携帯端末機の無機質で、淡々としたアラーム音が聞こえる。
そう言えば、もうすぐ3回戦目が行われる。
その対戦相手が決まったことの招集だろうか。
掲示板を見に行かなければならない。
重い瞼を開くと見慣れたマイルームの天井。それに色んな色をした魚が浮遊している。
そう言えば、サモナーがマイルームを改装すると張り切っていた気がする。
今のままで良いと言ったのだが、彼は大丈夫だと笑いながら改装する気満々だ。
ベッドから起き上がろうと上半身を起こす。
なんだ?やけに身体が重い。いや、何か...何か大事なものを失くした気がする。
「おはようマスター。いい知らせがあるよ。」
ベッドの傍らにある椅子に、サモナーが足を組んで座っている。
いい知らせ?サモナーがいい知らせと言うと、なんだか信用できない。不安だ。
「えーーー...君と僕は正式な主従関係を結んだマスターとサーヴァントなのになぁ。これまで一緒に戦ってきたマスターに信用されてないなんて、僕悲し過ぎて泣いちゃいそう。」
態と泣き崩れるサモナーを他所に、ベッドから降りる。
はいはい。それで、いい知らせっていったい何?
「うん。もうすぐ
え、いやいや。ちょっと待って欲しい。何言ってんのサモナー。
4回戦目?3回戦目ではないのか?
確かに私の記憶では1回戦目でシンジと戦い、2回戦目でダン卿と戦った筈だ。
まだ3回戦は行ってはいない。どういう事だ?
「人数が大きく減ったからね。血肉が湧き上がり、舌なめずりした戦いは終わったからね。いやー、もう少し人数多くても良かったんだけど、まあ良いかな。」
んん?何だ。サモナーがまた訳も分からないことを言っている。
戦いが終わった?それは一体なんの戦いだっただろうか?私の記憶にはそんな戦いをした覚えがない。
何処かで忘れている、いや、失くした...?
「ああ、それと。遠坂凛とラニ=Ⅷも脱落したよ。」
.........は。
待て。今何と言った。サモナーは今、何と言った。
凛とラニが脱落した?そんな筈はない。彼女たちは私よりも格は上であるというのに、脱落。つまり、死んだ?
自分を多少なりとも気にかけてくれた2人が、脱落。
おかしい。いや、何処か狂っている。こんな所で彼女たちが
彼女たちはまだ死んでいない、と。
違和感が拭えず、身体に纏わりつく何かに私は問答する。
答えは出ず、記憶にも無い。
ただ、岸波白野の魂が求める。
真実を探れ。彼女たちに、いや。この違和感が拭えない聖杯戦争を知れ、と。
「......。」
サモナーはそんな私を見て、何も言わずただ目を細めて微笑んでいる。
まるで、眩しいものを見るかのように。
...サモナー。
「んん。君が言いたいことは分かるよ。分かるとも。なんせ僕は君のサーヴァント。君の陰であり、剣であり、魂を深く繋ぎ合わせた仲でもある。君は納得していない。この聖杯戦争に。そして、彼女たちの死について。いやいや実に良いとも!流石白野だ、その魂はとても美しいよ!!!まさに僕の奥さん!!!」
全く持って意味が分からない。
そんな事は良いから、サモナー行こう。
私は最初。覚悟も無く、戦う理由もない。気持ちが追いつかないまま死闘を繰り広げた。
シンジとダン卿の命を終わらせて、今の私が居る。
記憶が無い私でも、力がない私でも。足掻く事は出来る。
真相を探る事は出来る。彼女たちに、この聖杯戦争に一体何があったのか。
シンジを倒して、私は何を決めた?そうだ、手が届くのなら伸ばしたい。たとえ、その手が何かを掴まなくても。私は、求める...!
「良いとも。実に実に良いとも、マスター。理由がなくとも求める姿勢、力がなくとも足掻く決意。戦いの先には君が望むものがある。それを僕は知っている。」
こんなルールのルの字もないサーヴァントだけど、私は彼と共に求めたい。
真実を。
だから、サモナー。この聖杯戦争を終わらせよう。
「...ああ、勿論だとも。愛しい君が止めたいのなら僕も止めよう。君と共に真実を見つけよう。君がいる限り、僕は君と歩む。」
黒いコートを翻し、私の手を取り共に歩むサモナー。
蒼く輝く心臓はとても美しく彼の中で輝く。
左手の令呪を見れば、まだ3画残っている。これはきっと最後に使う最後の手段。
私の名前を呼ぶのは彼ではなく、きっとまだ見ぬ誰か。
その声に私は振り向かず、彼と共に歩む。
本当に、終わらせるために。