魔王少女の女王は元ボッチ?   作:ジャガ丸くん

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短め

生存確認を含め
先に書きたかったところの部分を少し出します。

次話
今回の話の後の展開や他の場面展開も大きく動きますので!


老練の過去

 

 

 

 

 

1人の悪魔の話をしよう。

 

そう、生まれるのが数秒遅かっただけで栄光ある魔の王ではなく、その懐刀となってしまった。畏怖と尊敬を受けながらも決して仕える側から逃れられなかった悪魔の話を。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

〜〜〜

 

 

数千年前、アスモデウス家に次期魔王となる子が生まれた。魔王家血統に相応しい魔力と叡智を感じさせる瞳、赤ん坊ながらも風格すら感じさせる御子。

そこにその男は数秒遅れで生まれた。

 

生まれてしまった。

 

その数秒がその後の生を明確に分けたのだ。

 

 

 

 

御子が生まれて百数年。

目紛しい成長を遂げた彼らだが、光を浴びるのはいつだって御子であった。

 

『さすがは若様』

 

『これで悪魔の未来は安泰だ』

 

『素晴らしいです若様』

 

若様若様若様若様

 

 

いつだって褒められるのは御子であった。

いつだって讃えられるのは御子であった。

 

それを前に弟は。

 

ただ、瞳を閉じ御子の後ろを歩き続けた。

 

 

お前はアスモデウスを支える柱だ。

 

お前はアスモデウスの懐刀だ。

 

お前はアスモデウスの影だ。

 

 

幼少の頃より何も変わりはしなかった。

 

何十何百何千の戦いに赴こうと

何百何千何万の敵を薙ぎ払おうと

 

彼がどれだけの功を積み重ねようと

 

それを誇ることはなく

それを知らしめることもない

 

 

 

 

 

 

彼は刀であった。

ただ自身の主人たる兄が望む時、望む成果をあげるだけの刀。

 

 

だからこそ大戦の折

魔王たる兄が死したことで

彼は生きる指針を失い

 

冥界から姿を消したのだ。

 

 

 

多くの者が彼を探した。

次期魔王は彼だと

今まで見向きもしなかった者たちが

彼を求めた。

 

 

 

 

しかし捕まらない。

唯一彼と親交の深かったベルフェゴール家の息女がその行方を掴むも連れ戻すことはなかった。

 

 

 

 

枯れ木の流木

 

 

 

 

 

行方を掴んだ彼女が彼を評した言葉である。

 

かつての彼と比べるべくも無い。

あの静かに滾っていた闘志は

抜き身の刀のような鋭さは

彼には存在しなかった。

 

 

 

 

ただ世を見て歩くだけ。

その様はまるで大海に漂う流木であった。

ひたすら流れ、いつ尽きるかもわからない人外として灯火が消えるまで意味もなく、価値もなく、誰とも関係を気づくことなく静かに終わる。それで良いと彼は思っていた。

 

 

 

 

 

 

そのはずだった。

あの日までは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その悪魔は幼かった。

数千年の時を過ごした彼とは比べものにならないほど幼く、その言動はどこか矛盾じみたものもある。

にもかかわらずその濁った瞳には光があった、かつて彼の兄や友にも垣間見た光。

彼がついぞ持つことのなかった未来を動かす心意とも言えるものをその悪魔は持っていた。

 

 

それがこれまで何1つ興味を示さなかった彼の心を僅かに揺らしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数年の時を経てあの幼い悪魔は青年と言えなくも無い歳まで成長した。

 

その間何度か彼は青年を見かけた。

 

いまだに多くの矛盾を抱えながらも歩くその姿はどこか彼には眩しかった。

 

滑稽なはずだ

自身の中に棲まう核爆弾のような存在と手を取り合う様は

 

阿呆なはずだ

矛盾したことを気付きながらも進む様は

 

無駄なはずだ

手の届かないものに手を伸ばそうとする様は

 

 

 

なのに、なぜ青年は和解している?

世界最強クラスの化け物と

 

 

なのに、なぜ青年はいまだに立っている?

その生き方は傷を負うだけなのに

 

 

なのに、なぜ青年は手にしている?

届かないはずだったものを

 

 

 

 

彼はわからなかった。

青年のことが。

 

そして青年を見ていると感じる自身の如何とも言い難い感情がなんなのか……

 

 

 

 

 

その感情がなんなのかを彼が知ったのは数ヶ月後だった。

 

 

青年の中の化け物と青年自身によって知ることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嫉妬

 

 

青年の中に棲まう化け物にそう言われ久しく感情が大きく揺れ動いた。

そんなはずはない。

ありえない。

自身がそのような感情を持つこと自体がありえない。

 

 

羨ましかったんだろ?

 

否定否定否定。

化け物の言の葉に心を惑わされるなと強く自身に念じていくがそれは青年の言葉によって塵となった。

 

 

 

 

あぁ、兄に認めて欲しかったのか

 

 

思考が停止した。

数千年の時を過ごしてきた彼にとって、それは初めての思考停止だろう。

 

そして同時に彼の中でナニカが壊れたのだ。

 

そこからは酷いものだった。

罵倒、癇癪、八つ当たり。

 

年老いた彼からは

かつて懐刀とまで言われた彼からは

枯れ木の流木と評された彼からは

 

想像も出ない程荒れ狂った。

 

 

 

まるで長い間堰き止められていた感情の膿を吐き出すように暴れ、そして力尽きた。

 

その後も青年を見かけるたびに癇癪は続き、都度3回に渡り青年に沈められた彼は遂に瞳から雫を溢した。

 

 

なにをしているのだと。

何千歳も年下の青年に八つ当たりし

自身の感情のコントロールすらままならず

まるで幼児ではないかと……

 

 

 

 

 

そんな彼を

消え入りそうな彼を救ったのは

 

彼は嫉妬の念を送っていた青年だった。

 

〜〜〜

〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クルゼレイ。私はあなた達が思うような立派な存在ではないのですよ」

 

 

 

 

若手のレーティングゲーム中に起きた大規模な襲撃の中、彼は自身の甥に対してなげかけた。

 

 

「私はあの時逃げたのです。兄の死から。責のある立場から。そして自分の心から」

 

「そんな私を救ってくれたのが、そんな私をまた歩かせるきっかけをくれたのが八幡です。阿朱羅丸です」

 

 

「彼が、彼らがいたから、今の私はいる。今こうして立っている」

 

 

どこか懐かしみながら彼は思う。

 

そう、自分は兄に認められたかったのだと。

いや、正確には違う。

自身が命を賭すに足る主人に認められたかったのだと。承認欲求。

あの頃はせめて兄にはという淡い想いがあった。だが今は違う。

 

 

「ただ、生まれながらに決められて定めに抗い、天命を自身で決める。なんたる幸福なことか」

 

その言葉に離れた地で冥府の王と向き合う友(・・・・・・・・・・)が笑みを浮かべた。

 

 

 

「私が、私の意思を持って剣を捧げた主人はただ一人。その主人を脅かすのであればクルゼレイ。兄の息子であるあなたと言えど容赦はしません」

 

 

 

そうは言い放ち瞳を開くヴィザの姿に

多くの者が前アスモデウスを幻視した。

 

 

 

 

 

 


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