SAOとダイスンスーン   作:人外牧場

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なんだよ、あれ。あんなのチートじゃないか

キリトは陽光に照らされ光を乱反射しながら咆哮を上げるドラゴンを前に膝を着く。

 

「なんだよ、あれ。あんなのチートじゃないか」

 

 ドラゴンは咆哮を止め大きく身をのけ反らせる。わずかに見える口元から抑えきれてない冷気が漏れ出す。何度かドラゴンとも闘った事のあるキリトでも、ドラゴンのブレスをまともに受ければただでは済まない。最悪何もできないまま死んでしまう。ドラゴンとは、RPGの象徴であり、強さの象徴だ。それだけ、どのゲームでもドラゴンは格別の扱いだ。SAOも例外ではない。これまでも、ドラゴンを討伐したと言う話は無い、攻略には関係ないいわば裏ボス的な扱いで、それだけもたらす経験値も採れる材料も特別な物ばかりだ。キリトも出来ればドラゴンと戦闘はしたくなかったが、ある物が必要なのだ。

 

「アイツの腹にある結晶があれば」

 

 事の発端は少し前に遡る。

 キリトは、リズベット武具店に立ち寄りリズベットにこう述べた。

 

「ここにある、最高の剣が欲しい」

 

 リズベットはいつか来たユルトとキリトを重ねながらカウンターを出てキリトに詰め寄る。

 

「あのね、最高の剣たって、もっとこう具体値とか、どれぐらいの重さとか分かるように言ってちょうだい」

 

 キリトは背中の剣を手に持ち刀身を露わにする。そしてコンコンと剣の腹を拳で軽く叩く。

 

「最低でも、こいつより硬く、切れ味が良い物がいい」

 

 リズベットはどこか腑に落ちない感じで店に飾ったある一振りのロングソードを手に取り、キリトに渡す。キリトは二三度、振り手の感触を確かめる。

 

「言っとくけど、それ自信作だからね。値段もそれなりにするわよ」

 

 と、リズベットが言うや否やキリトはロングソードを大きく振りかぶり、自分の剣に思いっきり打ち付ける。バキィンと音を立てリズベットの自信作は無残に霧散した。

 

「アンタあ!何してくれてんのよ!私がどんだけ苦労したか、分かっ、て、ん、の!」

 

 がくがくとキリトの襟を掴んで喚き散らすリズベット、キリトは急いで何とかしようと色々と弁明をしたが、火に油を注いだだけだった。そして

 

「まあ!壊れたもんは仕方ないわ!でも、アンタが私の剣をぶっ壊した責任はきっちり、とってもらうからね!」

 

「なにをすればいいんだ」

 

「五十五層の西山に、水晶を食べるドラゴンがいるらしいのよ。で、そいつのお腹に滅多に取れないレアなインゴットが大量に詰まってるらしいのよ。それで、アンタの剣も作ってあげるから、アンタがドラゴンを倒して」

 

「そ、そんな無茶な」

 

 スッとリズベットは柄のみになった自信作の残骸をキリトに見せつける。キリトに選択の余地は無かった。

 

 

 そして、五十五層の山にて二人はドラゴンと対峙する。だが、二人よりも先に先客が来ていた。先客はドラゴンから少し離れた所、正確にはドラゴンの攻撃範囲より少し離れた所で寝ていた。ドデカイ鎧に身を包み、フルフェイスではなくオープンフェイスの兜から中年のおやじの大音量のいびきが、不愉快なオーケストラを奏でていた。

 

「だれ?アンタの知り合い?」

 

 リズベットが鎧中年を指さし、こちらを見ている。

 

「知らない」

 

 なんとなく、キリトの直感がこいつに関われば面倒くさい事になると告げキリトはさっさとドラゴンの所へ行く。

 

「リズは危ないから、ココに隠れて。絶対に出てくるなよ」

 

 キリトはリズベットを乱立する水晶の一角に隠し、現れたドラゴンに刃を向ける。しかし、キリトが想像していたよりもはるかにドラゴンは強く、実力ならトッププレーヤーにも引けを取らないキリトが押されていた。ドラゴンはブレスの構えを取り、キリトは度重なるダメージに動けずにいた。

 

「キリト!」

 

 ついにリズベットが手に回復薬を持ってキリトの元へ行こうと、水晶の影から出てくる。

 

「リズ、戻れ!」

 

 キリトが叫ぶがリズベットは構わず走り寄ってくる。ドラゴンがリズベットの存在に気付き、ブレスの目標をキリトから、リズベットに変更する。

 

「リズ!」

 

 キリトの絶叫空しく灼熱のブレスがドラゴンの口より放たれる。キリトの脳裏に黒猫団のメンバーが浮かぶ。守れなかった存在、何よりも大切だった仲間たち。また、守れなかったのかそんな意識がキリトの心を蝕んでいくその時

 

「ボーレタァァァリァァァアアアアア!」

 

 リズベットを飛び越え、リズベットの前に大きな鉄塊が現れる。大盾を構えドラゴンのブレスを受ける。キリトがブレスの温度に思わず目をつむる。薄く開いた視界の隅で、大盾を構える鉄塊を見つめる。さっき見た鎧中年だ。ドラゴンのブレスが止み、鎧中年が盾の構えを解く。盾を後ろに放り投げ、右手に大剣、左手にボウガンを持ち、陽気に歌いながらドラゴンに向かっていく。ドラゴンは、ブレスを放つ。男を飲み込み、水晶から焦げ臭いにおいが立ち込める。二人とも、突然の出来事に体が動かず、ただ前で繰り広げられる戦いを見ているだけだった。またもブレスが放たれる。キリトは我に返り、急いで男の援護に向かう。しかし、男はブレスを受けながらも、前進を止めない。またブレスが放たれる。男の頭の上にダメージが表示される。

 3

 ドラゴンが接近した男に爪で攻撃する。

 29

 

 キリトはその場に崩れる。自分が危うく死にかけたブレスや爪を受けて、総ダメージ32。自分と男との力の差に、キリトは絶望した。

 

「なんだよ、あれ。あんなのチートじゃないか」


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