海龍のアルペジオ ーArpeggio of LEVIATHANー   作:satos389a

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本編の間の息抜きとしてマイペースに何気なく執筆してたら内容は膨らむわ月日は経つわで色々ありました。
しかし日常の中で新たに学んだ事もあるのでそれも踏まえながら執筆しております。
本編で登場した人物達が多数登場しますが、決して本編ではありません。
それを踏まえた上で読んで頂ければ幸いです。


おまけ話 玩具と都合

これは、本編の事実を基にしつつも本編とは異なるまた別の流れの話である、本編に関わる話はあるも決して本編に非ずーー

 

「し、しおい…。他の艦娘達も…。一体、何があったの?」

「い、イオナちゃん…‼︎うわぁぁぁぁぁぁん!リヴァイアサンがぁぁぁぁぁぁ!」

「史実を模したモノを付けて勝手に本物のように振る舞うんじゃないって言って私達を…。私達を…。」

イオナは半分唖然としていた、何せ彼女の目の前には服も艤装も破れ壊れ、ズタボロにされ、血に染まり、汚れも付いた包帯やガーゼがあちこちに見受けられる艦娘達が無数いたのだから。

そんな彼女に艦娘のイ401ーー通称しおいが泣き付いてきた、しおいもまたリヴァイアサンごと海神智史に情け容赦のない仕打ちを受けた艦娘の一人であった。

 

「…誰だ、艦娘達をこんな目に遭わせ泣かした奴は?」

「他でもなく、私だ。」

杏平はこれを見てこんな事をしたやつは誰だと尋ねる、智史は嬉しそうに自分だと名乗る。

 

「…アホ、艦娘達はボコボコにして泣かすものじゃねえ‼︎別の世界のものとはいえイオナはこいつらと一緒に深海棲艦と手を組んだ他の霧と戦ったんだそ!」

「そうか。別に気に入らないからどうでもいい事だが。」

「おめえが気に入らなくても、お前にとってサクラ達が戦友であった様に俺達、特にイオナにしてみりゃ艦娘達は戦友なんだ!」

「だから?愚劣かつ器の小さな奴程、自分の都合が悪くなった時に自分達のことを考えろとよく騒ぐな、かつての私がそうだった様に。

気に入る気に入らないに関わらず、艦娘共は私と戦い負けたのだ。もし勝ってたら避けられた事柄だ、こんな目に遭うのは必然。」

「何だとぉ⁉︎艦娘達が酷い目に遭った事を反省しねえのかよ‼︎」

「反省?するつもりはない。させたいならやってみるがいい。ところで、お前は、何かを利用し、犠牲にする事なく喜びを掴めたことがあるか?」

杏平は智史に艦娘達を痛めつけたのは反省すべきだろと詰めかける、しかし彼は内心これを醒めた目で見ていた、これまでの終わりなき進化の際に習得した様々な経験や情報が彼にそんな態度を取らせていた。

 

「何を突然…⁉︎」

「突然で驚くだろう?だがそういう事はお前には無いみたいだな。仮に利用していると自覚しなくても何かを手に入れるために人間も、動物も植物も、私も形が違えど何かを利用し犠牲にしているのだ。そうでもなければ喜びは掴めない。今回の場合喜びの対価として利用され犠牲になったのは艦娘達だという事だ。

さて、本題に話を戻そう。杏平、艦娘達が自分の大切なものに含まれているからこそ、艦娘達が私に攻撃され痛めつけられた事にお前は怒っているのであり、それ以外なら怒りもせず、私と同じ態度を取るだろう?

お前は、自分が大事だと思っていないものの頼みに耳を貸した事があるのか?お前は自分の都合を高々と主張していただけなのだ。」

「ぐ…。」

智史は自分に関心の無いものの頼みに耳を貸していた事があるのか、自分の都合を主張していただけだなと言い返して突っ込んだ、その辛辣な鋭い指摘に杏平は何かグサリと来たのか、ぐうも言い返せずに沈黙してしまう。

 

「貴様が天城を‼︎よくも…、よくも…‼︎」

「すみません、どなた様で?」

「そこのお前はいい!海神智史に用がある!」

「おまえ、どんだけ暴れたんだ…?」

そこに筑波貴繁が鬼の様な様相で乱入して来た、筑波は天城の戦友だった、その天城は彼の手に掛かり家具にされ今もその際の後遺症で苦しんでいる、それに筑波は激怒していた。

筑波は誰だと尋ねてきた杏平を他所にしてその張本人たる彼に掴みかかった。

 

「なぜ天城をこの様な目に遭わせた!」

「気に入らない奴をこういう悲惨な目に遭わせるのが楽しかったからだ。」

「天城の何が気に入らない⁉︎」

「所詮独身貴族という名の隠居生活の癖にマイホームを奪われたくないと子供の様に生意気に振る舞った、それが理由。」

「そんな些細な事が天城をこんな目に遭わせた理由だというのか!いいか、貴様がいらん事をしたせいで天城は見る影もないぐらいに顔が歪み後遺症に苦しんでいるだけでなく、日本国内が一瞬即発になりかけ混乱し、何十人もの犠牲者が出たのだぞ!」

「そうか。まあ他人事だから別に痛まないが。筑波貴繁、お前だって多くの不幸と呻きの上に筑波貴繁自身の為の今の地位を、幸せを築いていたろうに。今のお前の行動は所詮感情的でしかない。」

「他人が苦しむ事を平気な顔でする稚拙な頭しかない貴様にその様な事を言われる覚えはない!」

「これはこれは、軍人に相応しくない様相だ。幾ら凄まじく怒り狂える事があるとはいえそのまま激情に身を任せ独断で動くとは。まあそのまま激情をぶち撒けたいなら軍人としての栄誉もプライドも何も捨てるといい。」

智史は淡淡と理由をはっきり述べ、筑波の行動は所詮感情的な自己中でしかないと何も包み隠さずストレートに指摘した、当然この指摘を聞いた筑波は完全にブチギレた。

 

「こういうもの、何回も見たから何とも言えんな。」

ーーベコキッ!

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」

筑波は彼を殴ろうとした、しかしその腕が届く前に彼はそれを掴みそのままあらぬ方向に捻じ曲げてしまう。幾ら鍛え上げの軍人とはいえ筑波は所詮人間という生物の域を抜け出でてはいない、対して彼、リヴァイアサンごと海神智史は霧のメンタルモデル、それも常に終わりなくペースを上げて進化をし続けている懸絶した力を持つ超規格外の化け物なのだからこれはどうしようもない。

 

「さて、いつか私に復讐したいか?私をいつか必ず殺したいか?」

「ああ、いつか必ず殺してやる!」

「そうか、ではその勝負をいつかではなく、今やろう。筑波貴繁の様に私に挑み、勝ったらお前達が受けた扱いの悪さを私が引き受けるとしよう、無論負けたら徹底的に叩きのめして死んだ方がマシなぐらい栄誉も何も地に落としてやるよ。」

「ぐ…、好き放題言うな、ケダモノ!」

「ほう、吠えるだけか。今のは条件の厳しさのあまり真剣になれず躊躇している事の裏返し。『保留する』事こそがお前達の本質。即ち今のお前達の怒りは偽り。

お前達は死ぬまで純粋な怒りなんて持てない、ゆえに本当の勝負も生涯できない。つまりお前達は死ぬまで保留するビビリ虫だな。」

「「…………。」」

苦悶の表情を浮かべ悶える筑波を尻目に彼は艦娘達の方を睨みつけるように再び見つめ、復讐をしたいかと問いかけ、そして負ければ命や名誉を失うリスクを伴う真剣勝負を叩きつけた。凄まじいリスクなので彼女らは思わず保留という本音が出てしまう。

 

「とここまで言いたい放題言っても所詮は口だけの低俗で終わり…。今、実力で全てはっきりと決めようか。」

「やめて!」

「おい、やめろ馬鹿!」

彼は手元にキングラウザーを取り出すと艦娘達をその場でとっとと斬り捨てようとする、イオナと杏平はそれを慌てて制止しようとする。

 

「落ち着け、リヴァイアサン。一理あるとはいえ今の貴様の言動は虫ケラの心を深々と抉り、傷つける。」

「フィンブルヴィンテル…。」

「ここはどこだと考えている、幾ら敗者とはいえ奴らは401とその仲間にしてみれば大事な存在だ、皆殺しにしたら彼らの心に深い傷が付く。」

「ヴォルケン…。」

「リヴァイアサンを一旦外に連れ出すぞ。今の状態の奴は何の刺激も与えないほうがいい。」

「了解した、幾ら憎くても今のお前の発言は正論だ。海神智史をあのまま放置すればここは見事な血の池地獄になりかねない。」

幸い偶々その場を通りかかったフィンブルヴィンテル達がその場を鎮めた為に智史は暴走しなかった、彼はフィンブルヴィンテルと共に部屋を退出した、彼が出て行ったことにより緊迫した雰囲気は消滅していく。

 

「モンタナ、彼らの処遇はどうする?」

「そうね、智史さんの意見も無視出来ないわ。」

「どういう事だ?」

「『艦娘を助ける事など所詮自己満足。問題はその自己満足をどういう風に軋轢なく自分達の発展につなげるか。身を滅ぼすのも彼らを増長させるのも、共存するのも全て自分達次第』って私に言ってたわ。

つまり人間の言葉で言う私益公益論と私悪公益論、私益公悪論と私悪公悪論の問題ね。理想なのは私益公益論だけど。」

「しかし艦娘達がクズではないとは完全には言い切れないからな…。それに今回の彼らは提督とやらに依存しているフリをして実はうまく騙して利用していたと海神智史は話していた。」

「智史さんが言う様に全員滅ぼした方が賢明かしら?」

「それは行き過ぎだが…、直ぐに信用出来る者達とは言えないな…。そもそも、海神智史がこうも暴れなければこういう事態にはならなかったのだが…。」

「でも私達には智史さんを止める程の力は無い。前よりは強くなってるけど、彼はそれさえ帳消しにするような懸絶した勢いで強くなってるわ…。」

「外の世界へと旅をする事自体を悪く言うつもりはないが…。こうも凄まじい暴れっぷりが伴うのでは、我々霧に対する誤った評価が定着しかねないぞ…。」

「『お前達がリヴァイアサンを他の所に押し付けた』という風評もかしら。私達は彼を別に押し付けてなどいないのに。」

「お前達がリヴァイアサンごと海神智史を管理しないから自分達が滅茶苦茶な目に遭ったんだという考えも出て来そうだ、幾ら私達に無理な所があっても、これには一理あるからな…。」

ヴォルケンはそう愚痴を思わず呟く、風評は気にし過ぎても良くないが、かといって気にしないのも問題だった。

リヴァイアサンもとい智史があちこちで好き放題暴れ、破壊、蹂躙、暴虐非道の限りを尽くしたせいで、霧に対する何らかの負のイメージが付きまとっていたからだ。

そんな感じで彼女達は悩む、そしてフィンブルヴィンテルと共に退出した智史はーー

 

「これは、スラム街か?」

「一応、貴様に破れ放り込まれた者達が霧という下衆共の庇護下の元保護されている区域だ。貴様も一応、『霧』である以上貴様に処遇を押し付けたら『霧』の評価を暴落させかねないとの判断でここが建造されたそうだ。」

二人の視線の先にあったのは、急遽建設されたスラム街ならぬ彼に滅ぼされた世界に存在して居た異邦人達の居住区の一つであった、そこは彼らに対する衣食住は保障されているものの雇用問題を始めとした待遇に対する不満や元いた世界とこの世界のギャップや思想の違いから一部が暴発し頻繁に犯罪や抗争を引き起こし弱肉強食の掟が成立し暴力と恐怖が全てを決める場所に変えてしまった為に治安が極めて悪化していた場所だった。

当然、弱い者より弱い者を虐げ、そしてその者はより苦しむという世紀末のような有様がここには存在した。

 

「暴落するから?保護という形で何も働かせず、ただおまんま食わせるだけだったら、維持も手間暇かかるだろうに。むしろこれで管理が出来なければ更に大暴落だ。そもそもこういう状況が生じている原因は私だから私自身がどんな形であれケリをつけるべきだ。」

「リヴァイアサン、その考えはよく分かるが貴様のやり方は極端過ぎる。だから本来貴様が負うべき負債を奴らがあえて背負う事になっているのだ。」

「まあその通りだがな…。おや?」

智史は自身に向けられた視線の元に目を向けた、そこには彼に敗れ自分達の世界を滅ぼされたウルトラマンや仮面ライダーの世界系の住民達がそこに居た。

 

「わ、海神智史だ…‼︎」

「こっちに、気がついた…。わ、笑ってやがる…‼︎」

「に、逃げろ、本当に殺されるぞぉぉぉぉぉ!」

「貴様、余より遥かに強そうなあの超人どもをここまで震え上がらせるとは、一体どれほどの事をしたのだ?」

「武器火器を撃ちまくり吹っ飛ばして氷漬けにした後にブラックホールで一切合切を消滅させてやった。この他にも世界をたくさん滅ぼしている、数は一応覚えてはいるが、口に出しても貴様には訳が分からん数だろうな。」

「なるほどな…。だがここまでやったらそれを警戒する者達が出てこない訳がない。」

「その通り。現に世界系を守護管理する者達とやらが私を始末しようと色々と策を仕組んでいる。フィンブルヴィンテル、私も貴様にもそこと繋がりがあるぞ?」

「繋がり?余と?何の繋がりなのだ?」

「貴様自身の出生元だよ。誰に造られたのかという事。」

「生まれ?そういえば、余はーー」

フィンブルヴィンテルは智史に自分は何処から生まれたのかと訊かれ少し悩む、そして言葉を繋ごうと次の言葉を出そうとした時ーー

 

「きゃぁぁぁぁぁ!」

「何だ?叫び声か?」

叫び声が聞こえた、ここからさほど離れていない場所で。

少なくとも異邦人達の居住区の中からではないが、その近くであることは間違いなかった。

 

「この続きは後で話すとしよう、今はその叫び声が気になる。」

「嫌な…、予感しかせぬな…。」

その声が気になった智史はその声が聞こえた方へと歩いていく。

 

「蒔絵を、離せ!」

「ふん、離すかよ。手元にある金を出さなきゃこのガキの命はねえ。」

「く、くそ…。ここは市街地だからといい気になりやがって…‼︎」

そしてそこには仮面ライダーや超人達が複数人ーー通称超人強盗団が蒔絵を人質に取り思うように実力を振るえないハルナとキリシマを甚振り金を要求する光景が存在していた。

 

「これは、強盗団か…。」

「私に襲われた者達の一部が、様子見とはいえ私がヤマトや群像の言いつけに従って大人しく何もしない事をいい事に好き放題に暴れているという目に見える事象の一つ。」

「なるほどな…。しかしその理由の中には貧困もあるぞ…。」

「そうだな。他には教育や思想の問題か。私は白黒思考型の実力・武力による統治を主とする覇道に基づく政治を好むのに対してヤマトや群像は仁徳による統治を主とする王道に基づく政治を好む。白黒思考による実力・武力による統治は乱を沈めるのには最適だが同時に一時的とはいえ凄まじい恐怖と絶望を撒き散らす。そしてそこに安らぎは無い。だからさっき貴様が言ったように大人しくしていろという事になったのだ。」

智史は『大人しくしていろ』という理由を解決の仕方の違いやその根底にある考え方の違いも含めてそう呟いた、自分は覇道に基づく解決方法が主流なのに対してヤマトや群像は王道に基づく解決方法が主流という違いがこの理由の主であると考えて。

 

「何だ、お前は…。海神智史か…。」

「聞いたぞ、ヤマトの犬め。今ここで手を出せばヤマトの機嫌を損ねるぞ。」

「………。」

彼は『ヤマトの機嫌を損ねる』と自分に感づいた彼らに脅される、彼は答えを返さなかった、しかしそれはヤマトの機嫌を損ねる事を恐れていた訳ではなかった。

 

「どうした、ヤマトとやらの機嫌を損ねたくないと怖気付いたかこの腰抜けめ。だがもう遅いわ!」

「生徒会とやらも思うように動けず、裁けない今、俺達は好き放題よーー‼︎」

だが彼らはこれを『ヤマトの機嫌を損ねる事を恐れている』と解釈したのか調子付いて騒ぎ立てる、彼を臆病者と罵るように。

 

「“智史、貴方に制裁を一任すれば極論を出しかねません!”」

「“君に全てを一任したらちょっとした事でもみんな壊しかねない程の惨劇を引き起こしかねないんだ。”」

だからといって緊急時でも他者に判断を任せてその時まで何もせずうじうじとしていろと?

現にヒエイ達生徒会が半殺しにされる事件が目の前で起きたのに。

愚かな。馬鹿すぎる。

それでも敢えて私は従った。

何故か?

お遊び感覚とはいえ一度引いてヤマトや群像達の力量を見極めるのも勿論のこと、怨みを溜めて気に入らぬ者達を徹底的に叩き堕とすためだ。無論ヤマトや群像達の力量が優れ私が怨みを存分に貯める環境が生じなければそこまでだが。

そして念の為言っておくが気に入らぬ者達にはヤマトや群像達とその仲間達は含んでいない。一応『仲間』である以上敵対しない限りは手を出す気にはなれない。

自分で墓穴を掘るとはな。ヤマトや群像の命令にあえて従い溜めに溜め続けた怨みをぶち撒けるには絶好の機会だ。

さあ、その怨みをぶち撒けるか。

彼はその罵りに対しこう内心で本音を呟いた、これまでの極端な所業の影響で制裁権を取り上げられ制裁に許可が必要になったのは分からぬまでも無いが、ごく数日前にヒエイ達霧の生徒会が異邦人の犯罪者達に半殺しにされかけ現時点で行動不能になってもなお許可を得なければ制裁ができないのか、と。そしてそれを呟き終えるのとほぼ同時に彼は右手にキングラウザーを取り出して斬りつけた。

 

ーーザシュッ!

ーーババババババシュッ!

「グハッ!」

「さ、智史⁉︎」

「そろそろぶち撒けよう、我慢の代償として溜めていた怨みを。

これよりこの世界のルールに従わずに他の者達に害を撒き散らしている異邦人達を全て嬲り、塵殺する。」

彼は次の瞬間超人強盗団のメンバーの一人を無惨なまでに切り刻んでいた、そしてルールを守らない異邦人達を殲滅すると宣言する。

 

ーーバシュ!

「ヒイッ!」

「本当に、殺りやがった…‼︎」

ーーズバズバズバ!

「ギャハッ!」

「やめろ、一体何を考えている‼︎」

「お前には総旗艦ヤマトからの制裁許可が降りてないというのに!」

「構わん。私には元からヤマトの命令に盲目的な程忠実に従う気など無かった。そもそもこいつらは私が玩具として取っておいた者達だ。だから私は鬼畜だし畜生だ。霧の評判を穢すほどに外道だ。そういう訳で手を汚しても何も痛まん、既に手を何度も何度も数多、汚している故に。アドミラリティコードやら命令やらに違反しても構わん。

いずれにせよ何もせずただ指咥えていれば私はおろか、ヤマトもお前達も更に軽視される事になろう。極端な手段でも元凶一切合切を解決出来れば問題は無い。徳を汚す事を恐れるあまりに表面をどうにか取り繕うという姿勢で物事の根本が解決できる方がおかしい。

幸い私という鬼畜外道がいるからその問題は解消出来よう。ヤマトや群像達は王道のままで居てくれればいい。私を命令違反を犯した外道と罵れる立場でいればいい。私は私自身が望む道ーー外道に等しき覇道を貫くだけ。」

「な…。命令違反は最初から決めていたのか‼︎」

「そうだ。そして外道と罵り穢れた私を切り捨てれば霧は穢れなくて済む、ただそれだけの事。」

「(正気か、奴は…‼︎何れにせよこのままでは…!)」

彼の心の本音を直に聞いたフィンブルヴィンテルは衝撃を受ける、しかし覚悟は兎も角、彼、海神智史の暴走が始まった事はフィンブルヴィンテルは同時に確信していた。彼に世界を滅ぼされた者達の一部が悪業を起こしたせいで彼の暴走に拍車が掛かってしまった事に。勿論暴走する理由の中に彼がヤマト達や他の仲間達の事を自分なりに考えている故の結果も含まれていた事は理解していたが。

 

「行け、蒔絵。ハルナとキリシマの元に。これより私は玩具を嬲り喰らう悪鬼となる。」

「でも、この人達は、あなたに、お家を奪われた不幸な人達だよ…?そしてその上に更に不幸を振りまいて、本当に後悔しないの…?」

「甘い。家を奪われたから、玩具にされたからという理由で強盗や窃盗が許されると?笑かすな。そんな免罪符が罷り通ればそれこそ更なる不幸がばら撒かれるわ。そんな輩を法の実効性を保つ為にとっとと根切りにした方が不幸が少なくて済む、だから。

フィンブルヴィンテル、ハルナ、キリシマ。周りの者に私がヤマトの命を破り法に従わぬ一部の異邦人達に対し見せしめとしての殲滅行動に乗り出した事を早く伝えろ。非難は許しても気が済むまでの間妨害は許さぬ、奴らと同様と見做して法を破る事に対しての見せしめとして徹底的に撲滅するという事も加えて、な。」

「見たか、今の奴を下手に刺激すれば火に油を注ぐような事態になりかねない。

ここは奴の言う通り周りの者に知らせねばならぬ。特に奴の側にいるあの女ーー天羽琴乃には。」

「了解した、やる気満々の智史に手を出せばこちらに火の粉が降ってくるかもしれない。あいつを止められるのは琴乃ぐらいだ。」

フィンブルヴィンテルとハルナ、キリシマは彼の言葉を聞いて蒔絵を連れて立ち去っていく、スイッチが入ってしまった智史を多大な犠牲を出してでも止められるなら兎も角現実は全く止められないので周りの人間に知らせた方がマシという考えが彼らの中で共有されていたからだ。

その光景を静かに彼は見届けると残りの超人強盗団のメンバーを凍りつくような眼差しで見つめた。

 

「に、逃げろ、逃げろぉぉぉぉ!」

「そうだ、逃げてみろ、逃げ切れるのなら…。」

その瞳に籠った殺意を彼ら超人強盗団の残りは敏感に察したのか、蜘蛛の子を散らすようにこの場から逃げ出そうとした、しかし彼はすぐさまクラインフィールドの結界を展開して彼らを強引に拘束する。

 

「あわわ、あわわわわ…。」

「てやっ!」

「うわぁぁぁ!」

ーーバンッ!

「もう抗いもしないか。飽かせないでくれ。」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

ーーバシャッ!

そのクラインフィールドの結界は彼の日頃の進化研鑽のお陰か、殆ど労力を使っていない程度のものとはいえ、途轍もなく硬かった、彼らの必殺技、合体技も悉く簡単に弾き吸収してしまうほどに。彼は死に物狂いの抵抗も全く意に介さず、狂気に満ちた笑みを浮かべ、その残りを一人、また一人と嬉しそうにキングラウザーで斬殺していった。

 

「いくら玩具とて、秩序を守らぬ者はこの世にはやはり要らぬ。せめて心地よい末魔を奏でる道具となれ。」

そして彼はその異邦人達を悉く惨殺すべく次々と兵器、兵隊を次々と生成し始める。

 

「始まったか…。どうする?口頭で知らせながら行くか?」

「概念伝達を使うぞ、口頭や人間の言葉で言うSNSを使うよりはこちらの方が貴様ら霧にしてみれば情報の拡散が早い。使えるものは使え。」

その光景を遠くから見ていたフィンブルヴィンテルは概念伝達を使った方がより情報の拡散が速いと提案した、かくしてフィンブルヴィンテル達は智史が暴走を開始した事を概念伝達で拡散し始めるーー

 

ーーほぼ同時刻

 

「わかった、直ちにヴォルケン様に伝える。」

 

ーーガチャ!

 

「ヴォルケン様、一大事です。」

「何事だ、シャドウ。」

「フィンブルヴィンテル、ハルナ、キリシマから概念伝達で知らされたのですが、たった今、リヴァイアサンが兵を生成して異邦人達の殲滅に乗り出したとの事です。」

ヴォルケンの直属の部下の一人、シャドウ・ブラッタが入室してきた、会話を見る通り彼女はフィンブルヴィンテル達からの智史が独断で排除行動に乗り出したという概念伝達の内容をヴォルケン達に伝える為にここに入室したのだ。

 

「何だと、それで原因は?」

「は、大戦艦ナガト元配下のハルナとキリシマが刑部蒔絵と共に買い物の帰りの最中、強盗事件に遭った模様。偶々現場近くを通りかかったリヴァイアサンによりその犯人は確保、いえ、殺処分されました。」

「つまりその犯人が、またも異邦人だったという事か?」

「はい、リヴァイアサンに故郷を破壊され、ここに保護されている異邦人達の一部がここ最近、支援不足による極貧生活に基づく頻繁な強盗事件や思想の違いから抗争を頻繁に引き起こしています。」

「その強盗事件や抗争に我々の仲間や人間達が巻き込まれ、異邦人の保護に対する抗議も来ているという事実も存在している。そこだけ見ればたとえ私利私欲とはいえど、海神智史の排除行動も理解できなくはない。」

「ですが我々の施策に対する理解を示し、同化を始めている者もいます。」

「そうだろうな、海神智史も現に、自分が関心や好意を持っている者とはいえ、一部の異邦人に対する支援も行なっている。

しかしそれはあくまで海神智史自身が関心や好意を持った者でしかない。恐らくその排除行動はそれ以外の者、我々のルールに従おうとしない者だけでなく奴が気に入らない者に対しても行われるだろう。シャドウ、それで大体あってるか?」

「はい、奴が気に入らない者の中には我々にしてみれば消したら消したで政治的悪影響を与えかねない者達も僅かながら居ます。彼らがいるからヤマト様は敢えてその張本人たる奴に任せなかったのでしょう。」

「義務感や責任感はあるだけマシだが…。それが徹底した白黒思考のせいで少なくとも我々にしてみればマイナスの方に働いてるな…。」

「保留というものを奴に持って欲しいということでしょうか。ただ奴の言う通り、うじうじと判断を先延ばしするのも如何かと考えます。」

「そうだな…。概念伝達でこの情報が拡散されたという事は、ヤマト様はこの事を知られているのだな。」

「ええ、まずは奴の出した兵の排除対象に対する排除行動を直に妨害するのは控える様にと命令を出されています。但しそれ以外に被害が拡大する様ならば阻止行動に移しても構わないと。」

「言うことは簡単だが、いざやるとなると難しいな…。奴の機嫌を伺いながら、法を破った者達以外の異邦人達を守らなければならないのだから。何処から何処までが『悪党』と『それ以外』を分ける境界線なのだ?奴の考えの様に世界が白黒はっきりしていたらそんな苦労などしなくて済むのに。」

「今は、やれる事をやりましょう。何もしなければ奴の好き放題です。」

シャドウはヤマトからの命令に関する事で悩むヴォルケンに何もしないよりはまだマシと進言した、ヴォルケンはその進言に首を縦に降る。

 

「奴が、リヴァイアサンが、私達を殺そうというの⁉︎」

「そういう訳ではない、ただ異邦人の一部が問題を起こしたせいで海神智史がそれに対する行動を起こしたというだけの事だ。」

「でも、あそこには、私達と同じく、彼によって仲間を殺された人達が…。せっかく仲良くなれて希望が芽生えたというのに…‼︎」

「リヴァイアサンのこれ以上の横暴を、専横を許す訳にはいかない…‼︎私達も同行させて!」

その話の内容をその場で聞いていた艦娘達は智史が行なっていることの詳細を知るや否や彼の凶行を、殺戮を許すわけにはいかない、同行させてくれとヴォルケンに凄まじい様相で食い下がる、しかしモンタナは彼女らの行動を冷ややかな目で見つつこれを遮った。

 

「横暴、専横…。智史さんのその行動を貴方達はそう捉えているでしょうけど、では智史さんはその行動を何故取ったか、分かるかしら?」

「もしかして、私達も含めた異邦人の一部が、問題を、起こしたから…?」

「そうよ。その問題で私達の仲間がどれほどの苦しみを味わったのか、分かるかしら?そもそも誰のおかげで居住区とやらに枕を高くして眠れている訳?」

「モンタナさん達も含めた霧の皆さん…、ですか?」

「その通りよ。幾ら智史さんが貴方達外の世界の住民達に暴力を振るったせいでその問題の遠因を作ったとはいえ、実際に問題を引き起こしているのは貴方達外の世界の住民達よ?貴方達を今の状態にした智史さんに一人で責任取りなさいと問題の解決を丸投げしていたら貴方達の命はとっくに無いでしょうね。」

「「「……。」」」

「まあ、智史さんに対する恐怖に駆られて智史さんを抑え込みたいという衝動は分からなくはないわ。ただ、その衝動に駆られて勝手に行動されたら彼らと同じく問題を引き起こした事になるわ。そうなるともう擁護は出来ないわ。智史さんの肩を持たざるを得なくなるわね。」

モンタナは今の現状を含めた物事を冷たく現実的に言い放った、恐怖に駆られていたとしてもそれはそれ、これはこれで破ったらもう擁護は出来ないと。

総旗艦ヤマトは群像達と協議し智史に異邦人達の処分を一任せずーー実際には玩具として確保した異邦人達をこの世界に放り込んだら一体どうなるか見極めたかった為に彼はあえてそれに従ったーー自分達の手で行う事を彼を除くすべての霧に命令した、しかしそれは同時に異邦人達の管理を行う際の負担が彼女らにのし掛かるように命令したという事でもあった。

そしてその負担は半端ではなかった、何せその異邦人達は彼に面白半分で滅ぼされた何万何億という数の世界系のあちこちに住んでいた元住民達なのだから。その中には当然のことながら彼には手に負えても自分達では中々手に負えない者達もいた。

何より彼女らには外の世界系の住人達に対する「経験」が無かった、それ故に本当に害のある者かそうでない者か見分ける為の十分な経験を体験していないままいきなり彼に世界系を滅ぼされた異邦人達を保護しなければならないという状態に直面しこれまでの経験とは違う水面下から表面へ次から次へと噴出してくる問題に彼女らは四苦八苦していたのだった。

モンタナの放った言葉にはこれらに対する愚痴が含まれていた。

 

「ヴォルケン、モンタナ…。」

「401、お前は艦娘達が勝手に行動しないようにその場に留まってくれ。彼女らが奴と下手に交戦すれば逆に奴に弾圧の口実を与えかねない。」

ヴォルケンはイオナにこの部屋にいる艦娘達が勝手に行動しないよう命令を出した、イオナはそれを了承する。

ヴォルケンとイオナは共にヤマトの指揮下に入っている上にまともに対立する理由が無い以上、本編のような敵対状態ではなかったからだ。

 

「行くぞ、リヴァイアサンもとい海神智史の暴走の拡大を抑制する。」

そしてヴォルケンはモンタナと部下達を引き連れ部屋を出て行った、これだけの騒ぎを起こせば彼女達が出てくるだろうという彼、海神智史の現実的なシミュレーションの結果通りに。

さて、その問題の居住区ではーー

 

「逃げろ、海神智史が攻めてきたぞぉぉ!」

「なんで、俺達までこんな目に遭わなきゃならないんだ!」

「一部の奴らが好き放題やりやがったせいで…‼︎」

智史が居住区に攻め入って来た事を知らせるサイレンが鳴り響く、そこにいた住民達は戦慄し慌てて彼から逃げ惑う、問題を引き起こした一部の住民達のせいで自分達がこんな目に遭わなきゃならないのかと喚きながら。

 

「おや?ここに私から逃げ遅れた者達がいるな。」

ーーバガァン!

ーーガガガガ!

「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

「うわぁぁぁぁぁぁ!」

 

ーードガァァァン!

ーースガァァァン!

「奴等の全てを奪い、壊し、悉く焼き尽くしてしまえ。殺戮が奏でる末魔を一時とし、より深く我が心に響かせる為に。」

智史は僕達を率い自ら陣頭に立ってその異邦人居住区に突入するや否や片っ端から蹂躙の限りを尽くしていた、彼の左手に握られているダネルMGLが火を噴くその度に随分と手加減されているとはいえ着弾した半径数百m以内には圧倒的な火力の嵐が吹き荒れ、抵抗する者達を、そこに存在していた交流の記憶も、幸せの記憶も、憎悪、憎しみと共に吹っ飛ばして耕していく。

 

「私の身はどうでもいいから、せめて子供だけは、助けて…‼︎」

そんな彼に近づく者は悉く戦場の塵にされるか吹っ飛ばされ動かぬ骸になるかが殆どであった、しかし運良く生き残ったのかあるいは予め狙いから外されていたせいか、手に赤子を抱いた若い母親が心身怯えきった表情ながらも彼に近づいて子供の命乞いをする。

 

「見逃す?ふっ、者として果たされるにふさわしき役目がそんなに嫌なのか?」

ーーザシュッ!

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!人殺しいいい!」

ーーバシャッ!

「子供を殺されその相手を罵りながら死ぬ…。なんと心に響く末魔か。」

しかし彼は冷たい眼差しでこれを一瞥すると次の瞬間には手元にあったキングラウザーで母親を子供諸共斬殺してしまった。

 

「奴等の女子供も悪業を止めようとせず関連するのなら全て同罪、骸の平原とせよ。」

彼は女でも子供でも悪党に関連する者ならば一切合切容赦せず、その破壊の意志を映すのかのように僕達も逃げ惑う者達共々と攻撃を次々と浴びせてホロコーストさながらの勢いで居住区の人間達を悉く殺戮していく。そしてその後には人なのか何なのか分からない程に形を留めていない無数の焼け焦げた肉塊や骨が建物の残骸とともに辺り一帯に散乱していた。その凄惨たる光景はまさしく、地獄絵図に相応しい有様だった。

 

「ははは、そうだ逃げ惑え、苦しみ、泣き喚き、喘げ。そして生を閉じるとよい…‼︎」

当然、地獄絵図と化したその居住区から逃げ出そうとする輩は出ないわけではない。こんな凄まじい有様だというのに寧ろ逃げ出さない輩が出ない方がおかしいのだ。しかし逃げ出そうにもそこは海神智史、彼は僕達を新たに生成して既に十何重にも包囲網を形成させていた。

 

ーーガガガガガガ!

ーーシャァァァァァ!

「うぎゃぁぁぁぁぁ!」

「おぁぁぁぁぁぁぁ!」

地上という地上を黒く埋め尽くす無数の戦車とパワードアーマーに戦闘兵器、空を黒く染め尽くす程に存在する無数の戦闘ヘリ、戦闘機、地上攻撃機、爆撃機。その分厚く精密無比な包囲網から徹底した統制とデータ共有による連携に基づいて浴びせられる無数無限の銃弾、砲弾、ミサイル、レーザーの猛射は容赦なく逃げ惑う住民達を捉え、吹き飛ばし、悉く形一つさえ無い屍へと作り変えていく。

こんな苛烈な攻撃、弾圧など今もこれからも進化し常人からしてみれば訳がわからない程に力を手にし過ぎている彼にしてみればお茶の子さいさいである。

やがて居住区からは壊すものも殺すものも全て無くなった、壊すものも殺すものもなければ地獄絵図は続かないので地獄絵図は自然と終息していく。

 

「ふう、清々しいぐらいにスッキリした。ぐちゃぐちゃだった街並みが軒並み吹っ飛ばされるとこうも広々となるのか。この程度朝飯前とはいえ、スッキリしてるのは気持ちいいものだ。

さて、この跡地、超大型の教育施設なりオリンピック施設や各種スポーツ、アスレチック施設に作り変えてしまおう。その方がよっぽど公益性が高いと考えるんだが。

まあそれはさておきとして、法破りの外道としての評がこれで存分に広まった今、私を外道、魔王と罵る者達が数多沢山と世を埋め尽くす。その光景を存分に喜び、そして誇るとしよう。」

広々とスッキリとした居住区だった跡地を智史は一瞥する、その彼の足元や周囲には先述したように何が何なのか分からない程に原形を留めないまだプスプスと黒煙を立てる無数の残骸が転がっていたか。

その視線に彼は琴乃を捉えた、フィンブルヴィンテル達が彼女に彼が暴れている事を知らせた為だ。

彼は気分を即座に切り替える。

 

「随分とやってくれちゃったわねぇ…。」

「琴乃か。こんな身勝手な事をしたらお前に嫌われるとは薄々と考えていた。私は責任のせの字さえ全く取ろうとしない欲望のままに蠢く外道という性分である故に。」

「責任のせの字さえ取ろうとしない外道と言ってる時点で無責任な人じゃないわ。それに智史くんがこうも凄まじい事をやった本人とはいっても、一概に智史くんが悪いとは言い切れないから。」

「ヤマトや、モンタナ達の、事か?」

「そうね。智史くんが半分お遊び感覚でこの世界に放り込んだとはいえ、彼女達が智史くんに世界を消された人々を保護するとか言わなければ智史くんに処刑されて終わりという展開でこんな事なんか起こらなかったのに。

しかし難しいね。今回の場合智史くんに処刑を一任したら霧という種族に対する誤った評価が定着するかもしれないし。そもそも智史くんが外の世界で憂さ晴らし感覚で大暴れしなきゃこんな事にはならなかったかもしれないし。」

「いずれにせよ私が霧という看板を背負っている一員であるゆえに、か。だが、不幸なき喜びは無い。喜びなき不幸も、また無い。それが現実。自分本位の幸せや喜びを掴む為に私は誰かを、何かを悉く犠牲にしていった。そうだからといって性格を変えてもまた同じ事を、偽善を繰り返すのかと考えるととても虚しい。ならばやる事は一つ、欲望、本能のまま暴れ、嬲り、壊し尽くすだけ。人格を変える事も、改心する事も謝る事さえも、私は止める。」

「要するに智史くんはもう同じ事、過ちを繰り返すのは嫌だから自分本位のままに行動するという形で『逃げてる』のよね。しかし『逃げてる』と指摘しちゃうと智史くんは『逃げた』自分自身を自虐自罰してしまって思い詰めてしまう…。では他はそうではないのかというとそうでもなくて、私もあなたも、形違えど根本的には傷つくのが嫌で傷つかまいと何度も『逃げてる』のよね…。」

「そうだな、そして矛盾、矛盾、矛盾…。まるで同じ展開のリフレインだな…。このリフレインは知能あるが故の宿命なのか、或いは自身の欲望が生み出した宿業なのか?私には分からん、どうすればいいのか、どこへ行けばいいのだ?いや、それらは全部自分で決めるべき事、か…。」

智史はこれまでの苦悩葛藤を思わず吐く、自傷自罰的な性格は相変わらず変わっていない。それは彼の心の感覚が過敏な故か、矛盾無き完璧を求めた故に生じた白黒思考が齎した結果か、或いは「絶対に正しい」道に生きる道理が何処の世界にも無き故に自由奔放に暴れまわった結果の裏返しか。

 

「海神智史を止めろー!」

「このまま海神智史を暴走させれば我々に明日はない!」

「あの男の暴虐無道を許すなー!武器を取れー!」

「我らにも生きる権利があるー‼︎」

む?下衆共か。負けて落ちぶれ『保護』されている身分の輩が権利の一つさえ勝ち取っていないのにそれを主張できるとでも?恐怖と衝動に駆られた単なる狂乱よ。だからこそ下衆共の狂宴は面白い。楽しんで楽しみ、次の瞬間には跡形も無く焼き尽くすまで。

「琴乃、下がっていろ。こいつらの狂宴を少し楽しんだ後、纏めて塵芥にする。」

「手加減、忘れないでね。」

「心得ている。」

そこへ精神的に追い詰められ半ば暴徒と化した他の居住区の住民達、それを侮辱と軽蔑の眼差しで彼は暴徒達を見つめると、彼らを纏めて巨大なクレーターにしてやろうと地中噴進型特殊弾頭地雷を瞬時に生成して構えた。

 

ーーザザザザザザ!

「そこまでだ!これより先は通さん!」

「おや、ヴォルケン達か。これから一時に激しく盛り、次の瞬間には跡形もなく沈むであろう仕組まれた狂乱の宴を鎮めに来たか。(まあ予測していたから大した問題では無い。これが続けば私以外の者達が被る不利益は莫大だからな。鎮めようと考えぬ訳がない。)」

その一触即発の状態を丁度到着したヴォルケン一行と武装した機動隊が間を裂くようにして遮った、彼のテンションはそれを遮られた事により下がる。

 

「何故海神智史に味方するー!」

「統合政府はあの男の暴挙を許容し、我々を弾圧するというのかー!」

「海神智史の暴挙を許容するかどうかは兎も角、ここは通さん!即刻立ち退け!さもなくば実力行使に踏み切る!」

「あの男に惑わされ魂を売り、我々を斬り刻むというのか、この外道どもー!」

「そうだ、暴力反対ーー‼︎」

実に下衆らしい様だな。これに直面したヴォルケンがどんな態度を取るか言うまでもない。まあお節介かもしれないが万が一ヴォルケンがしくじった際に備えてバックアップは取るか。

彼への道を遮られ怒りの行き場を失った暴徒達は今度はヴォルケン達に怒りをぶつける、既に自分達がルールを破った事に気付かないまま。

彼はその様を見てヴォルケンは警告として一人なり誰か斬るだろうと推測する、現に暴徒の一人がヴォルケンに詰め寄ってきた。

 

ーーザンッ!

ーードシャッ!

「既に暴力を振るおうとルールを破っている者が暴力を自分達に振るうなと勝手に主張するな!これは通告だ、それでも進もうというのならば全員斬り捨てる!」

「あ、ああ…。」

「逃げろ、逃げろぉぉぉぉ!」

彼の予想通りヴォルケンは実力を行使してでもここは通さないという意志が本物であると示す為に実力行使としてその詰め寄った暴徒の一人を容赦なく斬り捨てた、暴徒達は次は自分達が先の者と同じ目に遭うのではないかと恐怖し蜘蛛の子を散らすように我先にと逃げ出した。

 

「リヴァイアサン、ここまでです。これ以上の独断行動は総旗艦代理が許可されていません。」

「潮時…か。400はそう言っているのか、402?」

「そうだ。法を破る者達への見せしめとしては有効とはいえ、あなたの『制裁』という名の欲望のままの暴走により既に多くの犠牲や混乱が出ている。」

「有効、か。私の独断行動はそんな側面もやはり持ち合わせていたか。」

「結果は良かれど、独断行動は独断行動です。総旗艦ヤマトや私達の方にも非はあれど、あなたも独断で制裁に踏み切るという形で非を犯しました。あなたには然るべき処遇が総旗艦より下されるでしょう。」

「承知。所詮従うからには然るべき処遇を受けなくてはならない。その事も理解した上でこの独断行動をやったからな。」

そして彼は400と402に連れられこの場を後にした。

この後、彼、海神智史には独居房で3ヶ月謹慎という処罰が下された、命令違反並びに彼自身が気に入らない者達を独断で始末しようとしたことへの罰を含めて。当然彼は一部の異邦人達から鬼畜と罵られた、それに彼は望み通りだと満足気に微笑む。ただしパワーバランスの関係上、霧の艦隊から永久追放されることは無かったが。

謹慎の間、彼は過去と未来を見つめ、自己進化・研鑚を、そのペースを猛烈な勢いで早める事も今も続けつつ、こう思惟に耽っていた、

「今の自分はこの事件に対しどう『責任』を取るべきなのか」

と。

彼はこの事件に対し一定の反省をしつつも、自分なりに同じ事件を繰り返さない工夫をする、それが今回の事件の「責任」を取る事だと考え込んでいた。まあ欲望のままに生きる性分なのでその考えが活かされるかは分からないが。

 

「シュルツ少将、彼が海神智史ごと霧の究極超兵器 超巨大戦艦リヴァイアサンのメンタルモデルです。」

「ウィルキア海軍少将、ライナルト・シュルツです。」

「海神智史だ。シュルツ少将、私がヴァイセンベルガーをボコボコにして貴官達の元へ宅配した件の話でここに来たのか?」

「ええ、ヴァイセンベルガーを滅茶苦茶な様にしたとはいえ、貴方が我が国のクーデターの主犯、ヴァイセンベルガーの逮捕に貢献した人物である以上、何かしなければと思いここに来ました。」

そんな謹慎の最中、ライナルト・シュルツウィルキア王国海軍少将が琴乃とイ400立会いの元、彼の元を訪れた。

「悪ふざけもやり方次第では『善行』に結びつくこともあるのだな。それで、私に何をしたい?」

「はい、国家転覆並びに世界征服を企てた主犯なので特一等感謝状と報奨金を服役が終わった後、貴方に出そうかと。」

「報奨金?それはウィルキア王国関連でしか使えない現金か?」

「いえ、そんな事は…。」

「もしそうだったらやめておけ。使う必要性がないならただ紙切れや資源以外の価値はない金属の礫を増やすだけに過ぎん。兌換性があるものにしてくれないか?」

「兌換性、といいますと…。」

「そうだな、金か、銀だな。好きなだけ報奨金の代わりとして価値相当分出すがいい。まあ出さなくても良いがな。金や銀、作ろうと思えば幾らでも作り出せるのでな。」

彼はそう言い終えると金銀の山を生成し始める、それはみるみるうちに12畳の部屋の床中に広まり、金銀の海となってシュルツ達を埋めていく。

 

「………。」(築き上げられていく金銀の海を目の前にして言葉が出ず唖然としている)

「そこまでです。シュルツ少将が顔を引き攣らせています。」

シュルツはこれを見てみるみる顔を青くし冷や汗を吹き出す、この能力が下手に振るわれれば経済バランスがあっけなく崩壊してしまうという『一般』的な考えが彼の頭に浮かんだからだ。400はそれを見計らってか、話の流れから大分ずれている事をやっている、もういいぞという表情で智史を制止した。

 

「シュルツ少将、彼は規格外の性能を有した霧のメンタルモデルで、滅ぼそうとその気になれば国ひとつやふたつ、簡単にひっくり返し、下手したら指先一つで星や世界ごと根こそぎ滅ぼしてしまう事など朝飯前なんですよ。

この世界が外敵の襲来無く比較的平穏なのは皮肉な事に彼一人だけでその平穏を維持できているからです。

一見彼は格下な様に見えるんですけど実際は世界という名の彼に管理されたおもちゃ箱の中に私達が詰められているだけであり、刑罰に大人しく従ったのはこんな刑罰の状態下に置かれても全く問題ないからなんです。

従ってこんな騒ぎが起きたのは彼の管理能力に問題があったからではなく、実は彼が仕組んだお遊びです。問題を起こした異邦人達も所詮は彼の玩具でしか無かったんです。」

「彼にしてみれば多くの生命体はおもちゃ同然か…。ヴァイセンベルガーが、悲惨な目に遭って捕まるわけだ…。」

シュルツはある意味納得した表情でそう呟いた、実力を示された上で琴乃の先の説明が来るのだからこうならない筈が無かった。

 

「いずれにせよ気持ちとして受け取らぬ訳にもいかまい。そのぐらいの『善行』を行った事もあるだろうし。」

「あ、ありがとうございます…。」

そして結論として放たれた智史の『受け取る』という返事にシュルツは取り敢えずお礼を述べた、実力を見せつけられ半分ドン引きしていたが。

 

「そういえばシュルツ少将、貴官は天城と筑波に起きた出来事をご存知か?二人ともヴァイセンベルガーと同じく私の手により酷い目にあったのだがな。」

「あの事件のことですか?天城大佐の事で筑波教官が貴方に殴り掛かって返り討ちにされたという…。」

「その通り。そして貴官はそれをどう捉える?多分複雑な心境を抱いているというのが私の予想だが。」

「ええ…。天城大佐が我儘な引きこもり生活を送ろうとしていた事を考えても、玩具にして弄させるという処置はあまりにもやり過ぎではないかと…。」

ドン引きの表情のシュルツは彼にしてみれば中々滑稽で愉快だったが、彼はもう一押しとばかりに天城と筑波の話を振り出し、それに対するシュルツの反応を聞き出す、シュルツは“やり過ぎ”と回答する。

 

「やり過ぎか。それは貴官自身の価値観は正しいと主張したいという、無意識の内に出た“欲求”の一種だと私は思うのだがな。」

「いえ、そんなつもりは…。」

「“そんなつもりは、無い”と言いたいのか、その欲求は既に出ていたというのに?笑かすのは控えてくれ。

正しいは“都合がいい”という。つまり私の天城に対する行動が貴官自身にしてみれば価値観上の“都合が悪い”ものだから『やり過ぎ』という否定的な形で主張したのだろう?」

「……。」

「この世に蔓延る『正義』や『悪』は所詮“都合”でしかない。ヴァイセンベルガーの“都合”を力で制して勝利したからこそ、貴官達は自分達の“都合”を『正義』とし、ヴァイセンベルガーの“都合”を『悪』と声高に主張できているのではないのかな?」

彼はそれを聞いて杏平に放ったものと形違えど根本的には同一の指摘をした、あまりに本質を鋭く突いていたのでシュルツはグウの音も返せなかった。シュルツは『彼はとんでもなくヤバイ存在』という印象を渦巻かせながら400や琴乃と共にその部屋を退室する。

そんな感じの会話があった後、彼は3ヶ月の謹慎を終えた、反省の程度は形式的レベルなのだが。

対して問題を引き起こした異邦人達の一部に対しては毅然とした厳しい裁定が下される、彼の指摘した通り、いくら酷い目にあったからといってまた混乱を引き起こすのならば彼の独断制裁を無条件で許可とは行かなくとも世界の外に追放ーー霧のメンバーで世界系の外に追放できるのは言わずとも彼、リヴァイアサンごと海神智史たった一人であるーー必要ならば彼による直接制裁という選択肢も辞さないという脅しも含めて。

無論、それ以外の異邦人達に対しても、法を外れる事に対する脅しで有りはしたが。ただ智史が好き放題にこの世界を他化自在に捻じ曲げる『絶対神』に等しき圧倒的な立場にあり半ばやりたい放題に動いている今、果たしてその裁定に重みはあるのだろうか?何れにせよ彼がいる限りそれは脅しとしての効力はあるのだが。

 

「もう異邦人達をおもちゃ感覚でこの世界に放り込むなよ、智史。」

「懲り懲りか。なら良かった。外の世界から持ち込む事さえ控えれば、お構い無く外の世界の者達をおもちゃにして嬲れるな。」

「「「そういう事一つも言ってないよ!」」」

程なくして彼はまた外の世界へ旅という名の蹂躙劇をしようと旅支度をしていた、その際にキリシマに外の世界の人間達をおもちゃとして放り込むなと言われ、それに対しこの世界にさえ放り込まなければあとは好き放題でいいのだなと返事をした、そしてそういうつもりは無いと彼は皆に突っ込まれる。しかし半分好き放題も混じっているとはいえ、霧の中で外の世界に対する経験を最も多く積んでいるのはリヴァイアサンごと智史である以上、あまり深く突っ込めはしなかった。

さて全ての支度が整うとリヴァイアサンは機関を唸らせて出航する、膨らみ続ける彼の欲望を満たす為に新たな犠牲者が生まれる運命が今回も確定してしまったのだった。




おまけ

おまけ話の内容について
当初は智史が皆を守る為と称して異邦人の無法っぷりを止めるべく独断行動を起こすコンセプトの話であったもののいざ執筆してみたら内容に不満が生じた為に智史に大物感を漂わせつつ強者の都合に周りの人物達が振り回されるというコンセプトに切り替えて執筆。

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