魔王少女の女王は元ボッチ?   作:ジャガ丸くん

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リハビリったら意外と指が進んだのでそのまま書き上げました


若手会合編どうぞどうぞ






若手の集結

憂鬱。

意味:気持ちが晴れ晴れしないこと。

 

誰もが一度は味わったことがあるだろう。

班行動とかで1人置いていかれた時。

2人組のペアを作れと言われて1人残ってしまった時。

打ち上げムードのクラスの中1人打ち上げに誘われなかった時。

 

などなど憂鬱な気持ちになるのは人それぞれいろんな理由があるだろう。

 

《全部経験談じゃん》

 

 

は?ちげぇし。誘われなかったんじゃない、空気を読んで行かなかっただけだ。

ぼっち舐めんな阿朱羅丸。

 

 

……とそれたな。

 

まぁ、何が言いたいかといえばだ。

人には憂鬱になる時がある。

そんな時何もかも、それこそ立場やしがらみなんかを全て忘れて自由になりたい時というものがあるのだ。

周りはそれを尊重するべきだろうし、なによりもリフレッシュというものは誰にでも必要である。そこに種としての差異はない。

 

 

結論を言おう。

人間界に帰ろう。

 

 

 

「にぃ、いく」

「おにぃちゃん……いこ」

 

絶賛、ユウと恋に襟首を掴まれ引きずられてる俺は、空を見上げながら心の中で呟いた。

 

「行きたくない」

 

『声に出てる(ぞ/よ/わよ/)』

 

 

眷属と阿朱羅丸やクルルからの総ツッコミをもらった瞬間である。

 

 

 

 

地獄の一夜(それいけレヴィアたん)を終え、うちの家族(濃いメンツ)との再会を終えた俺はその後絡まれるゼノヴィアに合掌しながらも逃げるように自室へと向かい眠りに落ちた。

 

逃げる際、生物化学を研究しているDr.サンダーランドJr.に

 

「なかなか見ない天然物の聖剣因子を持つ存在!!うーん、是非とも解剖したい!!!」

 

などと言われていたゼノヴィアなんて見てない。仮になってたとしてもシノンたちが流石に止めるだろう。たぶん……

 

 

そんなことを考えつつ、まだ寝ぼけつつある状態で歩いて行きつつ、すれ違う使用人たちに挨拶を交わしていた。

 

 

鬼や悪魔、竜人などと他では即戦力として眷属に勧誘されそうな種族がここでは使用人として普通に生活している。

 

正義命の執事長のセバス・チャンやメイドにかなりのこだわりを持っているメイド長のレティシア、他にも濃ゆいメンツはこの家に多い。

 

 

特にメイドの鬼の姉妹など個性が強すぎるだろう。

 

昨夜イッセーがセクハラで他のメイドに吹き飛ばされた際など

 

「八幡君、お客様が吹き飛ばされてしまいました」

 

「八幡様、お客様が無様にやられてしまったわ」

 

などと真顔で言ってくるのだから個性の強さがなかなかである。特に姉の方。

 

 

 

とくだらない事を考えて入ればリビングにつき、一直線でテーブルへと着席する。

ボーッとした様子のリタや阿伏兎は既に着席しており、シノンやヴィザ、使用人たちは他のメンバーを起こしに行っている頃だろう。

何故かフリードの悲鳴が聞こえるがいつものことである。

数分すれば凍りついたフリードを含む、眷属、使用人一同、リアス・グレモリーの眷属たちが集まり朝食が始まる。

 

当然昨夜のことがあるので俺の主もまたここにいるのだが……

 

 

「あ、ハチ君も今日の若手会合には()()()()()()出席だからね」

 

 

飲んでいたマッカンを吹き出した瞬間だった。いや、俺だけじゃない、他のメンバーも面食らっている。

動いているのは口を動かし、次々と料理を咀嚼していくユウと恋、小猫の3名だけだった。

 

 

 

セラフォルー様曰く、俺は爵位を持ち眷属がいるという点と、年齢も若く、悪魔になったのも比較的に、悪魔の歴史から見れば最近であるということで若手側として出ろとのことである。

 

転生悪魔の俺が若手の会合に若手側に出れば純血悪魔から反発が起きそうなものだが…

 

「あ、それはもうわたし達5人で済ませてあるから♪」

 

笑顔で言うセラフォルー様がとても怖かった。ってか5人て確実に魔王様達とニオ様である。

 

何してんの貴方達?

暇なの?馬鹿なの?

 

 

ただでさえ昨夜の出来事で気分が沈んでいる俺の目から光が消えていくのだった………

 

 

 

 

 

 

そして時は戻り現在……

 

ユウと恋に引きずられる俺からは生気が消えていた……

 

 

 

 

 

 

会合場所に向かう途中、俺と眷属達は終始認識阻害をかけていた。

というのもグレモリー領やうちの領のようなことになるのを防ぐためである。

現に魔王の妹であるグレモリー達だけで既に黄色い歓声が上がっているのだからかけておいて正解だろう。

 

 

そうして憂鬱な気分自体を忘れようと勤めながら歩いて行けばようやく目的地へと到着する。それと同時に認識阻害を解除すれば扉の前にいた使用人らしき人物達がわずかに驚いたようだった。

 

 

「こ、これは。失礼……お待ちしておりました。グレモリー様、そして比企谷様。こちらへどうぞ」

 

 

すぐに立て直した使用人達はこちらへ向かい頭を下げる。ついついこちらも頭を下げてしまうのは日本人としての癖だろうか…

 

下がっていた頭が上がれば、使用人らしき人物達の1人が先導し始め、俺たちはそれに従って歩いていく。

 

 

少し歩けば、なにやら奥から複数人の気配が感じ取れた。その先頭に立つ存在はその中では一際大きく、俺達の中で言えばフリードと同等といったぐらいだろうか。見てみれば逞しい身体付きの黒髪の男性がこちらを見ていた。血に頼り、修練というものを積まない者が多い純血に悪魔の中でも数少ない、鍛え抜かれた存在がそこにはいた。

 

 

「サイラオーグ!」

 

「リアスか。随分と久しいな」

 

男性に…サイラオーグに対し声をあげたグレモリーに対し、彼はにこやかな表情で手を差し出せばグレモリーもその手を取り、握手を交わした。

 

 

「若手悪魔最強のサイラオーグか」

 

ポツリと俺が呟けばそれに反応したのか

 

「はじめまして、比企谷殿、その眷属の皆様。サイラオーグ・バアル。バアル家の次期当主です。皆様のお噂はかねがね。あのレーティングゲームをみて、是非お会いしたいと思っておりました」

 

 

「……比企谷八幡だ。セラフォルー様の女王を務めてる」

 

 

こちらにも笑顔で握手を求めてくる。

なんてコミュ力だ!?

初対面の相手にこんなにも自然に……

 

《ハチのコミュ力が足りてないだけだよ》

《そのとおりね》

 

吸血鬼2人からの鋭いツッコミを貰いながらも握手を交わした俺はコミュ力の化け物(俺命名)から手をすぐさま離した。

 

 

「ねえサイラオーグ。あなた、眷属と一緒にこんな通路で何をしていたの?」

 

 

タイミングのいいことにグレモリーがサイラオーグへと疑問をぶつけてくれた。

 

「ふん、あまりにもくだらんから出て来ただけだ」

 

「くだらない? もしかして、他のメンバーも来てるの?」

 

「ああ。アガレスもアスタロトもすでに来ている。その上ゼファードルだ。着いた早々にアガレスとゼファードルがやり合い始めてな」

 

 

なにやら純血悪魔同士で揉めているらしく席を離れてきたらしいが、個人的に言えばそのノリに乗ってこの会合の席から離れたい俺である。

 

 

などと、もはや叶うことはないだろうことを考えていた俺の視界の先で建物が大きな揺れとともに何かが壊れるような凄まじい音が聞こえてきた。

 

 

「まったく、だから会合の前の顔合わせなどいらないと俺は進言したのだ」

 

 

音のした方にある大きな扉にこの場の全員が向かい始める。

 

そして、グレモリーによって開かれた扉の先には、見事にボロボロになった大広間があった。用意されていた机や椅子も例外無く全て壊されている。

 

その中央に、睨み合うようにして佇んでいるのは2人。1人は眼鏡をかけた一般的に言えば綺麗な女性。そしてもう1人は顔にタトゥーを入れた世間一般的に言えばヤンキーのような人物。

 

 

関わると面倒臭い。

その直感を信じ、俺はそっと眷属達を引き連れ待機室から離れ、先にセラフォルー様達がいるであろう会合の場に向かった……

 

 

 

 

 

 

「あれ?ハチ君?なんでハチ君達だけなの?」

 

「おぉ、八坊久しぶりじゃのう」

 

行けば元老院の悪魔達はまだ来ていなかったが、既にあの5人は揃っており、セラフォルー様とニオ様は俺を見た途端疑問の声をあげた。

 

 

「たぶん、ゼファードルはサイラオーグあたりに伸されてると思いますよ」

 

 

その一言だけで5人にはなにがあったのか伝わったようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…まずはこうして集まってくれたこと感謝しよう。ここにいるのは次世代を担うであろう若き悪魔達である貴殿らを我らが見定める場でもある」

 

 

20分程経ったであろうか。

ようやくきたグレモリー達にはなぜ自分だけ先に行ったのかというような恨めしげな視線を受けつつも、あの場にいた全員とライザー、ソーナを含む若手が集結した。

意外だったのはボコボコになりながらもゼファードルが参加していることである。

ヤンキーはタフネスだった……

 

そこからさらに数分経てばニオ様以外の元老院4人が現れ所定の位置に着く。その際睨まれた気がするがスルーする。

断じて俺の後ろから滲み出てる殺気を気にかけてではない。

 

 

そして会合の始まりをニオ様が普段俺たちの前ではあまり見せない威厳に満ちたオーラを纏いながら開幕の言葉を述べた。

 

 

そこからは悪魔の歴史やら、なにやら、9人全員がまるで校長のような長い挨拶を済ませていく。

 

 

「さて、君たち8人は家柄など考えなくても相応の実力を持つ、申し分無い次世代の悪魔だ。だからこそ、デビュー前に互いに競い合い、その力をより高め合っていって欲しい」

 

最後の1人となったサーゼクス様が8人にそれぞれ視線を向けながらそう口を開く。正直、面倒である……

 

 

 

「我々もいずれは『禍の団』との戦に投入されるのですか?」

 

 

そんなサーゼクス様の言葉にサイラオーグが思わず聞き返してしまう。

たしかに今の言葉ならそう聞こえなくもないが

 

 

「それはまだなんとも言えない」

 

サーゼクス様はそれをにごした。

 

 

「君たちは……正確には八幡君を除く7人はまだ実力不足だ。そんな君たちを、次世代を担うであろう君たちを戦線に投入することは我々としても望ましくない。本来ならば八幡君とて同じなのだが、彼はセラフォルーの女王でもあるからね。それに実力も僕らと比べて遜色ない」

 

 

そうサーゼクス様が答えれば俺へと自然に視線が集まる。

あらやだ注目されてる?

 

《現実を見なよ》

《あんたいつからオネェになったのよ》

 

日々鋭さが増す2人のツッコミを受けつつとりあえず笑っておく。

 

 

サーッ

 

 

何故か部屋の温度が下がった気がした。

周囲を見れば震える者、顔を青くする者続出である。何故?

 

 

『ハチの笑顔が怖いからよ(だよ)』

 

 

とても理不尽な理由でした……

 

 

 

「お言葉ですが、若いとはいえ、我らとて悪魔の一端を担っています。たしかに比企谷殿と比べれば小さき身でしょう。しかし、この年になるまで先人の方々から多くのご厚意を受けている身でありながら、何も出来ないとなれば……」

 

 

「サイラオーグ。その気持ちは嬉しい。勇気も認めよう。だが、ハッキリ言わせてもらえれば、それは無謀というものだ。万が一にも、キミ達を失うわけにはいかないのだ。次世代を担うキミ達は、キミ達自身が思っている以上に、私達にとってはかけがえのない宝なのだから。焦らず、ゆっくり、確実に成長していって欲しいのだよ。八幡君に関しては完全に例外。特殊なケースと思ってくれたまえ」

 

厳しくも優しいサーゼクス様の言葉に、サイラオーグさんも納得したのか、それ以上言う事は無かった。

 

 

いや、納得すんのかよ!

 

 

 

 

「さて、長い話に付き合わせてしまって申し訳無かった。これで最後だ。冥界の宝である君たちに、それぞれの夢や目標を語ってもらおう」

 

 

 

「俺の夢は魔王になる事。それだけです」

 

最初に答えたのはサイラオーグ。迷い無く、サーゼクス様を正面から見据えながら堂々と言い切ってみせた。

 

「ほお、大王家から魔王が出るとしたら前代未聞だな」

 

その答えに興味深そうにお偉い様方は耳を傾ける。

 

 

「私はグレモリーの次期当主として、レーティングゲームの各大会で優勝する事が近い将来の目標です」

 

次に答えたのはグレモリー。

それから、アガレス、アスタロト、ゼファードルの順でそれぞれの夢や目標をサーゼクス様たちに伝えていく。

 

そして……

 

「俺の目標は八幡殿に認めて貰い、そしていずれレーティングゲームで八幡殿達に勝つことです」

 

そう答えたのはライザーだった。

その言葉に周囲は目を丸くさせていた。

それはそうだろう。

純血悪魔が転生悪魔に認めてもらうなどと言えばこうなる。

 

しかし今までどこか退屈そうな瞳をしていたニオ様の瞳がライザーの言葉を聞いた瞬間光った。その口元は不敵な笑みを浮かべている。

 

まるで面白いモノを見つけたかのように。

 

「ほぉ、八坊に勝つか……それは並大抵のことではないぞ?」

 

「重々承知の上です。自分でも過ぎたる目標ということは理解しております……が」

 

そう言ってライザーは視線をニオ様から俺へと移した。

 

「誰しも、超えねばならないカベというものがあります。それが俺の場合八幡殿であったそれだけのことです。むしろ高いカベゆえに滾ります」

 

 

誰だお前はと前の彼を知るもの達ならば叫びたいだろう。

阿朱羅丸とのリアル鬼ごっこを味わったライザーは転生でもしたのだろうか?

そう思えるほど、どこか熱血の入っている節がある。

 

おい、ニオ様オトコじゃな、とかいうんじゃない。熱血止まらなくなるだろうが……

 

そんな意外すぎる告白をしたライザーの後に続くのは

 

 

「私の夢は。。。冥界にレーティングゲームの学校を建てる事です」

 

ソーナだった。

 

 

「学校?レーティングゲームを学ぶ場所ならばすでにあるはずだが?」

 

元老院の1人がヒゲに手を当てながらソーナへと聞き返した。

 

「それは上級悪魔と一部の特権階級の悪魔のみしか行く事が許されない学校の事です。私が建てたいのは、下級悪魔、転生悪魔も通える分け隔ての無い学び舎です」

 

言い終えた彼女の瞳には成し遂げてみせる為の熱がこもっている。

誰しもが分け隔てなく通える学び舎。

 

最初それを聞いた時は驚いたものだ。

 

 

『ハチ君のように差別を受ける存在がいる。そこに人も悪魔差異はありません。だから私は誰もが通える学園を作りたい!どんな生まれであろうと、掴める機会を与えるられるような場を!』

 

 

俺という存在と過ごしたことで、彼女の夢はより強固なものとなっていった。

 

そんな夢を俺やセラフォルー様は応援している。

 

 

しかし……

 

 

「「「「ふはははははは」」」」

 

この老害どもは別だった……

 

 

「それは無理だ!」

 

「これは傑作だ!」

 

「なるほど。正に夢見る乙女というわけですな!」

 

「若いというのはいい!しかし、シトリー家の次期当主ともあろう者がそのような夢を語るとは……ここがデビュー前の顔合わせの場でよかったというものだ!」

 

その夢を真っ向から否定した。

 

 

「ソーナ・シトリー殿。下級悪魔、転生悪魔は上級悪魔たる主に仕え、才能を見出されるのが常。その様な養成施設を作っては伝統や誇りを重んじる旧家の顔を潰す事となりますぞ?」

 

「さよう。悪魔の世界が変革の時期に入っているのは我々も認めている。だが、変えていいものと悪いものの区別くらいはつけてもらいたい」

 

「たかが下級悪魔に教育など、悪い冗談としか思えんな」

 

 

そんなふざけた言葉に対してその横でセラフォルー様から静かな殺意が滲み出しているのがわかる。

老害どもには伝わってないがこちらにはヒシヒシ伝わってきていた。

ニオ様はその隣でつまらなそうな目をしているが……

 

「まったく、人の転生悪魔風情に爵位を与えるなど、シトリー家はどうしておるのだ。もっとしっかりと考えて行動していただきたい」

 

「まったくだ。そもそもそんな男が何故この場にいるのか理解しがたいというもの」

 

瞬間、セラフォルー様から伝わる殺気が赤子に思えるのではと思うほどの殺気が俺の背後から訪れた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は……間違っていたのか……

自分の夢を話し、今もこれからも努力を惜しまずにつけていたつもりだった。

 

しかし、私の夢は一蹴される。

元老院の方々には笑われ、あまつさえハチ君やシトリー家に対する言葉まで言われる始末。

 

そんな時だ

下に俯き、拳を強く握りしめるしかできなかった私すら背筋が凍るような感覚に陥った。

 

いや違う。実際に凍っているのだ。

 

 

 

この会合の部屋全体が……

 

 

 

 

 

 

 

「言いたいことはそれだけかしら?」

 

数ヶ月前、あのレーティングゲームで名を馳せた、氷獄の射手がその場にはいた……

 

 

いや、彼女だけではない……

 

あの時名を馳せた者達に加えそのほかの眷属達までもが臨戦態勢入り元老院の4人に向かって強大な殺気を飛ばしていた。

 

 

こちらに向いてないことはわかる。

でも、向けられていなくても息がつまる。

身が震え、本能が身体へと警告を発した。

逃げろと。

この場から離れろと。

しかし、身体はその意思とは反してまったく動くことはない。

 

 

 

「それだけって聞いているのだけれど?」

 

もう、あなたが女王でいいんじゃないですかね?そう思えるほど今の彼女の雰囲気はそれであった。

 

 

「な……なにほ……」

 

向けられてなお意識を保っていたのは純血故の誇りか、或いは意識が落ちない程度に調整されていたから定かではない。

しかし、先ほどまでのような高圧的な態度が彼らからは消えていた。

 

 

「随分と好き勝手いってくれるじゃない」

 

立場的に言えばシノンの方が低いはずにも関わらず、その言葉は紡がれた。

まるで彼ら眷属の言葉を代弁するかのように。

 

 

「この()()()()()

 

 

言ってしまった……

結構な人数が思っていることを。

 

 

「な、ななな、き、きしゃま、いったいだれぇにむかっひぇ!」

 

未だにうまく喋れない中、それでも元老院の4人は憤慨した様子でシノンに対して物申そうとするが……

 

 

「やれやれ、少しは黙ってはいかがでしょうか?」

 

静かに、されど重くのしかかる言葉によってその様子は鎮圧される。

 

「ヴィザ…翁………」

 

それを発した人物の名を思わず呟いてしまう。彼が発した圧は先ほどのシノンの比ではなかった。にもかかわらずこちらに一切の被害がないのは、その年季と技術故か……

 

 

ヴィザの血筋を知ってる私や姉様…そして目の前にいる魔王様や元老院の方々は先ほど以上に張り詰めた空気を感じた。

 

 

「全く……やはり貴方方はどうにも度し難い。先にサーゼクス殿が若手は冥界の宝。そのように言ったにもかかわらず」

 

 

普段閉じられているかのような瞳とにこやかな笑顔の老紳士はそこにはいない……

 

 

「若手の夢を笑い、挙げ句の果てには私が剣を捧げた主に対する言葉」

 

 

その瞳は開かれ、老練の悪魔としての……

かつて魔翁(マオウ)と呼ばれていた男の姿があった。

 

 

「若造があまりつけあがるなよ?」

 

瞬間、元老院の首が飛んだ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かのような錯覚に陥った。

 

実際にはそんなことは起きていない。

 

しかし、本当に飛んでしまったかのような、飛ばされたかのような幻を見た。

周りを見ればほかの若手達も驚いている。

それだけでそれを見たのが自分だけではなかったと判断できた。

 

 

「ヴィザよ、その魔力を抑えい」

 

そこに割って入ったのはこれまで黙っていたニオ様。その背後からはヴィザ翁に引けを取らない魔力が漏れ出している。

 

 

 

「貴方が私に指示するのですか?ニオ?」

 

そんなニオ様にまるで対抗するかのようにヴィザ翁は魔力を更に溢れ出させていく。

 

 

一触即発か……そう思われた中

 

 

「ヴィザ」

 

一言。たったそれだけでヴィザ翁から溢れて出ていた巨大な魔力が消失した。同時にニオ様から出ていたものも……

 

 

「ニオ様も面白がってませんか?」

 

「くく、気づいておったか。なに、ヴィザが怒るなど久々だったからの。思わず突っかかって見たくなってしまったわ」

 

はぁ、とその言葉に対しハチ君がため息を漏らせば

 

「シノンよお主もおさめよ。ここは論議はすれど武力行使はしてはならん。こやつらに対してそれをやるのは……」

 

とびきりの笑顔を持ってニオ様は応えた。

 

 

「我の特権じゃからのぅ」

 

 

その時私は思った。

 

なんでニオ様(この人)が魔王じゃないんだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「してハチ坊よ。最後は主じゃ。主の夢はなんじゃ?ゆうてみぃ」

 

 

数分後、元老院の4人を退場(物理)を済ませたニオ様がこれまでにないほど楽しげな様子でハチ君に問いかける。

 

 

「おれすか?」

 

「お主以外に誰がおる」

 

たわいのないやりとり。

けれどそれすら愉しげに見えた。

 

 

「おれはそうっすね、とりあえずは今の生活を維持することですかね?」

 

「今の…か?」

 

ほかの若手の面々はポカンとした様子でその会話を聞いている。

たしかに先のやりとりを見せていた眷属を持つ主にしては些か小さな夢に見えたのかもしれない。

 

けれど……

 

 

「おれは転生悪魔なんで……とりあえずは周りを守るので精一杯なので」

 

そう彼は守っているのだ。

その身一つで。

一つの都市を。

何万という民達を。

それはほかの異形のものからだけではない。

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

それはこの悪魔社会に身を置く彼にとってどれほど過酷なことか……

 

 

「そうか……ならば守ってみせい。己が力を持って。周囲を、家族を、大切な民達を!その行く末を我に見せてみよ!」

 

ドンッと効果音が付きそうなほど威厳に満ちた言葉がその場で放たれる。

 

それだけで。

たったそれだけのことでハチ君がニオ様から期待されているのがわかった……

 

 

 

「かないませんね……」

 

自分のなんと不甲斐ないことか。

自身の夢を笑われ、立場を恐れなにもできなかった自分の。

 

彼は違った。

たしかに彼は動いてはいなかった。

けれど、彼を守らんとする者達は、いずれも彼に影響され、彼を守らんが為に動いた。

 

彼のこれまでの生き様が、彼の眷属や周囲に対する姿勢が、彼が築いてきた全てが、彼の周りにあるのだ。

 

 

眷属から全幅の信頼を寄せられて、民から支持され、ニオ様やおそらく魔王様方から期待を寄せられている。

 

 

その姿はまさしく……

 

 

 

 

 

 

 

 

私が将来目指す、教師像であった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、それとの、お主らの実力を見極めるという意味でも、切磋琢磨するという意味でもレーティングゲームの若手リーグ戦を行うが、手始めに最初のエキシビションとしてハチ坊vsほかの7人の若手悪魔でやるからの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はぁぁぁああああ!!!???』

 

 

 

その場にいた若手全員が最後の最後で声をあげてしまった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





原作とは違いライザーさんは若手に年齢変更させていただきました。




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