオオォォォォォォォ!!!!!!

 

 ビリビリと空気を揺らし神殿の奥底から全身に紅蓮の炎を纏った巨人が、柱を粉砕しながら現れる。

 

「全体構え!」

 

 前線部隊を指揮するアルフレッド率いる盾部隊が、前に出る。巨人の横に簡易的なHPメーターが表示される。そこには、炎に潜む者と表示されていた。潜む者は、もう一度雄叫びを上げ、上半身を倒しながら盾部隊に突撃する。

 

「盾を構えろ。訓練どうりすれば、あんな奴など脅威ではないわ!はっはっは!」

 

 景気のいいアルフレッドの笑い声と共にアルフレッドは部隊の一番前にでる。そして、自身の身の丈を超える大盾を前に構え態勢を低くする。それと同時に、大きく振りかぶった巨人の右手が隊を襲う。巨人にとっては何のことは無い、牽制攻撃なのだがその威力は、ただの一撃で盾部隊を壊滅状態にさせるほどだった。断末魔が幾重にも重なる。そして、彼らは儚い結晶となって消えていく。そして、その場に残ったのはアルフレッドのみとなった。騎士団随一の防御力と体力を誇るアルフレッドのHPメーターは、防御したにも関わらずHPメーターは五分の一減っていた。そこに追い打ちをかけるように巨人の右腕がもう一度薙ぐ。

 

「ボーレタリアの三騎士と謳われた、小生をなめるなよ!!!」

 

 アルフレッドは大盾を両手で持ちそれをバットの様に振り、潜む者の右手を弾く。そして、そのままの遠心力を使い巨人の胴に、人など簡単に押しつぶしてしまうような鉄塊が直撃する。

 

「オウッ!」

 

 巨人は小さく呻きバックステップで距離を取る。そこでアルフレッドは膝をつく。そこにウーランが駆け寄りアルフレッドを後ろに避難させる。

 

「す、すまぬ。迷惑をかけた」

 

 息も絶え絶えにアルフレッドが謝罪するが、それをウーランが一蹴する。

 

「はん。別に迷惑だなんて思っちゃねえよ。アンタはよくやったさ。後は団長とメタスとウチにまかせな」

 

 ウーランは背中の弓に手を掛けアルフレッドの前に立ち既に巨人と、交戦しているメタスと団長に援護射撃をする。いくらウーランがヒースクリフに続く、二人目のユニークスキル 弓の所有者だとしても、放つのはウッドアローの為矢は巨人にたどり着く前に、巨人の体から溢れだす炎によってすべて燃え尽きていた。

 しかし、そうしている間に次々と仲間は倒れ死んでいく。その中で、ヒースクリフ、メタス、キリト、アスナは巨人相手に善戦していた。アルフレッドを遥かに凌ぐ強靭さをもったヒースクリフが巨人の攻撃を捌きその間に、三人が次々と大技を叩きこみ着実に巨人の体力を削って行った。

 

「こりゃあ、ウチも役に立たねえと後でメタスからどやされんな」

 

 邪悪な笑みを浮かべ今までのウッドアローとは違った白い矢を手に取る。それを弓に当て限界まで引き絞る。

 

「これ避けれたら、てめえの嫁でもなんにでもなってやるよ」

 

 ウーランが冗談じみてそういって弦から手を離す。白の矢は風切り音のみを残して巨人の左目に突き刺さる。巨人の手は、顔を抑え痛みにのたうつ。そこにウーランの第二射が容赦なく放たれる。白の矢は巨人の手を貫通し、顔に当たらな傷を次々と作っていく。さらに、生き残りたちが次々と攻撃を加え巨人のHPメーターはついに残り二割を切った。皆誰しも勝利を確信した。しかし、事態は一変する。巨人の体から、尋常ではない量の炎が噴き出し巨人が飛び上がる。そして、地を割らんばかりの叫びと共に怒涛の猛攻を仕掛けていく。今までとは、威力も速度も密度も段違いの攻撃に防御に徹していたヒースクリフが、一撃を受けHPが一気にイエローゾーンに突入する。ヒースクリフでイエローなら、今のがヒースクリフではなく、他の誰かだったら間違いなく死んでいただろう。ヒースクリフの後退と共に残りのメンバーも後退する。

 50人以上いた攻略組は既に10ほどにまで減っている。しかし、それは向こうも同じ。自身の容量を遥かに超えた炎は巨人の体躯を少しづつ崩壊へといざなっていく。残り2割だったHPも1割にまで減っている。次の攻撃で勝者が決まるだろう。

 

「すまない。今の私では、奴の攻撃を受けきれない。私が攻撃を引きつける、キリトくんが決めたまえ」

 

 ヒースクリフの提案に、騒然とする。

 

「あんた、二刀流の事知って」

 

「当然だよ。団員の事を知るのも仕事だからな。それより早くしたまえ奴も次で決めるつもりだ」

 

 キリトとヒースクリフが、前に出る。そして、炎にひそむ者が突貫する。そして繰り出される攻撃をヒースクリフが紙一重でかわす。

 

「今だ、キリト!」

 

 無防備な巨人の体にキリトの切り札 スターバースト・ストリームが放たれる。しかし、炎にひそむ者はそれをかわす。炎にひそむ者の前に無防備なキリトとヒースクリフが晒される。一瞬、時が遅く感じ巨人の無慈悲な鉄槌が放たれる。が

 

 

  ぐごおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!

 

 巨人の断末魔と共に巨人の巨大な体が宙に浮く。その胸には深深と一振りの剣が刺さっていた。巨人の断末魔が止み、巨人の体が霧散する。そこには一人の老人が立っていた。老人の手には不釣り合いな程、邪悪な気を放つ一振りの剣が握られていた。

 

「かのデーモンを破るとは、人間も侮れるな」

 

 静かにしかし、世界を拒絶するような声が廃墟の神殿に響く。

 

「オーラント様!!」

 

「なんで主まで、居るんだよ!!」

 

「・・・・・」

 

 三騎士が一様に驚きを上げる。オーラントと呼ばれた老人は三騎士を一見する。

 

「メタスにアルフレッド、それにウーランか。皆久しいな、それにビヨールもいるのか」

 

「オーラント様!なぜ、我らの前に姿を現さなかったのですか!」

 

 ビヨールが声を荒げる。

 

「私はオーラントであるが、オーラントではない。今のこの身は王にあらず。私は偽王。全てのデーモンの長。三騎士、ビヨールよ。私への謁見が欲しいのならば、100層の玉座に来るがいい。残り三体のデーモンの長を滅ぼし私の元へ来るがいい」

 

 オーラントはそれだけ言い残し霧に包まれて、消えた。そして、神殿の奥の扉が開き上層への道が開かれる。しかし

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

 三騎士、ビヨールは何も言わぬままオーラントが立っていた所をただ見続けるだけだった。




更新が遅くなってしまいました。これから忙しくなるので、更新も少し遅れると思われます。
これからもこんな駄文にお付き合いください。

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