Fate/Rage   作:ぽk

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その願いとは

サモナーはその後に聖杯戦争がどんな戦いなのか詳しく教えてくれた。

だけどその話は私には随分遠く聞こえる。

 

ああ・・・私が送っていた生活は皆偽りだったのか?

あんなにも変わらないと思っていたのに何処で間違えた?

 

私が送っていた生活が嘘で、それはマスターになる為の通過儀礼だった?

それこそ嘘に違いない。

 

だって私は・・・変化を望んでいたわけじゃないから・・・。

私は・・・私は・・・殺し合いなんて望んでない。

いやだ、いやだよ・・・殺し合いなんて・・・聖杯戦争なんて・・・望んでなんかいない!!!

 

「良いよ。それが君の願いなら・・・僕は君に与えようマスター。」

 

サモナー?一体どうして・・・。

と言うかここは何処だ?さっきまで廊下に居たはずだけど・・・

 

「いやなに。マスターである君の願いを聴きたいがために僕が用意した一種の空間だ。月の聖杯と言えどここには干渉すら出来まい。」

 

願い?私の願い?

 

「そうさ。君は気付いていないかもしれないけど、今の君は殆ど記憶が無い状態だろう?そんな君の願いを無粋な奴らに聞かせる訳にはいかない。さあ言ってごらん。今の君の・・・君の望んだ答えを。」

 

そっと私に手を差し伸べるサモナーの表情はとても落ち着いている。

それは初めて見た時よりも安心と信頼に満ち溢れた暖かい笑顔で。

 

そうだ...私の答えはとっくに出していたじゃないか。

確かにサモナーの言う通り私には聖杯戦争に参加する以前の記憶が全く無い。

だけど一つだけ...たった一つだけ叶えたい願いはある。

 

それはきっとほんの些細な事かもしれないけど、月の聖杯を使わなければ出来ない事だ。

 

 

 

 

 

私の願い・・・それは—————————。

 

 

 

 

 

「・・・・・・待っていたよその言葉、その意思、その心。やはり君は僕のマスター(伴侶)にピッタリだ。」

 

伴侶は要らないからホントに。

 

「冷たいなあ・・・でもこれだけは安心して。僕は君のサーヴァント。君の出した願い(答え)に必ず君を辿り着かせよう。」

 

うん。頼んだよ私のサーヴァント。

その時が来るまで私はあなたのマスターで有り続けるよ。それくらいなら私にも約束はできる。

 

そう言ってサモナーの手を取れば、彼は此方こそと握り返す。

 

・・・・・・・・・所で。

此処はほんとに何処?今更驚くんだけど、何で水の中に居るの私達?

 

「此処?ここは伝説の都アトランティス。僕のお気に入りの結界の一つだよ。」

 

えーーーっと。他にも何かできるの?

 

「勿論。僕のクラスはサモナー。異形から異常の全てを呼び寄せることが出来る。何なら宝具(切り札)の一つでもお見せしようか?」

 

はいせんせー!宝具(ほうぐ)って何ですかー!?

 

「うん綺麗な挙手をどうもありがとう。宝具って言うのはその英霊の象徴。その軌跡を具現化した強力な必殺技とでも思って欲しい。アーサー王ならエクスカリバー(約束された勝利の剣)とかね。」

 

へえ・・・そう言うサモナーも宝具あるんだ。

見た目は何も出来なさそうなサーヴァントなのに・・・・・・。

 

「白野?何か言った?」

 

言ってません言ってません。

どうぞ話の続きを申してください。

 

「...分かったよ。話を戻すけど、宝具は強力な力だけどそれに伴ったリスクがある。有名である英雄程そのリスクは大きい。なんだか分かるかい白野。」

 

ふむ・・・・・・有名で有ればあるほど危険な事か。

せんせーヒントがあればヒント下さい!

 

「ヒント・・・そうだね。聖杯戦争は情報戦が大きな鍵なんだ。」

 

情報戦か。

確かに戦いとなれば相手の情報は幾らあって・・・・・・・・・も?

 

「その顔は何を指しているのか分かったようだね。そうさ。宝具を使用するって事は自分を明かす。即ち自らの名を明かすんだ。」

 

宝具の開放は真名解放と同じ。

宝具は己を、己を宝具として扱う。

 

成程。有名すぎる英雄は確かにその知名度の高さ故に弱点が存在したりする。

例えばニーベルンゲンの歌に登場するジークフリートは邪竜を打ち倒し不死の血を浴びるが、背中に葉が付いた部分だけは効果は無く、結果その弱点を付かれて彼は死んだという。

名前はその出生を明かし弱点さえも暴く。

 

聖杯戦争にとって情報は命でもあるという事か...。

 

「そうだよ。だから大抵のマスター達は宝具をここぞという場面にしか使わない。まあ余程自分に自信がある奴は普通にしてるけどね。」

 

だったら未熟な魔術師の私になんかに宝具なんて見せなくてもいいんじゃないか?

私が罠にかかって情報を引き出されたりされたら終わるぞ?

 

「大丈夫だよ白野。僕の名を言った所で君には分からない。マスターである君に分からないのなら相手にも分からないさ。だから見ててよ、僕の宝具・・・いや僕を!」

 

その顔はまるで童子のように無邪気で・・・でもその顔はサモナーではない。

あの無邪気な笑顔はきっと誰かの笑顔だ。

無邪気な笑顔の下にはその本心が隠されているのだろう。

そう、遥か太古に消えた都で召喚士は両手を広げ、高らかに謳う。

 

「さあ人よ!生き行く中で僕を超え、僕を否定するが良い!その先にあるものこそが人が求めた望み成り!」

 

この瞬間、ムーンセルは異常な存在にようやく気が付いた。

しかし気づいた時にはもう遅い。歪で歪んだソレはもう月に浸食していたのだから・・・。

そう、あの召喚士の名は———————。

 

 

 

 

 

 

 

「———————人よ僕を超えて逝け(これは人の試煉なり)。」

 

 

 

 

 

 

 

 


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