キンキンとリズベット武具店のすぐ近くの草原で三つの武器が打ち合わさる。一つはユルトのショーテル。残りの二つはキリトの二振りの直剣だ。ユルトに付け入るスキを与えずキリトの双剣は次々と斬撃と突きを組み合わせ、ユルトは防戦一方の展開になっていた。しかし、キリトは焦っていた。ユルトの底知れぬ技術に、ユルトはキリトとの距離を絶妙に保ちながら、右手一本のショーテルでキリトの猛攻を全て捌き切っていた。そして、ユルトは攻撃の合間を縫って蹴りを放つが、それがキリトをさらに焦らせる。キリトにとっては、これだけの攻撃を打っているのにも関わらずスキを突いて攻撃を放つユルトに、キリトは全身を強張らせながらも攻撃の手を緩めなかった。
「クソっ!どうして、当たらないんだ」
「ほら、どうした。攻撃が単調になってきているぞ。私はまだ全力では無いんだがな」
「クソ――――!」
二人の様子を少し離れた所で、リズとアスナが見守る。二人ともその表情は暗い。金属が打ち合わされる音のなかリズが思わず口に出す。
「アスナ、キリトはどうなっちゃったの。何があっても清ました顔で飄々としてるキリトがあんなに」
「・・・68層の攻略の時、私キリトくんと会ったの。キリトくんは攻略メンバーの一人として、私は攻略の指揮官として。キリトくんと会うのは1層の攻略の時以来だから、嬉しくて色々な話をしたの。それでキリトくんは私にユルトさんとの出来事を話してくれたの」
「二人に何があったの」
「うん、それでねキリトくんは以前にギルドにいた事があったの、そこでユルトさんとも一緒だったんだけど、ユルトさんがギルドを裏切ってキリトくんとメンバーをトラップに嵌めて、そのキリトくんの初恋の人を奪ったんだって、結局ギルドはキリトくんともう一人を残して全滅。それから、キリトくんはユルトさんをどうしても許せないって・・・」
「・・・」
知らなかったキリトの過去にリズは言葉を失う。自分はこれからどうキリトと接すればいいのか、それを考えようとした時一際大きな金属音が起こる。アスナとリズが振り向く。そこには、ショーテルとダガーを持ったユルトと宙に舞う直剣、それと驚きの顔をしたキリトだった。
ザシュと音を立てキリトのダークリパルサーが地面に突き刺さる。がくりとキリトは膝を折り地面に手をつく。ユルトはショーテルとダガーを仕舞い、キリトに目も向けずリズベットに歩を進める。
「とんだ事故があったが武器の修理を頼む」
リズはユルトとキリトを交互に見つめる。そして、自分のメイスを取り出しユルトに向ける。
「私は人殺しの武器なんて触りたくない。どんな一流の武器でも人殺しに使われれば名刀から妖刀になる。私は妖刀を作ったんじゃない。帰って、二度と来ないで」
ユルトは無意識的にショーテルを手に取るが、隣のアスナが剣に手をかけたのを見て思いとどまった。ユルトはヘルムの隙間からリズをにらむと踵を返して転移ポイントに移動する。未だにショックから立ち直っていないキリトの前まで来ると少しだけユルトは立ち止まった。
「私にダガーまで使わせたのは貴公が初めてだ。誇れ」
バッとキリトがユルトを見ようと顔を上げるがすでにユルトの姿は無く、キリトの胸には言い表せない気持ちで溢れていた。皮肉なことにキリトにとって、憎い存在であるユルトに認められる事がキリトの自信を付けるものになっていた。
キリトは立ち上がり地面に刺さった剣を抜き、背中にマウントする。そして、二人に軽く礼を言って場を去ろうとするがアスナに、腕を掴まれる。
「キリトくん。今、ソロなんでしょ」
「?そうだけど、どうしたんだアスナ」
「キリトくん血盟騎士団に入らない?そうすればもっと強くなってユルトさんを見返せると思うんだけど」
アスナの提案にキリトは驚く。血盟騎士団はSAO最強と言われるギルドで、もう一人のユニークスキル持ちのヒースクリフがボスを務めるギルドで確かにそこにいればもっと、強くなれる。
「でも、いいのか。俺がいたらまた全滅するんじゃ」
「そんなこと気にしないでいいの。団長には私から話通すから」
そういってアスナは強引にキリトを連れていく。キリトはリズに助けを求めようとしたが既にいなかった。こうしてキリトはアスナと共に血盟騎士団の団長室たっている。
目の前には真っ赤のローブを着た男 ヒースクリフがキリトをまっすぐ見ていた。その目はどことなく自分ではなく別のモノを見ているように思える。ハァとヒースクリフがため息をつくと話し始める。
「アスナ副団長。我々が予定していた71層の攻略を引き延ばして、ご友人の捜索に出たと思ったら次はその後友人を引き連れて、騎士団に入れて欲しいか。これが現実の組織だったら迷わず君の首を飛ばしてるよ」
その話にアスナは笑顔を引きつらせる。
「しかし、キリトくんの実力は本物の様だ。実は君たちよりも先にキリトくんを入団に推薦した人がいてね。こうなると団長として無下にする訳にはいかない。いいだろう、キリトくん。ようこそ、血盟騎士団に。祝福しよう。君の健闘を、このゲームをクリアすると信じて」
そういうともう言う事は無いとヒースクリフは二人を部屋から出す。部屋の前にはキリトの見知った人達がいた。
「おおキリト。これで貴公も俺と同じ血盟騎士団の一員だ。がっはっはっは!」
「何よ、少し前まで心配で眠れないって愚痴ってたじゃない。フフ、久しぶりねキリトちゃん。私はきっと騎士団に入るって思ってたわ」
「ビ、ビヨールさん!それにミラルダさんも。まさか、俺を推薦したのって、二人が」
ビヨールとミラルダが首を立てに振る。キリトは目頭を押さえる。自分に仲間が出来た、それが妙にキリトは嬉しかった。ビヨールが豪快に笑い飛ばしばしばしとキリトの肩を叩き、ミラルダはそれをみて笑い、アスナはどこか嬉しそうだった。
部屋の前でたむろしていた4人がやっといなくなり、団長室に静寂が戻る。ヒースクリフは手を顎に当てたまましゃべる。
「貴方達はキリトくんをどう思う」
そういうと団長室とつながった部屋から三人の男女が出てくる。それぞれ、座ると腰に長剣をさした男が口を開く。
「腕は確かだろう。ビヨールが推薦した男だ、並みの実力ではあるまい」
その隣でうんうんと首を振っていた大盾を持った男が話す。
「小生も賛成だ。これより攻略も険しさが増してゆくであろう。戦力は多いに越したことは無い」
それに口を挟むように背中に弓を背負った女が発言する。
「私は別に入ってもいいが乗り気じゃないね。ミラルダちゃんにアスナちゃんの二人が心配だ」
「なんじゃ、まだ男が信用できんのか。そんなのだから未だに生娘のままなのだ」
「うるせー!脳筋やろう、余計な御世話だ。私が信用できる男は、団長と王とアンタらぐらいだよ」
「おお!聞いたか、ついにデレたぞ!メタス、聞いたか」
「まあ、御三方の同意がもらえて結構。それでは、これからの活躍に期待しよう。つらぬきの騎士 メタス。塔の騎士 アルフレッド。長弓 ウーラン」