「これで、41体目」
ユルトは41体目のモンスターを狩り、一息つく。少し離れた所に町が見える、ユルトはそこを目指し進んでいたが、行く先行く先でイノシシやら、スライムやらとの戦闘で予定していた距離の半分も進んでいなかった。ユルトは自分の獲物を腰に仕舞い再び歩を進める。時刻は五時をまわり、仮想の太陽は沈もうとしていた。ユルトは最悪、野宿を覚悟しそろそろ火種になるような物を探そうかと考えているとき、目の前にメニュー画面が浮かぶ。
‹始まりの町 広場にテレポートします›
ユルトが何事かと思う前に、ユルトは広場に立っていた。見渡す限りの人。みんなが革をなめしたレザーの防具や、簡素なプレートアーマーを着ている中にフルプレートの黒い甲冑を着たユルトはまさに好奇の対象だった。
「すげ~。なあ、その装備どこで売ってんだよ」
「かっけー。まさに、悪の幹部って感じだな」
「あのぉ、私達と一緒にパーティ―組みませんか?」
(全く、こいつらは警戒という言葉を知らないのか)
ユルトは、自分の周りを囲んだ人の集まりの無警戒さに呆れかえっていた。引っ切り無しに届く招待状には、相手の名前が書かれている。暗殺者に姿を見られるのだけでも、危険極まりないというのに、事情を知らない彼らは、暗殺者に名前と顔を見せたのだ。
ユルトを囲む人ごみの中で、何人かがユルトを驚きの目で見ていた。彼らは、βテストからのプレーヤーで、自分達の知らない装備を、着こんだユルトに驚愕していた。
その中の一人。キリトはユルトに近ずこうとしていた。
(アイツの装備は、見た事が無い。でも、第一層なんかじゃ絶対に入手できない装備だ。一体、どうやって入手したんだ)
ユルトはキリトの視線に気付いていた。ユルトは自分に向けられる視線には敏感だ。ユルトは適当に周りの人にあいさつし、言葉巧みに自分の関心を別の人に移していった。
ようやく、自分の周りの人を排除しユルトは広場の端、出来るだけ目立たない様に壁にもたれかかっていた。
「今、大丈夫かな」
ユルトの前にキリトが現れる。
「・・・かまわん」
ユルトは若干苛立ちを込めて返した。やっと巻いた人々がまたやってくるかと思ったからだ。
「俺はキリト。そっちは」
「・・・パッチだ」
「あの、パッチさん。出来ればで良いんですけど俺とパーティ―を組みませんか」
ユルトは何回目になるか分からない質問にうんざりしていた。
「構わん」
ついにユルトは根負けした。キリトは笑うとすぐに招待状を送った。ユルトはイエスのカーソルを押し、キリトとパーティ―を組んだ。
「アレ?パッチさん?名前がユルトになってますけど」
「パッチは偽名だ」
「・・・ハハハ」
ユルトのウソにキリトは乾いた笑いをこぼす。
「!!」
「何かが始まったな」
広場の空にローブをかぶった男が映し出される。男は、このゲームがプレーヤーの命を賭けたデスゲームである事を告げ、全プレーヤーを混乱に陥れ消えていった。ユルトは男が話をしている内に、最初にターゲットにする者を決めていた。
「まずはアイツからにするか」
ユルトは、人ごみに紛れて妙にオドオドしている少女に狙いを定めた。ユルトにとってデスゲームがどうなど関係ないのだ。彼はただ、標的を殺す暗殺者なのだから。
男が消え、それぞれ思い思いの場所に移動していった。ユルトは目標の後ろを付いていく。少女はボロボロの宿屋に入って行った。ユルトもその後を追って入っていく。
「あの、一泊おねがいします」
「ハイ。100コルです」
「えっ!・・・すいません、やっぱりやめ
「200コルだ。部屋は一つ。100コルは連れの迷惑料だ」
「えっ!ええ、あのどちら様ですか?」
「ハイ、200コル頂きました。お部屋は二階に上がってすぐ左手側と成っています」
ユルトは少女の代わりに部屋代を払い、部屋に上がっていく。ユルトの後ろを困惑した少女が付いていく。
「あ、あのどうして?」
「払えぬのだろう」
「い、いやっその・・・ハイ」
「俺はあまり金に執着せん。気にするな」
「あありがとうございます」
ユルトは部屋に入り、備え付けのイスに腰掛けた。少女もベッドに腰掛ける。
「実はな、俺はあまりこの世界を知らなくてな。誰か頼れる人がいないかと思っていたら、君を見つけてね。迷惑だったか」
「そ、そんな迷惑だなんて、こっちこそ助けていただいて嬉しかったです」
「俺はビヨール。そっちは」
「ニナです」
「ニナか、良い名前だ。今日はもう遅いから寝ると良い。ベッドは君が使ってくれ。俺は少し街を見てくる」
「は、ハイ。お休みなさい」
ユルトは部屋を出て、一階の酒場で適当に酒を頼み時間を潰す。
「もう、そろそろか」
ユルトは静かに足音を消しながら部屋に入る。ベッドには静かに寝息を立てて眠っているニナがいた。ユルトは腰に下げていたパリングダガーを取り出す。殺気を消しながら、ニナの左胸にダガーを添える。
「この世界での、最初の殺人だ。せめて痛みも、苦しみも、自分が死んだ事さえ知らず楽にしてやろう」
ユルトはダガーを静かに下ろした。