海龍のアルペジオ ーArpeggio of LEVIATHANー   作:satos389a

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今作で鋼鉄の世界巡りは終わりです。
少し更新が遅かったでしょうか。
今回は天城とヴァイセンベルガーが文字通り彼、海神智史によりアートにされるというもはや鉄板?という酷い目にあってます。
艦これについてですが、少し情報を調べた上で自分なりの考えを元にして艦娘達を奈落に叩き落す事にしました。
デザイン?台詞?ステータス?いや目によく見えるそんなもんじゃない。
彼らを構成しているもっと根本的な部分です。
その部分で彼も少し考え、悩んでいますが。
それでは今作もお楽しみください。


第54話 鋼鉄の世界巡り 最終章

「ウォーシップガンナー2の世界に出たぞ、ここはな…。」

「ん?なんだあれは?この島は人気の無い離れ小島だというのに随分と豪華な建物が建っているなあ。ホテルか?」

「あれか?あれは日本帝国海軍大佐、天城仁志という奴が住み込んでいる家だ。通称は『天城のおうち』としておこう。」

「そしてこのお家から何か強い電波が発信されてるなぁ、どれどれ?」

「念の為付け足しておくが、随分と下手くそな歌だから気を付けておけ。」

これまでの鋼鉄の世界も荒らして破壊し、海賊さながらの略奪も盛大に行い、鋼鉄の咆哮 ウォーシップコマンダーの世界も散々に引っ掻き回したリヴァイアサンはSPE-A-700 「有人島漂流記」の海域にワープホールを展開して出現した、この海域は天城が独身貴族生活と称して建設したマイホーム、通称天城のおうちがある島が存在する海域である。

そしてその天城のおうちからはラジオ電波のようなものが発信されていた、その中身が気になるのかその詳細を見極めようとするズイカクに智史はそう警告する、彼はウォーシップガンナー2の知識をリヴァイアサンのメンタルモデルとして転生する前からある程度持っていた、そしてその中には天城の下手くそな歌に関する事が含まれていた。それをより正確なものにする為に今いるウォーシップガンナー2の世界系を調べ上げていた結果、杞憂ではなく正確な情報と判明した為に彼は警告したのだ。そしてその予想通りーー

 

『“ちゃ〜んちゃんちゃんちゃかちゃんちゃんちゃんちゃかちゃんちゃんちゃんちゃ〜ん!”』

「う、耳がおかしくなる…。」

「何なんだ、これは…。音楽はあまり聞いてないけれど凄まじく肝を逆撫でしてくるような声だ…。」

そこから流れてくる天城の下手くそな歌はズイカク本人とその側にいたカザリが気味を悪くする程に強烈であった、当然直ぐにその『音楽』はシャットアウトされた。

 

「こんなのが周りの他の通信電波をシャットアウトしてしまう高レベルで発信されているとなるとかなり迷惑している人間が居るはずだぞ。」

「確かに、この島の周りに複数の艦隊がいるなあ。何故なんだろうか?」

「ウィルシア王国近衛艦隊とその同盟国、日本帝国の艦隊が主だな。交流も兼ねた合同演習だと私は考えるが。運悪く場所が場所なだけにこの歌を延々と聞かされたのだろうな。とっとと天城の奴を黙らせてやるか。」

智史はそう呟く、そしてリヴァイアサンは天城のおうちへと接近する。

 

「“月月火水木金金〜♪”」

「お前が天城仁志か。随分と下手くそな歌を流してくれるものだ。」

「“おわっ、誰だ貴様ら⁉︎なっ、何をしに来た⁉︎そうか!私のこの素敵ハウスを奪いに来たんだな⁉︎”」

いや違うのだが。寧ろお前を攫ってアートにしたりして弄びたくて私は今仕方がない。

 

「“やっと手に入れた念願の南の島のまいほーむ、カラオケセット付き!夢の独身貴族生活を壊させはせんぞ!”」

「独身貴族、というよりは隠居生活にしか見えて仕方がないのだが…。」

「“だまらっしゃい!”」

「うわ、生意気にも武装してるぞ、こいつ…。」

「ならば、あのウサギ小屋を根こそぎ畳んでしまおう。その駄物というべき努力の全てが全て灰燼に帰すようにして。」

砲撃が天城のおうちの周辺から飛んで来た、少なくともこちらを撃退してやろうという感覚は感じられた、何れも着弾と同時に無効化、吸収されて終わったが。当然やり返さんとばかりに直ぐに焼夷弾頭ミサイルと多弾頭ミサイルがリヴァイアサンのVLSから轟音を奏でて連続して夜空に向けて放たれた、ミサイルの群れは軌道を変えると次々と天城のおうちと砲台含めたその周りの建物に次々と命中し木々を薙ぎ払い地面を吹き飛ばして周囲を紅蓮地獄へと変えていく。あっという間に天城のおうちは根こそぎと跡形もなく粉砕されてしまった。

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!折角のまいほーむがぁぁぁぁ!」

いい様だな。さて、連れ去ってアートにしてしまえ。

念願の隠居生活を木っ端微塵にされた天城は泣き喚く、しかし智史にしてみれば彼の心情に同情する点は無かった、当然のことながら立場、価値観、考え方が悉く違っていた為である。

彼はさっさとシャドウホークを一機生成する、シャドウホークは泣き喚く天城を鷲掴みにし宙ぶらりんにし、彼に醜態を晒させる形でさっさと連れ去ってしまった。

 

「さっきからガンガンうるいんじゃ、コラっ!」

「下手くそな歌はもーえーかげん聞き飽きたんじゃ、ドリャァ⁉︎」

いやいや、こんな歌歌ってるのは私達ではないのだが。

そしてその騒ぎを聞きつけた怖いおにーさん達、もといウィルシア王国近衛艦隊と日本帝国艦隊がリヴァイアサンに絡んで来た、彼らは先に示したように合同演習をしていた所、偶々その合同演習を行なっていた場所が天城のおうちがあった場所の近くであった為に天城の下手くそな歌を延々と聞かされた被害者達であった。

 

「ああ〜ん?何ごちゃごちゃゆーとんじゃ?もしやお前らその下手くそな歌を歌った奴とグルかぁ〜⁉︎」

「奥歯がたがたいわして沈めんぞ?」

ほほう成る程、そんなに喧嘩がしたいのか。

「よろしい、ならば貴様等も一緒に始末してやろう。見た感じでグルと判断した事をじっくりと後悔するんだな。」

彼は自分達は関係無いと事実を踏まえて説明するものの既に彼らは自分達を天城とグルだと捉えてしまっているせいなのか、それは彼らの神経を逆撫でする。彼らは自分達を木っ端微塵にしてやろうと脅して来る、これ以上の説得は無駄ーーそう判断した彼ははっきりと殲滅する意向を表す、そしてそれに応えるようにして彼らの方から無数の超怪力線やミサイルが放たれ、リヴァイアサンに襲いくる。

 

「これは…、テネシークラスとミハイル・トハチェフスキー(史実版ソビエツキー・ソユーズ)クラスか⁉︎しかしどう見てもレーザーを撃ってくる雰囲気を出すような見た目じゃないのにレーザーガンガン撃ってくるのって、まるで私達霧みたいじゃないか…。」

「そうかもな。何れにせよ黙らせてやるから気にはしないが。」

智史はそう言うと片手を上げる、すると襲い掛かって来た超怪力線やミサイルがリヴァイアサンの手前で次々と何かに押し止められたのかのように動きを止めていく、敵が攻撃を続ければ続けるほどそれ等はどんどんリヴァイアサンの周りで群れをなして蓄積されていく。それを見た敵は自分達の常識を超越した光景に畏怖したのか、不気味がって、ーーいや、生物が本来持っているプログラムの一つである好奇心故にかーー攻撃を止めた、そしてーー

 

「お返しだ」

 

ーーサッ!

ーーババババババババ!

 

ーーズガドガガガガガ!

 

彼が再び手を動かすとそれらは彼らの方へと踵を返して一斉に牙を剥ぐ、そして次々と彼らを電磁防壁諸共刺し貫き、穿ち、鋼鉄の悲鳴を奏で、コンマを置いて無数の爆発が轟いて彼らの身体を次々と引き裂いていく。

 

「ほほう、もうお開きか?向こうから喧嘩を売られたから存分に撃ち合おうとこっちは気分を高めたのに随分と不甲斐ない。」

「わ、分かった、下手くそな歌を歌った奴じゃない事は分かったから止めてぇぇぇ!」

「何?“助かりたい?”」

「そ、そうやそうや…、堪忍したってぇぇぇぇ!」

「笑止。一匹も生きて返すものか。地獄はまだまだこれからだ。一瞬で楽になれるだけマシだと思え。」

「うわ、うわぁぁぁぁぁぁ!」

先の一方的な攻撃で劇的なまでに彼らは次々とこの世から姿を消していく、それを見た生き残った者達ーー運悪か死ぬ順番が後になってしまっただけの者達ーーは戦慄し怯える、中には命乞いする者も居た。

しかし彼は当然の事ながら白黒はっきりしている事を好む、敵対した者には余程の事情がない限りは絶対に容赦しない。それを指し示さんとばかりに今度は重力子X線レーザー発射基が咆哮し、他の鋼鉄の咆哮の世界の波動砲や新劇場版序に出てくる第六の使徒のものよりも遥かに太々と力強く、強烈なプラズマジェットのような青白く輝くレーザーを放った、掠っただけでも哀れ、一瞬で彼らは周りのものと一緒に蒸発してしまう、そして横に薙ぎ払うようにして放たれた為に海が一瞬で次々と蒸発して水平線が巨大な炎に染められていくという劇的な場面が現出する。当然命乞いも虚しく、彼らは次々とその光束の前に呆気なく原子レベルで分解されて消滅していく。そしてその光景の後には壮絶な、しかし誰1人も残らないどこか静寂に満ちた紅蓮の地獄絵図が広がっていた。

 

「嫌じゃぁぁぁぁ、おうちに帰りたいいい!」

「随分と煩い口だ…。黙らせることも出来ないのか、ならば私が黙らすのを手伝ってやろう。」

「な、何をする気じゃ〜‼︎」

「簡単だよ。顎を外して強引に口を開きっぱなしにし、玩具にしてやるのさ。口が開きっぱなしという事はもう満足に口を動かせまい?口の中が外気にさらされっぱなしだから乾くぞ、くくく…。」

 

ーーゴキッ!

 

「アゴォ!あへてあへてあへてあへてぇぇぇ!」

「安心しろ。顎を引き千切りはせん。そのまま顎を縦に引っ張ったら口が裂けてしまうからなぁ。だから細胞分裂促進剤を投与した上で開きっぱなしにするのだよ。開きっぱなしになった様が大体イメージが付いているとはいえ楽しみだ…。」

「うわあ…、拷問だねこれは…。」

そしてあの後リヴァイアサン艦内の工作室で彼はニヤニヤと笑いながら天城にアートという名の非人道的な人体実験に等しき改造を平然と行う、その意図を察したのか天城は悲鳴を上げて逃げようとするも直ぐに彼の手により強引に部屋へと連れ戻される、そして工作室からは天城の悲鳴と彼の笑い声、そして工作機械の音が延々と響く。やがて笑い声と工作機械の音が止む、彼が天城を連れて出て来た、哀れ、天城の顎と口は補強材として入れられたとてつもなく重い縦長の鋼鉄の金具により無理矢理と縦へと補強拡張され、DVD(Blu-rayも含む)と本を入れる棚へと破茶滅茶に改造されてしまった、当然そんな悲惨な改造を受けた天城は涙目だった、そして天城は彼の道具、もとい玩具として使われる為に彼に首根っこを掴まれそのまま左舷飛行甲板へとズルズルと引き摺られる様にして連れて行かれる。

 

「本来なら私の玩具としてフルに弄びたいのだが、本来の流れの宅配便の事を少し思い出したのでな。横須賀へ宅配してやろう、故郷たる横須賀に帰れるだけ有難く思うんだな。」

「お、おげえええ…。」

 

ーーガンッ!

 

彼はその場でB-3ビジランティ2を生成するとそのウェポンヘイに改造された天城を詰め込んだ宅配便用の木箱を押し込む、ウェポンヘイの扉が閉まる、そして天城を入れた木箱を積んだビジランティ2は横須賀に向けて飛び立っていくーー

 

そして、横須賀海軍基地ではーー

 

「未確認機接近、繰り返す、未確認機接近。敵味方識別装置に応答無し、基地内の非戦闘員はシェルターに退避。総員直ちに持ち場につけ」

「敵襲、敵襲だ〜‼︎」

程なくして天城を詰め込んだ木箱を積んだビジランティ2は横須賀の海軍基地の上空へと到達した、当然の事ながら彼ら日本海軍の機体では無かったので未確認機と看做され警報が出される、程なくして基地の周辺の防衛施設からミサイルや対空砲が放たれ始めた、元々ここは日本海軍の主要軍港という防衛の重要度が極めて高い場所だった為に何百機もの航空機や戦艦等の大型の戦闘艦艇複数が襲来しても十分に弾き返せるだけの重厚な防御施設が敷設されていた、なので対空砲の曳光やミサイルが無数と言わんばかりに大量に放たれ空を埋めつくさんがばかりに次々とこの機体へと集中する、並の機体ならーー中には46㎝、51㎝といった戦艦の大口径砲を応用した対空砲もあるので下手すれば飛行型超兵器アルケオプテリクスすら木っ端微塵になるレベルだ、こんなのに耐えきりながら飛行するとなるとアルケオプテリクスが持っているような戦艦レベルかそれ以上の重装甲が必要となるだろう。だがこんなに熾烈な砲火の雨を全身に浴びせられても機体は避けるどころかこれを全て受け止め吸収し弾き返して堂々と低空に舞い、悠然と一路横須賀の司令部目指して飛んでいた、それも全くの無傷かつ一つも気にして居ないかのように。当然戦艦レベル以上の装甲を持っているのは一目瞭然である、実際その通りでこの世界の最強の兵器たる波動砲や反物質砲すら全く効果を成さない程に強靭なのだが…。そしてこの機体は当然の事ながらリヴァイアサンごと海神智史の使役するモノにして同時に『彼』でもあるのだ、しかも彼はこんな化け物じみた機体を無量大数いやそれ以上ワンサカと生み出してもなお底が全く見えない程に余力が有り余るというとんでもない域に居ながら今もこれからも外へ外へ進出するために更に力をどんどんと付けている有様である。当然これはもはやこれは大人と子供程の落差どころではない程の酷過ぎる差であった。

 

「あ、アメ公のマークだ‼︎」

「アメ公のヤツ、我が軍の切り札が全く通用しないこんなバケモノを作ってたのかよ!」

「くそ、阻止出来ねえ!基地の上空に侵入しやがった!」

天城を詰め込んだ木箱を中に積んだビジランティ2はそのまま堂々と彼ら日本海軍横須賀基地の人間達の視界にハッキリと入る形で横須賀海軍司令部の上空、それも低空へと到達した、対空砲火が相も変わらず熾烈に浴びせられているのだが先と同じように全く警戒するにも当たらないと言わんばかりの余裕の態度で全て吸収し同じ結果を見せつけていく。

そしてビジランティ2は横須賀海軍司令部の建物とその正面玄関前の広場を己の正面に捉えるようにして飛来すると天城を詰め込んだ木箱を投下する、木箱は詰め込む際に装着されたパラシュートを展開しゆっくりと正面玄関前の広場へと降下していく。木箱を投下し終えたビジランティ2はそのまま踵を返してリヴァイアサンがいる南の方へと来た時と変わらず堂々と飛び去っていった。

 

「ば、爆弾なのか…?」

「それにしては、様子がおかしくないか?何か詰め込まれているような感じだ。」

天城を詰めた木箱は破損もなく無事に着地した、しかし見かけがどう見ても爆弾ではないということが分かっても中に天城が詰め込まれていることを彼ら日本海軍横須賀基地の人間達が正確に知っているわけではない、一応念のために付け足しておくと『横須賀海軍基地宛ての送り物です、爆発物に非ず』とシールが貼られていたのだが。やはり中身は爆発するのではないか、あるいはその中に化学兵器が詰め込まれているのではないかと警戒しながら横須賀海軍基地直属の爆発物処理班が爆発物処理用のロボットで慎重にその木箱の中身を開けるーー

 

「おが、おがががが…。」

「あ、天城大佐だ…。戦死された筈では…?」

「い、生きておられたのか…?」

「しかしそれにしてもこの様は、一体何があったんだ…?」

「何か口が訳わからんぐらいに広がってるぞ…。それに口の中には大きな金具…。天城大佐はそのようにされてしまう程の拷問を受けたのか?」

中には勿論天城が入っていた、しかし天城は先に示された通り智史に無茶苦茶な改造をされているのである、当然その様を見た人間達は皆驚愕し言葉を失う。

 

「ん?何かメモがあるであります!」

「メモだと⁉︎読み上げてみろ!」

「はっ!『これは天城仁志という人間を本を入れる為の家具として作り変えた物です。どうぞ好き勝手に嬲って弄んでお使いください』と書かれております!」

「か、家具だと…。我ら日本海軍軍人の鏡たるあの天城大佐を、家具として利用して下さいだと…。なんと破廉恥な!」

「そういえば、天城大佐を詰め込んだ木箱を投下した未確認機はアメ公のマークを付けていたであります!」

「何ぃぃぃ…⁉︎アメリカめ、我々の兵器が効かない機体を作った事をいい事に天城大佐をこのように弄んだ挙句に我々など所詮唯の黄色い猿であると見下すためにこの様な暴挙を…、許すまじ!」

実は、アメリカと日本はヴァイセンベルガーのクーデターの関連で一時期交戦状態にあった。彼ら日本海軍とウィルキア帝国海軍を打ち破り日本を敗戦へと導いたのは主に亡命ウィルキア近衛海軍の将官、ライナルト・シュルツが率いる艦の働きの影響であったものの、その彼らと同盟し、支援し、時に彼らが齎した影響を利用して自分達の母国たる日本に侵攻し一時期自分達を動けなくしたアメリカもまた彼らを打ち破った働きに関わったと言ってもいい。今では和平も結ばれ自由に動けるもそれは最近の事である。自分達を打ち破り多くの同胞を海の藻屑と消したウィルキア王国海軍とそれらを支える形で関わったアメリカに対する憎しみはまだ消えてはいなかった。

そこに智史の放ったビジランティ2による家具として悲惨な改造を受けた天城がプレゼントとして送られたのだ、本人がアメリカの仕業と見做させる為にそんな外見を選んだというよりはただ単によく使うから出した機体が偶々アメリカ軍がよく使う機体のマークの特徴とごっそり一致していたから彼らはアメリカ軍の新鋭機体と誤解したのかもしれない。また天城は彼ら日本海軍軍人にしてみれば軍人の鏡というべき人物であった、彼の乗る自国の切り札だった超兵器アラハバキはシュルツの艦に沈められて表向きは彼は戦死扱いだった。しかし彼の乗る艦を沈めたのがシュルツやウィルキア王国海軍であれど、上記が示す通りアメリカは彼らを支援する形で関わっていたのでアメリカ軍がその事件に関わったと見なすことも出来なくもなかった。

知らず知らずのうちに彼らの頭の中には「アメリカが負けた自分達を更に見下しコケにする為に天城の乗ったアラハバキを沈めた挙句に天城を強引に連れ去りアートにしてここ横須賀に宅配した」という推測が成立してしまっていた。

何れにせよこの事件については当初は緘口令が敷かれたもののどこからか漏れたのか、一部のメディアがこの事件の内容をいいように脚色し報道したことで(※天城は世間からも比較的高い評価を受け軍神に並ぶ英傑とまで言われていた)国内中の反米感情が一度に再燃して国内は大混乱となってしまい、一時期日米間に再度の武力衝突が発生しかねない事態となってしまった。

結局この事件については日本海軍上層部から何人かの更迭者を出し、その報道をしたマスメディアを報道停止にするなどして取り敢えずは収束させようとはしたものの(アメリカと再度戦うことが国益の観点上無策であると判断しているエリート達が内閣には何人かいた)、彼ら国民の反米感情がこの程度で収まるわけではなく、最終的にその時の内閣が総辞職に追い込まれるほどであった。ともあれ幸か不幸か、この内閣総辞職を契機にして反米感情は取り敢えず収束し、日米再度の激突は避けられたのであった。

さて、この騒ぎを皮肉な事にも引き起こした張本人、リヴァイアサンごと海神智史はこの顛末を知ってこう言った、

 

「起きるべくして起きてしまったか」

と。

彼はこの世界の日本の反米感情の事を事前調査でかなり知っていたものの、特に大きな関心や重要性は持っていなかったので起きても特に大きな問題はないと判断した上で引き起こしてしまった、実際起きて万が一最悪の事態ーー自分達がこの事件の元凶である事が判明してベヒモスの支援を受けて纏めて突っ込んで来るケースとなろうとも特に自分達に多大な悪影響を齎す訳でも無かったが。裏を返せば彼、リヴァイアサンごと海神智史はこれほどにまで余裕があり過ぎているという事になる…。

さて、家具化天城横須賀投下事件のその後の彼の動きの方に話を戻そうーー

 

「我らはドリル三兄弟の末弟、アラハバキなり!よろしく!」

「ドリル三兄弟、か…。だがもうドリルは散々見てきたから飽きたんだがな。確かお前は末弟か…。兄弟を呼べ、纏めて掛かって来い。速攻で冷たい屑鉄に変えてやろう。」

「おのれ、我らドリル三兄弟をよくも馬鹿にしたなぁ‼︎その言葉後悔させてやるぅ!」

リヴァイアサンは今この世界のアラハバキと対面していた、しかし智史は何度も形は違えどドリルを持った『アラハバキ』と相対した事からこれ以上同じことを続けるのはもう飽きたと呟いて冷淡な態度を見せる、アラハバキはそれに激昂したのか、ドリルとソーをフルに回転させて最大船速で突っ込んできた、しかしリヴァイアサンごと智史は面倒くさいと心の中でぼやきながらこれまでと同じようにアッサリとそれをクラインフィールドで防ぐ。アラハバキは諦めが悪いのか、諦めずに全力を出して何度も何度も体当たりをするもこれまでの経歴が裏付けるかのように彼のクラインフィールドは鋼鉄の城壁のように途轍もなく硬く、一つもビクともせず悉く防がれてしまう。

 

同じ事の繰り返しは少し飽き飽きしたな…、これで何回目だ?まあいい。

「お前の本気はその程度なのか?このままでは私は寝てしまうぞ?」

「え?」

 

ーーズダァァァン!

 

そして彼は何十層ものクラインフィールドを瞬時に生成するや否やそれでアラハバキを思いっきり殴り飛ばす、アラハバキはリヴァイアサン程でないにせよかなり巨大な船体であるにも関わらずまるで木の葉のように何十kmも恐ろしい勢いで吹っ飛ばされて島の一つに横殴りにされるかのように激突する。

 

「に、にーちゃぁぁぁん!こいつがにーちゃん達を馬鹿にしてきた挙句にいじめるよぉぉぉ!」

「我が名は『あら、葉巻?』ドリル三兄弟の長兄なり!」

「同じく次兄アマテラス!弟が世話になったようだな…、弟と共に我ら三兄弟束になって掛かって来いとは…。その無謀に等しき度胸、褒めてやろう!」

「アマテラスと『あら、葉巻?』何だそりゃ?しかし何か、煙ったくなってきたぞ…。」

「長兄は名前が示す通りにタバコ二本吹かしているからな…。だが私はタバコの匂いはすごく嫌いだ。今にも反吐がでる。」

智史の冷淡な挑発に乗せられ返り討ちにされたアラハバキはアマテラスとシュールなネーミングの長兄“あら、葉巻?”を呼ぶ、程なくしてアラハバキと同じ形をした二隻の超兵器が水平線からゆっくりとその姿をあらわす。そして智史とズイカクがタバコの煙と匂いが漂ってきたと言っている通りに辺りがタバコの煙のような靄に包み込まれ始めた。

 

「に〜ちゃん、こいつおらの攻撃をまるで寄せ付けなかったんだ‼︎だけどに〜ちゃん達はとんでもなくつええぞぉぉぉ!」

「自慢話はもういい、弟。末弟たるお前が弾かれた以上、連携して攻撃を繰り出さねば勝てない相手であることは分かっている。」

「ならば大にーちゃんのタバコの煙に隠れて隙を誘い突撃を行う撹乱ゲリラ作戦かぁ⁉︎」

「ああそうだ!兄貴のタバコの凄まじい吹かし、あれはあまりに煙たいから普段は迷惑極まりないが戦闘の時となれば我らの身を隠し大いに役に立つ!行くぞ!」

そしてドリル三兄弟は長兄のタバコの靄に姿を隠して撹乱し隙を誘うかのように靄の向こうから積極的に攻撃を仕掛けてくる、一隻が注意を誘うように攻撃を仕掛け、また島々が点在しているという地の利を活かしその島の陰に隠れる形で他の兄弟が息を潜め沈黙し待ち伏せている所へと誘導し一気に葬り去ろうと彼らは目論んだ。

彼らドリル三兄弟は一見肉弾戦好みなように見えて実は策謀に満ちた巧みな連携プレーを実行したり出来たりするのだ、実際に彼らはこの戦術以外にも複数の作戦を使って自分達の縄張りに侵入してきた者達を始末していたりする。

 

「な、何も見えない!まるで雲の中にいるようだ!」

「ほう、なかなかの策を使うようだな。単純な剛力馬鹿だと思ったが意外と頭を使うではないか。」

「その通り!その状況下でこうも冷静で居られるとはなかなかの肝を持っているな!だがこの兄貴のタバコの靄は単にタバコ臭いだけではなくてな、光もレーダーの電波も乱反射するという優れものだ!おまけにこの海域は特に大きな気流も吹いてない!従って長期間兄貴のタバコの靄は漂い続ける!

お前達はその靄の中では我らの姿は見えまい、しかし我らはお前達の姿を見抜く術がある!お前達は我らの姿が見えないまま我らに翻弄され続けるのだ!」

「なるほど、こんな中でも位置関係を掴む為の抜け穴は有ったのか。まあそんな抜け穴も今の私にしてみれば大した意味も重要性もない。」

「な、何だとぉ⁉︎」

「何故なら私は今靄そのものを力業で消し去ろうとしているのだよ、フーム!」

 

ーーブォォォッ!

 

「な、何ぃぃ⁉︎」

しかし智史は彼らドリル三兄弟の隠れ蓑となる靄を片手を振り払って強烈なオーラを発生させて一瞬で消し去る、清々しいまでに青い空と青い海が再び彼らの視界に戻ってくる。靄の中から陽動撹乱攻撃を行うという彼らの作戦は一瞬にして破られてしまった。

これまで通用してきた彼らの作戦の常識は彼には尽く通用しない、何故なら彼は良くも悪くも進化のし過ぎの影響でその常識の根幹さえも思うがままに操作し、捻じ曲げ、作り変えてしまう域にとっくに生息してしまっているからだ。少なくともこの世界の当たり前の常識など彼の前では何の役にも立たない。

 

「そこだぁ!」

 

ーーグオオッ!

ーーダガァァァァン!

 

「そ、そんな馬鹿な…‼︎」

「に〜ちゃん、体が、体が、く、くっついて動かんんんん〜‼︎」

「こ、これは…、二隻を互いに巨大な磁石に変えたのか?」

「その通り。二隻の船体は磁気を帯びて非常に強力な強力な磁石となっている。引き剥がそうにも引き剥がせまい?」

そして靄の中に隠れていた二隻ーーアラハバキとアマテラスの姿はさあリヴァイアサンの船体に突っ込まんと言わんばかりの姿態勢を青空の下に丸々と晒すという形で尽く丸見えとなる、そうでなくとも二隻がそうするという事をとっくに理解していた彼はそれを逆用する事を瞬時に考えつく、エネルギーベクトル操作能力を利用し二隻の船体の周辺にコイルのような規則的な電流を発生させ、構成素材に強制的に磁気を帯びさせるというプロセスを用い同時に二隻の突進の勢いを逆用した事も相まってーー念の為海流も操作していたーー二隻は磁石がピタンとくっつく様な勢いで頭からガッチリと合体してしまった。

二隻は互いに身をよじらせ引き剥がそうとするも磁気を帯びた互いの船体はガッチリと二隻を掴んで容易くは離さない。そしてーー

 

ーーブォォン!

 

「ど、どけどけぇぇぇぇぇ!」

「あ、兄貴ぃぃぃぃぃ!」

 

ーーグワシャッ!

残っていた“あら、葉巻?”も彼にロックビームで呆気なく捕捉されそのまま二隻の方へと思いっきりぶん投げられた、お互いに避けようとするもアラハバキとアマテラスは先に示した様にガッチリとくっついたまま、“あら、葉巻?”の方は高速を発揮できても所詮は三隻共水上艦、当然宙を自在に舞える手段を特に持っている訳でもないので避けようにも避けられない。

“あら、葉巻?”は叩きつけられるようにして二隻に激突した、船殻がひしゃげ、裂ける音が響く。そしてその後には見事な醜態のこんがらがりの団子が洋上に出来上がる。

 

「じゃあな、三隻仲良く砕け散れ。」

 

ーーグワシャァァァァン!

そして彼は艤装を展開する事なく彼らの周辺にミラーリングシステムを展開するとそのまま数百枚もの巨大なクラインフィールドを団子となった三隻を左右から挟み込むようにして瞬時に生成するとそれを三隻をプレスに掛けて押し潰すのかのように叩きつけた、三隻は豆腐が潰れるかのように原型を残さずに鋼鉄の内臓を爆発と共に撒き散らして潰れた。

 

「さて、次行くとしようか。今度は実体が永遠に視界に写すことが出来ない哀れなゴキブリ三姉妹を轢き潰そう。」

そして彼はいつもと変わらない様子でもうこの場所には興味がなさそうにそう呟くとSPE-C-720の海域ーーパーフェクトプラッタ三匹、もとい三隻が潜む海域へとリヴァイアサンで足を伸ばす。

 

「どうだ、実体を得た気分は?」

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁ!気持ち悪いぃぃぃ!いくら姿が見えないし名前がゴキブリだからってこれはあんまりよぉぉぉぉ!」

「ぷはははは、それは残念だ。お前達の最期の望みとして姿を見せられないという悩みを私なりに消してあげたというのになあ。」

「いくらなんでも、これは最悪よぉぉぉぉ!」

パーフェクトプラッタ三隻は当然彼の事を知っておらずいきなりと襲われたので一応抵抗しはした、しかしこの世界の超兵器の中では比較的弱かった部類だったのか、または彼、リヴァイアサンごと海神智史が常識という常識を遥かに超えて強過ぎたのか、抵抗らしい抵抗をさせて貰えず呆気なく無力化されてしまう。

そして彼らの悩みのタネでなる眼に映る実体が無いという悩みは名前の通りに超巨大な、それ故に途轍も無い醜さと恐怖心を心の底から煽り立てるようなゴキブリの姿を得るという余りにも悲惨な形の最期の願いとして彼によって叶えられた。

そして最期の願いと言った通りにパーフェクトプラッタ三隻は先のドリル三兄弟と同じく彼に纏めて団子にされ焼夷弾頭ミサイルを雨霰と浴びせられて嬲られながらまるで荼毘にされるかのようにその身を骨の髄までとじっくりと徹底して焼き尽くされていく。

 

この世界でも少し寄り道をしたがヴァイセンベルガーの居る南極だ。色々あったが、鋼鉄の世界の旅もこれで締めとしようか。

 

この世界で彼が見たい、行きたいと思えるような場所はもうなくなった、そしてこの世界は彼が最後に訪れた鋼鉄の世界である、裏を返せばもうこれ以上新しい鋼鉄の世界は無い。彼はこの世界での全ての締めと言わんばかりにヴァイセンベルガーがキョウフノダイオウイカと共にいる南極へとただまっしぐらにと向かっていく。

 

 

「あ、ナマモノや悪ふざけ兵器が飼育されてる場所を見っけ。お約束通り略奪略奪っと。」

まっしぐら、とはいっても厳密にはナマモノを飼育、いや維持建造している軍港は既に発見しているので実際には寄り道という形でそこを襲撃してナマモノや悪ふざけ兵器を略奪してナマモノ輸送艦に放り込んだ上でヴァイセンベルガーのいる南極へと向かっているのだが。

 

 

「フォッフォッフォッ、と、なんだあれは…⁉︎リヴァイアサンだと…?まさか他の国が同型艦を…‼︎」

「遭いたかったぞ、(注意、誤字に非ず)バルタン星人、いやヴァイセンベルガーのジジイよ。貴様が『リヴァイアサンの約10倍の性能』と評する究極のナマモノ兵器を出してくれ。」

ヴァイセンベルガー本人は智史達のことは全く知らなかったのでまさかリヴァイアサンの同型艦が造られていたのかと驚愕した、まあ彼らは当然この世界の住人では無いので驚愕して当然なのだが。

 

「まさか、例の究極ナマモノ兵器を知っているというのか⁉︎まあいい、計画共々知ったら知ったで生きては帰れぬ。所詮貴様は『リヴァイアサン』なのだから!ってうぉ〜っ、お、落ちる〜‼︎」

「一体、何してんだあの人…?」

「何かの真似でもしてたみたいだけど…。何かしら?」

「いずれにせよあのナマモノを撃沈とは行かなくとも如何にかしないと駄目だ。下らぬ評価も消し去らなくては。」

キョウフノダイオウイカは眠りについていたところをヴァイセンベルガーにより復活させられたものの先の光景が示すように自分自身を復活させたヴァイセンベルガー本人に従うという意志はどうも無いようだった。

それはさておきキョウフノダイオウイカは早速と言わんばかりに闘争心を吐き出しとして己に備え付けてあった牙、もとい兵装をリヴァイアサンに向けて撃ち放ってきた、ヴァイセンベルガーの命令でもなく、あるいは誰かの命令でもなく、当然智史本人の意思でもない。ただ己の本能にままに。

 

ーードピュゥゥゥゥゥゥ!

 

「…所詮この程度があのジジイが『リヴァイアサンの約10倍の性能』と評する究極ナマモノ兵器の力か…。これではただの馬鹿でかいイカではないか。」

しかし悲しいかな、ある意味この世界最強というべきナマモノ兵器、キョウフノダイオウイカさえも彼には全く手も足も出なかった、数多のプレイヤー、もとい艦船を尽く屠った並レベルより遥かに威力を上げた反物質砲や光子榴弾砲を無数ヤケクソに撃ち込んでも悉く矛を捻じ曲げられ折られ弾かれたのかのように吸収され無力化されてしまうのだから。あの後キョウフノダイオウイカは至近距離までリヴァイアサンに肉薄し触手を絡ませてまでイカスミ波動砲を何発もリヴァイアサンに浴びせ続け艦橋に野晒しで立っていた智史諸共外殻をイカ墨で真っ黒けにしたものの所詮それだけだった、単にイカ墨を浴びて真っ黒になっただけでそれ以外の事は何も起きていないのだから。もし起きていたとしたらイカスミ波動砲のイカ墨の破壊エネルギーを尽く吸収して己の力へ吸収消化した事ぐらいだろう。当然リヴァイアサンの外殻も、彼自身も何のダメージも受けてない、吹き飛んでもいない。

彼はイカスミ波動砲を何発も浴びせられる中悠然と右手をキョウフノダイオウイカに向けてかざした、右手から次の瞬間青白く輝く重力子のブレードが出現してキョウフノダイオウイカのイカスミ波動砲の砲口ーー普通のイカでいう漏斗の部分を一瞬で勢いよく刺し貫いた、刺し貫かれた背の部分からイカスミがまるでエネルギーが逆流した波動砲が暴発したようにして盛大に噴き出す。

そして重力子のブレードは光粒が天に昇るようにして消滅した、だがキョウフノダイオウイカにしてみればその攻撃は致命的な一撃であった、イカスミ波動砲を始めとした各機構が刺し貫かれ胴体に大穴を穿たれるという形で一瞬で根本的に破壊されたのだから。一応ナマモノなのでここは無理せず後退してその損傷を癒すべきだったのだが、自分にそんな能力が有るなど自覚していなかったのだろうか、キョウフノダイオウイカは無理押しで再びイカスミ波動砲を放とうとした、しかしその意思に反してイカスミ波動砲はあらぬ方向から発射される、そう砲口ではなくて先の攻撃で胴体に穿たれた大穴から。

キョウフノダイオウイカはなおもそんな大傷を負わせたリヴァイアサンに向けて怒り、憎しみを覚えているかのようにまたしてもイカスミ波動砲を放とうとしたものの、既に身体にはその膨大なエネルギーに耐え切る強度はほとんど無かった、背後にまで穿たれた大穴からイカスミ波動砲のエネルギーが噴出して構成組織を蝕み、破壊し、よりその大穴という傷口を巨大化させていく。

それがピークに達した時にキョウフノダイオウイカは目の前のもの全てが真っ白になり光も影も分からなくなるほどに目も眩むような巨大な大爆発を引き起こした、その大爆発はヴァイセンベルガーの荒唐無稽な野望により建造された海底にあるキョウフノダイオウイカ養殖施設や周囲の氷山や氷塊を次々と吹き飛ばして巨大な津波を生じた、津波は南米や南アフリカ、オーストラリアの沿岸部を襲い壊滅的とは行かなくともかなりの被害を与えた。

やがて爆発は終息して海と静寂が戻ってくる、その爆発の中心地に居たのは大爆発の衝撃で表面に付着したイカスミが全部取れたリヴァイアサンだった、まあそのイカスミも取り除こうという気になれば全部取り除けてしまうのだがーー

 

 

「ヴァイセンベルガーのジジイは何処に消えた?まああっさりとその居場所を見つけてしまったから今言っても仕方ないのだが。」

「また、魔改造する気?」

「そうだな、このままだとよく見かける傲慢でつまらん奴だから普通にウィルキア王国近衛海軍アルベルト・ガルトナー大佐殿宛に宅配で送ってやる。さて、相手となるガルトナー大佐殿が見たらたんとドン引きするようにどう楽しく工夫しようかな?顔にたくさんペイント、いやタトゥーを焼き入れでもしてやろうか、あ、そうだ、下ネタ描くのも面白い。くっくっくっく…。」

「何かこの後のオチが読めてきたな…変竹炭な野望で半分自滅しかけたとはいえ、これから智史さんの手により死んだほうがマシな程に酷い目に遭うヴァイセンベルガーさんに黙祷しよう…。」

そう呟き心の中で彼、海神智史により酷い目にあった者達の事を思い出しながらこっそり黙祷するズイカク、実際その予想通りにヴァイセンベルガーは彼の手元に連れてこられた後、手始めに顔から落書きされ、髪の毛を無理矢理と毟り取られていった、隠し持っていた短刀を何発か彼に突き刺すが、

 

「ほう、そんなに楽しんでくれているのか。ならば壊れるまで徹底的に嬲り楽しませてやろう。」

 

それは彼に「やってくれたな?」と言わんばかりに凶悪な笑みを浮かべさせただけで終わり短刀は彼を止める役割を全く果たせずに持っていた刀身を見事に握り潰された。逆にそれはアート作成を更に加速させ、威厳ある軍官の服をバリバリと破かれ剥ぎ取られ代わりに中年オヤジが着る服を着せられる、終いにはハイテンションになり暴走した彼により納豆や日本酒を頭に掛けられるわ卵や絵の具は投げつけられるわでグルーガーやアレス、天城とはまた別の意味で軍人としてのオーラも殆ど無いただの汚い中年オヤジという悲惨なアートにされてしまった…。

勿論天城と同じように彼はヴァイセンベルガーを宅配用の木箱に詰め込む、今度は弾道ミサイルの弾頭部分にその木箱を装填するという形だった、どちらも普通の宅配方法でない事は一目瞭然なのだが。

 

 

「い、一体何なのだこれは…、シュルツ少佐…、これはヴァイセンベルガー、なのか…?」

「随分とやりたい放題にやられてますが…、多分ヴァイセンベルガー本人でしょう…、それよりも凄まじく臭い…。鼻にツンと来る臭いまでします…。」

「それはともかくとせよ凄まじいことになっているな…、ある意味で芸術作品のようだが…、一体誰にこんな事をされたのだ?」

リヴァイアサンから放たれた弾道ミサイルは無事にヴァイセンベルガーをガルトナーの所へと宅配した、突然木箱が空から降ってきたので当然彼らは驚愕し警備兵が慎重に中身をこじ開けたというプロセスを経て智史により無残に改変されたヴァイセンベルガーはガルトナーとシュルツを戦慄させた。念の為一応付け足しておくならばこの2人は家具化天城投下事件のことを知らなかったのだが。

だがヴァイセンベルガーは彼らにしてみれば自分達の祖国をクーデターというもので奪い改変して我が物にしようとした張本人である、彼、海神智史がこのクーデターを大した価値もない下らない争いだと他人事のように冷めた目で吐き捨てても、彼らにしてみればこのクーデターで自分達の本来のあるべき『理想の世界』をヴァイセンベルガーという他人に壊され掛けたのだからヴァイセンベルガーは彼らにしてみれば裁きという名の報復を受けるべき存在だった、しかし形は違えどそれはヴァイセンベルガーも他の他人にもごく普通にありうる事である。だからこそ彼はこのクーデターをどこか冷めた目で見ているのだが。

話が少し逸れたが直ぐに2人は我に返るとヴァイセンベルガーを衛兵に捕縛させて政治犯を主に収容する刑務所へと連行させた、一応この様を見てショックを受けても彼らはウィルキア王国の海軍軍人である以前に1人の国民である、国家という自分達を守る家を維持する為には国民は国家が定めた様々な形の法律に一つ一つ忠実に従わなければならない以上この行為は当然だったのかもしれない。

何れにせよヴァイセンベルガーの今後に明るい未来などない事は確かだったーー

 

 

ーーほぼ同時刻。

 

「さて、ヴァイセンベルガーのジジイはウィルキア王国の国民達に逆賊扱いされながら処刑されるというオチとなったか、少し気まずいとはいえ世界を支配する傲岸不遜なカリスマから一気にダメダメの穢れた中年オヤジへと叩き堕とす形で散々に貶して汚しまくった末の末路に相応しくもあるから一応これでも気味がいいな。

しかし…。」

「何か、思い当たる事でも?」

そしてヴァイセンベルガーを汚した張本人たる智史はリヴァイアサンのCICにてヴァイセンベルガーの結末を見て悦楽に酔い、浸る、しかし次の瞬間何かに思い当たっているかのように沈黙する、その何かについて琴乃は彼に尋ねる、彼は続けるように語り始める。

 

「いや…、艦これの艦娘どもを根本から論破して奈落に叩き堕とす為に艦娘、その存在とは何かについて少し考察していた所な…。自分があたかも本家の為と言いながらも実際には本家海龍の栄誉を汚しまくっている愚者かもしれないという事に新たに気がついたのだ…。」

「それは、どういうこと?」

「戦艦大和のif話について興味本位で少し調べて考えてみた所、『艦娘』というものは既に終わり目に映らぬ艨艟達の情報、事実であるとその時点で確定された情報を集めて生み出された「本物」を模して真似て生まれた「幻」か「亡霊」なのではないかと思い当たったのだ。それがあたかも「本物」のように、まるでまだ生きているかのように振る舞う、その元の元となった「本物」の歴史は既に終わっているというのに。

これは、既に終わっている「本物」の歴史を根本から改変する行為とも受け取れる。この振る舞いは、許される事だと言っていいのか?」

その何か、とは一言で言い表すならば「本物」を真似て本物のように振る舞うという行為であった、しかもそれは既に終わった「本物」の歴史を良くも悪くも捻じ曲げてしまう行為そのものだった。

 

「だからこそ…、智史くんは自分自身もそうかもしれないと責めるの?」

「そうだな、結局のところ私は元を辿れば「リヴァイアサン」を模した「幻」だ、それが「本物」の為と言いながらとはいっても、あたかも「本物」のように振る舞いしかも「本物」にはない振る舞いや能力まで悉く行使して「本物」の歴史やイメージを揺らげ捻じ曲げたという事実は変わりない。それに「本物」の歴史は私の手によって幕引きをされている。

私は、ある意味で自分の手で「本物」の歴史を揺らがせ捻じ曲げたのだ。」

彼は言葉を続ける、自分がしてきた「本物」の為の行動は自分自身の欲求を満足させるための一種の自己満足であり、しかもそれらにより引き起こされた行為は「本物」の歴史やイメージをある意味で汚し、捻じ曲げていたと彼は言葉に込めて呟く。

 

「その通りかもしれないわね…。でもそれは「本物」の歴史ではなくても智史くん自身の歴史なんじゃない?」

「私自身の「歴史」?」

「これまでの智史くんの振る舞いの歴史は「本物」の歴史を汚すものだったけれど、いずれも智史くん自身のものなのよ。だったらこれらを一層の事「本物」と決別して「幻」としての歴史と定義したらどうかしら?」

それを聞いた琴乃はこれまでの彼の振る舞いは「本物」の歴史ではなく、「本物」を汚していたという事を認めながら、これらを一層の事「幻」の歴史としてこれらを定義してみてはどうかと自分の意見を言う、「本物」の歴史ではなくてもこれは彼自身が築いたものだからだ。彼女は彼の自罰的、自己破壊的な性格を彼との付き合いで理解していたからこそこの意見を出せたのかもしれない。

 

「「幻」としての歴史、か…。

ふっ、わははははははは!

そうか、「幻」か…‼︎

ならばよかろう!

私は、「本物」を装い「本物」に生きるのではなく、

「幻」

即ちリヴァイアサンの姿をした紛い物として、

海神智史という存在としていっそ本家とは異なる歴史を刻んで生き抜いてやるわ!」

そしてそれを聞いた彼は意気揚々と「幻」として生き抜くと思いっきり割り切る、たとえ「本物」に縛られ囚われ「本物」の歴史やイメージを汚している事実が存在し、そしてそう言われようとも。

 

「すまんな、琴乃、ズイカク、カザリ。これまでも今回もこれからも己の私利私欲第一で私は動き続ける。たとえ何回それを繰り返してでもそんな私に付いてきてくれるお前達に感謝したい。」

「何回もって…。自罰的過ぎるよ。まあこちらが多少の苦労をしている事に一度も感謝しないよりは断然こちらの方がいいと僕は思うけど。」

「むしろこれで居てくれる方がある意味いつも通りだから大して心配してないぞ?まあ白黒はっきり付けて盛大にやりすぎるのが玉に瑕だけどな…。」

「そうか。ならば鋼鉄の世界とおさらばして艦これの世界に直行するとしようか、破壊と混乱をばら撒く為に…。」

「(ある意味、いつも通り…。)」

そしてリヴァイアサンは艦これの世界へと直行する、これまでに略奪したナマモノや悪ふざけ兵器を満杯に詰め込んだ巨大なナマモノ輸送艦を背後に無数、護送船団のように引き連れて。

艦これの艦娘と深海棲艦達は互いの縄張りを巡って争っているといういつも通りの偽りの日常を送っていたがそんな日常は萌えによる無理矢理なアピールを徹底的に忌避する思考の持ち主、リヴァイアサン=海神智史の襲来をトリガーとする真実の暴露と共に悉く崩壊してしまうのである。それを彼が来るまで知らなかったという事は彼女らにしてみれば幸なのか、または不幸なのだったのだろうかーー


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