直撃する、と思ったら、
キィィイィィイン、と金属を弾くような音と同時に、激しい爆発音が決闘場に響く。
咄嗟に目を瞑ってしまった所為で何も見えないが、そのお陰良く周りの音が聞こえる。
シンジの叫び声。
ライダーの銃の発砲音。
そして、サモナーが弾く音。
「マスター、もう目を開けても良いよ。」
サモナーが私の肩を軽く叩く。
恐る恐る目を開けると、
眼前に広がる光景に、息をのんだ。
「チィ・・・やっぱり、あんたとの相性は最悪だよ・・・・・・。」
サモナーはどうやら無傷のようだが・・・
ライダーは...
心臓部から、赤い液体、いや血が流れ出ている。
有り得ない光景でもあった。
本当に、今度こそ死ぬかと思った。
それなのに...
「な、何でだよ!?何で僕のサーヴァントが負けるんだよ!?凡人の岸波に、天才の僕が!負ける筈なんて無いんだ!!!」
そう、確かに私はシンジに勝てた事など一度も無かった。
だけど・・・
―————————勝敗は決した。
ライダーは立ってはいるが、もう指一本も動かす事は出来ないだろう。
心臓だけでは無く、腕や足からも流血している。
「くそっ・・・!!!ライダーもう一度、宝具を使え!!!」
「そりゃ無理な話だね。アタシ、心臓刺されたし?もう身体も消えるっぽいよ?」
そう言ったライダーの身体は、少しずつ黒いノイズに飲まれている。
「何だよそれっ?!僕はお前の所為で負けたのに、お前は一人で消える気かよ!?」
「ああ・・・・・・、確かにアタシの所為かもしれないが...」
ライダーはサモナーを見ると、満足そうに笑う。
やはり、サモナーの正体が何か分かっているのだろう。
「あんたを負かすのは簡単だが...やっぱり勝つのは無理だったねぇ...。」
「そうかい?それは僕にとっての褒め言葉だ。有り難く受け取っておくよ。」
「何呑気に話してんだよ!?畜生!僕が負けるなんて!こんなゲームつまらない、つまらない!!!」
頭を掻き毟るシンジを、私は黙って見ていることしか出来なかった。
そんな私にサモナーは話しかける。
「戦いは終わった。部屋に戻ろうか、マスター。」
「岸波!こんなゲームに勝ったからっていい気になるなよ?!地上に戻ったら、お前が何処の——————」
シンジが良い終わる前に、シンジと私の間にファイアウォールの壁が現れた。
そして・・・、シンジの手や足、身体さえも、ライダーと同じ黒いノイズに飲まれて行こうとしている。
「な、なんだよ、これっ!?僕の身体が消えて行く・・・!!!こんなログアウトなんて知らない!」
「おいおい、シンジ。マスターなら聞いて筈だろ。聖杯戦争で敗れた者は死ぬ、ってな。」
「はあっ?!し、死ぬって...そんなの脅しに決まってるじゃないか?」
「戦争に負けるんだ。死ぬのは普通だよ。大体、こんな場所に来た時点で皆死んでるようなもんだよ。生きてここから出られるのは聖杯戦争の勝者だけ。」
そんな・・・!!!
ライダーの話は、本当なの?
「・・・・・・。」
サモナーに聞いても、彼は口を開こうとはしなかった。
「お嬢ちゃん、あんたのサーヴァントだが...余り信頼を寄せちゃだめだぜ。」
————————え?
それは如何いう...。
聞き返そうとするが、彼女はサモナーを見て苦笑いし、消えて行った・・・。
人類最初の、生きたまま世界を一周した英雄。
偉大なる航海者は、最後まで楽しげに笑っていた。
だが・・・・・・
その最後は、シンジの結末、避けられない『死』をはっきりと告げていた。
「あ、あぁぁぁあぁあ!!!消える!僕が、地上の僕が消える!!!助けろよ!助けてくれよ!僕はまだ、八歳なんだよ?!」
シンジ——————!
思わず手を伸ばすが、シンジは—————消えた。
間桐シンジと言う男の存在が、完全に。
・・・・・・聖杯戦争の一回戦は、こうして終結した。
——————————————————
シンジが死んだ?
私が生き残った?
本当に?
本当に、命が一つ、消えてしまったと言うのか?
「やっぱり、仮とはいえ友達を失ったら辛いか...」
...サモナー?
ここは・・・・・・マイルームか。
どうやって帰って来たか記憶が無いが、マイルームに座り込んでいた。
「覚えておくと良いよ。友を失う、と言う喪失感。其れだけは...忘れちゃいけない。たとえ覚悟が未だに決まらずとも、絶対に・・・。」
・・・覚悟。
シンジは死んだ。
理不尽なまでに、意味も説明もないままに死んだ。
きっとこの先覚悟も無いまま戦いに挑めば、私は直ぐに死ぬ。
でも、覚悟なんて持てる気がしない。
「マスター...君は優しい人間だね。」
唐突に...何でそう思う?
「だって、君泣いているじゃないか。その涙、よく知っているよ。」
サモナーの言う通り、私は泣いていた。
前に進むしかないと頭では理解できても、涙は出る。
それは失った友への手向けか、同情か、或は悲しみからかは分からない。
それでも、涙は止まらない。
「僕が居るからって、遠慮なんかいらない。泣ける時に泣いておこう。」
サモナーは、部屋に置いていた小さな箱を手に取り、それを開ける。
その箱はどうやらオルゴールであり、何の曲か分からないが、悲しみの籠った曲。
「この曲は、哀れな一人の男が、愛する女性を思って作った
サモナーなりに気を使ってくれているのだろう。
何時もなら、何か仕出かすサーヴァントだが、この時だけは静かにオルゴールを聞いている。
————今は、今だけは、泣いても良いんだ・・・。
や、やっと終わった...
一回戦でこんだけかかってんじゃ、
残り6回かけるんかいって話になりそうだ。