海龍のアルペジオ ーArpeggio of LEVIATHANー   作:satos389a

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今作は前作の終わりで僅かに描かれていた艦これの世界系への侵略が行われます。
アンチヘイトらしく悪意的な扱いをしている(作者である私自身が萌えをすごく嫌ってます)とはいえ、艦これのゲームシステムについて色々と考えてみました。
今の世界は現代兵器が主役であり、こんな少女達が主役として戦う世界ではないと思います。
なのでどうしたら彼女達が主役になりうる世界が出来るのかを非常に悪意的ですがゲームシステムの設定も取り込みつつ現実的に描いてみました。
それでは今作もお楽しみ下さい。


第55話 兵器とは何か

「ベヒモス様、奴らは我らに監視されていることもお構いなくこの世界でも我が物顔で暴れておりましたな…。単純な剛力だけの馬鹿なのか、それともその事実を知っていた上で何か企んでいるのでは?」

「確かにな…。この世界でも急遽とはいえ我々は監視を行っている、そしてそのまま暴れてくれた事は嘘を確証、真実に変えていく…。それはある意味嬉しい事なのか、あるいは…。何れにせよライトマサルの件も考慮して交戦は避けさせ積極的な工作も控えたが…。」

「下手に手を出せばかえって奴による被害が拡大する可能性があるということがライトマサル様の例で示されましたからな…。ただライトマサル様は常に転がっているであろうこんな可能性を示される為に死なれたのだろうかと時折考えてしまいます…。」

「下手に、か…。戦略の一つや二つ変更する必要性が出てきたな…。今の戦略だと第二第三のライトマサルを生み出しかねない。同じ戦略はもう奴には通用せんだろう。

どうやら我々はどうやら世界系一つ一つをきっちりと守らんとする事にこだわり過ぎてかえって本質を読み違えたのかもしれん。」

「どういう事ですか?」

「奴による犠牲の拡大を防ぐ為に世界系の一つや二つ、もしかしたらなのだがこの残りの世界系全てをあえて犠牲にしようと考えている、奴を誘い込み、葬り去る為の算段として。」

「ま、まさか…⁉︎」

「至高神様には申し訳ないが、下手に形式に囚われて真っ当な対策も打てぬまま、これ以上の奴による被害の拡大を許す訳には行かんのだ。

あくまでもこれは最悪の中の最悪の事態だ、まあそうならないように事が進めばいいのだが…。」

「もし奴が我々の算段を知り尽くしていた上で行動していたらと考えるとその考えも単なる狂気の沙汰とは言い切れるとは考えられませんね…。」

「切り札もだいぶ形になりつつあるが…。何れにせよ油断は出来ないな…。」

あまり描写されていなかった出来事なのだが、実は急遽とはいえ彼らは鋼鉄の世界系に侵入したリヴァイアサンごと海神智史を監視していた、なのに彼は何処か悟っているような相も変わらず不敵な余裕に満ちた態度を見せている、そんな彼の態度にベヒモス達は何処かに不気味さと不安を徐々に感じ始めていた、嘘がどんどん確信に変わって他の世界のリヴァイアサンに対する抵抗機運を十分に煽り、反リヴァイアサン連合軍を結成できる状況だというのに、だ。

 

「急遽設置したとはいえ光学迷彩を施した機雷のトラップ網も悉く突破されています。」

「それも抜け穴を使わず、正々堂々と突破したからな…。あくまでも奴に対する時間稼ぎ、抑止が主目的とはいえあの機雷は一つ一つが先の奴のもの程でないにせよ数多の世界系を一瞬で跡形も無く吹き飛ばせる威力を持っている。

それにあのウイルスも撃ち込んだ直後という上でこの結果なのだからな…。」

「奴があの化け物からの発展体とはいえ、あの化け物の製造過程をベースにして開発された機能停止プログラムを組み込んだ腫瘍型ウイルスに対する異常なまでの高い抗堪性を持っているとは…、予想されていた事とはいえ由々しき事態ですね…。奴に対する評価を修正する必要があります…。」

そんな彼らをさておきとして、一方その頃。

 

「何だかんだでドカンドカンうるさかったな。まあお前はいつもの様に進化しすぎてて何とも無いから言う事はそれだけだけど。」

ズイカク、私の元となった生命体の製造過程をベースとして開発された癌のような働きをするウイルスとやらを撃ち込まれたが、事前調査のお陰もあるとはいえ、これにすんなりと対処できたばかりか逆に分解吸収して更なる強化の礎にしてしまった。そういう事実が成り立っているからこそお前は余裕でこう言えるのだがな。

勿論、ナマモノをギュウギュウと詰め込んだ輸送船団もまんまトラップに突っ込ませてもいい程に堅牢にし過ぎたからナマモノも無事なのだが。

ナマモノをゴキゴキと詰め込んだ輸送船団という容れ物の群れを引き連れたーーというかこれらは智史が作り出して使役しているものなのだがーーリヴァイアサンは艦これの世界系の外に堂々と出現した、先に示したベヒモスの配下達が急遽敷設した機雷群を強行突破して。

機能停止仕様の腫瘍型ウイルスーー自分の元というべきモノから生み出されたーーを撃ち込まれた上でこれらに輸送船団諸共真っ向から接触した訳だが先に示した通り最早やり過ぎをとっくに通り越したレベルの自己の強化・進化や超広範囲の情報収集による高度な複合対処により易々とウイルスを無効化した上で機雷群を一隻の撃沈も許さずに先に示した強行突破を彼は実行してみせた。

ただし彼には全く効かなかったとはいっても、その腫瘍型ウイルスは只の駄作という事は全く決まってはいない。そのウイルスは『チート』と称される兵器や生物ーー具体例として上げるなら、アストラナガンやイデオン、ゴジラ、鎧モスラかーーの能力を易々と封じ、消し去って弱体化させる事が可能な恐るべき力を持つ代物なのだから…。

 

「さっき、ナマモノ達を艦これの世界に放り込むとか言ってたけど、あれってあのまま放り込むの?」

いいところを突くな、カザリ。

話題を変えるかのようにカザリが話し掛けてくる。

 

「そのまま放り込むのは丸々無策だ、今のままでは深海棲艦や艦娘共を積極的に狙ってくれるわけでは無い。第一こいつらは深海棲艦や艦娘の事を一つも知らない。

まあ元で生息していた世界が奴らと相対する世界では無いからこれは仕方ないのだが。

なので品種改良も兼ねた徹底的な調教を行う。」

「調教?というか彼らを洗脳しようと企んでる顔つきだね…。」

まあその通りだが。

智史はそう言い終えニヤリと笑うと指を鳴らした、と同時にナマモノ輸送艦群の中のありとあらゆる部屋の中で突如としてまるで蛇のような艶みを持つ青黒いウネウネとした触手が無数出現してナマモノやおふざけ兵器達にまずはじっくりと力強く締め上げるようにしてまとわりつく、そして触手は木の幹から枝が分かれるようにしてこれまた無数と分裂しナマモノやおふざけ兵器達の表皮を食い破り、また穴という穴から食い込むように侵入し中でまた分裂して彼らの体内を彼の都合のいいように侵食しながら根をどんどんと伸ばしていく。それに伴って青黒い侵食が木の根がどんどん伸びるようにーーまるで霧の艦隊のバイナルの模様だったーー彼らの表面に現れていった。

 

「グェェ、グェェェェェ!」

「ミギィィィィィィィィ!」

「そうだ、いいぞ…。もっと苦しめ、もがけ、喘げ…‼︎」

「キィィ、キィィィィィィ!」

「ナマモノという名前や記憶、プライドに縛られるお前達自身を、振り払い、破壊しろ…‼︎」

「グェェェェェ!」

「ウギィィィィィ!」

「そうだ、破壊しろ、何もかも…‼︎ただ単純に、破壊の為の力だけを求めるのだ…‼︎」

ナマモノ達はその侵食に対し苦悶と凄絶さに満ちた悲鳴を次々と上げていく、追い出そうにも今の、それ以上の凄まじい力で侵食され、体を彼のいいように蹂躙されていくのだから無理もない。

しかも悪趣味な事に彼はあえて凄まじい苦痛をじっくりと味わせる為に「意識」や「感覚」の侵食は後回しにして先に身体のありあらゆる部分の侵食を徹底しているのだ。

 

ーーズチュルルル!

「この侵食はお前達に対するフィニッシュだ…。あと一刺しで、お前達の全てが絶たれる…‼︎」

やがて身体のありあらゆる部分の侵食も終わった、それを示すかのように彼らの身体の至る所に木の根のように青黒いシミのように滲んだ侵食痕が痛々しく全身に現れている、そしてフィニッシュとして彼は「意識」と「感覚」の侵食を開始した、彼らの頭部に木の根のような侵食が伸びて更にえげつない事に中には目を突き破ってそこから触手がウニョウニョと伸びてまた別のところを食い破り侵食するという光景を現出したナマモノもいた。ナマモノ達は自分が自分で無くなっていく、「自分」というものが消滅していくという感覚に容赦無く恐怖させられていく。

 

「グェェェェェ…‼︎」

「ゴギィィィ…!」

「怖いか、この一撃で一生も、記憶も、何もかもが絶たれるのが、怖いか?

心配するな、もう迷うことは無い…。お前達の運命は、既に私の手の中にあるのだから…‼︎」

「コベッ、ゴベェェェ…。」

「ふふふ、それでもナマモノで在りたいか…。どうやらお前達は大事なことを忘れているようだな。ならばお前達ナマモノは何の為に生み出されたのか冥土の土産として教えてやろうか?

 

お前達はその創り主にナマモノそのまんまとして生きる為に生み出されたのではなく、破壊衝動をこの世に具現化し、破壊を撒き散らす為の道具ーー兵器として生み出されたのだ。

 

要するにお前達はナマモノである以前に兵器ーーすなわち破壊の為に生み出されたのだ。兵器の本質は破壊…、ナマモノというただただ下らんモノを維持する為ではない。兵器はありあらゆるモノ全てをただ破壊するだけにあるのみ。」

「ゴエ、ェェェェ…。」

ーーブシュッ!

 

「あ〜りゃりゃ…。こりゃ随分と酷いねぇ…。」

カザリはこの侵食、というよりは洗脳劇の一部始終を見ていつも通りに酷いなというスタンスも込めて言う、そんなカザリの反応に同意するかのように彼は呟く、

 

「こいつらは今、私の手に落ちた。」

と。

 

「さあ、ナマモノの改良も終わったし、地獄絵図に満ちた饗宴を始めるとしようか…。」

ーーオウミ、モンタナ、イオナ、ヤマト…。これから私の手により艦娘や深海棲艦に対して引き起こされる地獄絵図を、お前達はどう捉える?

艦娘、深海棲艦全てを『紛い物』と言い放ち罵り、破滅と絶望を与えるーー

それを今まさに行おうとしている前に、彼はふと前世では戦艦大和の姿を模した艦娘だったメンタルモデルオウミの事を思い出す、それを見たら彼女らはどう思うのだろうかと思考の海に耽ってしまう。

 

…少なくともいい思いはするまい、しかし当然の事ながら自分達と同じ世界の種族でもないが故に自分達の事でもない、当然怒りもするまい、どうやら彼女らの胸中に渦巻くのは複雑な気分だろう…。

 

彼はそう考えてしまう、それに伴い罪悪感も心の中の何処かで渦巻く。

しかし中途半端で物事を勝手に終わらせてしまう事は当然の事ながら彼が骨の髄まで忌み嫌い、もしそうしたらそれを上回る後悔に襲われてしまう出来事なのだ。

そのいい例がワンパンマンの世界での出来事であった、中途半端で終わった事は他の存在にしてみればある意味いい事だったが彼にしてみれば最初に決めた事を曲げられた所もあって強い後悔と自責が渦巻いていた。

彼はその罪悪感を意識しつつもそれに囚われないようにと行動を開始する、艦これの世界系の外に居たリヴァイアサンは侵略を開始するかのように艦これの世界系の壁を無理矢理と食い破って艦これの世界に堂々と侵入する。

 

「ア、アレハ一体…‼︎」

「忌々シイ人間ノ…、船デハナイ…‼︎」

驚いているか…、だがこっちは兵器を勝手に気取る貴様らを嬲り殺したくて仕方がない。

 

かくして侵略は開幕する、無数のナマモノ輸送艦が空を幾重にも埋め尽くすようにして出現する、太陽の光がそれによって遮られ暗雲も立ち込める。

 

「行け、偉大なるナマモノ達よ。お前達の優秀さと偉大さを勝手に『艦』を気取り奢る愚か者共に教育してやるのだ。」

 

「“ナ、ナンダコイツラハ⁉︎”」

「“艦娘…、デハナイ…‼︎”」

ーーキュルルルルルル‼︎

ーーシュボァァァァン!

ーーシュボァァァァン!

彼による魔改造、いや洗脳を施されたナマモノやおふざけ兵器達が彼の号令とともに開放されたナマモノ輸送艦のハッチからワラワラと飛び出してくる、目の前にいる哀れな生贄を食い散らして飢えを満たさんと言わんばかりに。

深海棲艦達は今まで見た事もないものが現れたのを見て驚くも、そんな事など今や彼の立派な僕となったナマモノやおふざけ兵器達には御構い無し。

彼の敵意や憎悪を代弁し、虫ケラを食い散らし踏み散らすかのように彼等は無慈悲なまでの猛攻を加え始める、波動砲や重力砲、特殊弾頭ミサイル、量子魚雷、超音速魚雷といった超高威力兵器が彼等に向けて放たれ凄まじい速度で犠牲者を量産していく。彼等はすぐに彼等を敵対者と理解した深海棲艦は16インチ、18インチ、20インチ砲などで慌てて抵抗を開始するも反対に更なる殺意を煽りたてるだけだった。

損害?

量子波動砲は兎も角として波動砲や重力砲、光子榴弾砲、100センチ砲弾、特殊弾頭ミサイルの嵐にもピンピンと耐えられるような唯でさえ高い防御力を洗脳も兼ねた彼の魔改造で更に高められた彼等に16インチ砲、18インチ砲やこの世界最大の砲である20インチ砲を雨霰と叩き込んでもまともな損害を果たして与えられるのだろうか?精々焼け石に水程度だろう。

そもそも投入された彼等の数は物凄い数ーーまさに地球を侵略して滅ぼさんと言わんばかりに海という海、そして空までも埋め尽くすようだった、実際に彼はその世界の人類を艦娘と深海棲艦諸共一匹残さず根絶やしにせんと目論んでいたーーなのだ、少なくとも自分達深海棲艦の数より遥かに多い。

 

「“カ、数ガ多スギル‼︎”」

「“ダメダ、主砲ヤ魚雷モ効カナイ、ギッ、ギャァァァァ‼︎”」

「“カ、艦載機ハドウシテイル⁉︎”」

「“飛行場姫様ヤ空母棲姫様達ガ艦載機ヲ発進サセタ筈ダガ…。”」

 

まるで生物みたいな艦載機共か。出たら出たで一発で殺すのではなくリンゴの皮を剥くようにじっくりじっくりと追い詰め、母体諸共食い物にしてやれ。まあ艦娘の艦載機『擬き』よりは気味悪さが幾分かマシだがな。何れにせよ主人の為にこいつらは行動してるだろうからそれに則り一匹残らずぶち殺す気で行け。

飛行場姫や空母棲姫達が艦載機を発進させて大海や大空を自在に跋扈し暴れまくるナマモノ達を撃退しようとしたものの結局は何も変わらず、むしろ逆効果だった、圧倒的な量質差にモノを言わせて攻撃を悉く弾くわ躱すわ、吸収するわの一方的なやりたい放題で潰した後に艦載機達を逆追撃し嬲るのかのように喰らい始める、艦載機達は母艦達を守るどころか生き残る事に必死な有様で有った。

彼らは自分達の艦載機が為すすべも無く蹴散らされるのを見て歯噛みする、しかしそれを愉しむかのように気を良くしたナマモノ達はさらなる凶行に打って出る。

 

「“ギャァァァァ!来ルナ、近ヅクナァァァァァ!”」

「“痛イ、ヤメロォォォォ!”」

 

ーーザシュッ!

ーーブチブチブチィッ!

「“ヒ、飛行場姫様ガ…‼︎”」

「戦艦棲姫様モ、次々ト…‼︎」

あるナマモノは他のナマモノと協力し二匹掛で噛みつき、艤装という飾り物諸共引き千切り、またあるナマモノは口に咥えた深海棲艦を他のナマモノに八つ裂きにさせてしまう。いずれも深海棲艦の内臓や体液が無茶苦茶に飛び散るというとんでもなく惨たらしい殺し方だった。

 

ーー単純にぶっ殺すのは簡単だが何処かつまらない。どうせなら殺すのも楽しく。

 

これまでの世界でも散々に破壊と恐怖をばら撒く元凶となったそんな智史の性格が魔改造による洗脳によってナマモノ達に染み付いたのかもしれない。

 

 

「“逃ゲロ、コイツラ化ケ物ダ!勝チ目ガ無イ‼︎”」

「逃げる?一体何処が逃げるに相応しい安全な場所だというのだ、この星の至る所でこれと同じ光景が広がっているのに?

この星の外へと出ない限りお前達の安全な逃げ場は何処にも無いぞ、この星のありあらゆるもの殲滅して好きなように作り変えるからな。」

さて、この星の外に出る手段がないお前達はどうやってこの星の外へと出るのかな?もし有ったら教えてもらいたいものだ、何回調べ尽くしてもそんな方法が未だに見つかってないのでな。

おっと、背水の陣、窮鼠猫を噛むといったな。後がないほどに追い詰められた弱者が強者に逆襲してくる事例がある。それを見て徹底して弄ぶのも楽しいが、一応念を入れておく事に越した事は無い。

 

勝たなければ誰かの養分。

即ち敗者は勝者の栄養として食われる。

この世界だけとはいえ、深海棲艦は確かに強大な敵ではあった。何故なら彼らは艦娘というものを除き、この世界の最高水準の現代兵器ですらやりあう事が困難な程の戦闘能力を持った生命体だった。

だが相手はそれ以上の力、火力で自分達を一方的に容赦無く虐殺し、自分達を次々と食い物にして食い散らしていく。艦娘ですらこんな悪夢のような出来事は引き起こさなかったはずだ、敢えて『引き起こせない』ではなく『引き起こさない』と書いたのには裏事情があるのだが。

ナマモノ達に餌として一方的に食い散らされる深海棲艦の悲鳴と阿鼻叫喚が轟く、大小問わず世界の海の各地の海底に存在する巣穴に逃げ込もうにもそこも安全な場所ではない、波動砲やレールガンといった超高火力兵器の一閃で一瞬で根刮ぎ奥深くまで消し飛ばされてしまう、それを見た他の深海棲艦は恐慌状態に陥り、今更逃げるに値する安全な場所が無いというのに只々狂乱して逃げ惑うだけであった。

 

「ふっふっふ、奴らが八つ裂きにされ内臓が飛び散るという背筋に寒気が走るような光景も、やはり決定的な憎悪が有ると無いのと、それとその悪夢を己の手でやるかやらないかでは味が格別に違う。」

ナマモノやおふざけ兵器達による凄まじい殺戮劇による阿鼻叫喚の雰囲気とは対照的な場所ーーリヴァイアサンの艦橋でゆるりと海風に吹かれながら智史は楽しそうにグラスに注いだブドウのワインを飲みながら見つめる、そんな風に彼らの苦悶を楽しそうに嗤う彼に一矢でも報いんと突っ込んでくる深海棲艦がいた、例えその後討ち取られても、この世界を侵略した張本人たる彼に一発でも報いないと気が済まないとばかりに。

 

「“ユルサナイ、ユルサナイィィィィ‼︎”」

「ほう…、深海双子棲姫か。お前も人間達の愚かな行いの為に産まれた者の一人だったな。だがその愚かな行いに加担するのならば一片も容赦はせぬ。」

「“ナ、ナニ⁉︎マサカ…⁉︎”」

「ふっ、事前に調べていたとはいえあくまでも予測だった物事、この様子だと真実に近くなったようだな…。」

智史はナマモノ達に敢えて自分がいる場所ーーリヴァイアサンの艦橋ーーに至る道を開かせた、深海双子棲姫はそこを一直線に駆け抜け智史の元へ到達する。

彼女は既に片方を失って傷まみれだった、同様に多くの仲間も失っている、だからこそ先述のような様相なのだが。

 

「そして『許さない』と喚いていたようだが、行いに加担している以上、一体何を許せないのだ?私にはさっぱり分からん。」

「“オノレェェェェ‼︎”」

深海双子棲姫は何かが吹っ切れたのか突っ込んでくる、しかし智史はあっさりと限界を見抜いていた、彼は敢えて攻撃を受け流しじっくり追い詰めるように残った艤装を、急所をすれ違い様に狙っていく、航空機といった飛び道具は既に艦載機が潰されるなどして使い物にならなくなっていたので彼女には突っ込むという選択肢しか無かったのだがこの様では言うまでもない。

 

ーーやはりこいつらには、艦娘共とそのバックと深いコネがあるぞ。

しかしもしそうなら艦娘共がゴロゴロと深海棲艦の救援に向かっているはず、そうなると彼らを使っている、いや逆に使われている提督達に何か裏があると疑われる可能性がある。

『何で敵である筈の深海棲艦を守りに出撃するんだ?』

と。

そこまでストレートに真相をバラす程にカラクリが正直に出来ていないのは確かなのだが、果たしてどうなるのかな?

 

ーードゴッ!

「ゴェッ!」

ーーズガッ!

「アガッ!」

ーーゴキッ!

ーービチャッ!

 

「うむ?果たしてこれは情報精査による予測をさらに真実に近づけるものなのか?やっぱり何か隠し事がある事は確かなのだが。」

「それ、何だ?何かの識別タグか、送受信機か?」

「さっきのヤツをボコボコにしてバラバラに解体した際に出てきたものだ。何らかのデータと一緒に隠滅しようとしたみたいだが…。」

かくして彼の手により深海双子棲姫はグロッキーどころか徹底的にバラバラにされトドメに首を引き抜かれて完黙した、何かを隠滅しようと隠蔽プログラムが作動したみたいだが一つも隠滅する前にプログラムが演算により強制停止されたのでデータはまるまる残っていた、とはいっても完黙した事はデータ保存記憶に関する機構の維持機能の停止と同義である以上、いつデータが消え去っても可笑しくは無い。

 

「艦橋があいつをバラバラにした際の血で汚れた。そのままはみっともない。特にこれと急ぐ必要もないから折角だ、そこを念入りに清掃してしまえ。進化しすぎていても体を動かさないのはかったるい。」

「そうね、折角だし気分転換としてやるのも悪くないわ。」

深海双子棲姫が完黙したのを最後に戦況の趨勢は決した、もう既に五体満足に動いている深海棲艦はいない、皆ナマモノ達に喰われるか、巣穴共々吹っ飛ばされるか、または生け捕りにされたかだ。まあ彼の性格上生け捕りよりもとっとと死んだ方がまだマシかもしれないが。

さて、彼がその首を腐敗防止液で満たした保存容器に入れると、彼らは体液や肉片でぐちゃぐちゃになったリヴァイアサンの艦橋を律義に清掃する、彼にそれらを瞬時に消し去れる能力があるといえよ、前の世界で染み付いた習慣の影響からか、やっぱり自分自身でもあり自分達の家でもあるリヴァイアサンをきちんと自分の手で直接清掃しないとどうも気が済まないらしい。

 

「さて、さっきぶっ殺したヤツから取り出した脳みそとICチップのような何かを調べてみるとするか。(隠蔽プログラムを無効化し、そもそもそれ以前にその陰謀の殆どを紙に穴が開くほどに把握し尽くしたとはいえ、間違って消してしまうのも面白くない。)もしこれと同じものがひっ捕らえた深海棲艦共にまだあるのならばそのまま消化せずに吐き出せ。」

「「「グワッ!」」」

よおし、この世界の深海棲艦や艦娘、そして人間共を新たな生態系の肥やしにする為の施設、強いては人類文明全てを破壊し尽くす根源となる『コロシアム』の建造を始めるとしますか。

アホなこいつらに振りかけるものがあったらご飯に振りかけた方がマシだからな。

艦橋の掃除も終わり、智史はデータの可視化にいよいよと着手する、そして同時に指を鳴らして今や完全な廃墟と化した世界各地の海底の深海棲艦の巣穴の上空に巨大なワープホールを生成するとそこから無数の工事用機械、海底重機やそれらをバックで運用する為の最早戦略工事基地というべき超大型のメガフロートを複数転移出現させる、それが終わるや否や先述した深海棲艦の巣穴だった場所を大改装し始める、圧倒的な物量にモノを言わせた超大規模工事はそれに相応しい圧倒的な迫力と重みを伴いながら信じがたいペースで進んでいく、青々と綺麗に広がる太平洋の洋上にモンサンミッシェルのような、軍艦のような様相を呈しながら自然美も交えたとても大きな島がみるみるうちに出来上がっていく。

 

「これが、『コロシアム』…。凄えの相変わらず作るなぁ…。」

「でも理由が無いわけではない。君に改造されたナマモノ達に捕らえられた彼女達、深海棲艦っていうんだっけ?恐らく彼女達に関する事でこれを創ったんでしょ?」

「その通り。あと彼女らと深い関係がある艦娘や人間達もここで新たな世界の為の肥やしにする。」

「人間?まさか、何か陰謀でもあると?」

「そのまさかだ。さっきのやつから得られたデータが私の中の予測を確証へと変えてくれた。これを付けてくれ。」

そして彼は解析されたデータを元に作成されたVRーー直訳すると仮想現実ーー映像を映す為のHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を複数生成するとそれを付けるようにと促した、琴乃達はそれに促されるようにしてHMDを付ける。

 

 

仮想現実映像をHMDで観ている智史達の様子ーー

 

「こ、これは…!」

「培養工場だ。深海棲艦の素体となるパーツを構成する役割を果たす為の製造ラインだろう。」

「何か、データを見つめている人達がいる…。技術者かしら?」

「何か偉そうな奴が私達の方を見つめて話しているぞ…。」

「ズイカク、落ち着け。自分自身を深海棲艦やそれに関係する者達自身としての記憶を辿っているだけに過ぎない。」

「何か作られてる…。新たな巨大な繁殖用、修理用の施設の材料なのかな、これは…。もし単に各地の地下にある工場から深海棲艦を出してるだけだったら何れ感づかれるかもしれないからね…。」

「欲深い人間達が造った地下工場で深海棲艦は生み出された、その真実を隠す為の撹乱、隠蔽も兼ねているのだろう。」

「もし彼らが自然発生したとしたら何で人類を根こそぎ滅ぼそうと考えた際に陸地を襲わないのかなぁ?海から人類を駆逐しても人類は消えないわけじゃないのに。進化して陸に上陸してくる可能性さえあるのに。」

「進化、か。今は『海』という世界の中でしか生きられないとしても進化する力があったらその欠点を何れ克服して極端な場合、人類も滅ぼしかねない。何れにせよこれは深海棲艦が欲深い人間達のコントロール下に徹底して置かれているという事実をより補強しかねないな。」

「そして一部には撃破すると艦娘に変わる深海棲艦もいるわ。しかも艦娘も深海棲艦と同じくなるべく共通化された上で培養されて製造されている、さっき智史くんが取り出したものも埋め込まれてるわ…。これらから推測するに艦娘も深海棲艦と同じ素体から製造されたのかしら?」

「そうかもな。案外互換性が効くような造りなのかもしれん。その逆もまた然りなのだが。

生い立ちがそんな有様だというのに『誰1人沈むことなく深海棲艦を殲滅・撃沈して、悲しく辛い転生ラッシュから深海棲艦化した艦娘達を解放する』だと?そんな綺麗文句、こんなアンポンタンな事実を隠すのに相応しいからこそ有るのではないのか?

第一、深海棲艦が本当に居なくなったらそれに対抗しうる艦娘というモノの価値、強いては奴らとの戦闘に関する収益が滅失するぞ?深海棲艦という敵がいるから戦争起こる、戦争は勝つ為、守る為には資材をたくさん食う、でも勝たなきゃダメ、まるでホールドアップ問題によく見かけられるような必然性のお陰でじゃんじゃんと利益が得られるというのに。

そんな美味しい収益源を欲深い奴らが『深海棲艦が絶滅しました、それでおしまいです』って感じで簡単に手放したいと思うか?」

「手放したくない理由でも何かあるというの?」

「あるな。欲深い奴らも、それに操られている奴らもそうでない奴らも皆、貨幣経済による秩序が成り立っている限りは生きて栄える為には良くも悪くも利益を、儲けを得なければならないのさ。

少なくとも奴らはどちらかにパワーバランスが偏らないように、使われている男共を飽きさせないように、しかし真相を悟らせないようにと新種の深海棲艦を造ったり、新種の艦娘を投入するなどと匙加減をして延々と利益を生み出すという方法で儲けを得ているが。

だがそんなどす黒い陰謀に態々手を染めなくても真っ当な方法で利益、儲けを得て生きている奴もうようよといる。あんな欲深い連中と同じ環境下でも真っ当に生きている奴らがいる限り、『生きていく為には仕方がなくやったんだ』『環境が悪いからこうせざるを得なかったんだ』と連中の罪を勝手に別の所に転嫁し、言い訳するなどと許されるか?私は絶対に許さないが。

まあ今の本人がそうでなくともその子孫が第二第三の欲深い連中になりかねないから人類滅殺はもう確定だがな。」

「やっぱりそう出ましたか…。まああまりにも筋が通り過ぎてるから止めようがないけれど。」

「何れにせよ艦娘達が男の人達が好き好むような格好を何故するのか、深海棲艦が艦娘に何故近いのかがこれではっきりとしたわね。滅ぼしてももう心が痛まないほどに醜い真相だけど。」

映像は随分と残酷な内容だったが深海棲艦に関する彼らの記憶や事実に沿って作成されているので嘘っぱちの空想事など一つもない。もし嘘っぱちの空想事ばかりだったらーーいやそもそも嘘をつく事自体が彼にしてみれば苦痛かつ忌み嫌うべき物事の一つなのだからじっくり侵略しようとも微塵も考えないだろう、まあ一発で滅ぼされることはあり得るが。

それに今に対して隠蔽は出来ても過去に対しては完全な隠蔽など出来もしなかった、何故なら過去に逆行できるタイムマシンなど彼らは持っておらず、そのお陰で過去の記録を改竄出来なかったからだ、改竄したらしたで別の問題が浮上してくるが。

智史は今の情報や人間の記憶だけでなくこれより過去の時系列もきっちりと調べ上げていたのだが上記の理由も手伝ってこれは事実であるという強い確証を得ることが出来た。

 

「おっと、そろそろ楽しいエサ付けの時間だ。深海棲艦の阿鼻叫喚が轟くぞ…。」

そうこうしているうちにエサ付けーー実態は捕縛した深海棲艦の捕食解体ショーなのだがーーの準備が整ったようだ、それを知った彼はニンマリと笑うと『コロシアム』の特等席へと琴乃達も一緒に連れていくのだった。

 

「これが、特等席か?茶会でもしたいのか?」

「そこで抹茶や和菓子を食いながらエサ付けを鑑賞するのだよ。単に眺めて騒ぐだけはどうも虚しくてつまらんからな。」

「窓から見える会場と随分と対照的な造りだけど何も芸術的…。だけどやる事はこれまた対照的で血生臭い…悪趣味な事で。」

ズイカクの言葉通り特等席から見える会場の風景はまるで茶室をする和室のような雅な雰囲気のものとは対照的で何処か歴史的風味のある無機質な、まるで旧ローマ帝国のコロッセオのような雰囲気がふんだんに出ていた。そして試合場にも受け取れる広い場所にはベルトコンベアが搬出口からエサ貯め場まで真っ直ぐに伸びていた、それとエサ貯め場を囲むようにしてナマモノ達がぎゅうぎゅうと詰め寄せていた。

 

「始まったぞ。」

 

ーーゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

「“ナ、ナンダ…‼︎”」

先の戦いで捕縛された深海棲艦が満足に動けない満身創痍のままベルトコンベアに乗せられて続々とナマモノ達の目の前へと運ばれてくる、そして音楽ーー『アヒルのテーマ』が流れ始めた。

 

「“ギャァァァァ!”」

「“イヤァァァァァ‼︎”」

「グワッ!」

ーーズシャッ!

ーーベキャッ!

 

「“ハナゼェェェェ‼︎”」

「ミィッ!」

ーーミチャッ!

 

『アヒルのテーマ』は曲自体は随分と陽気で抜けた感じなのだがナマモノ兵器の見た目の抜けた感じに反したガチで無茶苦茶な強さから一種のトラウマBGMとしての側面も持ち合わせていた。

そして今繰り広げられているエサ付けという名の深海棲艦の一方的な殺戮はこの曲の陽気な雰囲気に原作とは別の意味で随分と反している為に新たなトラウマを現出していく、しかもやっつけ仕事でありながら機械的なベルトコンベア作業のように深海棲艦がいとも簡単に解体・捕食・処理されていくプロセスがバックにあるのでそれがトラウマをより強く色付けしていく。

そしてナマモノ達は捕食をしながらお尻からプリプリと何かを出し始める、それは卵だった、卵は新たなナマモノとして孵化する、そのナマモノ達は他のナマモノ達の深海棲艦の残り物や食べ残しに食らいつきみるみると成長していく。

それでも彼らを食い尽くしても残った、というかあえて残したーー艤装といったモノはおふざけ兵器達の新たな製造用素材として全て回された。

勿論、ICチップのようなものは全て吐き出されて分別されていた、地下工場で作られてないモノも混じってはいたものの全てに共通していた事は欲深い人間達の指示を忠実に聞かせる為にこれらは深海棲艦の中に埋め込まれていたという事実だった。

やがてエサ付けの為の深海棲艦がほぼ底をついた、それに伴いエサ付けも終わる、エサ付けで増えたナマモノ達は揚々と会場を出ていく、新たなエサとする艦娘、人間達を捕らえる為に。

 

「グワグワ!」

「どうした?何かあったのか?」

「グェッ!グェッ!」

「ほう、なるほど…。ますます面白い事になって来たぞ…。」

エサとする獲物を捕獲する為に出ていくナマモノ達と入れ替わって親アヒルが一匹、智史達の間近に近づき報告をしに来た、言葉は一見人間の言葉ではない為に解読不能、理解不能な挙動に見えるものの彼はその声のトーンと内部の思考回路も一緒に見て真意を一瞬で理解しニヤリと笑う。

 

「一体、何って?」

「“艦娘達が先程の侵略を見て不審がり、自分達の基地周辺の偵察をおっ始めたらしい、いずれ滅ぼすとはいえ、捕まえていいのか”と言っていた。」

「なるほどね…。さっき映された映像の内容、彼女達はどう受け取るのかしら。」

「受け入れたくないあまりに虚構だと言い張るかもしれないな、そんな都合の悪い物など知らされていないから。例えそれが事実であろうとも。」

「そうね、都合よく知らないようにされているから受け入れたくないのかもしれないわね…。」

琴乃とそう会話しながら彼はその親アヒルに対し先程の艦娘達を捕まえてここに連れてこいと命じた、親アヒルは了解したように鳴くとその場を立ち去っていく。程なくしてナマモノ達に捕獲され檻に入れられた艦娘達が連行されて来た。

 

「“イ、一体何者ダ、オマエタチハ…‼︎”」

「私達か?ああ、侵略者御一行だよ。お前は確か戦艦水鬼だったな?」

「“ケ、ケダモノメ、クタバレ‼︎”」

「くたばる?お前が装備している砲は確か20インチ砲だったな、その主砲で私をくたばらせてくれたら嬉しいなあ、何せ私は死のうとしていないのだから。」

 

ーーズガァン!

ーーズガァン!

 

「“ナ、ナニィ…‼︎”」

「どうした?それで終わりか?やはり、この程度か。」

 

ーーガッ!

 

「“ウゲッ、ハナセェェ‼︎”」

「離す?いいや離さない。お前にはまだ利用価値があるのだから。」

その際に彼は敢えて生かしておいた戦艦水鬼を監禁から解くや否や20インチ砲という名の兵器をボカボカと打ち込まれても全て吸収して全く意に介さず、そのまま彼女の艤装を掴み嬉しそうにズリズリと引きずり艦娘達を入れた檻が置かれた場所へと歩いていくーー

 

 

「一体、何が起きたんだ…‼︎」

「分からない、でも深海棲艦が一匹も見つからないのは確かだわ…。」

さて、ナマモノ達により捕まった艦娘達はというと少し、というか大いに不安げな気分であった、何せ深海棲艦という『敵』しか居なかった海に突如として未知の存在が現れ、自分達を攻撃し深海双子棲姫すら上回る圧倒的な力で叩きのめした挙句に彼らにひっ捕らえられてしまったのだから。

そこへ戦艦水鬼をズリズリと引き摺りって彼と琴乃達が現れる、そして彼は艦娘達に対して口を開き始める。

 

「『はじめまして』とまずは言っておこうか。艦娘よ。」

「誰だ、お前は…。まさか、あちこちで深海棲艦が何者かに襲撃されるという事件の黒幕か…!」

「ああその通り。私が黒幕だ。どうも気に入らぬ事柄があったのでなあ。まず一つ尋ねてみよう、お前達は、“何者”なのだ?」

「な、何ふざけて言ってるんですか‼︎私達は艦娘です!貴方こそ何者なんですか⁉︎」

「艦娘…。先程口に出したそんな呼称を私は聞きたかったのではない。」

「だったら一体何⁉︎」

「私は、お前達の存在定義は一体何なのかと聞きたかった。」

「な、何ですって⁉︎」

「私はこう思う、『意図的に仕組まれたとはいえ、お前達は史実に存在した艦を勝手に解釈し、あたかも自分自身が本物そのものであると気取り装っている紛い物以下でしかないパーツ』と。」

彼は檻に入れられた艦娘達に自分の考えを告げた、内容は彼の艦娘達に対する敵意が存分に含まれていたとはいえ殆どが自分達が実際に見た事実である以上非常に本質的なものだった。

 

「な、何のつもりなのよ…‼︎どうせ私達をいいように罵り、勝手に自分が正しいと気取っているくせに‼︎」

「ああその通りだ。その行動理由の正誤に関わらず、何かしら理由を付け自分を正当化しなければこんな事など出来ぬ。所詮私はそうする事でしか自分を満たせない存在だ。

尤も、その理由の正誤は別の話だがな…。」

「正誤…⁉︎一体何なんだ⁉︎」

「ふむ、知らないようだな。それを質問で明らかにしてやる。

まず、お前達は史実に存在した艦を模した装飾品を身につけておきながら、何故男を好き好んで誑かすような格好をしているのだ?単に深海棲艦と戦うのならば装飾品はまだしもそんな格好は必要ない。兵器は効率的な破壊を極限まで追求したデザインを具現化したモノだ、そんな格好、破壊の為でも必要と?

『史実』を模しながら男を誑かすような格好をして男共の支配欲を満たすようにして誘惑し、富を搾り取るためのシステムに組み込む。

それしかこの格好の必要性が分からん。他に何か必要性でも有るのか?」

「確かにその言葉通り私達は多くの男を誑かして提督にした、そのせいで私達に富の全てを投資しすぎるあまりに破産し没落してしまった提督もいるわ‼︎そこまで行かなくても私達に富を投資している提督もいる…。でもそんな格好をするのは深海棲艦に対する対策の為よ!」

それ見ろ。大当たりだ。

「深海棲艦への対策、か。真実を都合よく隠して色付けするのに相応しい大義名分だなあ…。仮に裏がなくてもお前達を生み出した組織をより盤石にし、肥え太らせる為の口実には十分すぎる。

さて、それ以外を考えてみよう、深海棲艦はお前達のその格好を見て自ずと積極的に隙を晒したとでも?深海棲艦は雄まみれか?」

ーー無い。

そんな事例など彼女らは1回も見ていなかった。もしそんな事例があったとしたらそれは彼女ら艦娘にしてみれば絶好の好機だろう、しかし仮にあったとしてもそんな事例を突いて勝利したという時点で敵である深海棲艦側はその事例は自分達の弱点であると自覚し改善を試みその事例を利用した戦術はいずれ効かなくなるだろう。

深海棲艦とて生物なのだ、彼らはアホでもマゾヒストの集団でもない。

ただし艦娘と深海棲艦が裏での繋がりも何も無く、まともに対立していたらという事実が成り立っていたとしたらなのだが。

 

「それか身を守るにも値せぬモノばかりでも身を守る術や余裕を確保できていたとでもいうのか?ふむ、そうなのか確かめてみよう。

さて、戦艦水鬼よ。跡形も無く死んで貰おう、死と引き換えにお前は立派な役目を得られるのだからな。」

「ヤ、ヤメロ、ケダモノメ‼︎」

智史はそう言い終えるとズルズルと引きずるようにして連れて来た戦艦水鬼を苦しみながら死んで行くのを愉しむかのような目つきで無理矢理と鉈で引き千切って解体してしまう、戦艦水鬼だったモノが、彼女の肉塊が、体液が、苦痛に満ちた悲鳴と共にズタズタに飛び散る。彼のその周囲にあった石畳がそれらで染め尽くされて彼がしたことの凄惨さを暗に物語る。

そして彼は水鬼のモノだった20インチ主砲を片手に取ると艦娘の一人に向けてそれを撃ち込んだ、着弾と同時に凄まじい爆風が生じる。

程なくして爆風は晴れた、そこには服が破け、艤装が半壊しながらも四肢はおろか、傷一つさえ付いていないーー強いて言うなら汚れが付いた程度ーー生肌を晒した艦娘の姿があった。

 

「やはり、数発撃ち込んだだけでニミッツ級のような大型艦をスクラップにするようなこれを撃ち込んで『撃沈』されても粉微塵にはならないか。素晴らしいな。」

「当たり前じゃない!そうでなきゃ深海棲艦なんか倒せないんだから!」

「そう、それで当然だ。何故ならこの世界で最高の技術を用いた素材がお前達に使われているからだ。

そしてその『当たり前』が成り立っていなければ大型空母を紙屑のように引き裂くような砲弾の一つ二つ、食らっただけでこんな布切れや飾り物が破ける程度の『撃沈』で済むどころか肉体四肢も形留めず木っ端微塵という事例が生ずるからな。」

 

ーードシャ!

 

「こ、これは…‼︎」

「分かるか?これは誰が作ったのかが。さっきバラバラにした戦艦水鬼や他の深海棲艦からも嫌という程と出て来たのだがな。お前達にも埋め込まれてるぞ?」

「最高の技術、チップ…。一体、何を言いたい訳⁉︎」

「そう考えるだろうな。何故ならお前達はその事を都合よく覚えていないようにと欲深い人間達に道具の一つとしてコントロールされていたのだから。」

「道具…。確かに私達は提督や各鎮守府や背後の組織の指示に従っている、その面だけ言えばそうかもしれないけど…。」

「そして深海棲艦は何故鎮守府を積極的に攻撃しようとしない?もしお前達艦娘が深海棲艦から見て本当の脅威ならそのバックを支える組織もろとも積極的に襲撃して徐々に壊滅状態に追い込んでいく筈だ。」

「で、でも深海棲艦が鎮守府を襲ってきた事はあるわ!」

「それは『襲ってきた』フリでしかない。何故一つも死人を出す事も、一つの被害も出す事も許さずに提督同士の大した連携も無いような状態で各所に散らばった少ない兵力でマトモに撃退できている?絶滅するまでに巣穴諸共狩り尽くした深海棲艦の数は優に一千万は下らん。仮に実力拮抗でも他を無視して戦力を一箇所に大量に集中すればお前達の戦線は各個撃破などで食い破れぬ事はなく、大型艦や小型艦を真っ二つに出来るような兵器を数多揃えている以上、鎮守府の一つや二つは破壊出来ない訳ではない。

深海双子棲姫やこれらのチップから取り出したデータを元にその答えを導き出したのだがな。」

智史はそう吐き終えると深海双子棲姫や他の深海棲艦から入手したデータを元にして作成した映像を映した、先述した通りその内容は彼女ら艦娘にしてみれば信じがたく、受け入れ難い内容だった。

 

「こ、これが真実なの…⁉︎」

「その通り。これが真実だ。」

「深海棲艦が私達では倒せない程強大だったのは解るけど…、まさか、深海棲艦が、同じ組織の元で作られていたなんて…!」

「私達や深海棲艦は、本当に組織に提督達や他の人達から金を搾り取らせる為に生み出された、だったら、今までの戦いは何だったんですか…⁉︎」

「『組織の為の富を効率よく無知な愚民達から搾り取る為の手段だ』と私は答えておこう。」

「でも富を搾り取る為の口実たる深海棲艦は絶滅した…、だったら、あなたの目的は…⁉︎」

「まさか、気に入らないからとみんな滅ぼす気か‼︎」

「大正解。みんな滅ぼして新たな世界の礎としてやる。」

艦娘の一人の極論に近い問いに智史はそう平然と答える。

 

「何故、私達をそこまで憎むんですか、私達が、あなたに、何か酷い事でもしたというんですか…⁉︎」

「酷い事?もうとっくにしている。いいように利用されていたとはいえ貴様等はそのカラクリに加担していた、その事実だけで既に十分だ。

『悪党に都合よく利用されていたから無罪放免してください』だと?ほざくな。立派な責任逃れだ。」

その答えに艦娘の一人が震えながら疑問を投げかけた、しかしその内容が最早立派な責任逃れにしか聞こえなかった彼は静かに、しかし凄まじさを込めた怒りを露わにする。

 

「何より貴様等を構成するコンセプトには今にも反吐が出そうだ、『男の欲望を満たすような見た目やイメージ、雰囲気を作ってゴリ押しすればどうにかなる、売れる』だと?それ以外は蔑ろにしてもいいのか。本当に素晴らしいな、現に貴様等の中身がスカスカのパッパラッパーだというのに。

許せるか、そんなもの。私はキモオタやロリコンといった変態や思考停止のアホ共などと同義な存在にされたくない。」

「でもそうでない提督もいる!だったらみんな滅ぼさなくてもいいじゃないですか!みんな滅ぼす以外にも何か解決策があるはずです!」

「確かにな。だが常に正しい選択肢を選ばなければいけない道理など貴様等にも、私にも無い。仮に滅ぼさない事が正しい選択肢だとしても。それに正しくない選択肢でも適応、対処、進化すれば全く問題なかろう?ならば後は自分の納得する選択肢を選ぶだけだ。

消してやる、跡形もなく。殺れ。」

「「グワッ!」」

智史は怒りに満ちた罵言を全て吐き終えると指を鳴らして彼女等に後ろを向けてその場を立ち去っていく。

立ち去っていく彼の後ろで艦娘達の凄まじい悲鳴と許しを願う声、ナマモノ達の怒声と罵る声、そして食いちぎられる音、臓腑が飛び散る音が入り混じっていた。

 

「智史くん、ちょっと聞いていい?」

「何だ?」

「ナマモノ達は兵器だ、兵器は破壊の為に存在するって言ってたけど…。最終的にはナマモノを中心とした新たな世界を構築する結末にしちゃってる以上、ちょっと当てはまりにくいんじゃないのかな?仮にあの子達が破壊の為に存在していたら何もかも残らないんじゃ…。」

「『全てを破壊する』と一瞬、考えてしまったのか?」

「そうね、さっきの言葉、全て破壊してやるとも捉えきれなくもなかったわ。」

「そうか、私はあくまでもこの世界の人類、艦娘、深海棲艦全てを破壊せよと彼等に指示を出したのだが、この後の結末の内容を考えると彼等が『兵器』ではなく『動物』になってしまう事に少し笑ってしまう。すまん。」

「まあ『兵器』か『動物』どちらでないにせよ、襲われる側は災難だけどな…。」

そして艦娘達への凄惨たる仕打ちを終えた後、リヴァイアサンへの帰路の途中、琴乃が「このままだとナマモノ達は『兵器』ではなくなるのではないのか」と問いかけてきた。この問いに智史は少し苦笑する、なにせ今からやろうとしている事は短期的には『兵器』の定義を満たすものの人類や艦娘達が絶滅した後、つまり最終的にはその定義を満たさなくなってしまう事だったからだ。まあいつまでもその定義を満たし続けようとしたらある意味詰まらないのだが。

 

さてと、ここからが世界再生の幕開けだ。人類よ、艦娘よ、覚悟するといい。

智史はそう心の中で呟くと組織の本部ーー横須賀軍港の方を睨みつけるように見つめた、リヴァイアサンはゆっくりと進路を横須賀に取る。

既にエサ付けの対象は根こそぎ絶滅した深海棲艦ではなく、人間と艦娘達に向けられていた、ナマモノやおふざけ兵器達は積極的に彼等がいる場所という場所を積極的に襲撃し根こそぎ抉り飛ばして徹底した破壊をばら撒いていく、『自分達は兵器だ、兵器は破壊のために生み出された』という定義をとことん言わんばかりに。各所に建設されたコロシアム、そして新たに陸地の各所に簡易版コロシアムとして建設されたナマモノ達の巣に先の無慈悲なまでの破壊の嵐を生き残った彼等はナマモノ達に捕らえられて運び込まれる、そしてそこからは彼等の怨嗟と断末魔が延々と響き渡り、新たなナマモノ達やおふざけ兵器達がそこからワンサカと飛び出してくる。

人間や艦娘をじっくりと追い詰め滅ぼし、兵器の定義を成立させて新たな生態系を構築する為にーー




おまけ

艦これの扱いが悪い理由。

・冒頭や作中に書いた萌えのゴリ押しが嫌いだから。
・それに則りゲームシステムも考えて論理的かつ現実的にストーリーを作成したら狙い通り扱いが悪くなった。
・仮に深海棲艦が居なくなったら、それは戦争の終結を意味するので艦娘達を後方で支える支援要員や妖精さん達は戦時程多くは必要とされないのでどうしても余ってしまうし、需要も減少するので供給過多になってしまう。
自分達にしてみればマイナスばかりでしかないそんな事を果たして軍需企業は積極的にやりたがるのだろうか。

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