微生物と言うのは、肉眼では捉える事の出来ない小さな生命。
しかし、どんな環境であろうと、彼らは何処にでもいる。
現代では、その存在はハッキリとされているが、古代はどうだろう。
見えぬ脅威、突然襲いかかる猛威、分からない敵程、恐ろしく感じる事は無い。
ああ、心臓は只の起爆スイッチ。
データであろうと、バグは生まれる。
その
「はっははははははは!!!」
狂気に満ちた、その表情は、敵を捕らえて離さない。
召喚士は笑い、嗤う。
理不尽なまでの力を振りかざし、ソレは満足そうに哂う。
「っ・・・・・・!!!テメェ!!!」
緑衣のアーチャーは、これ以上ないくらいの殺気を召喚士に向ける。
しかし、召喚士は笑う事を止めない。
寧ろ、先ほどよりも、愉快に満ちている。
召喚士が呼んだのは、『死』そのもの。
事前に仕組まれた種を開花させただけの事。
心臓を自ら殺し、その
召喚士の合図一つで、破壊させれるように・・・。
「旦那っ…!」
緑衣のアーチャーの後ろには、死のウイルスに感染され、未だに侵され続けている、ダン・ブラックモアが膝を付いていた。
顔は右頬から左目まで破壊され、左肩から左腕まで破壊され、右の膝から足首まで破壊され、正直、膝をつけているのも奇跡と言える。
しかし、死のウイルスは止まらない。
対象は何も、マスターだけでは無い。
彼の・・・サーヴァントさえも対象となっている。
「大丈夫、僕を殺せばウイルスも消える。さあ、森の狩人よ、僕を殺して見せろ!その弓で、その毒で、僕を殺して見せろ!!!あの時の様に、飲み水に毒を仕込んで殺したり、毒矢で仕留めたり、食事に毒を盛ったり、さぁ僕を殺せ!卑怯はお前の得意分野だろ?」
ニヤリと召喚士は笑う。
狂気に染まってはいるが、彼は正常だ。
元々狂ってはいない。彼のコレは、性分ともいえる。
敵を惑わし、狂わせ、乱させ、陥れる。
敵であり、最高の味方であり、最弱の壁。
「ふざけんなっ!!!これは俺達の戦いじゃなくて、旦那の戦いなんだぜ!?」
「それがどうした?生前のお前だって、似たような事ばかりしたじゃないか。あれほど懇願したって言うのに、お前は殺してくれた。あっはっははは、お前こそふざけんな。」
黒い召喚士は、嘲笑う。
その手に、一枚のカードを持ち。
「さようなら。名も無き狩人と、そのマスター。無様で滑稽な姿を見せてくれたお礼に、特別に殺してやろう。皮肉で、お前たちにピッタリな……『死』を、ね。」
カードを掲げ、黒の召喚士は謳う。
「大地の恵み、命の囁きよ。芽吹く苗木の糧を此処に用意しよう。血は啜れ、肉は貪れ……」
詠唱と共に、闘技場が振動する。
大自然に飲み込まれた都市が、木霊する。
木は喜び、葉は嘆く。
「発動......森。」
建物は完全に、植物に飲み込まれ、砂と化した。
その上に、木が生え、草が育ち、森となる。
「森の獣たちは、飢えていてね。今なら、どんな生き物だって食ってくれる。」
森が騒めく。
深き森の中、複数の影が此方を見つめている。
それは幾度となく経験した事のある視線。
「おたくって、ほんとに嫌な趣味してるぜ。」
「お褒めに与り光栄の極み。さぁ、ブラックモア。言い残す事があるんなら聞くよ?って言っても、言えるかどうか...」
ダン・ブラックモアの身体は、侵食された部分がもう無いんじゃないかと思われる程、黒い。
間桐シンジを飲み込んだ、ノイズとはまた違う。
これは悪意があり、意味がない。
ただ、捕食と言うだけ。
「我が………………せ、アーチャー!!!」
「...了解旦那。やっぱり俺のマスターは旦那だけっすわ。」
恐らく、いや確実にアレが最後の命令だろう。
勝負には敗北と勝利があるが、彼らは勝利を掴めたとしても、それは消える。
ダン・ブラックモアの残された右腕の、
その光の輝きは、影の森を貫く。
その輝きを一身に受ける、消えゆく緑衣のアーチャー。
死は彼らを蝕み、彼らの命を刈り取る。
「これが最後の攻撃だ...しっかり受け取りな!」
森の弓が捉えるは、黒い召喚士。
当たらぬと分かってはいる。知ってはいる。理解はしている。
だが、それがどうした。
当たらぬからと言って、矢を向けぬ狩人が何処に居よう。
狩人は狩人でも、その心は騎士に憧れた若者。
若いゆえに・・・
「———————
—————弓を取るのだ。
当たらぬのなら、其れで良いじゃないか。
当たったら幸運。外れればそれだけの事。
そんな、そんな事なのだから。
狩人の放った矢は弧を描く。
縦横無尽に紅い軌道を残し、獲物に向かって爪を研ぐ。
有り得ない速度で、不可能な軌道を描くその矢は、令呪の力あってこそだが...
最後の矢程、美しく風を切るのだろう。
「はっ・・・・・・どうだ。俺は、ダン・ブラックモアのサーヴァント。これ位の仕事、朝飯前…だぜ。なぁ、旦那。」
護る筈の主人はもう、
それでも、緑衣のアーチャーは最後の最後まで、主人の命令に従った。
「あーあ、やっぱ正々堂々なんて、俺のガラじゃないっすわ。」
「お前………やってくれたな。」
「当り前っしょ?この位の仕返しはさせてくれねえと、気が済まないって。」
令呪の力が加わった、緑衣のアーチャーの矢は、目標を
それはそれは、まるで獲物は別のように
「成程...令呪を2画使ったのか。そりゃ死ぬわな。契約書を自ら破り捨てるなんて、あの男らしくないな。」
「そりゃおたくの所為だろ。旦那の戦いを無茶苦茶にしやがって...次があるのなら、最初っから殺す気で獲りに行かせてもらうぜ。」
「そりゃ楽しみだ。出来たら良いな。」
「ケッ…あー、くそ。負けちまったよ旦那、わりぃな。」
緑衣のアーチャーは、それだけ呟くと、死のウイルスに破壊され消滅した。
その最後を見送る森は、静かに騒めくのだった。
「やられたなぁ...まさか、令呪を2画も使うなんて。」
勝負は着いたが、完全勝利とは言えるものではない。
なんせ、黒の召喚士の後ろに居たのは...
「さあ、戦いは終わったよ。そろそろ目覚めようか、白野。」
赤に染まった彼女を抱え、黒の召喚士は森の中へと溶けて行く。
彼女がその瞼を開くとき、何を思うのだろうか...