魔王少女の女王は元ボッチ?   作:ジャガ丸くん

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おー、久々の1万字超えの話です。


前、中、後とやりますがおそらくは3つとも1万字超えるかと思います。


ではでは本編へどうぞ。






《会議前編》小さき猫は歩み出す

いつもならば平穏なこの学園もこの日は並々ならぬ緊張感に包まれていた。廊下の窓から見える空には多くの堕天使や天使、そして悪魔が睨み合っている。一触即発とは言わないがいつ大戦の続きをしてもおかしくない雰囲気が流れる中、俺と3人の眷属は会議室の前で立っていた。

 

「遅い」

 

俺の足に寄りかかる様に立っているユウがポツリと呟くとそれに同意する様にゼノヴィアとシノンが頷く。

 

既に会議室には天使勢と堕天使勢は揃っており、悪魔勢も俺とセラフォルー様を除けば全員が揃っている状態だった。こんな時まで自由か‼︎と叫びたくなるが、そんなフリーダムなところが良くも悪くもセラフォルー様らしかった。

 

 

「ごめーん。遅れちゃった☆」

 

「ようやくですか」

 

そして待つこと十数分。ようやくやってきた主に嘆息を吐きながらも壁に寄りかかっていた身を起こす。セラフォルー様の口調はいつもと変わりないが服装はしっかりとした正装になっているので安心した。まぁ、流石にこの会議にもコスプレで来るほど不真面目ではないのだろう。

 

「ねぇ、ハチくん聞いてよ‼︎半ちんと黒ちゃんが正装はダメって言ってこの服を無理矢理着せてきたんだよ‼︎酷いよね‼︎」

 

前言撤回である。この人は普通にコスプレで来ようとしてた。俺はそんな主に何処まで本気なんだという意味を込めた視線を放ちながら、内心セラフォルー様のソレを止めた同僚の2人に……ありとあらゆる戦術を俺に叩き込んでくれた師匠方に感謝を込めた。

 

 

「それよりもさっさといく」

 

セラフォルー様の発言にユウが嘆息を吐きながら入室を促す。まぁ、俺たち以外はいるんだから当然か。

 

 

「そうだねぇ。それじゃあ……」

 

とそこまで言ったセラフォルー様の雰囲気が突如変化する。その変化につられ、俺たちもまた気を引き締める。

 

 

「行こっか☆」

 

相変わらず巫山戯ているのか真面目なのかわからない口調だが彼女が出す雰囲気はまさに魔王そのものだった。

 

そうしてセラフォルー様がドアを開け放つ。その先にいるのは各勢力の首脳とその付き添い。そんな重要人物達の視線を1つに集めながら俺たちは部屋へと入っていく。遅れたにもかかわらずその歩みは悠然としたものであり、それが余計に視線を集めるのだった。

 

入室直後、3人は壁際にある椅子に座る。セラフォルー様は首脳達の待つ円卓へと腰をかけ俺は当然の様にその後ろで控える。

 

「おいおい、随分と遅い登場じゃねぇか。待ちくたびれたぜ」

 

そんな中口を開いたのは中年のおっさん。金と黒を織り交ぜたプリン頭の男性だがこの男こそ堕天使勢の総督アザゼルである。

 

 

「ごめーん。いろいろやることがあって遅くなっちゃったの」

 

そんな文句を言うアザゼルにセラフォルー様はいつもと変わらぬヘラヘラとした様子で答える。

 

「はっ。お前さんは相変わらずだな。まぁ、俺としてはお前さんの後ろにいる奴に興味があるところだが……」

 

そう言ってアザゼルは俺へと視線を移す。

 

「まぁ、一応初見の奴らもいるんだ。付き添いの自己紹介と行こうぜ?」

 

そう言って彼は彼の後ろにいる付き添いの2人を見る。片方はここにいるほとんどが知っている銀髪の女性。イッセーの宿敵であり今後世界の情勢に大きな影響を及ぼすであろう人物。そしてもう1人は体面上初対面ということにしている少女だった。

 

「今代の白龍皇のヴァーリだよ。よろしくね」

 

「付き添いで来たクロメです」

 

そう言って自己紹介をするが2人とも壁に寄りかかったままである。そして今度は天使勢の代表であるミカエルが彼の後ろの人物に視線を向けた。

 

「え、えっと、紫藤イリナです……」

 

先の2人とは違い彼女の声は何処か居心地の悪そうな様子だった。彼女の視線の先には彼女の元同僚がおり、見ては眼を逸らすという最近の小猫の様な反応をしていた。

 

「サーゼクス・ルシファー様の女王、グレイフィア・ルキフグスです」

 

「セラフォルー・レヴィアタン様の女王、比企谷八幡だ」

 

それに続き悪魔勢も付き添いの紹介を終える。すると、やはり口を開いたのは堕天使総督だった。

 

 

「ほぉ、お前さんが噂の女王か。ヴァーリから聞いちゃいるがなにやらとんでもねぇらしいな」

 

その瞳を俺は知っていた。

うちの天才っ子が興味のある研究素材を見つけた時と同じ瞳である。

 

「今はこの会議を進めるのが最も重要なことだと思いますが?堕天使総督殿」

 

故に俺はそれを逸らす。にこりと笑いながらもその瞳には黙れという意志を込めて強く返した。

 

そんな俺の意志をフンと鼻で笑いながら彼は他の首脳陣へと視線を戻す。

 

「そんじゃまぁ、始めるとするか」

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

〜〜〜

 

 

会議自体は少しずつではあるが進んでいた。

アザゼルのコカビエルの件の報告及び謝罪から始まり、互いが互いの腹を探りながら会話は続いていく。

 

 

「アザゼル、1つ訊きたいのだがどうしてここ数十年神器所有者をかき集めている?最初は人間たちを集めて戦力増強を図っているのかと思っていた。天界か冥界かに戦争をしかけるのではないかとも予想していたのだが」

 

 

「そう、いつまで経ってもアナタは戦争をしかけてこなかった。白龍皇を手に入れたと聞いた時には強い警戒心を抱きました。それに貴方の後ろにいる彼女も普通ではありませんよね?」

 

サーゼクス様が問い、それに追随する形でミカエルが問う。

 

 

「別に?俺が神器を集めてたのは研究の為さ。なんなら、一部研究資料もお前たちにおくろうか?ってか、研究していたとしてもそれで戦争なんざしかけねえよ。戦に今更興味なんてないからな。俺は今の世界に十分満足している。部下に『人間界の政治に』手を出すなと強く言い渡してるぐらいだぜ?宗教にも介入するつもりはねえし、悪魔業界にも影響を及ぼさせるつもりもねぇ。それにクロメはうちの秘蔵っ子だ。神器所有者の中でも特に問題があるわけでも無く、神器を暴走させたりもしなかった。実力で言えばヴァーリにも引けをとらねぇ程のな。まぁ、それも研究の成果と言えるが……にしても俺の信用は三竦みの中でも最低かよ」

 

「それはそうだ」

 

「そうですね」

 

「その通りね☆」

 

 

 

アザゼルの言葉に首脳陣は全員肯定する中俺だけは1つだけ否定した。彼女の実力は決して研究の成果ではないと。そんな俺の心を読む様に向かいにいる少女は俺に微笑みかけてくる。

しかし、それに気づいた者はいなかった。

 

 

 

「チッ、神や先代ルシファーよりもマシかと思ったら、お前らもお前らで面倒な奴らだ。こそこそ研究するのもこれ以上性に合わねぇしなぁ……もう面倒だ和平を結ぼうぜ。もともとそのつもりもあったんだろう?天使も悪魔もよ?」

 

 

そんな彼らの反応を受け、探り合いに疲れたのかアザゼルは思い切ってぶちまけた。

 

 

「次に戦争をすれば、三竦みは今度こそ共倒れだ。そして人間界に影響を大きく及ぼし世界は終る。俺らは戦争をもう起こさないんじゃない。起こせないんだ。神がいない世界は間違いだと思うか?神がいない世界は衰退すると思うか?残念ながらそうじゃなかった。俺もおまえたちもいまこうやって生きている。たとえ神がいなくてもこの世界は回るのさ」

 

そう言って彼は両手を広げる。

 

彼の言葉に多くの者は肯定していた。その言葉に反論する者はこの場にはいなかった。

 

 

「なら、話し合いもだいぶいい方向へ片付いてきましたし、そろそろこの世界に影響を与えそうな存在に……二天龍にお話しを聞いてもよろしいかな」

 

そうミカエルが言うと今度はヴァーリへと視線が移る。

 

 

「私は強い人と戦えればそれでいいよ」

 

そんな彼女が発するのはシンプルな一言。

相も変わらず戦闘狂の彼女はその実この会議はどうでもいいものだった。

 

 

「君はどうなんだい?イッセー君?」

 

「え?俺⁉︎」

 

突然振られたイッセーは慌てながらも何か言おうと考えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

《ハチ……近くにまで来てるよ》

 

とその時阿朱羅丸から唐突に話しかけられる。

 

(意外と早かったな)

 

《まだ襲うつもりはないみたいだけど、いつでも転移できる様にしとくよ?》

 

(ああ、頼む)

 

阿朱羅丸の言葉を受け俺は横目で窓の外に出を見る。所々に薄っすらとだが魔力の流れが見えた。阿朱羅丸の言うことが事実である事を目で確認すると俺はいつでも動ける様に準備をした。

 

 

と、なにやらイッセーがアザゼルに乗せられバカな事を口走っているのが聞こえたがスルーする。

 

 

「そんで、お前さんはどう思ってるんだ?八幡」

 

「なぜ俺に問う?」

 

 

するとイッセーの発言の次に俺が発言を求められた。

 

 

「何故もクソもあるか。お前さんはコカビエルを簡単にのしたんだ。それだけじゃねぇ。聞いた話じゃお前さんの神器には二天龍の因縁の相手がいるそうじゃねぇか。お前さんも充分、この世界への影響力を持ってる」

 

アザゼルの発言で俺へと一斉に視線が集まる。

 

いよいよかと腹をくくる。

 

「俺は興味ない。天使や堕天使がどうなろうと俺の知ったことではないし。極論を言えば悪魔がどうなろうと知らん」

 

その俺の言葉にその場にいたほとんどの者が少なくない驚きを受けた。まぁ、魔王の女王が言っていい台詞ではないだろう。でも言わなければならない。俺は魔王の女王である前に……()()()()()()()なのだから。

 

「俺は俺の大切な奴らと毎日楽しくふざけながら生活できれば他はなにも望まねぇ。そのために3大勢力で手を取らなきゃいけないなら、喜んで手を取り合う」

 

その言葉は決して褒められたものではないだろう。しかしそこにいる誰もが彼が3大勢力で同盟を結ぶのに反対していないことはわかった。

 

「それじゃあ……「だがな」んぁ?」

 

アザゼルが俺の言葉を受け話そうとするがそれを俺が途切らせる。

 

 

「なんだよ?まだ何かあるのか?」

 

言葉を途切らせられたアザゼルは首を傾げながら俺へと問う。

 

「あぁ。手を組む上で俺の神器に関して言わなきゃ、今後3大勢力の間で亀裂が生まれかねないからな」

 

俺がそう言うと俺の中にいるものを知る者たちは何処か不安げに俺を見る。

 

「ほぉ、お前さんの神器ねぇ。さっきも言ったが気になるな。いったいなにが宿ってるんだ?」

 

「私も気になりますね」

 

それを知らない天使、堕天使の首脳は興味津々といった様子で俺の方を見る。

 

「俺の神器には……ちっ」

 

そうして俺が話そうとした瞬間、盛大についた舌打ちが停止した世界に響いた。

 

(このタイミングってなんだ?狙ってんのか?)

 

《すんごいタイミングだったね。しかしギャスパー、なんで暴走したのかな?》

 

《今意識をギャスパーに向けてみたけど、なんかすごく興奮してたわよ?》

 

《(興奮?)》

 

 

《おおよそ、ハチ関連の幻術でも見せられて心臓でもドキドキして暴発したんじゃないの?》

 

 

《……ハチ?》

 

(いや、俺のせいじゃないだろ?)

 

俺と阿朱羅丸の疑問にクルルが答えると微妙な空気が流れるが気を取り直し俺は1人静かに転移していった。

 

 

八幡 side out

〜〜〜

 

〜〜〜

イッセー side in

 

 

「お?赤龍帝が動けるようになったみたいだぜ」

 

突如襲われた感覚には覚えがあった。おそらくギャスパーの神器だろう。でも、いったいどうしてギャスパーの神器が発動したのがわからなかった。

 

戸惑いがある中周囲を確認すると動けるのは三大勢力の首脳陣とその付き添いに八幡の眷属。それと木場、部長、そして俺なわけだが、どういうことか八幡がその場にいなくなっていた。

 

「な、何かあったんですか部長?」

 

「テロだよ」

 

俺が質問するとそれに答えたのは部長ではなくアザゼルだった。

 

「お兄さま、私を旧校舎に向かわせてください。私が責任を持って奪い返します」

 

そう言う部長は唇を噛み、拳を強く握っていた。恐らくは悔しいのだろう。ギャスパーが何者かにやられたということよりも、自分の不甲斐なさが。あの時、八幡に聞かれた時に置いていくと言わず、連れて行くと言えば良かったと……

 

 

「言うと思ったよ、しかし外は魔術師だらけだ。どうするんだい」

 

そんな部長にサーゼクスは問いかける。

 

「っつ、それは・・・」

 

 

 

サーゼクス様の問い返しに言葉を詰まられる部長。

その額にはうっすらと汗が滲み出していた。

そんな部長を視界に入れながらも俺はどうしても聞きたいことがあった。

 

 

「えっと、あの、誰か八幡のこと知りませんか?」

 

 

「え?」

「もーなに言ってるの赤龍帝ちゃん、ハチくんならここに……」

 

 

『あれ?』

 

部長の疑問の声が漏れ、セラフォルーがなにを言ってるのかと答えようとするとそこでようやく皆が気づく。八幡が消えていることに。

 

 

「あれ⁉︎ハチくんは⁉︎」

 

「おい、あいつ何処に行きやがった⁉︎」

 

セラフォルーが若干取り乱しながら声をあげアザゼルも周囲をキョロキョロ見回すが何処にも彼はいなかった。

 

 

「にぃならもうギャーちゃんのとこに行ったよ」

 

困惑する俺たちに答えを言ったのはいつの間にか立ち上がり準備運動をしているユウだった。

 

 

『はい⁉︎』

 

一同が驚く中、今度はシノンさんとゼノヴィアから俺たちへと爆弾発言が投下された。

 

 

「禍の団がここを襲う事は協力者経由でわかってたことだもの。下準備はしといて当然だと思わない?」

 

 

「まさか本当に来るとは……八幡の言葉とはいえ半信半疑だったが、いやいや恐れいる。」

 

 

『はぁぁぁぁああああ⁉︎』

 

その言葉を聞いた俺たちは絶叫した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つーか、協力者ってなんだよ?」

 

少ししてようやくおさまった場でアザゼルがシノンさんへと疑問の声をあげた。

 

 

「八幡の眷属の一部或いは眷属候補が各勢力の中に間者として紛れ込んでるだけよ」

 

なんでもないように言うシノンさんだが、それは先ほど以上の爆弾発言だった。

 

「っ、おいおい。なんだそりゃ⁉︎うちにもいるなんて言わねぇよな⁉︎」

 

「それが本当なら、いろいろと問題だと思いますが?」

 

驚くアザゼルとミカエルだが、度肝が抜かれるのはここからだった。

 

 

「天使勢にはもういないわよ?天使側にいた奴にはだいぶ前に天使側からは離れていろいろなとこに行ってもらってるから。まぁ、堕天使側は現在進行形だけどね」

 

そう言って彼女はチェスの駒を自身の腰に下げていた巾着の中から兵士の駒を取り出す。

 

「それは……」

 

 

「知っての通り、悪魔の駒よ。まぁ、八幡のだけど」

 

サーゼクスの呟きに答えると取り出した指で遊びながら彼女の友人へと話しかける。

 

 

「はい、八幡から。取り敢えずは臨機応変に対応しとけって言われてるわ。と言っても八幡から既に指示が出てるだろうけど」

 

 

そう言って彼女はピンッと駒を友人に向かって弾く。誰もがその行く先を見守る中いち早く向かう場所に気がついたアザゼルは目を見開いてしまう。

 

 

「ふふふ、やっとこれで本当の意味で家族になれるね」

 

 

そう言って笑いながら彼女は、堕天使総督を押して秘蔵っ子と言わしめたクロメは悪魔の駒を握りしめる。

 

 

眩い光が部屋を覆い、それが晴れるとバサッと彼女は蝙蝠の羽を開く。それこそが彼女が悪魔に転生した証拠だった。

 

 

 

「ごめんね?アザゼル。私はもともとこっち側なんだ」

 

ふふふと笑いながら跳躍しシノンさんの隣へと着地したクロメに誰もが開いた口が塞がらなかった。

 

 

「く、くく、クロメ、お前???」

 

よほど驚いているのかアザゼルは信じられないようなものを見ているように彼女を見ていた。

 

 

実際俺たちも信じられない。

数分前にアザゼルから白龍皇にも並ぶと言われていた彼女が、その実は八幡の眷属候補だったのだから。

 

 

「ちょ、ちょっとどういうこと⁉︎私そんなこと聞いてないよ‼︎」

 

そしてその場において最も声を荒げたのは八幡の主であるセラフォルーだった。

 

ってそれよりも……

 

「せ、セラフォルー様も知らなかったのですか⁉︎でも八幡は協力者については魔王様は知ってると……」

 

部長も思わず声を上げる。

そう、つい十数日前にあいつは言っていた。

にもかかわらずセラフォルーは知らないと言っている。なにがどうなって……

 

 

「ああ、知ってたのは僕だよ。まぁ、堕天使側にもいるとは思わなかったが」

 

あんただったんかーーーい。

軽く手を上げながら自白したサーゼクスに思わず突っ込んでしまった。彼の後ろに控えるグレイフィアさんも目を見開いている。

 

 

「っちょ⁉︎なんでサーゼクスちゃんは知ってるのに私には知らせてないの⁉︎」

 

「いや、僕もたまたま知ることになっただけなんだよ」

 

そう言ってサーゼクスはぽりぽりと頬を掻く。

 

 

アザゼルはアザゼルで嘘だろと頭を抱え、ミカエルは一体誰が?と顎に手を当てながら思案する。

 

 

当の本人であるクロメはどこから取り出したのかお菓子を食べながらユウやゼノヴィア、シノンと話をしておりどこ吹く風の様子だった。

 

 

停止した会議室で起きる、ほのぼのとした会話をする当事者達と頭を抱える堕天使総督に難しい顔をしながらブツブツと考え込む天使長。そして問い詰める魔王と問い詰められる魔王……

 

 

 

その後、真の魔王だなんだと宣うカテレア・レヴィアタンが到着するまで、このカオス空間は続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセー side out

〜〜〜

 

〜〜〜

小猫 side in

 

それは突然のことだった。いきなり現れた白いローブの集団は一瞬の間に私とギャーちゃんを拘束すると、なにやらギャーちゃんに怪しい魔法をかけて無理矢理停止世界の邪眼を暴発させた。当のギャーちゃんは暴発させた後顔を赤くさせながら涙目になっているが、一体どんなことをされたのだろう?

 

そんなことを思いながら周囲を見渡すが、いるのはローブの集団だけだ。

 

 

「不覚です……」

 

誰にも聞き取れないような小さな声でボソリとつぶやきながら私は目を伏せてしまう。

 

最近の私はどうもおかしいです。

でも、その原因はわかっている。

あの日、セラフォルー様があんなことを言った日から私は先輩と普通に話すのも出来ないほど意識してしまい、聞かなければならないのに聞けず、言わなければいけないことも言えないままです。

 

 

 

 

〜〜〜

〜〜〜

 

「でも、変な縁もあったもんだね……昔ハチくんが助けた子が今こうしてまた再会してハチくんと暮らしてるなんて」

 

「え?」

 

セラフォルー様の一言と視線に私は凍りつきそして同時に今まで欠けていたピースが私の中でカチリとハマる。そんな音がしました。

 

「……それって、どういう、こと、ですか?」

 

途切れ途切れになりながら必死に言葉を絞り出す私に対しセラフォルー様はあれ?と疑問符を頭に浮かべながら言葉を続ける。

 

「あれ?知らずにハチくんと一緒にいたの?てっきり知った上でハチくんに近づいたんだと思ったんだけど?」

 

そう言って彼女はシノンが入れたお茶を啜る。

 

「ん?ああ、もしかしてーーが言ってた親友の白音って小猫ちゃんのこと?」

 

「っ⁉︎」

 

それに続きシノンさんから出てきた唯一無二の親友の名前に思わず体を硬直させてしまう。

 

 

「ーー?」

 

ゼノヴィアさんは知らない名前に首を傾げているとユウくんがそれの疑問に答え、それにソーナも同調する。

 

「ん、アーシアの心弾銃や世界樹の種子、それ以外にも多くの物を発明してるにぃの眷属。天才っ子とか天才少女とか呼ばれてる」

 

「ーーさんですか。確かに彼女の数多くの発明は冥界に大きな貢献をしていますね。個人的には八幡くん同様もう少し休むべきだと思いますが……彼女は研究となると食事も忘れて没頭してしまいますからね」

 

2人の発言にかつて見た彼女が物を作る姿が私の中で思い出されていく。懐かしい。あの時以来会いたくても会えない私の親友の話が今目の前でされていた。

 

「へぇ、それじゃあ小猫ちゃんは知らずにハチくんと会ってその上で普通に惚れちゃったんだ」

 

ボンッとセラフォルー様の言葉を聞いた瞬間私の頭は爆発して湯気を上げる。

 

 

「え、ええ、な、なにゅを⁉︎」

 

「かみかみだと説得力ないよー。でもまぁ、ハチくんらしいね」

 

そう言いながら彼女はあくびをかく。

 

「小猫ちゃん」

 

「は、はい」

 

そんな彼女はその少しだけトーンを下げて私に向き直ってくる。

 

「ここでの様子から小猫ちゃんはがハチくんの過去を知ってるのはだいたい把握できたし、ここにいる子は全員ハチくんの過去を知っているからこそ言うね」

 

そう言ってセラフォルー様は周囲を一瞥すると真剣な眼差しで言ってくる。

 

 

「ハチくんは誰よりも強いけど、その反面誰よりも弱いんだよ。誰かが側にいて支えてあげないと折れてしまうほど。彼の過去が、多くの者に虐げられた経験が今尚彼の無意識下で彼を縛り上げている。だから、ハチくんを裏切る真似だけは絶対にしないでね。これはゼノヴィアちゃんにも言えることだけど」

 

そういう彼女に同調するようにシノンさんとユウくんが頷く。そんな3人に想いに応えるように私とゼノヴィアさんは答えを返しました。

 

 

「しません。先輩には何度も助けられてますし、それ以上に先輩を傷つけたくないので」

 

「神の不在を知って絶望してた私に陽の光を浴びせてくれたのは八幡だ。だから私は彼と一緒にいる。裏切るなんてこと絶対にしない」

 

 

私達がそう応えると3人は満足そうにうんうんと頷く。

 

 

「でもシノンいいの?にぃの正妻候補が増えちゃったんだよ?」

 

しかしユウの唐突の発言に今度は私だけではなくその場の全員が凍りついた。

 

 

「ええ、負ける気はないもの」

 

さっきまで優しい雰囲気を出していたシノンさんから極寒の冷気が噴き出してくる。決して比喩ではありません。現に彼女の持つお茶が凍ってますし。

 

 

「いえ、シノンよりも付き合いの長い私の方が八幡くんの側にいますよ?」

 

そういうソーナ会長から何時もの会長らしい振る舞いが消えていた。

 

「それを言うなら私の方がハチくんに早く会って………」

 

とセラフォルー様が参戦しようとした瞬間、彼女はソーナ会長に抱きつきながら倒れてしまう。

 

 

「ちょっ、お姉様⁉︎」

 

突然のことに驚くソーナ会長だが、セラフォルー様のこの謎の原因をシノンさんが簡単に自白しました。

 

「ーーが開発した超強力睡眠薬。やっぱりお茶に入れておいて正解だったわね。まぁ、本当は八幡がやられるのを防ぐためだったけど。ソーナも巻き込んでくれたのは有難いわ」

 

「全然有難くありません‼︎というか何を盛っているんですかシノンは⁉︎」

 

ーーはそんな物も作ってるんですね。

ソーナ会長、どんまいです。

 

私が心の中で合掌していると、ひょいひょいと袖を引っ張っられたのでそちらに向くとユウくんが私の袖を手にしていました。

 

「それで小猫どうするの?にぃに言うの?」

 

そこで私はハッと自覚しました。

 

そう。先輩には言わないといけない。

かつて助けられたことを含め、あの時ーーと話していた時から聞きたかったことがいろいろあった。

 

「……聞きます」

 

しかし発された私の言葉は少しだけ戸惑いも含まれていた。どうやって聞けばいい?

 

今更のことを聞く機会がないということに私はその時に気づきました。

 

 

〜〜〜

〜〜〜

 

 

 

そこから結局私は聞くことができず、今日まで何の進展もなく、その上心ここに在らずのところを襲われこうして拘束される始末。

 

 

「ホント……ダメダメです」

 

再び開かれた口からは先程以上に力のない言葉が漏れ出す。自分の不甲斐なさに今にも泣きそうになってしまう。

 

「せんぱい……」

 

「呼んだか?」

 

ポツリと呟いた言葉に知ってる声が返ってくる。

 

え?と顔を見上げるとそこには彼の姿があった。

 

 

「っな⁉︎貴様どこから⁉︎」

 

「転移魔法は封じてたはず⁉︎何故急に現れられる⁉︎」

 

それに真っ先に声をあげたのは私とギャーちゃんの周りにいるローブの集団でした。

 

 

「お兄ちゃん⁉︎」

 

ギャーちゃんも先輩に気がつき声をあげます。

 

「お兄ちゃん、ぼ、ボク……」

 

ギャーちゃんは瞳に涙を浮かべながら声を発しようとします。おそらくは暴発させてしまったことに思うことがいろいろあるのでしょう。

 

「せんぱい……」

 

そして私からも泣きそうになりながら声が捻り出される。でもそこにはギャーちゃん以上に多くの想いが込められていました。

 

 

「大丈夫だよ」

 

そんな私達に先輩は一言だけ返します。

しかしその一言だけで私もギャーちゃんも安心感を覚え、そしてその安堵からか瞳からぽろぽろと雫をこぼしてしまう。

 

「貴様、動けばこいつらを……」

 

それ以上その男の言葉は続かなかった。

 

『っな⁉︎』

 

突然の出来事に周囲の人達は思わず息を呑んでしまう。それもそうだろう。突然自分達の横にいた仲間が白目を剥き、泡を吹きながら痙攣しているのだから。

 

 

「とりあえず、お前ら全員眠れ」

 

そう言って先輩は目を見開きます。

その瞳はいつもの黒い瞳とは違い、赤くそして不思議な文様が浮かんでいました。

 

そして先輩のその目を見た瞬間、周囲にいた者達はバタバタと倒れていってしまう。

 

 

「っはー、これやるとやっぱ目がショボショボするな」

 

そう言いながら制圧を終えた先輩は片手で目頭を押さえながらこちらに向かって歩いてくる。

 

「っと大丈夫だったか?」

 

そしてそう言って先輩は空中に刀を出すと私たちの拘束具を切り裂き、地面に膝をついた私たち2人の頭を撫でてくれました。

 

「お兄ちゃん‼︎」

 

ギャーちゃんは解放されると直ぐに先輩の胸へと飛び込んでいきました。先輩の胸に顔を押し当てながらごめんなさいとひたすら謝っています。先輩はそんなギャーちゃんに優しく大丈夫だと慰めています。

 

 

そんな2人を見ながら、先輩に頭を撫でられた頭に手を軽く当てると私の中であの日のことがより鮮明に思い出される。

 

そして私はそのまま先輩に向かって呟いた。

 

「先輩……」

 

「ん?」

 

「先輩が助けてくれたのは、これで3度目ですよね」

 

 

そう言って先輩の瞳を真っ直ぐ見つめる。

 

今日この場と駒王街で、そして私が1人死にかけたあの時。その事をようやく先輩へと私は告げた。

 

 

「ああ、そうだな」

 

隠すこともなく肯定した。

 

「あの‼︎」

 

そして肯定した先輩に私はようやく言える。今言わなければもう言えそうにはないから。

 

 

「あの時……助けてくれてありがとうございます。私は助けてもらえて嬉しかったです。それにーーにも会えて……本当にありがとうございます」

 

そう言って私は頭を深々と下げる。

 

 

「おう。結局あの後は仕事で会えなかったが、お前がこうして元気でやってる姿を見れて良かったと思うよ、白音」

 

そんな私の頭を先輩は撫でながらかつての私の名前を呼びます。

 

それだけで何か熱いものが胸の奥で生まれ、それは瞳にまで染み渡り、再び雫を作り出していきました。

 

 

「あの時は面識はなかったが……久しぶり白音」

 

 

「はい、久しぶりです。馬鹿さん(八幡先輩)

 

 

 

そう言って私はギャーちゃんを巻き添えにしながら八幡先輩へとダイブしていった。

 

 

 

 




今回はここまで、感想お待ちしております。


しかし、これから大学が始まってしまうから、今のうちに書き溜めねば(´・Д・)


ではでは



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