目的の無い旅。
海図を忘れた航海。
君の漂流の果てにあるのは、迷った末の無惨な餓死だ。
・・・・・・だが、
生に執着し、魚を口にし、星の巡りを覚え、
名も知らぬ陸地を目指すのならば、或は・・・
誰しも、始めは未熟な航海者に過ぎない。
骨子の無い思想では、聖杯には届かない。
2.arousal/border alliance
ピピピピ…と無機質な音が鳴る。
そう言えば、携帯端末の目覚ましだったかな…。
モゾモゾと手を伸ばしたら、暖かい何かが……
「........みや、......ブッ殺............」
寝言を言っている、サーヴァント。
まあ、寝ているのはまだ許す。
昨日の夜は、大変だったから気持ちも分かる。
だがな…何でお前も私のベッドで寝てるんだい?
だが私はもう慣れたぞ。
幾ら何でも、サーヴァントに振り回されるという事態は避けたい。
ここは落ち着いて…………
サモナー。
いい加減に起きないと、その心臓握り潰して、ムーンセルに投げつけちゃうぞ(
「おはようございます、マスター!いい朝ですね!」
音速を超えた速さで飛び起きるサモナー。
さて、何か言い訳があるなら聞くけど?
そして、その答え次第では、お前の心臓は潰されているでしょうね。
「マスター!幾ら何でもそれは酷いよ?!君みたいな可愛い子を、手を出さずに寝た僕を、寧ろ褒めてもいいんだよ?!普通だったら、君襲われても良かったんだよ?!」
ははは、今日は目覚めは最悪だね。
朝一番に、どっかの誰かさんの心臓を握り潰す、と言うグロテスクな行動をとらねばならんとは・・・やれやれだ。
「お、落ち着いてマスター!ホントに手なんか出してないから!?指一本も触ってないから!横で寝ただけだから!?」
はぁ・・・昨日の友は、今日の敵、か。
成程、こういう時に使われるのか。
ありがとうサモナー、君のお陰で学んだよ。
「ヒィッ!?ま・・・・・・マスタァァァァアアアァァ!!!」
———————————————————
そうだ...そう言えば、第二回戦の相手が決まったと、連絡が来ていたな。
すっかり忘れていた。
掲示板に展示されている筈だ、それを見に行かねば。
一回戦が終わり、二回戦目に突入している。
私は一晩中、泣き続けたが、未だに覚悟など持ててはいない。
128人のマスターも、64人に成り、参加者はそれぞれ何を思うのだろう。
私の様に、訳も分からないまま参加したマスターは他に居るのだろうか?
「いやいや、岸波白野以外そんな人物居ないから安心して。」
...チッ。
なんだ、もう復活したんだ、サモナー。
「生死の境を彷徨って、何とか立ち上がったサーヴァントに、白野は辛辣だねぇ。僕心臓よりも心が挫けそう。」
そうか、そのまま挫けていても、私は構わないよ。
と言うか、出来るならそうして欲しいな。
「う、目から海水が・・・!」
掲示板を見ると、そこには自分の名前と...対戦者の名。
————ダン・ブラックモア。
「フム・・・次の対戦者は君か。」
いつの間にか、私の隣には老人が立っていた。
髪は混じりけの無い白。
顔や体にも、老いている様子が見られる。
しかし・・・老いているのならば感じられる、衰えが、この老人には感じられない。
「君は若いな。年齢もそうだが、実践の経験が無いに等しい。」
スイマセン...全く持ってその通りです。
「・・・君は迷ってはいるが、小さな決意は持っている様だ...。」
細められたその瞳には、一体何が見えると言うのだろうか。
そして、ダン卿はそのまま階段を下りて去って行く。
「その決意。努々忘れてはならんぞ・・・」
と、私に言い渡して・・・。
「二回戦目の相手は・・・また厄介な相手だね。どうする、アリーナに行ってトリガーでも入手しておく?教会に行って、僕の解体をするのでもいいし...今日は自由に行こうか。」
大体自由に行ってると思うけど、そうだね...。
最初に、教会に行ってアリーナに行こう。
藤村先生の、お願いがまた有るかもしれないから、準備はしっかりしておくよ。
「・・・マスターが、どんどんイケメンに成りつつあるのは何故だ・・・?!昨日の夜の、か弱き乙女モードだった愛らしい白野は何処に行った?!」
フム・・・おかしいな。
どうしてこんな所にアゾット剣が落ちているの?
きっとサモナーを後ろからサックリ心臓を刺せって事なのかな?
「何で、そんな物騒な概念礼装が、こんな廊下に落ちて・・・って、おいそこの、口元が歪んでる下種神父。お前の仕業か?」
「はっはっは、何のことか分からないな。私は只のNPCに過ぎないのでな。」
「ほざけ?!どうせどっかに、黒鍵とか言う物騒なもん仕込んでんだろ?白状した方がムーンセルの為だよ。」
「いやはや、信用されないとは悲しい事だな。私の手持ちは泰山特製の麻婆豆腐しかないと言うのに。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・い、行こうかマスター。」
言峰、その麻婆豆腐だが、分けて貰っても良いだろうか。
泰山特製なら、尚更だ。
「ちょ、白野駄目だよ?!君はそろそ麻婆豆腐から離れた方が良いって!あんな真っ赤の料理、英雄だって食べるの避けるからね?!」
「何を遠慮する必要がある?手持ちのストックがこれだけしかないが、持って行きたいのなら授けよう。」
「止めんか外道神父?!!!こうなったら・・・強制転移、発動!!!」
もう少しで泰山の麻婆豆腐に手が届く・・・筈だったんだ。
サモナーが邪魔さえしなければ、私は麻婆に有りつける・・・筈だったんだ。
其れなのに、其れなのに・・・。
あぁ・・・この手は
「...ねぇ、何であの子泣いてるの?」
「・・・・・・理由は聞かないで欲しい。こっちも色んな意味で泣きそうだから・・・。」
「?」
「青子放って置け。今は解体に集中しろ。」
「分かってるわよ!」
マボォォオ...食べたかった。
泰山の麻婆豆腐...食べて見たかった...。
「そんなに泣くぐらい食べて見たかったの?!白野、昨日の夜よりも泣いていないかい?!」
何を言ってるんだサモナー。
始まりは麻婆豆腐から進み、最後は麻婆豆腐で終わる。
これはもう常識と言っていい。
「意味が分からないんだけど?!そんな常識初めて聞いたよ!」
「仲が良くて結構だわ。さ、今日の解体はこれで終わりだから、さっさとアリーナにでも行きなさい。」
「全くだ。ああ、部下が淹れるコーヒーが飲みたいよ。」
お礼を言って教会から出る。
サモナー、ちょっと言みn「駄目だ。」
ち、何てサーヴァントなんだ。
しかし、甘いな。
財布は私が持っているという事に...。
「君こそ忘れてるんじゃ・・・マスターッ!」
何かに気付いたサモナーが、咄嗟に私を庇う。
何事かと思えば、目の前に眼鏡をかけた、褐色肌の少女が居た。
「そんなに警戒しないで下さい。私は只、彼女に協力したいだけなのですから。」
「・・・
「やはり普通のサーヴァントでは無いのですね。私が求める答えは一つ。師が私に言った、『人形である私に、命を入れる者』の意味を知りたい。その為に、イレギュラーな存在である貴女のマスターに協力を要請したいのです。」
「・・・・・・どうする白野。僕は協力しても良いよ。」
・・・・・・え、っと。
協力しても良いんだけど・・・まずは自己紹介からかな。
私は岸波白野。
「ラニ=Ⅷと申します。以後、お見知りおきを。」
あ、ご丁寧にどうも。
こんな私に協力してくれる人が居たなんて驚きです。
ラニの協力、申し出るよ。
「ありがとうございます。では、早速ですが・・・」
「あ、ちょっと待った。サーヴァントの情報は良いからさ、白野と友達になってくれないかい。」
は?
一瞬、目が点になった。
サモナー何言ってんの?
ラニの顔見て見なよ、私よりも驚いてるよ?
「良いじゃないか。どうせ相手サーヴァントの星を詠むつもりだったんだろ?そんな面倒くさい事は放って置いて、もっと学園生活を楽しまなきゃダメだろ?君たちはまだ女子学生なんだから。」
「・・・私には、貴公が言っている意味が分かりません。」
「近道を言ってやってるんだよ。人形だって、人間と触れ合えばその意味が分かるようになる。ちょっとした人間観察だと思えばいい。な、簡単だろ?」
「・・・・・・
ん?別に構わないよ。
何かあったらサモナーの所為に出来るし、ラニと友達になれるなんて私も嬉しい。
「・・・・・・そうですか。なら、今日から貴女と私は友達、と言う関係ですね。よろしくお願いします。」
こ、こちらこそよろしく。
「硬いな・・・。」
「それではミス白野、私の用は済んだので失礼します。ごきげんよう。」
ラニは踵を翻し、校舎の中へと入って行く。
友達・・・でも、聖杯戦争の勝者は只一人。
時が来てしまえば、戦う宿命にある。
友と戦う・・・シンジと同じ?
シンジみたいに殺し合うのか?
友人を?この手で?
「そんな心配は今は要らない。いずれその時が来たら・・・その時は、君の願いを言うべき時だ。」
私の願い、か・・・。
叶えられるのサモナー?
「誰に言ってるの白野。僕は君の願いに、君を導くサーヴァントだ。煎餅を食べながらでも叶えられるよ。」
何で煎餅?
いやこの際放って置こう。
其れよりも、身体は大丈夫?
解体作業って痛みとか無いの?
「無いよ。そこら辺は上手くやってると思うよ(多分)。」
し、信憑性に欠けるなあ・・・。
まあ無事ならいいや。
行こう、サモナー。
アリーナでキートリガーゲットしなくちゃ。
「了解。あの女教師の面白い頼み事も引き受けるんでしょ?楽しそうだ。」
あの・・・今度は悪戯しないでね?
白野の容姿で上から3番目って事は・・・。
頂点に君臨してるのって、やっぱり青鯖?
しかし、ザビ子は可愛い。
嫁に貰いたい。
可愛い。
イケメンザビ子。