さぁ、狩の時間がやって来た。
獲物は森の狩人。
主人との差は空くばかりだが、落胆することはない。
何故なら、此方には、
狩人を狩る、狩人がいるのだから...
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一回戦のあの時のように、私は用具室の前にいる言峰に、話しかける。
七日間かけて、私とサモナーはダン・ブラックモアのサーヴァント対策を練り上げた。
迷っていないのか、と問われれば、迷っていると私は答える。
けれど、立ち止まる事は出来ない。
迷いながら私は行く。
誇りや、信念を持った老騎士に、私は立ち向かうんだ。
「ほお。一回戦の頃に比べると、随分と顔つきが変わっているな。何か心境の変化でもあったのかね?」
其処はまだわからない。
なんせ、私もどうして戦っているのか分かってはいないのだから。
「クックック・・・さぁ、死地へと赴く準備は良いのかね?」
当然の事のように頷けば、言峰は道を譲る。
前回同様、エレベーターにキートリガー差し込む。
厳重なロックが外され、道は開かれた。
「迷える戦士よ、存分に殺し合え・・・」
その常葉が最後のように、エレベーターの扉は閉まる。
そして、そのエレベータの中には・・・
「・・・・・・。」
シンジのように、相手を見下している事もせず、ただジッとこちらを見るダン卿。
暖かい眼差しでは無く、殺意や敵意こそないが、それは獲物を捕らえた眼差しだ。
「ははっ。やっと旦那がやる気を出してくれたもんだ。お嬢さんには感謝してるぜ。」
緑衣のアーチャーが此方に話しかけて来る。
ダン卿のやる気?
「まあ、色々と事情があってな、あんたに毒使おうとしたら旦那が絶対に使うなとか言い出すから、俺も最初は呆れたが・・・結構楽しいもんだ。」
「はっ。森の狩人風情が何言ってんだよ。アリーナに
「それあんたも言える義理かよ。流星を降らせる馬鹿のお陰でこっちも危機一髪だったんだけど?」
「知るか。そんなもん、お前の自業自得だろうが。お前が僕の白野を毒矢使って殺そうとしてきたのが悪い。あー・・・思い出したらイライラしてきた、ちょっと一回死んでくれよ。」
サモナーが手を伸ばし、目の前の壁に触れると、毒に溶かされていく。
ちょ、サモナー何してんの?!
「?...何って、ちょっとムカついたから殺してやろうかと。」
もう少しで着くと思うから抑えて。
と言うか、この壁溶かせたの?!
「ああ、溶かせるよ。何なら今すぐ溶かしてあいつ等殺す?僕は大賛成だな。」
私は大反対だからやめなさい。
なんだかサモナーの様子がおかしい。
いやおかしいのはいつもの事だが・・・死に飢えていると言うべきか・・・。
サモナー、今日はなんだか急いでない?
「・・・いや、急いでる訳じゃないんだけど・・・」
壁を溶かす手を下し、複雑な表情を浮かべる。
あれ...なんだか嫌な予感がする。
こんな事前にもあった気がするような・・・。
「ちょっと・・・その、魔力が足りないと言うか・・・ね。僕たち、正式な契約を交わしていないから、パスが繋がってないんだよね。今までは普通にいけたんだけど・・・遊び過ぎて、そろそろ僕自身の魔力が尽きそう。」
・・・・・・・・・・・・・・・。
「このまま戦闘しても良いんだけど、やっぱりお腹sぐはぁあ!!!?」
サモナーの口に思いっきり力を込めて、激辛麻婆豆腐を突っ込んでやった。
麻婆豆腐を食べることが出来てサモナーは感動しているのか、そのまま静かに倒れた。
「いやいやいや、お嬢さんよく見て見なって、そいつ白目向いてるぜ?!」
え、白目?
そんな訳ないだろう。
サモナーは言峰がくれる泰山の麻婆豆腐が大好物なんだよ。
な。サモナー?
「・・・・・・・・・ガクッ。」
「し、失神するレベルの麻婆豆腐なんて食い物じゃねえ!戦う前に俺らじゃなくて、そっちのサーヴァントが死んでどうすんだよ?!」
心配ない。
此奴は何があっても立ち上がるさ。
何てったってサモナーだからね。
サモナー起きないともう一杯、麻婆豆腐食べたいの?
「ご、ごはぁっ!!!げっほげごげおぇ......た、立つからもう無理。お腹、いっぱいです。」
どうだ、うちのサモナーは凄いだろう!
「そんなドヤ顔してもねぇ...そいつに同情するぜ。」
緑衣のアーチャーに哀れみの眼差しで見つめられるサモナー。
そんな時に、エレベーターは大きな音を立てて止まった。
どうやら、決闘場に着いたらしい。
もうすぐ、命を懸けた戦いが始まるのだ。
「行くぞアーチャー。」
「はいよ、旦那。」
ダン卿がエレベーターから降り、その後に続いて緑のマントを翻して行くアーチャー。
「...麻婆豆腐で死ぬかと思った。」
サモナーはそんなんじゃ死なないでしょ。
さあ、私達も行こう。
「分かったよ。麻婆豆腐でどこまで行けるんだろ...。」
?
サモナー何か言った?
後半が聞こえなかった。
「何でもないよ。行けるところまで行こうか。」
サモナーと一緒にエレベーターから降りる。
シンジの時は船の墓場の様な場所だったが、今回は違う。
ここは森に飲まれた街。
大自然に飲み込まれた人工物の成れの果て。
「もう本気で殺しに言っていいんでしょ旦那?」
「ああ、遠慮はいらん。宝具の開帳を許そう。」
ニヤリと笑う緑衣のアーチャー。
いいや、彼の名は...
「王殺し・・・ロビン・フッド。」
いや、彼は複数存在するロビン・フッドと言う英霊の一人。
本物のロビン・フッドは出血多量で死亡。
彼は・・・
「若い頃に弓なんか選んだからこうなったんだよね。今思えば馬鹿馬鹿しい選択をしたと思ってるよ。あんな集落、消えても良かったんじゃないのか。」
「俺の人生におたくは関係してねぇ・・・って言えればどんなに楽な事か。」
「僕は忘れてないよ。君に殺された日を。」
「俺だって忘れてねえよ。おたくに殺された事を。」
お互いがお互いに殺された。
毒で体を弱らせ、矢で撃ち殺さた。
軍によって侵略され、銃によって撃ち殺された。
「何の因果か、またおたくと殺し合うなんてな。二度目の毒は優しくないぜ。」
「喧しい。僕だって、もうお前の敵だ。優しいと思ったらすぐに死ぬよ。」
木々が騒めき、木の葉が舞う。
殺気がこのアリーナに満ち溢れる。
一発即発の空気だが、先に動いたのは...
「我が墓地はこの矢の先に……森の恵みよ……圧政者への毒となれ。
「————