「47層にある思い出の丘にピナを生き返らせるプネウマっていう花がある。それを取りに行こう」
宿から出てきたシリカにキリトがそういう。シリカは35層の迷いの森で危険な所をキリトが助けた12歳の少女だ。迷いの森で相棒であるピナを失い落ち込んでいたシリカをキリトはなんとかしたかった。何より、自分の目の前で仲間を失ったシリカの気持ちがキリトには痛いほど理解できた。あの日、黒猫団を失った初恋の人であるサチはアイツに奪われた、また会った時彼女はまるで別人のようだった。
「キリトさん。キリトさん、早く行きましょう」
シリカが、キリトの手を引っ張る。我に返ったキリトが急いでシリカの歩幅に合わせ隣を歩く。その二人の姿を後ろから見つめる、人影があった。
「へっへへ。こりゃあいい、ナイスなタイミングだ」
男は、キリトより先に転移結晶を使い47層の思い出の丘に跳ぶ。
「キャァアア、何アレ、気持ち悪い!」
47層のザコモンスターを相手にシリカは絶叫しながら右に左に走り回る。モンスターは一言で言うなら、ぬるぬるの触手の生えた動く植物。たしかに気味の悪いものではあるが、倒せない奴じゃない。しかし、
「たしかに女性にはキツイかな」
女性には生理的嫌悪感を抱くような、モンスターだろう。そろそろ、救援に入ってやろうかなとキリトが剣に手をかけた時
「イヤアアアア。見ないでキリトさん!!」
シリカが触手に捕まり、宙吊りにされスカートが物理法則に従って下に下がろうとするのを必死に抑える。キリトはとっさに左手で目を抑える。ぷらぷらと揺れるシリカが意を決してスカートから、手を離しダガーで触手を切り落とす。クルクルと空中で華麗に受け身を取りシリカはすぐに、モンスターから離れる。
「キリトさん、やっちゃってください。女性の敵です」
「はいはい」
キリトの剣がモンスターの弱点に突き刺さる。モンスターは悲鳴を上げ、消滅する。キリトは剣を鞘に戻し、シリカの手を握る。
「さあ、もうすぐだ。行こう、シリカ」
シリカは顔を真っ赤にして、小さくうなずく。
「こりゃあ、眼福眼福。幸先にいいもんが見れたぜ、俺の好みはもうちっと年喰った、美人タイプなんだが・・・まあ、白だから許すか」
木の上で先ほどの様子を見ていた男は、身軽に木と木の枝に跳びつきながら二人の音を追う。
「これが、プネウマの花ですか」
シリカの目の前にプネウマの花が咲く。見た目は百合の様で、アイテムだといっても気付かない程精巧に作られていた。シリカが、プネウマを一輪摘む。アイテム欄を確認すると、たしかにプネウマが追加されていた。
「ここじゃあ、もし襲撃があったらまたピナが危ないから、街に戻ってから使おう」
キリトが提案し、シリカはそれに従って今来た道を戻っていく。最初に見た桟橋の所で予想だにしていない人物に会う。
「ロ、ロザリアさん」
ロザリアと呼ばれた赤髪の女性が、二人の前に立ちふさがる。
「タイタンズハンドのロザリアだな」
キリトがシリカを守るように前に出る。ロザリアは肩をすくる。
「あたしも有名になったようだね。それで、オレンジギルド、タイタンズハンドのロザリアを知っている君は、どうしてそんなガキに付き合ってるの。垂らし込まれた?それとも、おバカさん?」
「俺はあんたらの潰したギルドから依頼を受けて、アンタを探していた」
「それは、御苦労さま。でも、この数をどうにか出来ると思って?」
パチンとロザリアが指を鳴らす。本来なら、隠れていた仲間が出てくるはずだった。しかし、仲間は現れない。
「?」
不思議に思い後ろを振り返るロザリア、それと同時に木に隠れていた仲間が地面に倒れる。
「ど、どうしたんだよ。お前たち!」
ロザリアが仲間の一人に駆け寄り、抱きかかえる。どうやら、強力なマヒ毒にやられているようで、呂律が回らず、ただピクピクと体を痙攣させるだけだった。
「おや、アンタの仲間だったのかい。間抜け面晒して突っ立ってるもんだから、つい突いちまったよ」
ロザリアの前に大盾と槍を背負ったスキンヘッドの男が現れる。男はロザリアの後ろにいるシリカに手を振る。
「中々いいもん見せてもらったよ。今度はド派手な下着を着てくれ」
シリカが真っ青になってその場に座り込む。それほど、パンツを見られたのがショックだったのだろう。
ロザリアは額に青筋を立て、自分の十字槍を手に取る。
「ふざけやがって。私の計画滅茶苦茶にして!あのガキからレアアイテム強奪する算段がパアだよ」
そして、へらへらした態度の男に挑みかかる。男は背中の大盾を構える。右手には槍を構えロザリアを迎え撃つ。ガンガンとロザリアの槍が大盾に当たり、男のHPがわずかに削れる。
(こいつの盾は見た目は派手だけど、そんなに性能は良くないのね。その盾諸共に切り裂いてあげるわ)
ロザリアの槍が何十発も放たれその度男のHPが少しずつ削れる。しかし
「自動回復だと!」
男のHPはいつの間にか全快していた。
「気が済んだかい。じゃあ、もらっときな」
男が槍を突き出し、ロザリアの腿をかする。その時、ロザリアは突然に膝をつく。
「あ、アンタ。槍にマヒ毒を・・・」
「食事や直接飲ませるのは芸がねえだろ。おい、そこの真っ黒、貰っとけ!」
男は大盾でロザリアを殴り飛ばす。キリトは自分の目の前のマヒ毒で動けないロザリアを牢屋プログラムで牢屋に送る。男は盾と槍をしまって二人の前に来る。
「ヘッヘヘヘ。俺はパッチだ。御宅は」
「・・・キリトです」
「シリカです」
男は二人と握手をし、待ちに待った話題を振る。
「ところで、嬢ちゃん。物は相談なんだが、そのプネウマを売っちゃあくれねえか」
「嫌です」
「な、そこをなんとか」
「あんまりしつこいと嫌われますよ」
なんとかしようとシリカに粘着するパッチをキリトがたしなめる。パッチはいやいやながらもシリカから離れる。
「まあいいか。俺は19層で店やってるからな、よろしく頼むぜ旦那」
パッチはポンポンとキリトの肩を叩く、いやらしく笑顔を浮かべながらパッチはまだ倒れているロザリアの仲間の懐を探る。二人がパッチを見ているとこっちに気付いたパッチが探るのを止める。
「俺はまっとうな商売やってんだ。お袋にだって恥ずかしくねぇ本当だぜ?・・・おい、本当だぜ?」
SAOの事を知らない人の為に補足情報を、ロザリアはシリカが以前いたパーティのメンバーでシリカと衝突し、シリカはソロで迷いの森を突破しようとした所、モンスターとの連戦で使い魔のピナを失い危ない所をキリトに助けてもらったという話です。
今回出てきたオレンジギルドですが、普通のプレーヤーはアイコンが緑ですが、犯罪を犯すとアイコンがオレンジに変わりオレンジプレーヤーと呼ばれ、街への進入が不可能になります。そんな、オレンジプレーヤーが集まりギルドを組んだのが、オレンジギルドです。さらに、オレンジギルドでもPKを好んで行う者をレッドプレーヤー、レッドプレーヤーが組むギルドをレッドギルドと呼ばれます。しかし、レッドのアイコンは存在せず通称です。今後の話でもレッドギルドが出てきますので、お楽しみに