「ほんっとにリズ心配したんだからぁ。55層のドラゴンに挑むなんて自殺行為もいい事だと言ったじゃない」
「ごめんごめん、アスナ。私もついカッとなっちゃって。でも、自殺行為した甲斐はあったよ。ほらこれ、ドラゴンの水晶。これなら、キリトのオーダーに答えられるわね」
アスナは55層のドラゴンにリズベット武具店のリズベットが、全身黒ずくめの女見てぇな男と一緒に挑みに行ったと言う情報が、所属している血盟騎士団を通して入るとアスナは護衛を一人連れて55層へ行った。しかし、リズベットの姿は無くやむなくアスナは、武具店の前で二人を待つことにした。ときどき、フレンドからリズのいる場所を検索するも、見つかりませんの一言で苛立ったまま夜が明け、こうなったら血盟騎士団のネットワークで捜索しようかと迷っている時、視界の隅でこちらに向かって手を振る人を見かける。ハッと息をのむ。あのキツイピンク髪は紛れもなく、自分がリズに似合うと、半ば強引にクリエイトしたものだ。手を振る人はこちらに近ずいてくる。あのそばかすは紛れもない、リズだ。そう確信しアスナは喜びの声を上げリズに抱きつく。リズの後ろにいたキリトが頬を染めて、足元に視線を移した。
そこから、トントンと事が運び、今リズが戻った事を祝して49層のミュージェンでアスナと護衛、リズとキリトの四人で宴会を開いた。交遊のあるアスナとリズはすでに大盛り上がりで、出来ればキリトのその中に加わりたかったが、自分の目の前にいる、アスナの護衛がどうしても気になっていた。しかし、どうしてもキリトは、アスナに護衛について聞けなかった。聞けば護衛の腰にマウントしている大斧の錆びになってしまいそうで聞けなかった。時折、護衛の手足が震え頭まで隠れた、目出し頭巾の奥から殺意に満ちた笑い声が出てくる。キリトは今すぐこの場から逃げたかった。
「どうしたんだい?酒が進んでないじゃないか。」
護衛が、酒の入ったボトルを手に取りキリトのコップになみなみ注ぐ。つぎはぎだらけのアーマーを持ってもその存在を主張する胸を見て、護衛が女と分かると、彼女の不気味さが以前より増した気がした。なにより恐ろしいのは、ぼそぼそと料理を食べる自分を何が楽しいのか、ずっと見ていたのが、モンスターと対峙するよりも恐ろしかった。
「ミラルダさんは飲まないんですか?」
そこにアスナの助け船が入る。その頬はほのかに赤い、酔っているのだろうか。ミラルダと呼ばれた護衛はケタケタと笑ってアスナのお酌を拒否した。不気味だ。その後も、俺はミラルダの熱い視線に晒されながら早く宴会が終わってくれないかと願い続けた。
「はあ。やっと解放された」
俺は店の外で大きく背伸びをする。そんなことやっても何もならないが、思わずやってしまうほど俺の精神的疲労は溜まっていた。それより気になるのはミラルダが、アスナの命令で返した時俺の耳元で
「辻斬りには気をつけなさい。キリトちゃん」
の言葉だった。強盗があるSAOでも辻斬りは無かった。武器の威力を確かめたいならモンスターを斬ればいいからだ。一体、どんな意図があるのかと思考に入ろうとした時、後ろからアスナとリズの二人がキリトに絡む。
「キリトくん。まさかミラルダさんに気があるんじゃないでしょうねぇ~」
「駄目よ、キリト。あんたにはアスナっていう最高の少女がいるじゃない」
「駄目よリズ。わ、私はそそんなんじゃ・・・」
「赤くなってるー!アスナの恋か~応援しちゃうよ私」
「も、もう。リズったら」
「もう。俺帰って良いかな」
「「だめ」」
「ハイ」
こうして俺はリズベット武具店に酔っ払い二人を抱えて、そこを寝床にした。酒言うものは恐ろしい。人を豹変させる。
早朝、俺は金床を叩く音で目が覚める。寝袋を仕舞い、リビングを出てすぐの作業場にはリズが昨日持ち帰ったドラゴンの水晶をハンマーで叩き、隣でアスナがその様子を見ていた。リズの邪魔にならない様に静かに階段を下りて、アスナの隣に立つ。
「どうアスナ。いいのは出来そう」
「リズ曰くこれで出来る武器はマスタースミスでも発生率20パーのじゃじゃ馬らしいから、分からないって。でも、成功すれば血盟騎士団のヒースクリフとも互角で打ち合える業物ができるって言ってたわよ」
「それは期待するしかないな」
カン カン と無機質な音が続く。しばらくの間その音を聞いていた時、不意に音が止まる。
「出来たのか!リズ」
「なんとかね。さあ出るわよ。たった一振りの業物が」
まばゆい光を放ち、ただの水晶だったものが形を変えていく。だんだんとそれは剣の形になってゆきそして最後にひときわ強い光を放ちシュンと消える。そこには真っ白な剣が一振り残された。リズがそれを手に取り情報を読み取る。
「ダークリパルサーがこの剣の名前見たいね。どうキリト、満足できた」
リズはそれをキリトに手渡す。キリトはそれを片手に持ち、もう一本をもう片方にもち、目にも止まらぬスピードで振る。闇雲に振っているのではなく、剣の軌跡には薄緑のあとがのこる、これはスキルが発動している証拠だ。
「うそ、二刀流なんてスキル無いのに」
アスナがそういいこぼす。SAOには様々な戦闘スキルが存在するが二刀流スキルは存在しない。
「まさか、エクストラスキルなのキリトくん」
アスナが神妙な面持ちでそう言う。スキルは2種類ある。元々プレーヤーが持っているスキルと、エクストラスキルだ。プレーヤーが持つスキルは訓練すれば熟練度が上がり、威力が上がり中には「刀」スキルのような、一つのスキルを上げれば派生スキルが生まれるものがあるが、エクストラスキルは、発動条件、レベルが分からずランダム条件ではないかと言われるいわば超が付くほどの、レアなスキルだ。そして、このエクストラスキルを現在会得している唯一の人物が、アスナが副団長を務める血盟騎士団のリーダー、最強を枕詞とするプレーヤー ヒースクリフのみである。
キリトは二振りの剣を鞘に収め、背中に背負う。
「ありがとう、リズ。最高の剣だ」
キリトはそういって作業場を出ようとした。しかし、ガシと腕を掴まれる。振りかえるとリズが、顔を真っ赤にしていた。
「あ、アンタ無茶しそうだから、私がキリトの専属スミスになってあげるわよ。ありがたく思いなさい。マスタースミスを一人占めよ、それだけの功績収めなさいよ」
「ホントにありがとうリズ」
キリトは笑って作業場の扉を開け店に出る。アスナがその後を追おうと急いで作業場を出ようとしたがアスナは作業場を出てすぐで立ち止まっていたキリトにぶつかり尻もちを付く。
「痛いじゃない、キリトくん。止まってるなら止まってるって・・・」
アスナは最後までセリフを言えなかった。目の前にいるキリトは小さく震えている、そしてその前には真っ黒の甲冑を着た男が立っていた。アスナには見覚えがある。彼はユルトさんだ。
「お前、よくも・・・」
キリトの口から憎悪と殺意に満ちた言葉が漏れる。その威圧感にアスナは思わず身を強張らせる。ユルトは飄々と店のカウンターに座り込みキリトの言葉が聞こえないかのように振る舞う。ユルトは一瞬キリトを見ると鼻で笑いながらキリトを挑発する。
「弱い奴ほどよく吠えるとはよく言ったものだな。私を見た途端殺意を向けるか、狂犬」
「キサマーーー!!」
「そんなに私に噛みつくか狂犬。外へ出ろ。あの日と同じように貴様を教育いてやろう」
ユルトはそのまま店の外へ出ていく。キリトもその後に続いていく。
「キ、キリトくん・・・」
よわよわしく響くアスナの声は狂犬には届かなかった。
私の家の都合で更新がおざなりになってしまいました。この場でお詫びいます。これからも、応援、コメント御願います。